蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

2020年10月


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鈴村水鳥さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。小児科医の鈴村水鳥さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も後半に入ってきました。今回は医療人と患者としての家族との関係や、患者が医学界を変えられる状況の必要性などが話題となっており、僭越ながら「産経関西」編集担当も質問をさせていただいています。(「産経関西」編集担当)

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 鈴村 患者との距離感という話に戻りますが家族が病気になった時の距離感は取るのがなかなか難しいですよね。

 蓮風 私もこれは苦しみました。実際、病気で娘を死なせたこともあるし…。だけどね、自分が信じている医学を、家族に施せないのに、他人に施すなんて、やっぱりおかしい。たとえば、私の父。鍼灸師で、90歳で亡くなっとるんです。それが先祖伝来の酒飲みで、亡くなる1週間前まで朝、昼、晩、寝酒と1日7合飲んどった。

 鈴村 凄いですね(笑)。

 蓮風 それでしょっちゅう鍼してやった。で、亡くなる1週間前にちょっと風邪ひいて、咳が取れんで困るな言う。ここ(藤本漢祥院)で寝起きしとったから、お手伝いさんつけた。で、ある朝「先生、大先生が何か様子おかしい。診に来てくれ」って…。もうまさに心肺停止の状態ですわ。脈も呼吸もない。ただ身体がまだ温かいから「アッこれはついさっきやな」と思って、救急車を呼んで病院へ運びました。ちょうど先生のような若い女性のドクターが診てくれた。一生懸命やってくれて「やっぱり駄目でした」って…。私は「いや、もうそれは最初から分かってるんだ」と言いましたね。

 だからまぁ言うたら最後まで診てる訳ですね。で、母親もそうなんですよ。で、お医者さんでもそうやと思うけども、自分の家族からは逃げるというのは本当の医療人ではないんじゃないかと思うんです。これはもう本当真剣勝負ですよ。実際、私の娘は悪性リンパ腫で亡くなったんですけれども、それ以後もほんといろいろ研究と実践を重ねて、悪性リンパ腫をボツボツ治せるようになって来たんですよ。癌(がん)も、進行を遅らせたり、癌性疼痛を和らげたり、癌自体の大きさも小さくできたケースもあったり、癌自体の大きさはそのままやけどいわゆるQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)が格段に改善した状態でドクターの予告余命を大幅延長できていたり、様々な苦痛を取り除いたりしてあげられる様になってきた。

 だから医療人になった限りはね、他人だろうがそうじゃなかろうが…。特に自分の家族を本当の意味で信用させたら、本当の医者だと私は思っとる。「逃げちゃならん!」というのが私の考えですがどうですか?

 鈴村 はい。勉強になります。ありがとうございます。

 編集担当 鈴村先生は小児科ですので、子供さんに鍼をするメリットをお話しいただけませんか。たとえば西洋医学と比べるとどういったメリットが有りますでしょうか?

 鈴村 やっぱり子供は、鍼が効き易い印象があります。一つ注目しているのは予防医学の面です。小児科の外来をやっていると、よく風邪を引く子が多いですね。それはお母さんが働いてて保育園に行ってる環境では、お兄ちゃんお姉ちゃんから強いバイ菌を貰って風邪をひいて、治ったところで次の風邪をもらうということはある程度仕方がないことだと思います。

 しかし風邪をひき、感冒薬や抗生剤などを処方することを繰り返していると、同じことを繰り返しているだけになってしまいます。抗生剤を投与する前に、身体のベースの体力を上げる治療を、鍼でした方が良いんじゃないかと思うのです。鍼治療で風邪をひきにくくするなどという、予防の意味もあります。

 最終的には内服薬の量を色々な面で減らしていけると思います。子供が薬を飲むことが将来的に精神的な面にどこまで影響するか、まだ私も小児科に成りたてで、分かりませんができれば薬の内服なしで健康な生活を営んでもらいたいです。
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 編集担当 抗生物質は投与し続けていくと効きにくくなってくると聞いたことがあります。ですから素人から見ても小さい頃から投与するのはどうなのか?という印象を持っています。もちろん緊急の場合は別ですが。

 鈴村 あと、喘息の薬とか、長期的な内服が必要な他のお薬に対しても同じことを感じます。まだまだ子供ってパワーがあるので、感覚的な問題ですが、「この子(の症状は)本当は病気からきてるものじゃないのに」と感じる子にもひとまとめで、症状があり診断がつけば薬を処方します。

 たとえば同じ喘息でも、季節が変わるとゼコゼコする子、感染を伴ってゼコゼコする子、咳は酷いのに胸の音はそんなに悪くない子、逆に咳は出ないけど胸の音は酷い子って症状は様々です。診断が同じであればガイドラインに沿って同じ治療をしますが、やっぱり治る期間にも差がありますし、もうちょっと細かく丁寧に、一人一人に合ったものを処方できれば、もっと皆が幸せになれるし、お母さんも子供も家族も喜べるんじゃないかなという気はしていますね。今の考え方で漢方薬などは使い分けて処方するようにしています。

 編集担当 所見によって、どのような治療をするか、というのはマニュアル的に定められているわけですよね。

 鈴村 そうですよね。

 編集担当 そこで「もしかして鍼灸の方が…」とか「他の方法がある」と思ってそれを施した場合、お医者さんの方にリスクが来てしまうというということは?

