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藤本蓮風さん(写真左)と、ひこ・田中さん。今回は身体に「おいしい」話です=藤本漢祥院(奈良市学園北)

 鍼(はり)の知恵を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。児童文学作家、ひこ・田中さんと、鍼灸師の藤本蓮風さんの対談の7回目。農耕民族と狩猟民族のどちらが自然を破壊してきたか…という話題の続きです。田中さんは前回、農耕民族のほうが自然を壊してきたと推論しながらも、それだからこそ「里山」のように自然を人間向きに改良してきたし、狩猟民族の在り方を西洋型の自然征服志向と一緒にして「不自然」だと断じるべきではない…という趣旨のお話をされました。今回はその続きです。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 2500年前(の中国)に老子という哲学者がおって、農耕民族に非常に密着した人なんですよ。その人が何を言ったかいうと…。「お前たち、田畑を耕すのに道具を使っちゃならん。道具を使うと、便利がいい。便利がいいから、その上また便利のいいもの作ろうとする。そのことは結局、本当の人間の幸せにつながらん」と説くんですね。だから、農耕は農耕なんだけど、自分が生かしていただいているという謙虚な気持ちがあれば、人間が生きるんだから、やはり多少は自然を侵したんかもしらん。しかし、広く考えた場合、謙虚な気持ちのもとにやって、しかも道具を使ってどんどん伐り開くのではない、ということであれば、農耕民族のほうが自然を大事にしてると、いうふうに思うんですよ。

 田中 老子はおもろいですよね。

 蓮風 ええ、「ラオズー」(老子の中国語読み)は、私ね中国語で読んでね。

 田中 私は翻訳ですけど。

 蓮風 老子の場合は「道」の思想、タオ(「道」の中国語読み)。

 田中 そうですね、タオ。

 蓮風 タオというのは一本筋の通ったという意味ですね。それの理論があるから「道理」と言うんですよね。普遍なるものをずーっと見続けていく、哲学者の一人が老子ですね。

 田中 老子に限りませんけども、老子を考えても、人間って、別に新しい人間やから偉いとかいうことは全然ない、という気がしますね。

 蓮風 ないないない!

 田中 時代を超えて使える考え方がある。

 蓮風 むしろ老子は「昔の人は立派やった。今の人間は堕落してしまった。だから昔へ帰れ」と言っている。一種の尚古(しょうこ)主義ですな。私は必ずしも尚古主義がいいとは思わんけども、しかし、人間が元々生きとった世界、子供のような本来のものを持てば、随分、文化も変わるし、生活も変わるように思うんですよ。節電の話が出たけど、元々みんな、ロウソクで暮らしとったんや。うん。確かに電気は便利だけど、便利がいいからってさらに便利を求める。それはやっぱり人間の欲望ですな。

 田中 そうですね。
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 蓮風 はい。欲望にほかならない。だから欲望に突き進んでいくことが人を幸せにするかっていうと、必ずしもそうじゃない。むしろ不幸せにする。なぜね、農耕民族と狩猟民族の話をしたかいうと、農耕民族はね、まぁ言ったら、菜食人間…?

 田中 菜食主義者?

 蓮風 あぁ…。それから「肉食…人間」って、まぁ若い子言っとるけど。

 田中 ああ、草食系、肉食系。

 蓮風 あくまでもね、血を見る世界ですよ。で、私なんかほとんどベジタリアンやから、たまに肉を食うたらカッカッカッカして身体熱くなって仕方ない。

 田中 魚も食べられないんですか?

 蓮風 魚は食べます。やっぱり海洋民族ですし…。私が生まれ育ったのは島根県の出雲で、日本海の美味しい魚が獲れるところですから。

 田中 じゃ、ほぼ私と同じ。

 蓮風 やっぱりね、野菜を食べると気持ちも穏やかになります。これは本当なんです。極端に言うと食べ物によって性格まで変わってきますね。肉食だと、どうしてもね、猛々しい気持ちになりますね。今の若い子でほら、統合失調が多いでしょう。あれもね、実際よく調べたらほとんど肉食ですわ。野菜食べとらん。(弟子に向かって)この間(実際に症例を)たくさん見たな?

 だから結局、食べ物がその人の身体を作り、そして、すべてじゃないけどその人の精神をも育んでいく。これは東洋的な考え方です、東洋医学の。

 田中 あれは、不思議ですね。なんで段々みんな野菜食べんようになったんでしょうね?

 蓮風 やっぱり西洋に災いされたからですね。元々、日本人ちゅうのは、まぁ食べとったよ、ある程度は、肉を食べとったし、猪(イノシシ)を獲って食べることもあったけど、今ほど食べてませんがな。あれは西洋の肉食文化がダーっと入ってきて、病気も高血圧だとか、癌(がん)とかなんか、増えてんのも、肉食生活文化がね、はびこりすぎているのが原因じゃないですかね。
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 田中 身体は割と正直で、玄米はタンパクが多く含まれているからでしょうか、30年位前から無農薬の玄米に切り替えた途端に、肉類を欲さなくなりました。

 蓮風 そう、そうでしょう。

 田中 驚きました。

 蓮風 陰陽の関係なんですよ。だから、少なくとも、今お気づきになったように食べ物で、生活の感覚が変わったでしょう。

 田中 面白いなぁと思いました。身体が要求しないのですもの。あれから自分の身体が愛おしくなりました。

 蓮風 だから、東洋医学では、そのことを陰陽でもって説明してる。こういう食べ物に偏っちゃいかん、こういう物を逆にもっと食べないといかんと。結局、農耕民族は植物を中心に食べます、で、少し海のものを食べます。たまに動物を食べていいんですよ。食べていいんだけど、ほんのちょっとで済むわけです。すき焼きなんかが流行りだしたのが明治の時代ですね。

 田中 そうですね。

 蓮風 はい、それまではまぁ、狐(キツネ)や狸(タヌキ)を獲って食べたこともあるだろうけど、それはほんのわずかで…。

 田中 ああ、あと兎(ウサギ)かな。

 蓮風 はい。それから鹿(シカ)。私の弟子に鉄砲撃ちがおって鹿肉で上手にシチューを作りますねん。一回食べに来てください。めっちゃ美味しいですよ。

 田中 鹿、美味しいですね(笑)。ぜひ今度ごちそうをしてください。

 蓮風 はっはっは。それはほんまに年に一回食べるかどうかなんですよ。それもね、ほとんど調味料入れないんですよ。塩と胡椒(コショウ)だけ。あとはお野菜で甘味、酸味、辛味、みんな出すんですよ。

 田中 『故郷』の歌詞に「兎追いし」というのあるでしょう?あれは(遊びで)兎を追ってるんじゃなくて、ホンマに兎狩りの歌なんですよ。

 蓮風 あ、そういう意味なんですか?

 田中 そうです。京都とかだとね、50年くらい前まではまだ、小学校のイベントで兎狩りに山へ入ったりしてたんですよ。

 蓮風 兎と一緒に遊んどったいうイメージやけど、実際は兎狩りを…。

 田中 追ってるんです(笑)。

 蓮風 ハハハ。食べとったかもしれんな。でもそれはほんのわずかなんで、ねぇ。<続く>