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沢田勉さんが勤務する吉祥院病院=京都市南区

 鍼(はり)の力を広める「蓮風の玉手箱」は公益社団法人京都保健会・吉祥院病院在宅医療部長の沢田勉さんと、鍼灸師で北辰会代表の藤本蓮風さんの対談の4回目です。前回は60代に入ってから病気がちだった沢田さんが突発性難聴になり、蓮風さんの鍼や養生指導で回復したというエピソードが紹介されました。そこで「治る」というイメージも変わり、医者が患者になるというのは悪いことじゃない、と思ったということでした。今回は、そのお話の続きです。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 僕はよく冗談で言うんです。どの医者にかかってもいいけれども、あるいは鍼灸師にかかってもいいけれども、多少は病気するような先生にかかった方がいい、って…。あるいは今元気でも昔病気しとった先生にかかった方がいい。患者に対する優しさが違うんやっちゅうことを強調しています。冗談と言いましたが、真実なんですよね。

 沢田 本当ですね。

 蓮風 若い時は全然病気せんで元気で…というようなドクターにかかるとね、患者の気持ちがわからんのですよ。

 沢田 わかりません、それは無理ですね。

 蓮風 そういう意味ではいい勉強をなさった。それは鍼を通じて教えてもらったということでしょうかね。

 沢田 治るということの意味っていうのは、わかる部分があったんですよ。治るというのはいきなり治るんじゃない。身体が元気になって、その元気というのが末梢にいって(突発性難聴になっていた)耳に行ってそれで回復するんだという実感があるんですね。なぜだかというとね、耳が回復したころね、やたらにざわざわ耳鳴りがするんですね。ちょうど壊れたものが元に戻っていくようなね、なんかそういう感じがするんですよ。先生は「元に戻す」というでしょ。

 蓮風 元に戻すといいますね。

 沢田 今の医学では元に戻すことは非常に難しいんですよ。

 蓮風 はあ、そうですか。

 沢田 他のお医者さんに聞いたんですが、川に小石を投げるでしょ、波紋がたつ…。でもやっぱり、石は残るというんです。つまり、病気したらね、瘢痕(はんこん)とか、なんかそういう障害が残って当たり前なんだという考え方をするんですよ。でも、鍼灸は、蓮風先生もそうですけど、元に戻すと言うんですね。ちょうどフィルムをね、逆回しにするみたいに、その実感って、僕はわかります。

 蓮風 それも鍼灸の“お陰”ですね。

 沢田 そうなんですよね“お陰”さまという意味では。鍼灸というのはすごい面白い世界だなと思います。

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 蓮風 おもしろいですね。先生は呼吸器内科の医師として活動されてきました。その現場で西洋医学はどのように、また鍼灸医学はそれぞれどのように機能していくと思いますか。それぞれの特徴からお聞かせ下さい。

 沢田 西洋医学は私自身がやっている医学ですけれども、どうあれ私は鍼灸で治してもらって西洋医学をやっている。正直言って、どっちがえらいかというと東洋医学の方がえらいだろうなぁと、感覚的には思います。ただ西洋医学の弁護をするわけではありませんけれども、西洋医学は西洋医学で一生懸命病気を見つけたり、それから診断したり治療することでは頑張っているわけですね。

 蓮風 そうですね。まったくそうですね。

 沢田 ただ方向が違ってくるような気がするんですよね。つまり、例えば病気、私の専門は呼吸器系の病気ですけれども、喘息というのは、気管支壁の過度な緊張とかむくみとか…異常を受けて過剰に反応をして、気管支が閉じたりとかするんです。気管支鏡をみたことがあるんですね。本当にね、気管支鏡検査をしている間に喘息発作を起こした患者さんがいまして、見たら気管の枝が、閉じてるんですね。ないんですよね。こんなにちがうのか…。喘息の治療をするため、検査を途中でやめたことがあったくらい、それぐらい激しい変化をする。でもそこのね、変化のする場所を西洋医学は気管支の領域だけに考えるわけです。ですから、対処方法はあるんですよ。例えば、ステロイドを注入しますとそのむくみがとれるんですよ。そしたら通るでしょ。だから、治療になるんですよ。絶対治療になるんですよ。それから、メプチンという気管支を拡張させる薬もあるし、そうすると閉じたのが開くと。緊張してたのがとれる。そういう形で治療になるんですよ。

 でもね、例えば、それが繰り返し繰り返しでてくるのは、なぜだろうかという問題がありますよね。私の身近な患者さんでね、しょっちゅうそういう発作を起こす人がいたんですよ。一生懸命なんでやろう、この人の住まいがどこにあるんだろうか、ほこりとか多いとこじゃないだろうかとか、一生懸命アレルギーの原因の検査をしたりするわけですね。これは現代的な手法ですよね。ある時ね、ひどいから入院しましょうということでね、入院させたんですよ。そしたら、発作を起こさないんです。なんでやろうという風に思ったんです。だんだん分かってきたんですね。患者さん、女性なんですけど家庭の不和なんですよね。まあつまり、そういうこともあるということで理解してください…。

 蓮風 ありますな、ようけ。

 沢田 あるでしょ。そういう強いストレスが発作のひきがねになっているんですよね。こんなこと、どこの大学でも教えてくれません。

 蓮風 むしろそういう考え方こそ東洋医学なんですね。

 沢田 そうなんですよ。<続く>