蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

タグ:医師


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初回公開日 2014.8.2

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佐々木恵雲さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんが各界の方々と「鍼(はり)」について語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。今回から対談のお相手は、滋賀・西照寺(浄土真宗)の住職で医師の佐々木恵雲さんです。佐々木さんは「玉手箱」では2012(平成24)年6月2日から同年7月28日まで9回にわたって登場されていて、今回は対談の“第2幕”となります。今回は医師との対談シリーズの流れのなかで、医療現場からの視点に重きを置いて語っていただきます。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 先生は僧侶でありながら医師でもありますから、宗教との関わりについても深く聞いていきたいと思っています。まず、医師と僧侶の、どちらが先でどちらが後ということになるんですか?

 佐々木 先生にはそういう生い立ちのことはお話していなかったかもしれないですね。私は、寺としては13代目の住職なんですけれども、実は僕の父親、先代の住職も内科医でして。

 蓮風 先代からお医者さんとお坊さんと両方やっておられるというわけですね。
   
 佐々木 お寺の裏に小さな内科の医院を開業していたんです。

 蓮風 ああそうですか。

 佐々木 世の中に僧侶と医師の両方を仕事としている人は結構おられるんですよね。ただ2代続けて僧侶と医師、住職と医師をやっているというのは少ないですね。

 蓮風 確かに少ないですね。

 佐々木 ほとんど聞いたことがないですね。この生い立ちというのが僕にかなり影響を与えています。つまり産まれた時から、仏教と医療というのが当たり前のようにあった。

 蓮風 違和感なく。

 佐々木 違和感なく。変なプライドといいますかね、ドクターにたまにありますけれど、そういう変なプライドなしに自然にその中にあったんですね。ただまあ、小さい時はよくいじめられたというか、一番堪(こた)えたのは、友達から「お前は線香くさいし薬くさい」と言われたことでした。

 蓮風 (笑)
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 佐々木 うちの祖父…先々代の住職だったんですが、これがなかなか凄い人で。

 蓮風 おじいちゃんですね。

 佐々木 おじいちゃんに育てられたというか、父親が忙しかったんでね。明治20年から30年ぐらいの生まれの人ですけれども。あの頃の明治の人は凄い。先生のお父様は何年ぐらいですか?

 蓮風 大正5年ですね。

 佐々木 何でも自分でやらなくちゃいけなかった。当然家事とか、すべてできますけれども。漢方といいますか、熊の胆(くまのい)とかをですね、檀家さんの調子が悪くなったら持って行ってあげる。自分でお灸もやっていましたし、そういうお灸、漢方…民間療法的なことかもしれませんが、そういうことの知識もあったんですね。

 蓮風 その方は、お医者さんではないんですね。

 佐々木 ではないんです。

 蓮風 仏教徒のお布施というか、ご奉仕が。

 佐々木 ものすごい熱心な仏教徒ですね。ただ非常にそういう仏教的な、僕は東洋の目と言っているのですが、それだけじゃなく非常に合理的な部分もあって、僕の父親にドクターになれ、仏教と医療をやれと勧めた。強引に父親を医師にしたというところもあるんです。

 蓮風 そういう風にしむけたのはおじいちゃんなんですね。

 佐々木 小さい時は、僕は仏の子、光の子になると言っていたらしいですけれどね、ただ中学・高校ぐらいになってくると、もう寺が嫌で嫌で。

 蓮風 そういう時代ありますよね。<続く>

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笹松信吾さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。今回で倉敷中央病院初期研修医(対談当時、現・市立堺病院外科後期研修医)の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談もひとまず最終回となります。僭越ながら「玉手箱」を担当している私も質問をしております。対談をうかがっていると身体のそれぞれも部分も心も一体と考えるほうが合理的な印象を受けます。たとえば、極端な話、足の指の先と眼だってひとりの身体の中では一体のものでは無関係だとは思えないのですが、実際の医療現場ではそのような考えとは違うようです。(「産経関西」編集担当)

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「産経関西」編集担当(以下、産経) 笹松先生のお話を伺ってますと、病気の原因を探ったり治療方法を検討したりするときに、東洋医学は患者さんの生活環境なども考慮することを高く評価されていました。僕ら一般人の側からするとそちらのほうが理に適ってて、西洋医学というのはそういうことは全く考慮していないのかっていう驚きがあるんです。実際に西洋医学では、あまり個々人の環境などは考慮しないで、スタンダードに分類された病状で診断するというのが主流なんでしょうか?

