医学ランキング
沢田9-1

沢田勉さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 「鍼(はり)」の可能性を明らかにする「蓮風の玉手箱」は今回で、京都・吉祥院病院在宅医療部長・沢田勉さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も最後となります。鍼灸師になってから大学で哲学を研究し、その後、医学部に入学して40歳を越えてから医師になった沢田さんの現代医療に対する見解にどのような感想をお持ちになったでしょうか?「病気が治る」ということのイメージが変わった方もいらっしゃるはずです。今回もそんなお話が出てきます。(「産経関西」編集担当)

沢田9-2
沢田9-3
沢田9-4

 蓮風 最近、若手の優秀なドクターがたくさん「北辰会」の研修に来るんです。やっぱり西洋医学は、それなりのすばらしいことをやってるわけやけど、ただ、その枠の中で全てを見ようとすると、やはり(向かい合う患者の)生体の現実とは違ってくるんですよね。先生が強調されたように部分が良くなっても全体が崩れている場合もあるし…。だから西洋医学の分析的な発想も大事なんやけど、もっと生命の実感みたいなものを、東洋医学をやることによって気づくということは医学者としても大事なことかなと思うんですよ。

 沢田 事実を認めるということと、自らが体験するということはすごく大事じゃないでしょうか。

 蓮風 先生は自らがずっと体験しておられるから(笑)。先生は鍼灸・東洋医学と関わって何が一番幸せだと思いますか?
    
 沢田 やっぱり素晴らしい医学があることを知ってそれを少しでも身につけるために勉強していること自身が幸せですよね。

 蓮風 なるほどね。

 沢田 僕も最初は分からなかったんですけどね。鍼灸をやるとね、ただ(患者さんの)「腰が痛い」「足が痛い」といった(身体の部分の)状態が改善するだけでなくて、患者さん自身が「元気になる」と言うんですよ。これは面白いなと思ったんですよ。で、その元気になって何が(どう変わった)というのを聞いてみたら、「先生には言わなかったけど、いつも寒冷蕁麻疹(じんましん)、に悩まされていたのがなくなった」とかね。私は全然聞いてなかったので“へぇ~”って話になってくるし。

 蓮風 そうですね。確かに、鍼灸やると、ここが苦痛やいうところも治るんだけど、知らん間にもっと悩んどったところが治ってきたりね。

 沢田 あれは面白いですよね。

 蓮風 面白いですね。

沢田9-5
沢田9-6

 沢田 結局、元気になって、いろんな局所といいますか、耳なら耳、悪いところに「正気」が流れていって治っていくという理屈なんでしょうけれども、元気にするということがすごい大事です。私も鍼灸の治療院を病院の付属診療所として作って8年くらいになりました。90歳を超えたお年寄りもいるようになって「元気になっているのは鍼のお蔭です」とおっしゃる。

 蓮風 はぁ、言ってくれますか。

 沢田 はい。言うてくれて。なんかすごくね、そういう患者さんの笑顔と一緒にいると私達は嬉しい。なんかおそらく鍼灸は、西洋医学をやっている人達とちょっと違った感じがあるんですね。つまりね、患者さんが元気で喜んでくれるというのを見ると、こちらも実は元気になるんですよね。

 蓮風 そうそう。

 沢田 面白いですよね。

 蓮風 これね、「気」の世界だからだと思うんですよ。よく世間では、それだけ体の悪い人を治療していると自分の体も悪くなる、ということをおっしゃる人もいます。しかし、僕は本当の「気」というものは、そういうものではないと思う。こっちから「気」をあげるとか、もらうとか言ってるのはあれはとんでもない話なんですよ。

 私はね、鍼をもって何かやる時は“必ず大自然の大きな気が患者さんを助けてくれる”という思いでやるんですよ。だから自分のエネルギーを使うとかそういうのはない。それでやる人もおりますが、それやるとね、その人は必ず消耗していきます。大宇宙の大いなるエネルギーを使うとかね、一切そんなのないですからね。(本当の「気」の世界では)むしろ今、先生もおっしゃったように患者が良くなって自分も元気になる。

 沢田 そうですよね、これは面白い仕事だと思うんですよ。

 蓮風 これは大変な世界なんで。そういう話が出たというのは非常に嬉しいですね。

 沢田 とっても幸せな仕事させてもらってるなと思います。

 蓮風 確かに沢田先生は一時、耳がほとんど聴こえない状態でここへ来られて、もう何か言うても「はぁー?」て言うてはった。今、びっくりするほど聴こえてますね。僕以上に聴こえてますね(笑)。これはやっぱり先生が私の鍼を信じて頑張って来られた成果だろうと思いますわ。

 沢田 何事もまずは実践。なんでも自分で体験してみることが大事ではないでしょうかね。そして事実は事実として受け止めるということが大事なことだと思いますね。

 蓮風 同感です。今日は長い時間ありがとうございました。<完>

※沢田勉先生は2017年7月に御逝去されました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。


次回からは医師で藤原クリニック院長の藤原昭宏さんと蓮風さんの対談をお届けします。