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「蓮風の玉手箱」は杉本雅子・帝塚山学院大学教授との対話の7回目です。毎回、素人には眼からうろこの話題が飛び出す「玉手箱」。今回も期待してくださいね。自分の心や体とのつきあい方の参考になるかもしれません。今回の対談を読まれたあとにあらためて心と体の関係について考えてみてはいかがでしょうか。(「産経関西」編集担当)
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 杉本 先生のところはどっちかっていうと徒弟制に近いみたいなイメージがありますね。

 蓮風 まぁ、そうですね。

 杉本 今日も来た時になんか、あんなに白衣着た人がぞろぞろ居たら怖いわと思って。どこの病院でもこの頃こんなに先生いないのに、みたいな気がしましたから。

 蓮風 そうです。

 杉本 びっくりしましたけども。まぁ、熱心さの表れという、ね。

 蓮風 そうですね。今日も ある患者がかなり遠方からね、治療に来てるんですよ。

 杉本 そうなんですか。

 蓮風 で、これも、あのー、医学生が自分の親戚が肺ガンになったから診てくれって。

 杉本 はぁ。

 蓮風 医大のドクターはどない言ったかというと、「もうガンは間違いないけど、どういう治療したらいいか、検査をかけないかん」と。ところが、僕が鍼をやったら血痰吐いてしょっちゅう苦しかったのが、もうわずかな間に咳が減って血痰も出なくなった。

 杉本 うん。

 蓮風 ほんで、一回 御自宅に帰って、また今来て、どうも調べたらあんまその、癌の形(大きさ)が変わってない。

 杉本 ふーん。大きくなったりして無い。

 蓮風 だから、その辺り(癌自体は変わっていないのに、癌による咳や血痰が激減していること)がね、非常に興味深くなってくるんですわ。西洋医学をやりながら東洋医学の本質をみている人はね、生きた東洋医学を常に求めていくんですよ。だから今、現実におこってる病気を治さんかったら意味がないんですよ。
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 杉本 うん。本当ですね、今みたいな時にね、心も結構、皆さんやられてますでしょ? 体がやられたら心もやられるということになりますからね。

 蓮風 僕の患者さんには精神科までもいかんとしても、神経質の鬱(うつ)の人が多い。

 杉本 うん。

 蓮風 普通はねぇ、ああいった病気は、この、お話を、カウンセリングを一生懸命やるんですよ。そんなことせんでもね。身体の方を、五臓六腑のバランスをととのえると、極端に言ったら人間が変わるんですよ。

 杉本 ふんふん。

 蓮風 もの凄い悲観的に考えとったのが明るくなってきてね。

 杉本 ほお。

 蓮風 だから、体というのは心、魂の器やから、その器をね、器をどれだけ元の状態、健康な状態に戻せるか。それが上手くできたらね、心まで変わっちゃうよ。

 杉本 うんうん。

 蓮風 実際そないして鬱から解放された、と感謝してくれた例がたくさんあります。

 杉本 まさに「病は気から」ですね。「気」を整えて体が良くなったら精神も良くなってくるということなんですね。

 蓮風 そうなんです。そうそう。精神もその気のひとつなんですよね。だから、そこら辺りになってくると、鍼の技もあるんやけど、その人の持っている勢いというか、人間性というか、そういったものがね、ごっつ影響する。鍼はあくまでも、物質ですよ。この物質を生かして使うか、生かさんか。それは、やっぱその人の人間性にあると僕はみてるわけですが。

 杉本 うん。打つ側のね。

 蓮風 そうなんです。

 杉本 まぁね。だからまた難しいんですよね。

 蓮風 まぁね。そう。

 杉本 だから

 蓮風 だから、僕が今言うてる

 杉本 注射をここの場所(前腕内側を指す)に、注射液入れたら、血液が巡って治りますよって、さっき言ったようなオートメーション式だったら、話は簡単なんだけど、鍼の場合は、打つ人の腕によって効果が変わるっていうね、ここが難しいところですよね。

