蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

タグ:名誉教授

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 対談中の小山揚子さんと藤本蓮風さん=2012年4月11日、奈良・学園前の「藤本漢祥院」

 鍼(はり)が持つ本当の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。これまでに鍼灸の治療を受けたことがある方はどのようにして鍼灸院を選ばれたでしょうか? たとえば風邪がひどくなったので、とりあえず勤務先の近くにあった医院に入ったという場合とは違うケースがほとんどではないでしょうか。つまり知人の紹介とか、家族が代々受診しているとか…。信用できる情報の裏付けがないと躊躇しますよね。今回、関西外国語大学名誉教授の小山揚子さんと鍼灸師の藤本蓮風さんが繰り広げているのは、そんなお話です。なぜ、躊躇するのかという私たち“素人”の気持ちをうまく代弁してくださっています。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 2005年の、ある学会誌に掲載された研究調査論文によると、2003年の調査では全国民の7%しか鍼灸を受けてないんです。

 小山 ああそうですか。でも全国民の7%は受けてるんですね。結構、受けてますよね。

 蓮風 でも全体から見たら微々たるものですよねぇ。だから、もっと多くの方に鍼灸のことを知ってもらいたい。知って、わかっていて受ける受けないは本人の自由だと思うけれども…。

 小山 そうなんです。

 蓮風 知らんとね、本当はパッと治るのに治らないとか、場合によっては、やっとけば死ぬようなことはないのに、亡くなると、実に悔しい。だから、この「玉手箱」の連載のようなことで啓蒙をやっているんです。

 小山 ええ。

 蓮風 この間、面白いことがありましてね。患者さんで、もうホンマに赤ちゃんの時から診ていた女の子なんですが、突然やって来ましてね。「どうしたんだ」と聞いたら、歯医者さん行って、歯茎を切開してもらった。それから炎症がひどくなって、リンパが腫れて口が開かなくなった、と言うんです。それで、背中に1本鍼をして、それ2~3回やったら、かなり良くなった。歯医者さんにしたら、「これ以上治らなかったら、歯科大にやらないかん」と説明していたらしい。抗生剤はもちろん使っているわけなんだけれども、全然効かない。よく尋ねてみたら、ものすごく疲れていたところへ、お父さんが脳梗塞で入院してどうやら看病していた…。そういうことから言うと、薬も、ある一定の条件がないと効かないのではないでしょうか。(前回に)先生が仰ったように「癌(がん)もある程度まで行ったら、医者は相手にしない」というようなことに近いような部分がありますねぇ。

 小山 そうだと思います。

 蓮風 だから僕に言わすと、病気というものの背景には必ず「疲労」がある。だから「疲労さえ取っておけばその病気になっても軽く済むだろうし、(大きな病気に)ならないことが大方なんだ」という論を持っておるんです。(患者も)鍼のことを知ってるのと知らないのとで、また経過も違ってくるでしょうしね。その女性の患者は、子供の時に鍼を受けていた。その時に鍼で助けてもらったという想いがね、にっちもさっちもいかんようになった時に、ここ(藤本漢祥院)まで引っ張ってきたんでしょうね。

 小山 西洋のお医者さんっていうのはまぁ、よっぽどの大変そうな手術でもない限り、そのへんの町医者に行きますよね? それも不安なく行けますけども、鍼灸というのはなんとなく、ちょっとそこのところが…。「さて、どこ行っていいのか?」という感じです。もちろんお医者さんだって良いお医者さんはいるし、ヤブもいるんですけども。鍼灸の場合は良い方と、いい加減なところの振幅が大きいような気がします。揚子3-5
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 蓮風 我々専門家でも、そう思います。だから患者さんを啓蒙しているわけなんですが、同時に内部の改革というか教育が必要なんです。はっきり言って我々の医学には『黄帝内経』という2500年前のバイブルがありまして、これにのっとってやるというのが漢方医学なんですよ。学校ではそれすらも教えない。

