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藤原昭宏さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼(はり)の力を探求する「蓮風の玉手箱」は、医師で「藤原クリニック」院長の藤原昭宏さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんの対談の2回目をお送りします。前回は弁護士志望だった藤原さんが医師をめざした“不純な動機”と、患者さんの根本的な悩みとなっている痛みを取りたいという一心で、麻酔科を選びペインクリニックに取り組むことになった理由をお話しいただきました(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 僕の聞いているところでは、ペインクリニックは麻酔科のジャンルだけど、日本ではかなり後になってできたんですか?

 藤原 そうですね。ずっと後ですね。麻酔というものが、まず根本にあります。手術をするときに、患者さんの痛みを取る、あるいは意識を取る。それから安全な手術がどのようにできるかということが麻酔の根底になっていますので、そっちの方をずっと専攻していました。だから外科手術というのがメインで、それをいかに上手く成功させるか、それを支える意味での麻酔科なんです。

 蓮風 そうですね。だからある意味で主役は外科のお医者さん、しかし、それを支えて主人公にしているのは麻酔科なんですよね。

 藤原 そうなんです。

 蓮風 だから非常に重要な部分に携わる。そういう麻酔を大分やられましたか?「京都きづ川病院」(京都府城陽市)などで。

 藤原 大分やりました。年間で400から500くらいは麻酔しますからね。

 蓮風 それは凄い。そういう中で先生が「痛みを取ってあげよう」「苦痛を取ってあげよう」ということをめざしたり、手術で痛みなく、上手く成功させようと麻酔に携わったりされて、何か思い当たることはありました? 生命とは人間とはちゅうような、ちょっと硬い話にも関わるけれども。

 藤原 手術の麻酔というのは、ほぼ8割方全身麻酔なんですよね。後の2割がいわゆる腰椎麻酔とかね、大体比率から言うとそんなもんなんですね。どちらにせよ痛みを取るということがまずポイントなんですね、まずひとつ、絶対に…。それで全身麻酔は、意識があってはできないような大きい手術、あるいはそういう場所(患部)の手術で、その痛みを取ることがまず第一。患者さんの意識を取るということが2番目になってきます。その2つをいかにして達成するかということが大切なんです。

 蓮風 苦労なさったわけですね。

 藤原 そうですね。それともう一つは、手術で何か合併症があったり、事故があったりというのは、あり得るだろうと考えられますでしょうけど、麻酔での事故というのは、ふつう想定されていませんよね。

 蓮風 そうですよね。

 藤原 患者さんも家族も。

 蓮風 これもし起ったら大変ですよ。

 藤原 もう大変なんです。即、訴訟なんです。患者さんの身体は意識がなくても安定しないケースがあるわけですね。だから、手術中、いかに安定させるかと、それは腰椎麻酔でもそうですし、全身麻酔でもそうなんですね。だからその3本をどうするかということが非常に課題でして。

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 蓮風 そういう中で、生命とは? それから人間とは?…というようなものにぶち当たったことあります?

 藤原 全身麻酔は意識を失って、そこから逆に意識を戻してくるわけですね。ということは、一旦何もわからない状態になってから、そこから意識が戻ってくるいうことですね。それが非常に不思議だなぁと…。

 蓮風 そうですね。

 藤原 そういう感じを常に持っていましたね。たとえば、心臓の手術ですと、一旦心臓止めますよね?

 蓮風 止めますよね。そして人工心肺にしますね。

 藤原 …ということはその間患者さんは、完全に心停止するわけで、その間、人工心肺で人工的に生かすわけです。そうするとその間、患者さんはどうなっているんだろうって。結局心臓が止まっているんだから、物理的には死の状態ですよね。そこからもう一回心臓を動かしてそれとともに意識を戻していくんですね。そういう凄いことをやってるなって。
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 蓮風 なるほどね。

 藤原 そういう気持ちはずっとありましたね。

 蓮風 実に神秘的な生命に関わっているんだと。

 藤原 だから患者さんの心臓止まっているけど、患者さんの精神とか心というのはどこにあるんだろうとかね…。

 蓮風 僕もそういう事をもの凄く考えますわ。いわゆる心臓が止まっても意識がちゃんとあったとかね。後から息戻った人が言うんでね、どないなっとったんかなって。

 藤原 臨死体験とかね。そういうのに繋がってきます。その間、患者さんの心、精神、魂はどこにあるんだろうとかね。

 蓮風 そうですねぇ。それとですね、歯医者さんでね、もの凄い恐がりの人が全身麻酔を受けてやるっちゅう話を聞いたんですがね(笑)。

 藤原 あります、あります。
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 蓮風 ありますねぇ。ところで、今でも(鍼麻酔は)現役なんですが、僕がかなり若かりし頃鍼麻酔で脳の手術を意識があるままにやっとった。見られました?…テレビで。

 1971年、中国を訪れた米紙「ニューヨーク・タイムズ記者団が鍼麻酔での手術を報道。現在でも中国では、麻酔薬が使えない状況の患者などに対して鍼麻酔を用いた外科手術が行われる場合がある。(「北辰会」註)

 藤原 いや、それは見た事ないんです。

 蓮風 あぁそうですか。あれ、一時話題になったんですよね。

 藤原 話題になったみたいですね。

 蓮風 はい。私あの当時、解剖学教室の方に携わっとったんですよね。一見魔術みたいやけど実際は頭皮を切っても、あれは脳の方は直接、痛みとかは感じないみたいですね。

 藤原 脳とそれから肝臓ですね、そういうものは感じないんです。

 蓮風 それが、中国が鍼麻酔を宣伝する時に大いに使ったんですよ。頭を開けているのに意識があるってどうですか、とか言って。具合悪くないとかかんとか言ってね。

 藤原 だから頭開けるまでは痛いですよ(笑)。いわゆる皮膚の表面、それから骨の骨膜と言われる部分ですね。

 蓮風 そこら辺りまでは痛い?

 藤原 そりゃ痛いですよ。むちゃくちゃ痛いです。

 蓮風 だから何らかの形で麻酔をやっとるわけやけども。

 藤原 そうですね。開けてからは痛くないです。

 蓮風 開けてからの部分をね、テレビで嫌っていうほど我々は見せられた。すごい事やってんなぁって。

 藤原 もうマジックですね。

 蓮風 素人はね、ビックリしたわけです。

 藤原 だから痛くない臓器、触っても痛くない、引っ張っても何しても。痛くないというとこを当時は利用したんでしょうね。

 蓮風 ある意味で我々も関わりがあるんで、鍼の威力を宣伝してくれた事に対してはね、非常に我々も感謝はするんだけども。あれはショー的な部分が多分にありますよね。

 藤原 そうでしょうね、プロパガンダにね、上手いこと使ったんでしょうね。〈続く〉