医学ランキング
藤本蓮風さんと杉本雅子・帝塚山学院大学教授の「鍼(はり)談義」はまだまだ続きます。今回は前回、蓮風さんが「理論によって気の歪みを治すと、奇跡みたいなことを起こすことができる」と強調した、その続きです。人間と宇宙や気象との関係に話題が広がっていきますよ。(「産経関西」編集担当)
杉本雅子見出し7
 蓮風 それが鍼の本質だと私は思って、「北辰会」を立ち上げて40年間で発展してきてるわけです。

 杉本 もうね、いっそのことね、鍼灸の先生がみんな北辰会やったらね、安心して受けられると思うんですよ(笑)。

 蓮風 そうそうそう。でもね40年かかって、昔はねぇもう相手にされなかった。今はもう北辰会なしに日本の鍼灸は語れないとこまで、先生、本当にそれは事実なんよ。そこまでたった一人の男ががんばってみんな引っ張って

 杉本 だってね、中国に行って(中医学の権威として有名な)鄧鉄涛先生とか、●(=「折」のてへんが革)士英先生とか、がですよ、(蓮風)先生のことを、「おぉ、ものすごいなんでも中医学の古典の事全部知ってはる」ってびっくりするんですから。うん。そりゃもう中国捜してもそんなになかなかいないと思いますよ。

 蓮風 まぁでもそこまで言ってもらったらうれしいね。ただ我々は、先祖 代々、鍼医者でね。

 杉本 14代でしたっけ。

 蓮風 うん、そうなんです。血統書付きで。ハハハ。で実際もうたくさんの話しを聞いとるんですよ。先々代は首吊って意識なくなった人を抱いて綱を切って、寝かせて、それである場所へ鍼して意識を戻すんです。そういうもう今から言うととんでもない奇跡みたいなことをたくさん起こした事実を僕は子供の頃から聞いてる。だから(鍼灸は)効くんだと。じゃあどうしてそう効くんかと言うと、今言うように『黄帝内経』に書かれてある理論をきちっと学べばできるという。そしてあの『素問』の中の陰陽応象大論の中に、陰陽調えばなんでも治るんだという事が書いてあったんでね。あれが一番大きかったですね。うん。
杉本雅子見出し8
 杉本 まぁ、してみるとこの中国の古典の、古代の思想はもの凄いということですよね。『黄帝内経』が今だにバイブル。

 蓮風 いや、だからあれを通じてね、僕は古代の中国思想に触れていったんですよ。だんだんだんだん。まぁ老荘が中心ですけどもねぇ。あれは本当に大きなスケールの大きな考え方だなと思ってね。でそれを背景に『素問』『霊枢』ができてるもんやから、先生がおっしゃるように、人間の身体だけじゃなしに天地からね。

 杉本 全部ですよねぇ。いやでもあのーよくあの(蓮風)先生おっしゃるじゃないですか。こうなんか気圧が変わるから、うちの犬が発作起こす時も、気圧が変動するからきてるんやわ頭にって。やっぱりそれと同じことですよね。この全部の、この宇宙の中で人間の「個」っていう存在があるけども、宇宙の影響受けないでこの「個」はいられないですから。

 蓮風 いられないです。だから大自然の子供という発想はねぇ、正しいしもう臨床の中で実際活きてる。で内経気象という学問が実際それをまた証明して。先生喜んで下さい。日本生気象学会。生物における気象の学会で発表するんですよ。いやこの東洋医学でね、よその学会行って喋るっちゅうのはまずない。

 杉本 すごいですよねぇ。

 蓮風 だから(鍼灸師で気象予報士の資格も持つ)橋本浩一君のねぇ、あれ(内経気象学)すばらしいです。うん。
 
 杉本
 あのね、あの去年、なんでしたっけ、あのぅ、新型インフルエンザ。そうそう新型インフルエンザ。普通インフルエンザウイルスっていうのはその、冬にしか強くならないんで、インフルエンザは夏には流行しないっていう常識があったのに、去年の新型はそうじゃなかった。で、夏ごろになってでてきたら、テレビに出てくるお医者さん、なんか適当なこと言って、なんでインフルエンザなのに今ごろまだでるんですかっていう質問に、なんかこうその場しのぎのみたいな答えしてましたでしょ。無理やりなこと言って。今具体的にどういう表現してたか忘れたんですけどね。でもそれを(蓮風)先生達は、「今年のは夏までくるよ」っていう風に最初からもう気象の関係からわかってたとおっしゃた。それはまったく本当に宇宙の中で全体として捉えるということですね。

