大型連休が始まりました。旅先でお読みになっている方もいるかもしれない「蓮風の玉手箱」は春日大社の権宮司、岡本彰夫さんと鍼灸師の藤本蓮風さんの対談の8回目をお届けします。「罪」の語源や「祓(はらい)」の意味など、神仏が人間の暮らしの中に違和感なく存在していた日本の古来の姿を垣間見ることができるようなお話も出てきます。そんな状態を利用して悪いことをする人間もいたようですが、だからといって「迷信」で片付けてしまうのは、人間の深い知恵を認めない“損な”行為なのかもしれません。(「産経関西」編集担当)

岡本8-1
岡本8-2
 岡本 (奈良の法相宗大本山の)興福寺さんがね、中金堂を復元なさるんですな。ところがね、上はボルト、ナットで締めますねん。

 蓮風 あぁ。

 岡本 で、興福寺の貫首がね、嘆いてはるんです。これ千年たって解体したら笑いもんやで…と。(奈良・斑鳩町の聖徳宗総本山の)法隆寺の塔(=国宝「五重塔」、飛鳥時代)は木組みでいけてるんですけど、国は新たに建てる木造建造物に、この木組みの技術を認定しておりませんねん。

 蓮風 あぁ、そうそう。組子でやるのが本当の伝統的なやり方やのに…。

 岡本 ということはね、漢方と一緒なんです。千年二千年と続いてて、厳然としてそれに実績のある技術を無視して、外国の、範疇でしかダメやという。

 蓮風 そうそうそう。

 岡本 これが根本的な間違いなんですわ。

 蓮風 大きな間違いですね。
岡本8-3
 岡本 自分たちの民族がやってきたことで、しかも実証結果が出とんのにね、それを打ち消してですな、わずかな歴史の西洋の力学でこれ組み立ててええのかということですわ。

 蓮風 我々の業界も一緒ですわ。伝統的なもの、実践を大事にして、そしてそれを実践するわけですけども、西洋的な、科学的な光を当てんと信用できないという発想が間違いやねん。

 岡本 そうですよ。根本的に間違ってますよね。

 蓮風 はいはい。

 岡本 こっち実績あるわけですわ、千年二千年の。

 蓮風 そうそう、そういうこと。

 岡本 それを無視してね、外国のものばっかり入れとくっちゅうのは、いかがなものかと思いますよね。

 蓮風 あぁ、そのボルトの話は全くそうですね。組子ちゅうのは凄いですね、釘一本使わんでも、あの五重塔が崩れない。大風が吹こうが、地震が来ようが、揺れ揺れしながら結局崩れない。

 岡本 そうなんですよね。

 蓮風 揺れるから保つんですって。だからもうちょっと先祖から伝わってきた知恵とか伝統とかいうものに目を向けんとね、もう日本人何も無くなってしまう。

 岡本 そうです。もう滅びてしまいます。

 蓮風 はい。

 岡本 きょうはええ話やな~。
岡本8-4
 蓮風 大体先生という人が分かってきたんですけども、先にも問題になった「けがれ」の話と、お祓ということはどういう意味があるのかちょっと教えて頂きたいのですが。

 岡本 日本人にはね、「罪」と「けがれ」は一緒なんですわ。罪を犯すとけがれるんです。「けがれ」を起こすことが罪なんですわ。

 蓮風 うん。

 岡本 「けがれ」の語源ちゅうのは先にも申し上げたように2つの意味があって、生気が枯れる「気枯れ」と日常生活が営めなくなる「けがれ」。それは祓によって除くわけですわな。

 蓮風 うんうん。

 岡本 で、罪っていうのは悪いことをどんどん、どんどん積んでいく。「ツツミ」という言葉が罪になったんです。

 蓮風 「ツツミ」から罪が来てるわけですか。

 岡本 神や仏から頂くご加護を遮断する悪い事しよるわけですよ。その天からの恵みを遮断して包んでしまう。だから「ツツミ」やと。で、「祓」をするわけです。神様のお力を持ってそういう魂を「ハル」。ハルヒですな。(それから)拭う。この両方の意味がありますね。中から魂の力をもっと増大させる。外からの力は拭って頂くと、この両方で「祓」というのは成就する。

 蓮風 うん。
岡本8-5
 岡本 先生は「邪気」と「生気」とおっしゃいましたけど、昔はね、こんな例がある。罪を犯すとね、祓が科せられるんですねん。これ刑罰ですわ。罪を犯すと祓を科すんですわ。で、その祓というのは何かと言うとね「悪祓(あしのはらい)」と「善祓(よしのはらい)」。どういうことかと言うとね、これにはね罰金刑も伴ったんですわ。普通反省せいへんもん。「反省せい」って言われたって…。命取られる次に何がかなわんって、財物金銭取られるの人間一番怖いねん。かなわん。そやから財産没収しますねん。財産全部じゃないけど馬が1頭とか刀何振りとか布何反とか、それ出さすわけ。それがまぁ言ったら贖罪やね。身を贖うための罰金刑やね。それを出して祓をするわけ。で、その祓を2回やるわけ。それがひとつは先「悪祓」やって「善祓」。これはマイナスから0のところまで持っていくのが「悪祓」。それから0からプラスに持っていくのが「善祓」。

 蓮風 あぁ。

岡本8-6

 岡本 さっき仰った邪気を払うのと、それから生気を増大させるのと、これ2回しとるわけ。ところが、この制度が平安時代に無くなるねん。何故かって言うたら、どの時代にも悪いやつって出てきよんねん。何かお前罪を犯したやろって言いがかりをつけて、そいつから物品奪うやつ出てきてん。それでこの制度は止めになる。

 蓮風 ほぉ。

 岡本 ただし春日大社は、実は明治まで一部この制度を残す。どうするかというと、境内で例えば小便したやつがおると、これ捕まえるわな。

 蓮風 うん。

 岡本 そしたら罰金刑を科すわけ。お祓する前に米を二石出せって。米二石出させてそれ罰金や。それでお祓したるっていう制度や。ところが、これがひとつの便法でね。そうするとね、村方とか町方から嘆願書が出るんですわ。「こいつは貧乏ですから堪忍してやって下さい」っていうてね。それで米二升くらい取るんですよ。それでお祓する。これ古代の罰金刑、春日大社は明治4年まで残している。

 それはさておき、言わんとするところは、邪気を払うのと、それから生気を増大する払い、っちゅう2つがある。で、祓っていうのはその、魂の力を増幅させるっていう意味合いと外から神さんの力で拭い去って頂くという両方なりますわな。

 蓮風 うんうん。

 岡本 で、祓と罪と「けがれ」っちゅうのはそういう関係になっている。

 蓮風 なるほど。それから、一般の者はそういうお祓を受けてそれからお守りを頂きますね。

 岡本 はい。

 蓮風 そのお守りの意味は。

 岡本 お守りはね、その神様の気がこもったもったものを頂戴して、ご加護を仰ぐわけですな。

 蓮風 はい。

 岡本 それがあのお守りですよね。

 蓮風 うん。ご加護。

 岡本 で、まぁお札もそういうことですわな。〈続く〉