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小山修三7
 宇宙にまで広がる鍼灸師・蓮風さんと小山修三さん(国立民族学博物館名誉教授)との対談はいよいよ本題の「治癒」に入ってきました。今回はカトリック協会が「奇跡的治癒」を認めた例があるフランスの「ルルドの泉」の「奇跡」からお話しが始まります。さて今回はどんな方向へ洞察や“口撃”が向かうのでしょうか。(聞き手は「産経関西」編集担当)
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 ――「ルルドの泉」の奇跡的な治癒はは東洋医学に通じるところがあるのでしょうか?

 蓮風  それを東洋医学では「心神(しんしん)」っていうんですよね。心の神様。まぁ神じゃないんだけども、非常に霊妙不可思議な働き、漢字の方からいうとそういう形のものがある。それが本当に動けば、いろいろなことが起こるんですよ。例えば、癌(がん)の痛みでどうしようもなかったやつを、「手の少陰心経(しょういんしんけい)」っていう、この心の臓、いわゆる「心神」を動かす、そこに関わる穴を一本やる(=鍼を打つ)と、何やっても止まらなかった痛みが止まることがかなりあるんです。西洋医学はびっくりしますよ。そうすると、心を我々は肉体を通じて動かすことができるけど、本当に心の底から奇跡が起こるぞと最初から前提した場合には、起こると思いますよ。だから、心から納得されるってことがものすごく重要なんです。

 「ルルドの泉」は昔から奇跡の泉だってことをみんな知っているし、ここへ来たら何か起こると思う。それはあの四国のお遍路さんでもそうです。弘法様のおかげ、八十八カ所まわっているうちに必ず奇跡が起こるっていう言い伝えがある。そうすると、やっぱり起こってくるんです。東洋医学的に言うと五臓の中の心神っていうのが動くと、いろんなことができる。逆に、心神を動かせないことには鍼が効かないとも言えるんです。
まあ、わかりやすく言えば「信頼関係」。この先生は必ず治してくれるんだという信頼が前提にあって、いろんなことができる。

 ――医学の東西を問わず、信頼関係があれば、やはり同じような効果が得られるということですか?

 蓮風  ああ、得られます。同じ注射液を打っても、この先生に打ってもらったら効くっていう患者さんはよくいます。同じだと思うけれども、やっぱりあるって言う。だとしたら、それは事実だと思うし、いわんや、東洋医学みたいな、種も仕掛けもないような金属をちょっと刺しただけで効かすというのは、その部分がなかったらねぇ。だから、最初に知らん人が来て、いきなり治るというのはなかなか難しい。だから、「ルルドの泉」の奇跡は奇跡じゃないと東洋医学的に説明できます。

 小山 治るからすごいなぁ。

一人の名人より数多くの名人に近い人間を

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 ――痛みの問題でいうと、やはり脳と関連付けるということを西洋医学はやるじゃないですか。例えば、手の神経は脳のどこらへんで司っているとか…。そこのところの東洋医学と西洋医学の接点はあるのでしょうか?

 蓮風  西洋医学もどんどん進展していて、痛みが取れるのも、こう鍼をすると(脳に作用して)エンドルフィンという痛みを消す物質がでるという、まあ仮説ですが、どんどんそういう仮説を作ってますわ。

 小山  西洋医学は仮説をたてて証明することだから、そういう方法になるのかな。「気」とかそうのは、ひょっとしたらまだ調べきってないのかもしれませんね。

 蓮風  私の友人や弟子に、西洋医学のドクターがたくさんおるんですよ。彼らに共通するのは、私の前では何も言わないし、西洋医学的に説明しないことです。東洋医学を知らないドクターは、それは自律神経系で説明できるとか、脳で説明できるとか、すぐ言うんですよ。私の医療をみたことも、受けたこともない人が、簡単に説明するんです。それはやめてほしい。弟子には、説明はいらない、まず事実がどうなっているかを見てくれと。

 小山 頭に鍼すると足が治るのは、電線みたいなのがつながっているという仮説が立てられれば、説明できるわけですね。仮説を証明しながらやってきたのが西洋医学でしょ。

 蓮風 いや、だからその辺りは一緒なんですよ。我々でも、どうもここへ打ったらこのメバチコ(=ものもらい)が治るいうのは、こういう経絡が働いてるからではないか、という理論を立てるんですよ。その理論を立てて、仮説を立てて、それを再実験する。そしたらやっぱり効く。それが、一人や二人やない。何百例出てくるということになると、やっぱりこれは今の理論で説明できるとなる。だから科学的な思考法とか実験法はほぼ変わらんと思います。でないと、実践できないもの。ただ形がある医学とない医学、それから「気」というようなものを認める医学と認めないという違いがあるんですね。