 笹松 そうですね、そういうことに気づいている先生も少なからずいることはいるんですが、実際に大部分のドクターは、こういった言い方は失礼なんですが、あまり配慮されてないなという印象を受けています。

 産経 それは教育の問題なのでしょうか、それとも制度の問題なんでしょうか? 

 笹松 そうですね、もちろん教育の問題だとか制度上の問題は大きいと思います。もうひとつ考えられるのは、西洋医学がだんだん進歩していて非常に専門化してきたというので、物事をパーツに分けて診る傾向がある。

 たとえば身体は身体、心は心で。心は精神科におまかせします…身体は私たちが診ます…と。身体でも整形外科は手足は診ますけど、お腹は診ませんと。逆に腹部外科の先生はお腹は診ますけど手足の骨折だとかは診ませんと…。そもそも西洋医学は物事を分解して研究するという発想です。西洋医学というより西洋の思想が昔からそういう発想なんですが、今もどんどん分解していって、「統合」するっていう発想がなく、さらに細かくさらに専門化っていう流れがあるので、そういう流れに乗ってるとやっぱり、全体で診ようだとか患者さんの周りの環境に配慮しようだとかっていう発想は生まれにくいですし、そういうことに気づいても、周りの環境がそういう流れなので、「ああ、こういうことやってる場合じゃないかな」って、周りに潰されてしまうっていうことがあるんじゃないかなと…。

 産経 世界全般的にそういう…?

 笹松 はい。


 産経 先生は医学部に入る前に心理学を勉強されていましたね。ダニエル・カーネマンは心理学者ですけど、経済学と心理学を統合して行動経済学の研究を進めて2002年に心理学者として2人目のノーベル経済学賞を受賞しました。いろんな学問が融合していく流れの一方で細分化も進むという反対の動きもあるのでしょうか?

 笹松 そうですね。その矛盾に気づいて学問を統合しようだとか、いろんな学問をつなぎ合わせてもっと大きい事をしていこうという流れがひとつと、突き詰めてもっと細かく分けていこうという2つの流れがあるような気がします。

 産経 先生はその2つの流れがあるとしたら…。

 笹松 性格的な問題があると思うんですが、分割するより融合する方が自分の性格に合ってるなという気はします。

 産経 ありがとうございます。
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 蓮風 最後にね、僕が質問したいのは、iPS細胞のことです。いわゆる人工多能性幹細胞でいろんな臓器を作ろうとしてますね。それで、あらゆる難病が治るようなことを言っておるわけなんですが、東洋医学の立場では<気一元>ということで、あくまでもひとつのまるごと全体を意識するというのが生命だという考え方です。

 ところが、西洋医学は細胞レベルで良くなればいいという発想ですよね。昔、手塚治虫の漫画だったかなぁ。自分の身体が悪くなったらその臓器だけを機械に変えていって全部ロボットにしていく。最後に脳が悪くなったら脳を変えて、自分でなくなったという話で、そういう漫画があったと思うんです(笑)。そういう部分についてどうですか、先生のご意見は?

 笹松 iPS細胞が今後どこまで発達していくかっていうことはちょっとわからないですが、たとえば、指が取れてもまた仮に完全に生えてくるとしてですね、それで終わりかなという気がしますね。結局、心と身体ってつながっているので、身体の空白が埋まっても心の空白が埋まるわけでもないですし。

 蓮風 ああ、なるほど。

 笹松 もちろん、それで前向きな気持ちになって楽しい人生を送れるんであれば、それはそれでいいんですけど、逆に治ってしまったがために心の問題…。たとえば、考え方を変えることによって、病気になって初めて家族が協力して、今まで仲が悪かった家族が一つになっただとか、逆に失敗を経験することによって考え方が変わって、そこから今までダメだった事業が上手くいきだしただとか、病気をきっかけに心が変わることってよくありますよね。

