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笹松信吾さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。倉敷中央病院初期研修医の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の4回目です。今回は笹松さんが東洋医学への魅力について話してくださっていますが、そのひとつが「体表観察」で病気が分かるという点。道具をつかわないで身体の中の状況を知るということですから神秘的でもあり、そこが現代西洋医学の立場からすれば、非科学的で不信の理由にもなるようです。しかし検査の数字や病巣だけを見て病気が分かるというのも乱暴な気がしませんか。人間の身体は年齢、環境、生活習慣などで千差万別ですからね。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 先生の場合は本格的に東洋医学をやろうとしておられるんですよね。ところが、一般的なドクターで東洋医学に興味をもって小手先で利用しようかなという人たちが多いような気がするんですよね。昔、肝臓病の患者さんにドクターが「小柴胡湯(しょうさいことう)」という薬を与えたら死亡した、なんていうニュースがあったでしょう。あれなんかは西洋医学でいう“肝臓病”と東洋医学でいう“肝の病”を一緒くたにしたために誤治したにすぎない。そういうことがあっちゃならんと思います。

 現に“冷え症”だから「附子剤(ぶしざい)」を処方する、というのも問題ありますよね。そういう意味で、小手先で利用しているとしか私には思えない。笹松先生は、そういう方向ではなしに本格的にやろうとしていると思うんですね。そんなドクターが東洋医学の考え、哲学思想、こういったものを自分の中でどういう風に消化なさるのかなと思って興味があります。西洋医学の世界観をもちながら、同時に東洋医学の世界を持っていくことについて何か考えがありますか? まあ矛盾する部分はあるんですよね。

 慢性肝炎、肝硬変、肝癌の患者さんに対して「小柴胡湯」を使用し、間質性肺炎(通常の細菌性肺炎とは治療法や予後が異なる)を引き起こした例が多数報告されている。なお、薬剤性間質性肺炎は漢方薬に限らず様々な西洋薬でも生じることがある。ツムラ小柴胡湯の添付文書の効能または効果に「慢性肝炎における肝機能障害の改善」という記述があるが、分別なく機械的に慢性肝炎に対して小柴胡湯を使用すると、例えば肝熱がなく肝血虚の状態に対して「黄●(=くさかんむりに今)」(おうごん、漢方生薬のひとつ)で清熱してしまうなど「証」に合わず副作用をきたすことがある。これは他の漢方薬にも言えることで、「漢方薬は副作用が少ないので安心」という言葉に騙されてはいけない。漢方薬はもっと厳密に使用するべきである。「漢方薬は証に合っていれば副作用が少ない」が正しい。(「北辰会」註) 

 笹松 そうですね。僕は基本的にできるだけ自然に生きて行きたいという考えをしていてですね、自然に生きて行くための手助けの一つの道具として医学があるという風に考えています。自然に生きて行くためには病気だけじゃなくて、自分の身の周りの環境だとか、心の問題だとか…。もちろん住む土地もそうですし、色んな問題があると…。
  

 蓮風 そうですね。

 笹松 医学というものは、本来そういうものもすべて含めて診ていかないといけないと思うんですよ。そういったことを考えた時に東洋医学の方が西洋医学より優れていると思います。先生がいつもおっしゃるように東洋医学は色んなものを診るじゃないですか。環境も心もそうです。

 人の本来の生活にそった治療をしていくと、治療が自然な流れにそっておこなわれて行くということですよね。なので、その人が本来持っている力を引き出したり、人が自然に生きるための手助けのひとつとして東洋医学を使っていこうかなあという風な考えをしております。

 蓮風 なるほど。また似たことを聞くみたいですけど、先生は「北辰会」本部定例会のドクターコースに熱心に来て、体表観察なんかをよくやっておられます。ひとつは先にも先生がおっしゃったように、触ってくれる…手当の医学がこの医学の魅力だろうと思いますけれども、その他に何かありますか?

 笹松 そうですねぇ。
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 蓮風 たとえばね、体表観察を一生懸命やる。西洋医学だと検査、検査、検査…。血液を調べて、場合によってはMRIとかCT使ったりして、身体の実態というか、「形」にごっつう意識を持っていきますよね。東洋医学というのは実態を直接相手にしていないんですね、結果的には。それは非常に哲学的になるんだけれども、生命というのをどういう風にみるのかということに関わってくる。体表観察というものはその最たるものですね。中の物を外から分かるというような発想ですから。どうですか、そこらあたりの東洋医学の魅力というか神秘性というか?

 笹松 そうですね。西洋医学ですと色んな検査をして病気を探して行くということをやるんですけれども、東洋医学の場合は体表観察を中心に診断をしていくと。道具もいらないですし、人と人とのふれあいだけで病気が分かっていくというのは、実際に冷静に考えると、どういう原理か分からないんですけれども、確かに気の流れというのも感じます。やっぱり自分の手一つで診断して、治療もしていけるということで、非常に魅力的だと思います。あと一つ思うことは、体表観察を勉強していると何となくですね、やっぱり自分の感覚が鋭くなっていくというのが分かってくるんです。

 蓮風 そうそう。

 笹松 昔は漢方薬飲んでもなんとなく効くなあとしか感じなかったんですけれども、最近は「葛根湯」を飲むと背中から首のあたりにかけて温かくなってくるなあとか…。

 蓮風 身体全体が敏感になってきた。

 笹松 そうですね。

 蓮風 なるほど。

 笹松 後は、身体に触れるということに関しての話なんですけど、僕、ふだん病院に行ってもできるだけ患者さんの身体に触れて診察するように心がけているんですが…。

 蓮風 それはいいことですね。

 笹松 よくご高齢の患者さんからですね、最近はこんなに身体を触って診てくれる先生はいなかったと、何十年ぶりだろうというような話をされていて、非常に喜ばれる方がいます。

 蓮風 そうですね。最近は聴診器を飾りにつけているだけで、ほとんど使っていないという(笑)。昔はこの聴診とか胸叩いて打診とかいってね、中の様子をうかがった。そういう意味ではとりあえず外からでも分かるんだという発想はやっぱり似た所はあるわけですよね。西洋医学そのものが「形」という実態にせまろうとしているから、どうしてもちょっと違うんですよね。

 笹松 ただ西洋医学も今は色んな最新の機械を使って検査をしようという流れにはなってはいるんですけれども、その一方でできるだけ患者さんの話を聞いて後は診察をして実際に触れてみて打診だとか聴診をして、それだけを使ってどういう病気かを考えていこうというそういった流れもあるんです。

 蓮風 それは、いいことですね。<続く>