 蓮風 ねぇ、先生今せっかく注射の話なさったけども、

 杉本 うんうん。

 蓮風 あのー、フォン・シーボルト。(蘭方医の)シーボルトが、あの、江戸の、その、石坂宗哲という鍼の名人に、鍼を教わった。で、そのことをオランダ語で解説したやつが残ってるんや。
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 杉本 うん。

 蓮風 え、その時に差し出したのが『鍼灸知要一言』という本。で、鍼でこないして病気が治るということが書いてある。で、シーボルトが真似してやったけど、そう簡単にできない。

 杉本 当たり前。

 蓮風 オランダへ帰って、この鍼と、薬を合わしたらどうや。薬鍼という発想。今中国でもやってますね。

 杉本 あー、はい。ありました。

 蓮風 あったでしょ?

 杉本 広州でありました。見ました。

 蓮風 うん。で、それはね、鍼は使っているけどね、これはやっぱり薬。

 杉本 そうなんですよ。

 蓮風 ところが、これがまた面白い事に、医者がやる肩こりの注射っちゅうのがあるんですよ。知ってる?

 杉本 いや、知らないです。

 蓮風 とあるドクターがね、肩こりのところへね、なんか薬液を注射に入れてポッポッポやるみたいなんですよ。うちに頻繁に研修に来るドクターのなかでも、特に麻酔科のドクターは、上手いと思いますがね。

 杉本  あぁそうですか。

 蓮風  うん。なんかね、僕らから見たらあれ小児鍼ですわ。

 杉本 子供用だと。

 蓮風 そうそう。

 杉本 深く刺さない。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 いや、でも今小児鍼とおっしゃいましたけど、なんか鍼にもいろんなものがありますね。

 蓮風 もう。だから(「東洋医学のバイブル」といわれる『素問』『霊枢』の中の)古代の九鍼っていうのは色々な意味を持っている。
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 杉本 で、なんか、ヒョコヒョコ、ヒョコヒョコってされて、で、終わり?みたいに思っていたら、お腹が急にね、もの凄く動き出したんですよ。「先生、何したの?今」っていうくらいの感じだったんですけど、あれは先生が初めにされたってことですか?

 蓮風 いや、あの、日本の元々「打鍼(だしん)法」っちゅうのがあったんだけど、それを現代的に甦らせたと、形と手法を変えて。

 杉本 変えてっていうことなんですね。

 蓮風 そうです。そうです。

 杉本 するとオリジナルに近くなりますね。これがそれですか?

 蓮風 そうです。

 杉本 あぁ~。なるほど、これ、こんなんだったですね。スコン!みたいな音がして。

 蓮風 えぇ音したでしょ?

 杉本 そう、いい音がするんですよ。スコン!って。

 蓮風 あれね、先生のお腹が、あの、空気がようけ入っとったから(笑)。

 杉本 そうそう。だから動いたんですね。あぁ、なるほどわかりました。その後にね、さっきもお話ししましたが、あの、虫に刺されて、えらいことになったら、今度は鍼でひっかくっていうのがあって、鑱鍼(ざんしん)っていうんだって教えて頂いた。私達の感覚ではね、鍼がまさかそういう、なんか、外傷とはいいませんけど、外部からのものに効くっていう感じ無いですよね。

 蓮風 それはね、先生ね、非常にいい事仰ってくれた、それはね鍼の起源という事に関わってくる、で、元々鍼は、あの、外科の手法のひとつなんです。

 杉本 そうなんですか。

 蓮風 だから、おできを切ったり、膿を出したんです。韓国のドラマにも出て来てたでしょ?

 杉本 ほぉ。

 蓮風 はい。で、そういう外科から始まって、だから古代中国の名医、華佗(かだ)なんかは、外科で鍼の名人やったわけです。

 杉本 ふーん。

 蓮風 だから外科医者に鍼の名人がおったっていうのは、そういった関わりがひとつある。そういう歴史をしってない。鍼灸師が知ってない。

 杉本 あー、まぁ私達一般人は当たり前として。うーん、なるほど。ということは、鍼にはまだまだこう、無限の可能性があるという気がしますけどね。

 蓮風 だから、これがハリ合いのある人生(笑)。〈続く〉