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対談中の小山揚子さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良・学園前の藤本漢祥院

 「蓮風の玉手箱」は関西外大名誉教授の小山揚子さんと、鍼狂人・藤本蓮風さんの対談の4回目をお届けします。今回は小山さんが東洋医学を含めた現代の医療を一般人の立場から“診察”するといった趣向です。患者にしてみれば、医の東西を問わず「とにかく治してくれればいい」というのが本音。とはいえ、東洋医学についての信頼できる情報が充分な状況ともいえず、結局は治療を受けるための有効な選択肢が多いのか少ないのかの判断すらもしにくいのが実情。そこで必要となってくるのは…という、お話です。(「産経関西」編集担当)

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 小山 4月に(北辰会の主催で)若手ドクターが東洋医学の可能性を探るシンポジウムが開かれましたよね。参加した先生方がおっしゃっていたのはやはり、マニュアル化の必要性だったと思うんです。キチっとしたコースワーク設定し、それを修了したら国家試験を受けて、というふうな形で鍼灸医とか漢方医としてスタートにつく教育が必要なのでしょうね。

 蓮風 国公立大の医学部では漢方の講座があるんですよ。漢方医学というのは漢方薬と鍼灸が基本なんです。まぁ按摩とかもあるんですけど、そうするとね、漢方薬治療の学問があって鍼灸の学問がないのはバランスが悪い。北辰会はそのために医学部で説けるような学問作りをやっています。

 小山 結局、この間のシンポに参加した西洋医学のドクターのように東洋医学に理解があるという先生が増えれば…。

 蓮風 彼らはね学問のプロですわ。医学部に入るのがまず難しい、入ってからも大変膨大な学問をやる。そういう意味では学問のプロです。だからああいう人たちにどんどん鍼を持っていただいてね。レベルの高い鍼灸を作ろうと思うなら、ドクターが持ったほうが早いと思うんですよ。怪しげな、勉強もせん、能力もない、自慢ばっかしてる、そういう鍼灸師が情けないことに多いんですよ。それを何とか改革するにはね、僕は大学の医学部で講義できるような鍼灸学を作らないかんと思っている。某医大で統合医療やってる先生がいて、その先生とも親しくしてるんですがね…。

 小山 統合医療必要ですよね。
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 蓮風 はい。統合医療も色々問題はあるんですけど。鍼灸もその中に入ると思う。医学部で本格的に学問として取り上げるというのは大事だと思うんです。ただね、西洋医学みたいに簡単にマニュアル化できないのは、技の面ですね。西洋医学はどっちかっていうと技とか名人芸ではないようにしようという方向に行っておりますよね。東洋医学はそれを捨てたら何も残らない(笑)。ちょうど藤本蓮風から酒取ったら何も残らないという(笑)…そういう関係があると思うんです。西洋医学はスッと学問化しやすいけども、東洋医学はなかなか難しい。だけど、やらなくちゃいけないというジレンマがあります。一生懸命教科書を作って、ドクターでも抵抗なく受け入れられるような世界を構築しつつはあるんですがね。健気にも(笑)。

 小山 期待しております。

 蓮風 他に何か(医療について思うところは)ありませんか?

 小山 やっぱり医療の根本は保険ではないかと思います。これが大きな問題になってくると思います。

 蓮風 日本国民はそれは大きいと思います。ただ世界中を見るとアメリカでも全部皆保険というわけじゃない。

 小山 そういう意味では保険とかは日本の方が進んでますね。

 蓮風 やっぱり医療であれば平等に受けられるべきだっていう前提があれば。保険っていうのは大事なことですよ。ただ(鍼灸で)それをやるためにはね、やっぱり一定のレベルに達して誰もが「あぁ確かにこれは医学だな」と言うところまで持っていかんと。でもだいぶ先は明るいかなという感じですけど。

 小山 動いているから先が明るいんじゃないでしょうか。現在は西洋医学一辺倒という考え方が多いんですよね。しかし、それを信じて任せたのに最後の段階で見捨てられるというような例が私の周りにもあります。癌(がん)なら癌になったときに自分で色々勉強すればいいんでしょうけれど、どうしても西洋の医者の言ったことを信じてしまう。そこらへんのところをもう少し啓蒙するというか。最近色々癌は切らなくてもいいとかという本が出ておりますね。
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 蓮風 結局患者さんの教育ですか?