 ――蓮風先生のお話しを伺ってても難しいなと思うのは、最初おっしゃってた天才っていう問題。やはり東洋医学はある意味、天賦の才能を持った人間がやらないと本領が発揮できなくて一般化しにくいのでしょうか。

 蓮風 それはあります。

 ――人間の身体って個人によってバラバラですから東洋医学ではマニュアル化しにくいわけですよね。

 蓮風 ただ、そこには法則性がある。何千年昔の東洋医学の医者が、こういう病気にはこういう治療したって記録残してるんですよ。それを我々が見て、現在の患者さんにやってみるとよく似たことが起こる。地域が違い、それから時代が違うのにそのような共通する法則性があるのはなぜか。そういうことが、伝統医学の科学と言ったら科学なんでしょうね。

 ――でもマニュアル化するのは西洋医学よりは難しいんですね。

 蓮風 それはそうです。だから今言うように一人の名人より数十人、数百人の限りなく名人に近い人達が試行錯誤してきたのが我々の北辰会なんですわ。かなり成功してます。だからと言って、僕は47年間ずっと掌で触ってきたことを彼らがすぐできるかといったら、できない。最近では、よく身体を診てるから、指先の指紋が消えてくるんですよ。不思議ですね。こっちの身体自体が。だからある程度マニュアル化というか、そういう教科書的なものができる部分と、やはりいつまでたってもできないという部分とがある。西洋医学の場合は、一応医学部を出て、ドクターの免許持ったらある程度この病気はこういう風にとできるわけやけど、東洋医学は、そこがちょっとできにくい。だからたくさんのそういう名人に近い人を作らないかんいうことでやってきたわけです。

 小山 だから蓮風さんの個人技にたよることになる。ある程度まで頼れる人を育てていただかないと。

 蓮風 そうです、そうです。

 小山 その中からまた天才が現れるのかも。

 蓮風 そうそう、突然変異的にね。ハハハ。

天才は多様性のある集団から生まれる

 ――東日本大震災で、既得権益や官僚的な制度の弊害みたいな部分が明らかになってきました。変化するいいチャンスかもわからないですけれど、東洋医学を実践してる側の方から見ると、今どのようにお考えですか。

 蓮風 うーん。結局は、患者さんが必要とする医学にならないといけないんじゃないかと思います。我々がやっているのはかなり精度が高くて、彼ら(北辰会の弟子達)もある程度できるんです。ところが、鍼灸業界みんなそうかというと、そうじゃない。それでブログやなんや書いて、本当の鍼はこうですよ、言うて叫んでるわけです。

 小山 しかし、西洋医学にも良い医者と悪い医者がいますよね。

 蓮風 それはおりますね。

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グラフを描いて「A」型と「B」型を説明する小山さん 

 小山 それは統計的に説明できるんです。試験の点数の例を挙げてみましょうか。点数をグラフであらわすと、極端にいえば、2つのタイプがある。平均値を中心にみると、裾(すそ)が広い「A」と、狭い「B」のもの。東大のような偏差値の高い学校はみんなよく出来るので、平均点は高い、しかし裾がせまい。能力は高いんやけど、似たような人が集まる。ところが、「A」型は裾がひろいので、平均点は低いが、意外な人材が隠れている。

 蓮風 天才はむしろ裾の方に…。それは非常に問題ありやね。うん。実際そうですよ。

 小山 アインシュタインとかエジソンとかすごいのが隠れている。

 蓮風 いや、このお話は非常におもしろいですねぇ。だから現在の中医学教えてる、広州中医薬大学は今、何を目指してるか言うと、大学で勉強するより、徒弟制度に戻れっていう。

 小山 ほう。 

 蓮風 教科書で、そりゃ理論はできてくるけど、実際の病気を治しに行ったらそんな面が出てこない。だからそこは徒弟制度で、やっぱり師匠のもとに馳せ参じて、一日の生活を一緒にするような徒弟制度によって初めて漢方医学みたいなものは伝えられるんだという方向に少しずつなってるみたい。

 小山 今の日本のいわゆる東洋医学はどちらかと言うと「A」型でみたいですね。玉石混交というか、ひどいのが混じっている。一方、西洋医学は「B」型なので規格化されているといえるでしょう。 

 蓮風 だからそれを、世の中にある程度伝えるにはどうしたらいいかというのは本当に難しいことです。西洋医学はね、小山先生が言うように、あの中心「B」やからそれはもうすぐできるわけ。

 小山 しかし「B」型から新しいものは出てこない。

 蓮風 それは非常におもしろい考えですね。実際そうでしょう。

 ――この分布「B」というのは、多様性がないので生物学的に脆弱ですね。

 小山 一番わかりやすいのが絵描きさんでしょうか。東京芸術大学は難関ですが、世を風靡する画家はあまり出ない。それは「B」型だから。〈続く〉