 でも簡単にですね、たとえば、なくなった腕が生えてきたりすると、逆に無謀なことをするとか、交通事故に遭っても治るからいいじゃないかと言って乱暴な運転をするかもしれないですし、病気になってもどうせ治るからいいやと思ったら心の問題を解決しようとは思わないですよね。

 蓮風 そうですね、その辺りが大きな課題になってくるでしょうね。わかりました、今日はありがとうございました。<了>

次回からは医師で僧侶の佐々木恵雲さんと蓮風さんの対談が始まります。佐々木さんは「蓮風の玉手箱」への2回目のご登場です。

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笹松信吾さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は、倉敷中央病院初期研修医(対談当時、現・市立堺病院外科後期研修医)の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の9回目をお届けします。対談も終わりに近づいて今回は笹松さんから蓮風さんへの質問から始まります。蓮風さんから今後の展開や方針が語られ、鍼灸界の問題点も浮き彫りになっています。(「産経関西」編集担当)

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市立堺病院で

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 笹松 今後の先生の構想について聞かせていただきたいです。10年後はどういった形で「北辰会」を展開して行かれる方針なのでしょうか。

 蓮風 ああ、「北辰会」の展開ですか。やっぱりね、さっきも話出てきたけど、まず鍼灸師、ぼくはあんまり相手にしないんです。(重視するのは)ドクター。医師のあなた方です。だからドクターコースにものすごい力を入れている。

 鍼灸師は(指導・育成を)少々やっても、いろんな意味で弱いですね。まず言えるのは、志が低いということ。一番悪辣(あくらつ)なのは商売にしてる、鍼灸をね。もうそういう連中ではどうしようもない。

 世の中に鍼灸の有効性を効果的に訴えかけるにはドクターの力を借りたほうが早いと思うんです。だからそのために、ドクターたちが鍼灸の勉強をするための教科書を書いてるんですよ。一部を見たでしょ? 『鍼灸臨床能力 北辰会方式 理論編』と『実践編』です。あれやったらドクターにも合うと思うんですよ。

 また村井和先生(医師、和歌山市「和クリニック」院長)と一緒に『ドクターのための鍼術入門』て本をね、書きつつあるんですが。結局ね、西洋医学も医学なんだけど東洋医学も素晴らしい医学で、西洋医学ができん事をやれるんだということを認識してもらうためにあらゆる努力をはらうというのが我々「北辰会」ですね。

 2014(平成26)年度からは「北辰会」の方で、志の高い鍼灸師の方やドクターの先生方への育成が本格的に強化されるようですけどね。「北辰会」は学問の内容としても技術的にもかなりレベルの高いもの持ってるんで、本当は大学になれば一番いいなと思ってるんです。キャンパスはないけども中身はかなり持ってるはずなんで。ぜひ先生にも応援していただきたいです。

 笹松 はい、協力させていただきます。

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 蓮風 他にないですか、なにか聞きたいこと。

 笹松 先生も70歳になられましたかね。

 蓮風 そうですね、古稀ですね。“こき”おろす時期だから「古稀」という(笑)。

 笹松 ご高齢ということもあるんですけど、今後どれくらい臨床を続けていかれるのかなというのを…。

 蓮風 この間もね、17、8歳の子も出場する馬術の試合に出ていって4位を取ってきました。

 笹松 あっ、そうなんですか!?

 蓮風 だから、まだまだくたばらないし、あと20年くらいは、憎まれっ子でいようかなと思ってる。ただね、やっぱり体力的に弱ってきてることも事実です。今までと同じように勉強したり、臨床やれと言われるとちょっとしんどい面もありますね。

 笹松 僕が本格的に鍼灸を勉強するまでは元気でいていただきたいです。

 蓮風 だから早く(鍼灸の本質的な有効性に)気づいて、しっかり本当の医学はこれなんだということで(本格的に鍼灸の知識や技を)求めていただかんと…。私の存命中にやっていただきたいね(笑)。〈続く〉

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笹松信吾さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」