 小山 先日読んだ朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」に掲載されてる「テイ先生の診療日 東と西の薬談義」によると、昔は弟子入りしたら掃除洗濯から飯炊きまでしなくてはいけなくて、なかなか教えてもらえない。それが採用かどうか決める面接にあたる。会社の入社試験は5分から30分くらいの面接で決めるけれど、自分のノウハウを全部教えるのに足りる人間かどうかを何年とか何十年かけて見定める。それでやっと、っていう感じで。でも、それだとねぇ…。

 蓮風 ここ(藤本漢祥院)では内弟子制度をとっているわけですが、一般的な教育と違って、本当に患者さんを守るということであれば、やっぱり師匠と一緒に暮らすということ(の効果や影響)がかなり大きいみたいです。だから、現代の漢方医学を得意とする中国もですね、医大をようけ作ってそこで沢山医者作ったけども結局役に立たんと…。

 小山 あーそうなんですか。 

 蓮風 だから中国でも、一流の先生が縁あって受け入れた人を内弟子みたいに教育する。それで、なんとか名医を残そうとやっとるみたいですねぇ。でも、それも限界がありますわね。

 小山 だからやはり、町医者に行くような感覚では東洋医学の先生のとこには行けませんね。誰か知ってる人があそこ行ったらいいというような。

 蓮風 口コミですね。

 小山 口コミでしか行けないですよね、診てもらう方にとってはね。

 蓮風 まぁネットみたいのがね、流行りだしてネットで調べてくる人も多いですけど、基本口コミですよね。

 小山 そうですね、大体そう。

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 蓮風 特に西洋医学と違って学問は学問だけれども、非常に感覚的なものを重視する医学ですからね、それに見合った人物かどうか、見分ける、その人物にいい先生がついて教える、というのが本当だろうと思うんですよね。ところが今そういうふうになっていない。そういう意味では、うち(藤本漢祥院)は非常に古い制度を持っているわけで、非常に意味があると思うんですけどねぇ、先生。

 小山 でもやはり今の内弟子さんが日本全国に散ったとしても、診ていただける確率は低いですわね。街のお医者さんを特別に選ばないで、スっと行けるような感覚で鍼灸院にも行けるようになればと思います。

 蓮風 それはもう患者さんの立場からしたらいいことでしょうね。我々も、鍼灸自体が一定のレベルに達さないとモノが言えないという気もする。しかし、いつも言うんだけれども、いい品物を作るにはいい品物を褒めて買ってくれる消費者がおらないかん。そうすると、ささやかだけど、我々みたいな人間が一人ずつ患者さんを治すことによって消費者というか、そういった人たちの間に鍼灸への理解を広げていくのも一つの方法かな、って思うんです。

 小山 最近、ようやく西洋医学以外の治療がマスコミで紹介されるようになり、間口が広がってきていると思います。

 蓮風 そうですか。そう言ってもらえて非常にありがたいですけどもね。まぁ沢山…70万人近くの患者さんを診ているんですけども、やっぱり鍼は素晴らしい。西洋医学と比べれば比べるほど素晴らしいという風に思えるんですよ。だから生きてる間に叫んどかないかんというのはあるんです。ちなみに先生と僕は同い年ですよね?

 小山 先生の方がお若いです、私、昭和16年です。

 蓮風 あーそうですか。これは失礼しました(笑)。同い年かと…失礼しました。〈続く〉

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藤本蓮風さんが奈良・菖蒲池で開業していた当時の「藤本漢祥院」。

1970年代半ばの写真だそうです。

 

「鍼(はり)の知恵」について考える「蓮風の玉手箱」をお届けします。鍼灸師の藤本蓮風さんが関西外国語大名誉教授の小山揚子さんをゲストに迎えての対談の2回目です。患者として、そして友人として蓮風さんを見てきた小山さんが蓮風さんに寄せる信頼感が今回も伝わってきます。病院では患者のためを思って検査をしてくださるのでしょうが、かなり苦しいケースがあるのも事実です。入院をして安静を命じられているにもかかわらず、検査を受けて、ぐったり、という経験のある方もいらっしゃるのでは…。検査が大切なのは言うまでもありません。でも身体の部分だけをみて本当に人間の病というのがわかるのでしょうか、この連載は、そんなことも考えていただくための企画です。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 この建物(奈良・学園前の藤本漢祥院)はもう18年経つんです。その前に確か私が臨床を始めて30周年のとき(大阪・中之島の)ロイヤルホテル(現・リーガロイヤルホテル)で記念のパーティーをしたとき、お祝いに来ていただいたんですよね。ご主人(小山修三・国立民族学博物館名誉教授)が治療にいらしたのはずっと後なんですよね。
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 小山 はじめのうちは、私が鍼に行くと言うと「鰯の頭も信心」とか言ってたんですよ(笑)。

