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藤本蓮風さん(写真左)と関隆志さん=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんがさまざまなゲストを招いて鍼について考える「蓮風の玉手箱」は東北大サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)高齢者高次脳医学研究部門講師の関隆志さんとの対談の3回目です。前回は関さんが東洋医学と西洋医学が協力・併存しながら患者の状態に応じて、それぞれの治療が選択できるという意味での「融合」の有効性を強調されました。今回はその続きとなります。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 (西洋医学と東洋医学は)まず生命観が違うというのが昔からの私の考えです。病に対する理解、疾病観が違う。だから、この根本的な問題が解決できない限り、“融合”という言葉の解釈は別にして、ひとつになるためには、この前提の違いがちゃんと変わらないといかんのじゃないかという考えでやってきたんですけど…。
  

 関 うーん、私は生命観も、治療方法も、病気に対する見方も違う方が良いと思います。違うものが複数あるけれど、目の前の困っている人には、今回はこれがいいとか、今回はこっちがいいとかそういう選択肢があって、そういった違う見方が沢山あるほうが、より豊かといいますか、よりよい医学だと思うんです。

 蓮風 すると最終的にひとつになるということは、意見が違って考えが違っても、それが同時に存在するということをめざしているわけですね。

 関 ええ。ですから、そのどれが正しいのではなく…。違うものがいろいろあって、それで選択肢が沢山あると…。大事なことはですね、今でも西洋医学の病院もあるし、鍼治療、灸治療、漢方薬と選択肢はあるんですけども、私がめざしているのはですね、的確に選択肢を選べるようにするということなんです。

 蓮風 なかなか難しいことですね、実際は。

 関 もちろん、そうです。

 蓮風 理想としてはよく分かるんだけど、患者さんに選択させるというのもひとつの方法ですね。

 関 それは、ふたつあります。やはり患者さんの求めるもの、それから我々として求めるものですね。我々は病気を治そうと思うわけですけど、患者さんは必ずしも病気を治そうと思ってない人もいるかもしれない。

 蓮風 いますね。

 関 ですから、やはりその人の生き方、人生観というのがありますから、こちらから全てを押しつけることもできません。

 蓮風 ネフローゼで名古屋の大きい病院にかかって、うまくいかんで、それから同じ名古屋の子供病院ですか、そこでもうまくいかんかった。そこで主治医と私が話して「鍼をやったらどうや」ということになったんです。で、実際、鍼をやって良くなってきた。その患者さんや家族が面白いことをいいましたね。「西洋医学でも治ると言われたんやけど、入院せずに、普通の生活をしながら治して欲しいんだ」と…。そういうことでしょうか、先生今おっしゃったのは。

 関 それもすごく大事なことだと思います。それで、西洋医学でも治せる…たとえば抗生物質といった薬とかで。それから鍼でも治せる、漢方でも治せる。(そのような選択肢があったとして)同じ「治せる」でも質が違うんですね。「治る質」が違う。その質にもいろいろあって、たとえば苦痛を伴わないで治るとか。それから、先生がおっしゃったように、社会的な生活をしながらでも治せるとか、本当に治るといっても治り方がものすごく違います。

 ですから、それもひとつの選択基準になると思いますし、やはり本当は苦痛もなく、あるいは社会生活もできて治るのが良いのかもしれませんが、(場面に応じて)「治る質」も選ばなければいけないと思います。
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 蓮風 そうですね。そうすると、こうあらゆる医学に精通して、そして適応・不適応、また適応してもよりこれがベターであるとかいうことを相談できるドクターというか、そういう素人に指導できるシステムが要りますね。

 関 ええ。やはりこれから作らなければいけないものだと思います。

 蓮風 そうですね。それから鍼灸・漢方の真髄・本質は何とお考えですか。これは、私がどういうお答えが頂けるかなと思って楽しみにしているのですけども。

 関 まあこれもちょっと言葉に語弊あるかもしれませんが、その人が持っている能力を引き出すということではないでしょうか。その能力というのはひとつは、病気になっている人であれば、いわゆる自然治癒力といいますか、治る能力を引き出すように持っていくというのが非常に得意な治療のひとつではないかなあと。

 蓮風 そうですね。なにか潜在的なエネルギーを引き出す。ないものを作るんじゃなしに、もともとあるものを上手に引き出していくという医学だとお考えなんですね。〈続く〉