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竹本喜典さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼(はり)の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。医師で山添村国保東山診療所長の竹本喜典さんと鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の5回目です。西洋医学だけでなく、そして東洋医学だけでもなく両方をうまく併用すれば、もっといい結果が出るはず…。これは「玉手箱」でいつも出る話ですが、なかなか現実にはうまくいかないのは、医療制度の“壁”だけではなく、患者側の意識や治療をする人間の力量にも問題があることが今回の対談で浮き彫りになっています。そのなかで、蓮風さんは積極的に「鍼灸救急医」活動を提唱しています。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 先生の今の時点での漢方、鍼灸、それから西洋医学の薬との関わりというか、位置づけというかそういったものはどうなんですかね?

 竹本 やっぱり西洋医ですので、その立場を崩すのはなかなか難しいなと思っていて、特にですね、超緊急を要する場合とか西洋医学的な判断基準で動いている病気、たとえばコレステロールであるとか、糖尿病であるとか、漢方もつけ入る隙はもちろんあると思うんですけど、できあがっているスタンダードな治療からは離れにくいと思っています。血圧を下げる漢方薬もあるし、ちゃんと下がることもあるんですけども…。けども、降圧薬を使えば下がります。これと対抗しようと意地をはってもしゃあないかなということもあります。

 西洋的治療が優先されるが副作用で西洋薬を続けにくい、漢方でなんとかしたいというようなオーダーがあれば、「よっしゃ、漢方で!」というようなスタンスがひとつ。不定愁訴とか自律神経だとか慢性疼痛だとか、西洋医学的に良い治療が確立できてないような疾患に対しても、漢方の出番だと思っています。ただ、よく分からない訴えの中にも、もしかしたら西洋医学的に見逃してないかってことをいつも気にはしています。やっぱり最低限のチェックというんですかね、忘れないようにはしなきゃな、と思っています。

 蓮風 そうですね。じゃあ、西洋薬と鍼灸それからあるいは、漢方と鍼灸といった場合、鍼灸の役割は何だと思いますか?

 竹本 鍼灸の役割、僕の中では鍼灸でうまいこと治るときもあるんですが、まだまだ“勝率”が…。

 蓮風 はいはい(笑)。先生、鍼を持って何年になりますか?

 竹本 山添村に行ってからですから、3年か4年くらい(前から)少しづつさせてもらってます。実は山添村に行ったときにノイロメーターがありまして。

 蓮風 あぁ、はいはい「良導絡」の

良導絡とは、20世紀半ばに発明された、自律神経を調整する治療法で、ノイロメーターという良導点の測定器械を使って患者のツボを探るようである。

北辰会方式は、あくまで「手当て」の原点を重要視しており、この器械は用いることはしない。術者の手、指の感覚で、患者のその時点におけるツボのさまざまな反応を“衛気”という体表に流れている気の状態をも意識して察知する。専門的な内容の詳細は、藤本蓮風著『体表観察学~日本鍼灸の叡智~』(緑書房)を参照ください。(北辰会)

 竹本 そう「良導絡」のノイロメーター。ずっと前に赴任していた先生が使ってまして、患者さんが希望されるんですよ。これしたら次こっちもせい、あっちもせい、こっちも痛いといって。結局、痛いとこに鍼するばっかりになって全身鍼になっていくので、おもしろくなくて。それを何とか縮めたろうと、北辰会で勉強もちょっとさせてもらうようになっていましたので、ノイロメーターするのなら「弁証」して少数鍼で効かそうと、少しずつそういう練習的なことも兼ねつつ鍼をさせてもらうようになってます。

症状の原因をつきとめて、どの経絡・臓腑に問題があるのか、東洋医学的に「虚実(弱っているのかそうでないのか)」、「寒熱(冷えているのか熱が盛んになっているのか)」、「表裏(浅い位置で外邪が関与しているのか、深い部分の問題なのか)」を弁別し、陰陽の状態を把握すること(このことを「弁証」という)で、結果として様々な複数の症状があったとしても、少数のツボに施術するのみ(少数鍼)で、一度に多くのツボへ鍼するよりもはるかに気の流れが改善し、時に劇的に効を奏すことができる。(北辰会)

 蓮風 うんうん。
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 竹本 でまぁ、何でも治せれば一番いいなと思ってやってるんですけど、まだまだです。実際には「弁証」の一つの助けというんですかね。体表観察も含めて弁証して、鍼をしてみてどうなのか、それで上手いこといくんか、これでいいのかっていうのを次の証とか「弁証」にフィードバックできるものにしていきたいなという風には今思ってます。

 蓮風 今、そういう段階なんですね。なるほどね。

 竹本 あと、鍼って変化が速いというか。

 蓮風 そうです、そうそう。

 竹本 効く時には効くので、これやって“ほらな”というのがあると、患者さんも心が動くというんですかね。ぐっとこう信じてもらえるというか。

 蓮風 そうですね。

 竹本 あっ、そうかこの先生に懸けて、先生のいうこと聞いて、こういうことを変えていこうという意識づけになるので、そういう意味でも鍼をうまいこと使って患者さんの気持ちを変えていきたいなと思っています。鍼でハッと変わったら養生とかの動機づけにも大いに役に立つと。

 蓮風 そうですね。実は私も来年、臨床50周年です。

 竹本 50周年ですか。

 蓮風 半世紀、鍼と共に生きている。でまた、ブログ「鍼狂人の独り言」で見られたら分かるように「鍼狂人」と書いてありますが、ほんとに鍼の神様になりたいけどなかなかなれないので…。

 竹本 遠慮ですね(笑)。

 蓮風 「鍼狂人」というぐらいで許して頂いとるんですが。鍼がねやっぱり一番面白いのは急性の疾患にかなり効くということですね。これまぁ、先生も僻地におられるから急性の疾患の時かなり慌てはると思うし、これはどこかへ送らないかんなという場合がある。

 竹本 そうですね。あります。

 蓮風 あるでしょ? そういった時に巧みに鍼を使うと意外と大病院でなくても治る例があるんですね。例えば、村井和先生(和歌山・和クリニック院長)も鍼をもってあまり時間経ってなくて、和歌山の生協病院で、ある患者さんが何で起こるか分からんけど喀血するんですよ。喀血が止まらんので仕方がないから大きい病院へ送って救急車に一緒に乗って、でも自分医者やから何かせなおかしいということで…。

 竹本 刺絡されたんですよね。

 蓮風 そう、救急車に乗る前に刺絡してその場で喀血が止まった。それでその大きな病院まで無事にたどり着いて、結局手術せずに済んだ、という話です。

 竹本 そうですか(笑)。

 蓮風 …ということは、いかにそういう救急という場合でも、鍼は有効な手立てだと。実際、昔は漢方医は鍼・灸・漢方を使って、一般に急性の場合は鍼・灸を中心に使ってますね。ですからそういう意味でこれから先生は鍼・灸をされる場合に救急のものをできるだけやっていただくと面白いんですがね。

 竹本 だいぶハードルが高いですけど。

 蓮風 いやいや。

 竹本 できるようになりたいです。

 蓮風 できると思います。僕の考えでは救急鍼灸医というか、救急内科というのがあるでしょ? 西洋医学では。あれとよく似た感じで救急の時に何とか西洋医学でやるんだろうけど、どうしようもない、そういう時にパッパッと鍼打ったら…。

 竹本 (西洋医学と)併行してもいいと思うんですよ。

 蓮風 そうそう。そういう医療を僕は非常にありがたいなと思うし。死ぬ間際になったらそういうことやらさせて頂きたいなと思います(笑)。…というぐらいに思ってます。〈続く〉