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藤本蓮風さんが奈良・菖蒲池で開業していた当時の「藤本漢祥院」。

1970年代半ばの写真だそうです。

 

「鍼(はり)の知恵」について考える「蓮風の玉手箱」をお届けします。鍼灸師の藤本蓮風さんが関西外国語大名誉教授の小山揚子さんをゲストに迎えての対談の2回目です。患者として、そして友人として蓮風さんを見てきた小山さんが蓮風さんに寄せる信頼感が今回も伝わってきます。病院では患者のためを思って検査をしてくださるのでしょうが、かなり苦しいケースがあるのも事実です。入院をして安静を命じられているにもかかわらず、検査を受けて、ぐったり、という経験のある方もいらっしゃるのでは…。検査が大切なのは言うまでもありません。でも身体の部分だけをみて本当に人間の病というのがわかるのでしょうか、この連載は、そんなことも考えていただくための企画です。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 この建物(奈良・学園前の藤本漢祥院)はもう18年経つんです。その前に確か私が臨床を始めて30周年のとき(大阪・中之島の)ロイヤルホテル(現・リーガロイヤルホテル)で記念のパーティーをしたとき、お祝いに来ていただいたんですよね。ご主人(小山修三・国立民族学博物館名誉教授)が治療にいらしたのはずっと後なんですよね。
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 小山 はじめのうちは、私が鍼に行くと言うと「鰯の頭も信心」とか言ってたんですよ(笑)。

 蓮風 (笑)

 小山 ある年(修三さんの体調が)「ん?」という感じになって、その時すぐ、藤本先生に「この時を逃したらもうないから、今晩入れてください」って(修三さんの)治療の予約を無理やり入れていただいて(笑)。それ以来、主人のほうが先生とつるんで何かしてて…(笑)。

 蓮風 つるんで(笑)。(小山揚子さんは)身体の微調整で治療に来られていたということですね。やっぱりこれだけ西洋医学に囲まれながら、鍼に来られたというのは、何でしょうかね。

 小山 歯医者さんは西洋に行きますけれど(笑)。やっぱり西洋のお医者さんに行くと、まず、ありとあらゆる検査をされますよね。検査というのは案外体力がいるし、検査の結果を見て、人の顔見ないで「ああだこうだ」と仰るので、それよりかは藤本先生に脈や舌を診て頂いただいて鍼をしていただくほうが負担はすごく軽いんですよね。

 蓮風 そうですね。たしかにねぇ、検査しないとわからん、って言うんだけれど、検査自体がもう受けるのしんどいっていうのが、これはもう現実ですね。

 小山 そうですよねぇ。

 蓮風 結構、そういう人多いんだけれども、医学はあれしかないと思い込んで信じ込んでる人もいるんで…。

 小山 私が勧めてここに連れてきた方は、私のことをよく見てて、ああそういう方法もあるんだと思って来てらっしゃるんだと思うんですけれども、でもやっぱり医者に癌(がん)だとか言われたら、切るとかねぇ、そういうのはどうしても…。

 蓮風 だから長く来ておられる中で、身体が弱いなりにバランス取ったもんやから、いまのところ癌とかは一切なかった。

 小山 今は癌の治療でも、免疫治療とかありますけれど、リンパ球を取ってそれを培養してそれをまた身体に戻してというような、なんか非常に無理な方法ですよねぇ。

 蓮風 あれもね、まだ実は完成品じゃないですね。現在も免疫だ免疫だ言うわりに、免疫療法はあんまり展開してないんですよね。

 小山 ええ。癌なんかである程度進んでしまうと、西洋医学って案外見捨てるんですよね。もう本当に色んな方法を考えてやるけれど、ちっとも効かなければ見捨てられちゃう。やっぱりもうちょっと前に他の方法もあるということを気づければ…。

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 蓮風 私のところへ何十年単位で来られている人は結構多いんですよ。その人たちに共通することは何かと言うと、まず癌のような大きな病気にかからない。(小山さんの前に対談した医師で僧侶の)佐々木(恵雲)先生のお話によると、しょっちゅう癌は起こっていて、それをうまく消しているのが免疫なんだと仰ったのですが、とにかく病気しない。揚子2-8

 小山 ほんとに未病の状態なんですね。

 蓮風 癌はあるのかもしれないが、切らないといけないとか、放射線当てなきゃいけないとかいうことになった人は少ないんです。殆どと言っていいですが、ならないんです。だから私、21歳で大阪・堺市で開業して、10年やって、うちの親父が(奈良市内の)菖蒲池(あやめいけ)に家を建てたから「お前、入れ」って言うんですよ。あの人も大阪、西成でやってまして。でもまぁ菖蒲池は環境がいいし、その当時、子供も小さいし、いいかなぁと思って行ったんです。堺からは50キロくらい離れてたのに、大体患者さんついてきてくれたんです。

 小山 そうです。私、最初行った頃、みなさん堺の方で、色々話を伺いました。とくにあの頃は治療するスペースと待合室が違う階だったので、先生に聞こえないので色んな話を聞いて…(笑)。

 蓮風 だからもう、50年近くやってるんですが、ずっと来てる人たちは、脳へ来たり、心臓へ来たり…。癌になったりする方はほとんどないですね。だから、「先生の所へ通える間は私は元気でおると思います」と言われたり、ひどいのは「あんたは若いから、長生きしなはれ、私のために」と言われたり(笑)。

 小山 私もそう思ってますけれど(笑)。

 蓮風 だけど、それは医者と患者の間ではものすごく有り難いことですねぇ。

 小山 やっぱりなんていうか、信頼関係というのでしょうか。主人に言わせれば、「鰯の頭も信心」なんですけれども、やっぱり先生と患者さんとの信頼関係が大きいと思いますけどね。

 蓮風 そうですねぇ。まぁひとすじに自分の身体を任す、任せられたからこちらも一生懸命やる、というような信頼関係でしょうねぇ。それと、どうですか、沢山お薬もらってはったけれど、薬はあんまり飲まんようになりましたか?

 小山 全然飲みません。とにかく、もうもらってきた時に殺されると言われ(笑)、それ以来、歯医者さんでも痛み止めとか化膿止めとかもらいますけれども全部なしで過ごしてます。ただ、長い旅行に出るときに、漢方専門の薬局で「香蘇散」を処方してもらってます。

 蓮風 香蘇散というのは、漢方の専門書では「理気」といって、気をめぐらせる作用が中心ですね。温泉に入って気血のめぐりが良くなるのと似ているということでしょうね。〈続く〉