 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。倉敷中央病院初期研修医(対談当時、現・市立堺病院外科後期研修医の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の8回目です。西洋医学が漢方薬を取り入れるようになってきているなかで、鍼灸の積極的な導入を阻んでいる理由などについて、おふたりが意見を交換しています。さらに西洋医学が鍼灸を取り入れるメリットについても言及されていて、互いの協力が患者や医療従事者のメリットになる可能性の大きさが浮かび上がってきます。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 日本の大学医学部にも、漢方の講座を持っている所が出てきましたね。でも鍼灸の講座持っている所は数えるほどもないんですよ。

 笹松 そうですね。

 蓮風 漢方薬あれば鍼灸…これセットなんですね。中国の宋の時代の『鍼灸資生経』という本があるんですね。この本は、漢方薬と鍼・灸この3つを自在に操ってこそ初めて本当の医学だぞって言ってる。有名な本なんですけども。だから漢方をやれば鍼灸やらないかんのに、これじゃ片手落ちです。

 笹松 その原因の一つは、鍼灸って熟練を要するじゃないですか。長い期間修業しないと威力が出て来ない。その一方で漢方は、たとえば偉い先生からこういう診断なんでこの漢方効きますよって渡されれば、誰が使っても効き目って一緒ですよね。そういったやりやすさだとか、入りやすさというのがちょっと鍼灸へのハードルを高くしている原因の一つかなという様な気がしますね。

 蓮風 まぁ、あの漢方が、ある程度注目されたというのは良いことなんだけどね。もっともっと喧囂(けんごう:やかましく騒ぐこと)がないといかんとは思うんだけども…。そういうことはまた先生がある程度「北辰会」で勉強なさったら、それをまたあちこちへね喧伝(けんでん)して戴いて…単なる宣伝じゃなしに喧伝(=盛んに世の中に広く知らせる)していただいて、「こんな良く効くんだぞ。その事実が知りたければ俺の診療を見に来い」と言えるような先生になっていただきたいね。

 笹松 そうですね、それくらいの実力をつけたいですね。

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 蓮風 (治るという)事実見せればね、否定はできませんからね。実際僕もね、西洋医学にとっても東洋医学を知らずして医療をやってると、やっぱり損な部分があると思うんや。東洋医学を知った上でやると、また西洋医学自身のためにも良い面があるんじゃないかなと。(このたびの対話の5回目に出た)生体肝移植なんちゅうなことも考える前にやね、もっとこう優しい、ソフトな医学が出来るはずなんで。

 笹松 そうですね。後ですね、もうちょっと直接的な利益に結びつく部分もあると思っていてですね、たとえば集中治療室でどうしても暴れる患者さんがいるんですね。周りを機械に囲まれると落ち着きがなくなってきて、「不穏」というんですけど、暴れ、ゴソゴソして看護師さんが非常に手を焼く患者さんが出て来る。そういった方も鍼で落ち着いたりするのかな?…という思いが一つと…。

 蓮風 そうですね。興奮状態に入って、うん。これもまた最近の話なんですけど、ある医療従事者の患者さんで、とっても多忙な医療機関で仕事を真面目にやり過ぎて日常生活に支障がでるほど体調を崩してしまった。色んな鍼を受けて、色んな治療やっても治らんで結局、私のとこ来て、今もぅ8割方良くなってるんですよ。

 笹松 は~~~ぁ。

 蓮風 休息もとらんと真面目に突っ走り続け過ぎて疲れ切ったんやね。あなたも気ぃつけて下さいよ。

 笹松 分かりました(笑)。

 蓮風 特に病人を相手にする医療従事者はね、やっぱあんまり疲れ切るとね、本当の医療はできませんな。う~ん。そんなんで、我々も、まだまだ、この西洋医学が知らない世界をね、実践によって、示さないかんなと思っとる訳です。〈続く〉

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市立堺病院での笹松信吾さん

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。倉敷中央病院初期研修医(対談当時、現・市立堺病院外科後期研修医)の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も終盤に入ってきました。今回は前回に続いて笹松さんからの鍼灸師への要望…。そして医師への提案です。“やさしい医療”として東洋医学に関心を示す医師も増えてきているようですが、対症療法的な西洋医学との違いはたくさんあるようです。おふたりは同じ考えで漢方薬を処方する危険についても警告しています。(「産経関西」編集担当)

