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小山修三さん(大阪・吹田市立博物館長、国立民族学博物館名誉教授)と蓮風さんの対話は東洋医学と西洋医学の関係性から宗教の世界に及んできました。そして、さらに宇宙にも…。(聞き手は「産経関西」編集担当)

小山 最近「コーラン」を読みはじめて…あれは研究するものじゃないといわれてるんですがね。イスラム教はキリスト教と根は同じですが、キリスト教は「愛」をいうけど、コーランはアッラーを恐れよ、戒律を守れという。現実に対して実にフレキシブル、生きる哲学として簡単明瞭だが、激しい。そして歌だからスッと入ってくるそうです。
蓮風 彼らは狩猟民族ですか?
小山 いえ、農耕、牧畜、商業。厳しい砂漠の環境に生まれた大文明です。
日本人の宗教の多様性は特殊か?
――「9・11」などはイスラム教とキリスト教の対立ということで「文明の衝突」とも称されます。でもこの2つの宗教は、もとの根は一緒。一方、仏教は別のところにあります。実はもうちょっと仏教の方にすり寄ってきてくれれば、なんて思うのですが…。
蓮風 そういうことだったら、梅棹先生の「真理はひとつだけど、多様性がある」と言った言葉がありますが、あのあたりの説明はどうなんですか?
小山 梅棹さんは、イスラムは実にはっきりしている、と肯定的でしたね。あの人はものすごい矛盾したことを言う。そこを指摘すると、「いや、ワシは多様性にとむ」と。ああそうですかと、ひきさがざるをえない。(笑)
蓮風 先程のその神仏混淆ではなくて「等置」だというのが、心にゴンってきましたねぇ。直感的に、まことにその通りやと。同じ部屋に大体、床の間があって必ずお仏壇が置いてある。助けてくれっていうならば、どちらか一つにすればいいのだけれど、しない。それが非常に深い意味がある気がします。これは日本人的な発想なのかもしれないけれど。
小山 白と黒が隣り合わせ。灰色もあるんじゃないかと思うけれど。
蓮風 一神教の人たちとちょっと違うんや。うちのオヤジが仏教の信仰家やったけど、自分の生活しているところにみな神さんや仏さんがおられるんやから、手を合わせたらええ、野の仏も非常に力があって、というような話をよくしていた。だから、朝には神さんを拝むし、夕方には仏さんを拝む。それは非常に大事なことなんだと、僕は子供の頃聞かされました。

――物語の原型をたどっていくと、いろんなところの神話にたどり着く。それらは、だいたい多神教ですよね。
小山 世界の民族の信仰は基本的にそうです。その点で一神教は特殊だといえますね。
「全体」か「部分」か
――話を医学に戻して東洋医学の身体観について教えてください。東洋でも、西洋でも扱う身体のパーツは一緒だと思いますけれど、東洋医学の身体観の基本は…。
蓮風 身体観の一つに、先程から西洋医学と東洋医学の問題が出ているけど、翻訳ができない部分がある。できる部分もあるんですよ。私の解説で『上下、左右、前後の法則』というのがありまして、その中で例えば、膝が痛いのに膝をいらうのは、まあ普通の考え方や。西洋医学でも考える。ところが、関係ない、頭のてっぺんの左側に刺すと治る場合がたくさんある。逆に頭痛がもう何十年も治らないっちゅうのに、頭をいらうんじゃなしに、左の足の甲へ一本刺すと治る。これ、西洋医学は逆立ちしても説明できない。神経とかホルモンとかいうものでは説明できない。
通常言われている経絡でも簡単に説明できない。
小山 蓮風さんがみつけたのもあるんですか?
蓮風 みつけたというか、再発見ですね。一応、最初の発見は中国『素問』の「三部九候論」。人間の体は宇宙やから、上と、真ん中と、下があるぞと。その中にまた、上には上で三つ、所謂、「天・人・地」の三才という考え方がある。その理論を使っていくと、今言ったような治療が出てくるんですね。面白いことに。
小山 蓮風さんと一緒に『身体の宇宙』っていう本書こうかって言ってたことがありましたね。飛騨高山の博物館で「手」という展覧会をやった時に、蓮風さんに相談したら、東洋医的に見るので面白いと思った。それで、大仏のレプリカの手を借りてきたり、手相とか、アボリジニの絵とか、「手」というテーマで随分いろんなことができた。
蓮風 そうそう、「触れる」とかね。図録に書かせてもらいましたね。
小山 そのあと、吹田の博物館で「足と履き物」展をやった。
蓮風 あっ、せやせや。それで「足」と関係があるんや。
小山 たしかに、西洋と東洋の医学を比べると「全体で考える」か「部分で考えるか」の差があるのではないかと感じますね。
蓮風 まあ、機械的な部品として考えているのは西洋医学が中心ですから。それでは簡単に説明できんぞっていう代表が、今言うような足のつま先のやつが頭のてっぺんになるとか、その逆もあるっていうようなことになるわけです。〈続く〉
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