 鈴村 あると思います。それは非常にあります。だからこそ周りの医者や、医療関係者から信用してもらえるような仕事態度を常日頃からしておかないといけないっていうのは、自分に課しています。

 編集担当 実際に先生が治療されている現場で、東洋医学とか鍼灸の知識を活かして治療される余地というのは、現場では有るんですか?

 鈴村 いま必死に…(笑)。場所を作ってるという感覚です。理解して下さる人をちょっとずつ増やして、まず東洋医学というものを知ってもらうことから始めています。西洋医学の仕事以外にやらなくてはいけないことが増えますが、反応して下さる方はいますね。もちろん高度な西洋医学をバリバリやっていらっしゃる先生方からは何を言ってるんだと思われるところもあると思います。

 でも「西洋医学が良い、東洋医学が良い、どちらが優れている」という点に力を注ぐのではなく、まずは患者さんのために、患者さんが喜ぶことが広がっていけば、患者さんの声が医療を回していく力になります。だからちょっと非難を受けることは覚悟でやっていくしかないです。

 逆に他の先生方がどうやって西洋医学の中で鍼治療をされているかは、凄く興味があるところにはなります。〈続く〉

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鈴村水鳥さん(写真右)と藤本蓮風さん=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の力を明らかにする「蓮風の玉手箱」をお届けします。小児科医の鈴村水鳥さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の5回目です。前回はドクターが鍼を持つ意義について説明されました。今回は、その続き。ドクターと鍼との距離を縮めるために行われていることや、鍼の“怖さ”についても語られています。効用の裏には危険もある、という警鐘ですが、それは鍼の力の証明かもしれません。(「産経関西」編集担当)

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 鈴村 先生から見られて、医者が、西洋医学の(習熟度が)これ位のレベルになっていたら鍼を持っても良いとかいう、逆の目線みたいな…。

 蓮風 鍼灸から見ての医師が鍼を持つための条件みたいなもんがあるか、ということですね。「北辰会」の場合は、医学部の講義で使えるような教科書を作ってるんです。最低限これくらいの教科書をマスターして貰わんことには鍼を解った事にはなりませんよ、という内容です。現在、すべてではないけれども、多くの医大が漢方の講義されてますね、漢方薬の…。昔から東洋医学の本の中には「鍼」「灸」「薬」を、この3種を巧みに使い分けて、あるいはそれを、うまくく組み合わせてこそ本当の東洋医学なんだ、という論が2500年の歴史の中でいくつか出て来ます。

 漢方が講義されたらやっぱり鍼灸がなければいかんというわけです。ですからきっちりした東洋医学の学問をおやりになれば、私は全然問題ないと思います。(鍼で人間の体調を崩す)悪化実験の問題もどこへどうやったら、どういう条件下でやればなるということ分かってる訳で、まぁそういうアホなことやらんでしょうし。ただ私は、本当に鍼は効くんだということを示すために、悪化さすことも出来るんだよということ言いたかった訳ですが、世の中には「鍼は良い方向で効くけど、悪化することはない」ちゅうようなこと平気で信じてる鍼灸師たちがおる。おまけにそれは学生を教育する教師の中にも沢山おる。私はそれに対して非常に違和感を感じている。薬と一緒で、良くすれば必ず悪化さすこともできる、使い方一つで。毒と薬は裏表というかね、それやっぱ東洋医学においても同じことやと。だからよく漢方薬やから副作用ないから安心やいうけど、全然そんなことない。きちっと身体と病気に合わなかったら悪化しますよ。

 鈴村 そうですね。

 蓮風 それは西洋医学ほど激しく反応しないため悪化してないように見えてるけど、実際はジワジワと悪化させてます。同じような例ですが、巷では、サプリメントとか何とか言ってるけれども、あれも適応、不適応があると思うんですよ。だからそれを妄(みだ)りにね、今のようにコマーシャルなどでああだこうだやってるのは、僕はやっぱり医療者の立場から見て良くないと思います。

 もしそういうことやるんやったら、サプリメント専門に係わる学問を作って、そこからこれは適応、不適応ちゅうようなことからやらんと、まぁ言うたら薬を野放しにするようなもんで、あれで悪化すること多分あるはずですわ。せやけど我々「これどうだ」言うてサプリメント持って来られても批評する立場にない、分からないから。
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 鈴村 時代が変わると言ったら大げさかも知れませんが、生活様式を含めて(世間の)お母さんの生活スタイルが凄く変わってきていることが気になります。働く女性が増えた、それが子供にやっぱり凄く影響していると感じています。やっぱり女性も仕事を持つというのは悪いことではないかなと思いますが…。