 蓮風 (笑)

 小山 ある年(修三さんの体調が)「ん?」という感じになって、その時すぐ、藤本先生に「この時を逃したらもうないから、今晩入れてください」って(修三さんの)治療の予約を無理やり入れていただいて(笑)。それ以来、主人のほうが先生とつるんで何かしてて…(笑)。

 蓮風 つるんで(笑)。(小山揚子さんは)身体の微調整で治療に来られていたということですね。やっぱりこれだけ西洋医学に囲まれながら、鍼に来られたというのは、何でしょうかね。

 小山 歯医者さんは西洋に行きますけれど(笑)。やっぱり西洋のお医者さんに行くと、まず、ありとあらゆる検査をされますよね。検査というのは案外体力がいるし、検査の結果を見て、人の顔見ないで「ああだこうだ」と仰るので、それよりかは藤本先生に脈や舌を診て頂いただいて鍼をしていただくほうが負担はすごく軽いんですよね。

 蓮風 そうですね。たしかにねぇ、検査しないとわからん、って言うんだけれど、検査自体がもう受けるのしんどいっていうのが、これはもう現実ですね。

 小山 そうですよねぇ。

 蓮風 結構、そういう人多いんだけれども、医学はあれしかないと思い込んで信じ込んでる人もいるんで…。

 小山 私が勧めてここに連れてきた方は、私のことをよく見てて、ああそういう方法もあるんだと思って来てらっしゃるんだと思うんですけれども、でもやっぱり医者に癌(がん)だとか言われたら、切るとかねぇ、そういうのはどうしても…。

 蓮風 だから長く来ておられる中で、身体が弱いなりにバランス取ったもんやから、いまのところ癌とかは一切なかった。

 小山 今は癌の治療でも、免疫治療とかありますけれど、リンパ球を取ってそれを培養してそれをまた身体に戻してというような、なんか非常に無理な方法ですよねぇ。

 蓮風 あれもね、まだ実は完成品じゃないですね。現在も免疫だ免疫だ言うわりに、免疫療法はあんまり展開してないんですよね。

 小山 ええ。癌なんかである程度進んでしまうと、西洋医学って案外見捨てるんですよね。もう本当に色んな方法を考えてやるけれど、ちっとも効かなければ見捨てられちゃう。やっぱりもうちょっと前に他の方法もあるということを気づければ…。

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 蓮風 私のところへ何十年単位で来られている人は結構多いんですよ。その人たちに共通することは何かと言うと、まず癌のような大きな病気にかからない。(小山さんの前に対談した医師で僧侶の)佐々木(恵雲)先生のお話によると、しょっちゅう癌は起こっていて、それをうまく消しているのが免疫なんだと仰ったのですが、とにかく病気しない。揚子2-8

 小山 ほんとに未病の状態なんですね。

 蓮風 癌はあるのかもしれないが、切らないといけないとか、放射線当てなきゃいけないとかいうことになった人は少ないんです。殆どと言っていいですが、ならないんです。だから私、21歳で大阪・堺市で開業して、10年やって、うちの親父が(奈良市内の)菖蒲池(あやめいけ)に家を建てたから「お前、入れ」って言うんですよ。あの人も大阪、西成でやってまして。でもまぁ菖蒲池は環境がいいし、その当時、子供も小さいし、いいかなぁと思って行ったんです。堺からは50キロくらい離れてたのに、大体患者さんついてきてくれたんです。

 小山 そうです。私、最初行った頃、みなさん堺の方で、色々話を伺いました。とくにあの頃は治療するスペースと待合室が違う階だったので、先生に聞こえないので色んな話を聞いて…(笑)。

