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沢田勉さん=京都市南区「吉祥院病院」

 鍼灸師で北辰会代表の藤本蓮風さんがゲストを招いて鍼(はり)の可能性を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。今回は吉祥院病院在宅医療部長・沢田勉さんとの対談の6回目。「木を見て森を見ず」という諺(ことわざ)があります。人間の身体も一部分だけに注目して全体を見ないと、具合が悪い、という考えの方が素人にも理にかなっている気がするのですが、実際の医療現場ではそうでもないようです。沢田さんが時計職人だったお父さんの言葉を交えて、ちょっと怖い実情も話してくれています。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 伝染病は鍼灸漢方で治らんということじゃないけども、西洋医学のほうが便利はいい。利便性ちゅうのはありますよね。

 沢田 ありますね。

 蓮風 それが、明治政府が漢方鍼灸を否定して、西洋医学でないと医学でないという風にもっていった理由の大きな柱だと思いますね。

 沢田 そうですね。特にドイツ医学ですよね。あの森鴎外は、森林太郎といいまして、あの陸軍、陸軍軍医、なんだっけ? 中将とか?

 蓮風 軍医総監。

 沢田 軍医総監ですか。トップの地位だったんですね。彼はドイツに留学してるじゃないですか。彼らが選択したのは、結局ドイツ医学だった。軍隊が強くなって、その軍隊のために必要なもの。で、それを支える様な医学が絶対必要だということでそちらに行ってしまった。

 蓮風 まぁあの連中が、そういうことを叫んだんでしょうね。結局ね。実は、あの森林太郎、森鴎外こそは、実は漢方医と深い関わりがあるんですね、実際は。だけども、日本の当時の国状からいって、どっちかいうと西洋医学に傾いた方が得だということをどうも考えとったみたいで。その点については、大分前ですけど、大阪大学の衛生学の丸山博先生がよく研究して発表しておられまして、私はその話をよく聞いたんですわ。実は僕、丸山先生の腰痛を治していたときに、その話をうかがったんです。

 で、次に行きたいんですけど、先生は時々「時計を時計屋さんが壊す」と言うお話をなさいますが、これについての“謂われ”とその意味をちょっと教えて頂けますか?

 沢田 はい。私の父親は時計職人でした。割と上手だったらしくて、まぁ子供の記憶ですけどもね。時計って昔はね、ゼンマイ時計って知ってます? 今は骨董品の様になってるでしょう? ゼンマイを全部こうギューッと凝縮させて、その力で、エネルギーでね、歯車動かしたり。それから解かれる時の周期性あるじゃないですか。それを時間としてね、刻むようにして。まぁそんな様なものだったんですよ。

 どうも父親は製造もしたことがあり、そういう工程を知っていたらしくて。(人間でいうところの)病気、壊れるポイントが有るっていうのを知ってたんですよ。で、他の時計屋さんはそれを知らないために、結局、私の父親の言い方によるとね、「いじり回して壊してる、悪くしている」と、そういう言い方をしていました。だからまぁ7割は時計屋が壊すと言うんですよ、時計を(笑)。

 蓮風 これはやっぱり何か暗示してますか? 医療に於いても。

 沢田 私は、医者が7割壊すという様なことはよう言いませんけども。ただ似た例はいっぱいありますよね。

 蓮風 ありますね。

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 沢田 いじり回して、結局全体が大事なのに壊してしまう。医者が一番否定するけどね。「医原病」って実はあるそうです。

 蓮風 そうそう(笑)。こういう字でしたかな、「医原病」。医者が基で起こる。これ、最近は言わなくなったけど昔はよく言いましたね。今から2、30年前は。

 沢田 そうそう。医者の治療が、或いは薬の治療が、良かれと思ってやった薬の治療がね、別の病気を引き起こして、そういうことが…。まぁ実際あるんですね。

 蓮風 僕の場合は『鍼灸ジャーナル』(休刊中)の「難病シリーズ」でおわかりのように癌(がん)の治療をよくやってるし、今もやってるんですけども、どうもね、西洋医学が上手く行かないのはね、癌をいじくり回すからじゃないかな。すると、癌も反発してね。「そんな、いらんことするな」っていう…(笑)。何かそういうとこも実際あるんじゃないですかね。だから時計の話と似とるけど、いじらんかったらそれなりにうまくいってるのにいじるために潰れるという(笑)。こういう部分、ないとは言えませんね。

 沢田 ありますよね。或いはね、僕らが一番悩まされたのは、手術でお腹を開けた時です。腸ってね、空気に触れるとベタッとくっつき易いんですね。そういう習性っていうか、そういう風になるらしい。

 蓮風 癒着ですね?

 沢田 癒着をするんです。だから切った処に癒着するだけじゃなくて、色んな処にこう癒着するらしくて。そうするとね、(腸閉塞などの)イレウスを起こすんですね。で、本人さんは苦しいから「何とかしてくれ」って言うでしょう。そうすると医者はね、その願いに応えてね、もう一回また開け直す。

 蓮風 応えて…。

 沢田 他に方法がもしなければ、そうならざるを得ないじゃないですか。で、患者はドンドンそれを要求してくると、もうドクターの方も、まぁ外科医の方もね、もう断り切れずにやってしまうってことで「ポリサージェリー」っていう名前がついてますけどね。ポリは沢山って、サージェリーは外科手術って意味ですけどね。そういうことも有り得るんですよね。まぁそういう意味では、やっぱり、いかに生体を傷つけない様にして元気にっていうか、治していくか、みたいなものが中心に成らざるを得ないだろうなという風に…。

 蓮風 この「玉手箱」では村井和先生とも対談をやったんですけども=「和クリニック院長の村井和さんとの対話」(1)~(10)参照=、彼女がしきりに言うのは、やっぱり西洋医学は非常に侵襲性が強い(=身体への影響が大きい)部分があるということ。それに対して東洋医学は侵襲性が非常に少ないんだと…。それがやっぱり東洋医学の魅力のひとつなんだということおっしゃったことありますが、そういうことでしょうね。

 沢田 全くその通りですね、はい。〈続く〉