 蓮風 そうです。

 杉本 そういうのを科学って言わないでなんなんでしょうね。

 蓮風 そうそう。真にそれは私は声を大にして言っていただきたい。しかもねぇ、ちょっと一見怪しげやけど、五運六気というねぇ、大変な哲学があって、あれから割り出すとねぇ、今年の夏は大して暑くならんだろうと言ったけど、だいたい当たってますねぇ。

 杉本 あ、あのぅ、すいません先生。気象庁が今年の夏は超暑いって言ってて、なのに、今年はなんか途中で、えっ、あんまり暑くなんないって、みんなちょっと予想に反してて。

 蓮風 あのねぇ、それはねぇ、朝晩にねぇ、風を僕は肌で感じるんですよ、家で。完璧秋の気配。(編注:対談は2011年8月4日)

 杉本 私もそう思ってます。

 蓮風 あっ、わかる!?あーすごい。

 杉本 もうねぇ、1週間ぐらい前から、もっと前かな。なんか朝の、えっ、風違うよ、これ秋。っていう。

 蓮風 「秋きぬと目にはさやかに見えれども風の音にぞおどろかれぬる」あのね、萩の花がね、僕この間から散歩して歩いてるとボツボツ咲いてるんですよ。あれは完璧に秋の花なんですね。だから自然はそれをはっきり打ち出している。
杉本雅子見出し9
 杉本 このごろ本当に朝夕のね、温度の感じとか、上がり方、下がり方、風の感じは秋ですよね。

 蓮風 そうですねぇ。確かに気温は高いけど、全体としては空気は乾燥気味でねぇ。

 杉本 そうなんですよ。違うんですよ。
杉本雅子5
 蓮風 いつものムシムシとちょっと違う。

 杉本 本当にジメジメ、ムシムシはないですよねぇ。

 蓮風 だからねぇ、僕はねぇ肌で感じるもの、ものすごい大事ですし、弟子達にも教えるのにベッドが分かれてるでしょ。「この人、においわかるか?」って。「これは湿熱やで。」「これはあの、湿熱のない陽虚のかたちのにおいやで」って。わかるんですね。

 杉本 へぇ、においで?

 蓮風 だから肌で感じて、においで、耳で、目で、この五感を駆使して人間の身体を中心にして自然界の動きも全部わかってしまう。これが東洋医学だと思います。うん。

 杉本 だから本当に今東洋医学のすごさっていうのはあるんですけどね、ただ日本の中でどうやってこれから位置づけていけるのかなっていうのは、私としては個人的に気になりますよね。早く健康保険きくようになればいいのにとか、思いますから。これ、自分の治療費が安くなるからとかじゃないですよ先生。そんなセコイことじゃなくって、みんなが気軽に受けられるようになるから。

 蓮風 それはあります。

 杉本 だって知ってもらわないとダメなんだから、特に若い人なんかにね。もっと気楽に行けるようになれば、当然、土壌が拡がりますからね。

 蓮風 そうです、そうです。

 杉本 でみんながそれをできるようになれば、ほんとに人助け。まあ、中国の中でもだいぶ中国医学に関しては温度差がありましてね、地域によって。

 蓮風 地域でね。

 杉本 (中国の)北の方なんかに行くとあんまり中国医学なんて話も聞かないのに、南の方に行くと、それこそ北辰会と協定を結んでる広州辺りに行くと、もう中国医学っていうのが日常の中で当たり前のように根づいている。それはなぜかと言ったら、やっぱりその、南の方っていうのは疫病の多いとこだからですよね。

 蓮風 そうなんです!

 杉本 疫病の多い地域で漢方とか東洋医学が根づいているっていうことは、やっぱり必要とされてるっていうことなんですよね。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 で北の方は乾燥ばっかりですからね、そういうタイプの病があまりないので、そうするとちょっと縁が薄くなるのかもしれない。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 それはわからないではないですよね。

 蓮風 だからあのー、鄧鉄涛先生のおられる場所、鄧先生のおやりにになってるのは、南側の温暖の地域における、その漢方医学、中国医学なんだけど、嶺南医学、また独特の医学を作ってるんだとおっしゃってる。でその通りなんですね。なんかむしろ伝染病とかなんとかいうんやったらあの医学を使わないかんのです。

 杉本 そうですよ。〈続く〉