 蓮風 だからもう、50年近くやってるんですが、ずっと来てる人たちは、脳へ来たり、心臓へ来たり…。癌になったりする方はほとんどないですね。だから、「先生の所へ通える間は私は元気でおると思います」と言われたり、ひどいのは「あんたは若いから、長生きしなはれ、私のために」と言われたり(笑)。

 小山 私もそう思ってますけれど(笑)。

 蓮風 だけど、それは医者と患者の間ではものすごく有り難いことですねぇ。

 小山 やっぱりなんていうか、信頼関係というのでしょうか。主人に言わせれば、「鰯の頭も信心」なんですけれども、やっぱり先生と患者さんとの信頼関係が大きいと思いますけどね。

 蓮風 そうですねぇ。まぁひとすじに自分の身体を任す、任せられたからこちらも一生懸命やる、というような信頼関係でしょうねぇ。それと、どうですか、沢山お薬もらってはったけれど、薬はあんまり飲まんようになりましたか?

 小山 全然飲みません。とにかく、もうもらってきた時に殺されると言われ(笑)、それ以来、歯医者さんでも痛み止めとか化膿止めとかもらいますけれども全部なしで過ごしてます。ただ、長い旅行に出るときに、漢方専門の薬局で「香蘇散」を処方してもらってます。

 蓮風 香蘇散というのは、漢方の専門書では「理気」といって、気をめぐらせる作用が中心ですね。温泉に入って気血のめぐりが良くなるのと似ているということでしょうね。〈続く〉
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 初回公開日 2012.8.4

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藤本蓮風さんとの“つきあい”は長いという小山揚子さん

 
 鍼灸師の藤本蓮風さんが各界の著名人と現代社会の中での「鍼(はり)」の役割を考えてきた「蓮風の玉手箱」をお届けします。今回からは関西外国語大学名誉教授の小山揚子さんが対談のお相手です。小山さんは1年前にこのコーナーが始まったときにゲストとして登場してくださった国立民族学博物館名誉教授の小山修三さんの奥様で、ご夫婦で蓮風さんの治療を受けてらっしゃいます。

 

 長年、外国人に対する日本語教育の実践や研究に携わってこられた小山揚子さんから見た鍼灸とはどのようなものなのでしょう。古くから蓮風さんをご存じなので、こぼれ話も出そうです。

 

 まず、そんな“玉手箱”を開ける前に小山さんの略歴をご紹介しておきますと…。

 1941年に茨城県水戸市でお生まれになり、国際基督教大学に入学。同大学大学院教育学部視聴覚教育科に進まれて教育学修士号を取得。米国やオーストラリアの大学の夏期日本語学校講師などを経て1980年に関西外大の非常勤講師となり、助教授、教授を歴任。1999年2月から1年間休職をしてオーストラリア国立大学で日本語教育と研究に従事し関西外大に復職されたあと、2007年に定年退職されました。

 

 では“玉手箱”を開きます。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 「蓮風の玉手箱」へようこそ。

 

 小山 お呼びいただきましてありがとうございます。

 

 蓮風 今日は本当に楽しみにしていたのです。先生は長らく私の治療院に来ていただいて、もう人間としての藤本蓮風すべてを見られていると思うし、僕も先生を患者さんというよりも、親しくひとりの人間としていろんな面を見させていただいて勉強になっているわけですけれども、今日はね、患者さんという立場で自由に喋っていただきたいというのが私の本音であります。もちろん先生は、大学で外国人に日本語を教えておられたので、その中で、また色んな人を見ておられると思います。そこで、実は人間というのは、こういうものなんだというお話もいただくと、我々臨床家にとっては、ものすごく勉強になるので、何か面白いお話があれば、よろしくお願いいたします。

 

 小山 はい。

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 蓮風 では1番目のテーマですが、先生は長らく大学で教鞭を取っておられました。そこでのお身体の具合はどうでしたか?