 蓮風 まったく悪いことではない。ただね、東洋医学的な発想からいうと、男は陽で女は陰です。それからどっちかいうと男性は頭脳を使って、外に向かって積極的に働き掛ける方向にある。女性はやっぱり妊娠、出産、子育て…。まぁ子育ては両方でやれば良いちゅう話があるんで、私はそれに異論を挟むことないけど、少なくとも妊娠、出産というのは女性の立場ですよね。これ、「じゃぁ、男に真似せい」言うたらできない訳で。

 で、それは人間として男、女の特性を生かすことであると私は考えておる。だからそれにさし障る様なことはやっぱり、いかに男女平等だとか仕事が大事だと言っても、やっぱり母親としての役割が生きている中で意味が大きいぞ、ということ言いたいですね。先生の場合は小児科やから、お母さんが働いてて子供がおざなりになるということはよく耳になさると思うけども、やはり母親は子供の傍(そば)におってね、ああだこうだやってるほうが、私は大事やと思うね。

 特に東洋医学の場合、スキンシップというか手当てというこというけど、親子のスキンシップいうのも物凄く大事やと思います。だから小さい時に、理屈なしにね、お母さんのオッパイを吸うとったと、で、お母さんに抱かれとったという、こういうことが実はね、人間が発達する場合に物凄く大きな意味持つと思うね。私個人の印象ですが、今、青少年の犯罪とかも、どうも小さい時にね、そういうスキンシップみたいな、母親との付き合いが足らない人に起こっているような気がして仕方がない。だから男女平等とか、女性が仕事するちゅうことに対しては全然異論はないんだけども、やっぱりそこは、女性は女性としての特性をむしろ生かすべきだという風に考えております。

 鈴村 小児科で診療していると、この子は病気じゃなくて寂しいだけなんじゃないかなと思うような子供が来たりします。病気ではなくて、寂しいって気持ちがSOSとして病気という形で出てるだけなんじゃないかなという…。

 蓮風 それどういう場合ですか?

 鈴村 まぁそうですね、心身症とかもそうだとは思うんですけど、喘息とかアトピーとかも、何か訴えるひとつの手段みたいな感じになっていると、子供を診ててそう思いますね。

 蓮風 それはありますね。まぁ東洋医学では一言でそれ「肝鬱」っていうんですけども、まぁ欲求不満、だからそういう人に限って、こうホッとしたい為に一気に食べ過ぎてみたり、甘いもん過剰に摂ってみたりね、その発散の方に向かいますね。東洋医学では、甘いもの摂ったり、それから食べ過ぎすると脾胃(ひい)を傷める。甘いものには緩める作用があります。だから食べることによって脾胃を刺激して緊張を解すという、これ沢山ありますね。裏返せばいらんとこで緊張してるから悪循環になるわけです。まぁ先生も少なからず子供さん診てこられてそういう点は気付かれていると思いますが、そういう意味で心身症というのは当たってると思うんですがね。

 鈴村 現代人のベースにある大量の肝鬱をどうにかすることは…?

 蓮風 だからこれはね、やっぱり世の中変えていかないかん。私は常々ブログにも書いてるけど、比較的奈良は自然が豊かでしょ? 朝早く起きてね、川沿いとか山歩いてみるんです。するとね、自然が教えてくれます。こう悠久の時間の中で自分はなんでこうコショコショ生きてんかなと考えます(笑)。だからそれは大自然に触れてね、本来の自分に戻らないかんですわ。もぅ慌ただしい世間の中で慌ただしく生きて、おまけにそれを発散するためにゲームや何かをやって、余計にストレスが倍加させてるんですね、本当は。そうじゃないんや。そういうことをね、私はたくさん学んだんで、ちょっと横になったらスッと寝れる術を覚えてるんです。だから私自身も、ここんところ、また患者さん増えてね大変なんだけど、ちょっとの時間でフッと休めるコツみたいなの身につけてる。で、個々としてはそうなんだけど、実際社会自体をね、もっとテンポゆっくりせいやっちゅう風に思います。そうでないとね、年寄りも付いて行かれへん(笑)。今、コンピューターだスマホだ言うたらね、僕は何とか付いて行ってるけども、普通の年寄りなかなか付いて行けないですね。

 鈴村 そうですね。

 蓮風 それによってどんだけ人間が幸せになれるかいうと、便利はようなったけど、それが幸せとは繋がらない。便利の良い世の中なってるけど。その分だけ、いらん緊張を強いられて、しょっちゅうキンキンに神経を緊張させないかん。非常にマズイですね。だからこれはもう医療の問題というよりも、政治とかそれから人間の社会を作って行く根本問題を解決せんことにはどうしょうもない。

 その時にはやっぱり東洋医学は教えてくれています。「自然に戻れ」とね。自然とは何か言ったら、やっぱり今いう様に朝早くね、爽やかな気分で歩ける場所をみつけとくと、「あぁそうか、俺も本当は自然の一部なんだ」というのは本当に体感しますから、そういう運動をやっぱり一つ作るためにも東洋医学を薦めないかんですな。というようなことを思っております。〈続く〉

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