 小山 患者が様々な治療法を知り自分で選択するような教育は必要だと思います。

 蓮風 そういうことですね。西洋医学の本は、素人向けのマニュアル化されたものはありますけども、東洋医学に関する本は、一般素人向けに本格的に書かれたものはあんまりないですからねぇ。ですから私もボツボツ書いてはいるんですけども。

 小山 だから西洋医学の先生が「天命を全うしたければ医者に行くな」とかっていう本は書いてらっしゃいますよね。だけどじゃぁ東洋医学ってわけじゃないですよね。だから東洋医学をもう少し一般の庶民にわかりやすい、こういう本もあるんだ、読んでみようか、とか、その知識を頭の片隅に置いといて、いざ自分がそういう立場になったときにこういうのもあったなぁって思い出せるように。

 蓮風 一般人向けの東洋医学講座っていうのは必要ですね。

 小山 それこそ、なんとかカルチャーセンターみたいなものでも。

 蓮風 あぁいうのをもうちょっと上手く利用してやるべきなんですよね。色々患者さんの立場を中心としてご発言いただいて非常にやっぱりそうかなと再び気づかせて頂くんですけども、西洋医学は極端に言えば数をさばくというところがありますね。我々の場合はせいぜい私がやるには限りがあります。だから比べれば問題にならない。東洋医学の場合は個人医学というか、ひとりひとりを何とか把握しようとしているし、西洋医学は個人個人も意識はしているけども結果的には身体のどこに故障があるかということに重きを置いています。

 小山 身体を機械と同じようにパーツが組み合わさってできたという感じで見ていてパーツが悪くなったら、そこを取り替えたり切ったりという感じ。パーツが悪いかどうかをどうやってみるかっていうと、色々な検査をして数値が出てて、患者の顔をほとんど見ないで「あなたはこうだからこうしないといけない」という感じですけれど。鍼はパーツではありませんよね。身体全体が一つの完成されたもので。

 蓮風 そうそう。この間ドクターたちのシンポジウムのなかで「プライマリ・ケア」のことが話題にのぼりました。いわば個人医学みたいなもの。これはアメリカから1970年代に出たんですけども、東洋医学っていうのは元々個人医学なんです。その中で全人的に医療を考えようという家庭医の立場ですね。それが出てきた背景には、先ほど先生おっしゃったようにパーツとして人間を見ておったことに対する一つの反省だろうと思うんです。西洋医学との連携プレー。これは先生どう思います?

 小山 やはり患者の方も東洋医学のことは知らない。西洋医学の先生に言われたとおりにやるということで、両方の医学がわかるドクターが一人でも増えれば連携という意味では良いと。そういうドクターを増やすっていうのは大変なので患者の方を啓蒙して西洋医学一辺倒じゃなくてこういうものもあるというような啓蒙運動も大切だと思います。しかし東洋医学にも理解がある医者を増やすっていうのは大変ですよね。

 蓮風 大変だけどね、私の経験で申し上げると、先日のドクターシンポジウムにパネリストとして登壇くださったドクター4人のなかに直接、私が患者として扱った方が3人いるんです。それぞれが難病でどうしても治らない。鈴村水鳥先生という東京女子大の医大生の時から天疱瘡という病気で苦しんでおられた。何でもないようだけど、あっちこっちにおできができて、普通の抗生剤が効かないんです。本人も、ステロイドで何とかいけるんだけど、ずっと飲み続けたら当然危ないと知っているんですよ。それを私、何とか治したんですよ。それから彼女は医大を卒業して医師国家試験を通って結婚もされた。そういうことで彼女にとっては忘れようとしても忘れられない医療を受けたわけなんで。

 小山 だけどそういった人たちの数を大量に増やすっていうのは難しいので患者の方の啓蒙の方が早いような気がするんですけどね。

 蓮風 方法はどうですかね? 多少とも私も著作を出したんですけども。何か他にいい方法ありますかね?

 小山 それこそ普通の人でも取っ付きやすい漫画とか。先生の本だと素人向けに書いたとはおっしゃってもやっぱりそこまでたどり着く人は少ないんじゃないかと思うので、もう少し…。

 蓮風 身近な存在になるように何かアピールしなあきませんのやな。〈続く〉