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市立堺病院での笹松信吾さん

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。倉敷中央病院初期研修医(対談当時、現・市立堺病院外科後期研修医)の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も終盤に入ってきました。今回は前回に続いて笹松さんからの鍼灸師への要望…。そして医師への提案です。“やさしい医療”として東洋医学に関心を示す医師も増えてきているようですが、対症療法的な西洋医学との違いはたくさんあるようです。おふたりは同じ考えで漢方薬を処方する危険についても警告しています。(「産経関西」編集担当)

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 笹松 実際に(鍼灸師が患者を診断して自分で治療できるか、すぐに病院に案内すべきかを判断できる)領域に達するまでって、結構長いこと修業しないといけないですよね。自分の実力と限界を見極めて無理はしないで欲しいなと思います。それから、もう少し西洋医学の先生方と鍼灸師の先生方に、交流していただきたいということです。

 蓮風 それは我々も思います。お蔭さまで(蓮風さんが奈良市に開いている)藤本漢祥院にはドクターがしょっちゅう研修に来ているからね。ですから患者の症状や検査データなどを伝えてドクターに「どうなんでしょうか」と相談します。そういう人たちと交流しながらやっていると良いんだけど、一般の鍼灸師で、そういう環境にいる人は少ない。残念ながら鍼灸師で「本当に自分たちは医学をやってるんだ」という自覚のある人が少ないんですよ。悪く言えば慰安的なね、ちょっと気持ちが良くなったらそれで良いという様な……。それから他には?

 笹松 そうですね、あとはですね、実際、僕も東洋医学の勉強するときは、良い先生を探して実際に見学をする。たとえば鍼灸で言えば蓮風先生の臨床を見学に来る訳ですけど、逆にですね、西洋医学の先生も良い先生はいっぱいいる訳じゃないですか。なので鍼灸師の方にも、ぜひ一度ですね、西洋医学の良い先生の実際の臨床現場を見学していただけたらなという風に…。

 蓮風 ああ、できたらやりたいですね。制度上の問題もあると思うし、それから大分良くなったけどね、僕が開業した今から50年ほど前は、もぅ鍼灸師といったら医者と比べたら虫けらみたいに思われとった時代で、「お前たちは医者でも何でもないんだ」と、ただ鍼をポコポコやって患者さんを気持ち良くしろというような時代やった。ところが最近変わってきましたね、うん。ちゃんとした医療人なんだと最初から意識してくれる人が多くなってきましたね。これはやっぱり世の中ちょっと良くなったなという風に僕は実感しとる訳なんです。そういう流れを進めて行くためにどうしたら良いんですかね?

 笹松 う~ん、難しいですが、実際に「北辰会」に来てるドクターは鍼灸師に対して理解がある。そういった先生の外来をちょっと見学させて下さいと言えばですね、見せてくれる先生もいると思います。なので、まず、そういったところからはじめてみたらどうかなという風に思いますね。
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 蓮風 良い話をしていただきましたね。それからドクターの間でも随分、東洋医学が意識されるようになったけど、まだまだ知らないし、分からないし、近づきたくもないという先生もいない訳じゃない。こういった先生たちに向かって、笹松先生の立場から、いやいや東洋医学はこうなんだ!と言いたいことがあったらおっしゃって下さい。

 笹松 はい。実際に最近、漢方薬を出す先生が非常に増えてきてはいるんです。

 蓮風 そうですね。

 笹松 はい。その病名に対してはこの漢方っていう考え方で使う先生が非常に多い。もちろん、東洋医学的に診断すると全然当たってはいないんですけど。

 蓮風 そうなんですよ。

 笹松 病名を見て使っているので、効いたり効かなかったりするのかな? 余り効かないな。と結局そういった印象が残るだけ。

 蓮風 全然でたらめに(人体の正気を補う)「補剤」と(病そのものをたたく)「瀉剤」を同時に使ったり。

 笹松 はい、そうですね。

 蓮風 だから、やるんであれば本格的に漢方の理論を勉強していただいて…とつくづく思いますがね。

 笹松 やっぱり、互いに現場を見せてもらうという、先ほどの話と関係するんですけど、「百聞は一見に如かず」ということですね。実際に鍼灸だとか、漢方が非常に効いている例を現場に来て見て欲しいというのが一つの思いです。目の前で効いているところ見せられたら、「いや、これは全然効かない」っていう訳にいかないじゃないですか。もう信じざるを得ないと思うので、実力のある先生の実際の治療を見たり体験したりしていただくのが一番かなという風に考えております。〈続く〉