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 笹松 実際に(鍼灸師が患者を診断して自分で治療できるか、すぐに病院に案内すべきかを判断できる)領域に達するまでって、結構長いこと修業しないといけないですよね。自分の実力と限界を見極めて無理はしないで欲しいなと思います。それから、もう少し西洋医学の先生方と鍼灸師の先生方に、交流していただきたいということです。

 蓮風 それは我々も思います。お蔭さまで(蓮風さんが奈良市に開いている)藤本漢祥院にはドクターがしょっちゅう研修に来ているからね。ですから患者の症状や検査データなどを伝えてドクターに「どうなんでしょうか」と相談します。そういう人たちと交流しながらやっていると良いんだけど、一般の鍼灸師で、そういう環境にいる人は少ない。残念ながら鍼灸師で「本当に自分たちは医学をやってるんだ」という自覚のある人が少ないんですよ。悪く言えば慰安的なね、ちょっと気持ちが良くなったらそれで良いという様な……。それから他には?

 笹松 そうですね、あとはですね、実際、僕も東洋医学の勉強するときは、良い先生を探して実際に見学をする。たとえば鍼灸で言えば蓮風先生の臨床を見学に来る訳ですけど、逆にですね、西洋医学の先生も良い先生はいっぱいいる訳じゃないですか。なので鍼灸師の方にも、ぜひ一度ですね、西洋医学の良い先生の実際の臨床現場を見学していただけたらなという風に…。

 蓮風 ああ、できたらやりたいですね。制度上の問題もあると思うし、それから大分良くなったけどね、僕が開業した今から50年ほど前は、もぅ鍼灸師といったら医者と比べたら虫けらみたいに思われとった時代で、「お前たちは医者でも何でもないんだ」と、ただ鍼をポコポコやって患者さんを気持ち良くしろというような時代やった。ところが最近変わってきましたね、うん。ちゃんとした医療人なんだと最初から意識してくれる人が多くなってきましたね。これはやっぱり世の中ちょっと良くなったなという風に僕は実感しとる訳なんです。そういう流れを進めて行くためにどうしたら良いんですかね?

 笹松 う~ん、難しいですが、実際に「北辰会」に来てるドクターは鍼灸師に対して理解がある。そういった先生の外来をちょっと見学させて下さいと言えばですね、見せてくれる先生もいると思います。なので、まず、そういったところからはじめてみたらどうかなという風に思いますね。
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 蓮風 良い話をしていただきましたね。それからドクターの間でも随分、東洋医学が意識されるようになったけど、まだまだ知らないし、分からないし、近づきたくもないという先生もいない訳じゃない。こういった先生たちに向かって、笹松先生の立場から、いやいや東洋医学はこうなんだ!と言いたいことがあったらおっしゃって下さい。

 笹松 はい。実際に最近、漢方薬を出す先生が非常に増えてきてはいるんです。

 蓮風 そうですね。

 笹松 はい。その病名に対してはこの漢方っていう考え方で使う先生が非常に多い。もちろん、東洋医学的に診断すると全然当たってはいないんですけど。

 蓮風 そうなんですよ。

 笹松 病名を見て使っているので、効いたり効かなかったりするのかな? 余り効かないな。と結局そういった印象が残るだけ。

 蓮風 全然でたらめに(人体の正気を補う)「補剤」と(病そのものをたたく)「瀉剤」を同時に使ったり。

 笹松 はい、そうですね。

 蓮風 だから、やるんであれば本格的に漢方の理論を勉強していただいて…とつくづく思いますがね。

 笹松 やっぱり、互いに現場を見せてもらうという、先ほどの話と関係するんですけど、「百聞は一見に如かず」ということですね。実際に鍼灸だとか、漢方が非常に効いている例を現場に来て見て欲しいというのが一つの思いです。目の前で効いているところ見せられたら、「いや、これは全然効かない」っていう訳にいかないじゃないですか。もう信じざるを得ないと思うので、実力のある先生の実際の治療を見たり体験したりしていただくのが一番かなという風に考えております。〈続く〉

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