 

 小山 同僚や学生は私のことを非常に元気な先生だと思っていたと思うんです。留学生相手で、まぁ留学生はそれぞれ自分のお金と時間を使って日本に来るわけですから、来て良かったと思われるように、授業の準備だとか、いろんな工夫とかを目いっぱいやって、わりと頑張っていたと思うんです。若い頃はその頑張りがずっと続いたんですけれど、30代の終わりから40代にかけて、学期の途中に潰れるんですよね。朝起きると起き上がれない、起きたら吐き気がする、だけど授業は穴を開けられないという感じで…。とにかく医者に行くと、極度の疲労だと言われて、手に余るような薬を持たされるんですよ(笑)。それで主人(国立民族学博物館名誉教授の小山修三さん)が「こんなに薬飲んだら、殺されるから」と言ってました(笑)。 

 

 まぁそれまでも肩こりがひどかったので、近くの鍼灸院でマッサージを受けていたんで、そこに行ったんです。とにかく授業に行けるようにしてくれと言ったら、お灸をしようと。で、お灸も色々な方法があるけれども、皮膚に傷をつけないような方法もあるけれども、これはもう直接やったほうがいいと仰って(笑)。 で、授業終わったら、そこへ行って、お灸をしていただいて、それでまた家に帰って寝てるという生活を1週間続けましたら、ある時に、身体中の体液がぐるぐるぐるぐる音を立てて回るような感覚があったんです。

 

 蓮風 ほう。

 

 小山 で、それから吐き気もなくなったし、起きられるようになって、ああ私ってわりかし、東洋医療に体質的に向いているのかな、というので、こちらの藤本先生をご紹介してくださる方がいらしたんです。その頃はまだ(現在の奈良市学園前ではなく同市内の)菖蒲池(あやめいけ)の…。

 

 蓮風 そうそう、だからもう(患者として)古いんですわ。

 

 小山 そうそう(笑)。だからもう30年以上になりますか…。菖蒲池の治療院は、小さい所だったから、予約を取るのにもすごく時間がかかるんです。もうすごく待つ。具合が悪くなってからでは間に合わないので体調のいい時に予約を申し込んで何カ月待ちで診ていただいて。

 

 蓮風 こんな偉い先生ならもっと早く入れてあげれば…(笑)。

 

 小山 いえ(笑)、それ以後は私がわがままを申しまして、関西外大の友達とか主人とか、「もうここに入れてください」とか「先生、今日入れてください」とか無理強いしてます(笑)。それからのおつきあいですね。これはねぇ、体質というか、子供の時からそうだったんですけれど、頑張り屋で学校行っている間は非常に元気で、休みになると寝てたんですよ。だから、お祖母さんがこの子は弱い子だと言って、よく湯治に連れて歩かされました。

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 蓮風 先生、ご出身は東北ですか?

 小山 生まれたのは茨城の水戸なんですけれど、たまたま叔父や祖父が東北で仕事をしていましたので。

 蓮風  そうすると温泉が多いということですね。
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 小山 そうですね。でも冬はやっぱり伊豆の方に来てましたね。

 蓮風 そうですか…。

 小山 で、「七日帰り」はよくない、と言うので、必ず十日以上、温泉で湯治してました。

 蓮風 温泉はよく効いたでしょう?

 小山 はい。そうだと思います。

 蓮風 僕は長く診させてもらっているけれど、結局、先生はもともとあんまり丈夫じゃない。だけど、勢いがいいから、勢いでやる。そうすると後でガクッとなる(笑)。そういうタイプの方で。

 小山 確かに(笑)。

 蓮風 本当に気持ちが勝ってらっしゃる方で。身体はその割に丈夫じゃなかったんですね。だからそういう方にはやっぱり温泉で心と身体をほぐすのは非常に良いことだと思うんです。鍼もそれに近い働きをしていると思うんですけどね。

 小山 子供の頃、よくしもやけができたんですけれど、温泉に行くと治りましたし。だから普段は元気にしてるんで、周りの人からはとても元気な人だと思われていたでしょうね。
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 蓮風 ご主人の修三先生は「わしは按摩ばっかりさせられた」と言っておられましたが(笑)、まぁあんまり丈夫じゃなかった。けれど気持ちで勝って生活しておられる。それはたぶん大学での教鞭やなんやで無理なさったと思うんですよ。でもまぁ、この間ちょっと膝の故障で大きく問題になったけれども、いわゆる大病はしておられない。

 小山 そうです。病気になる前の状態、未病の状態というんですか、未病の状態で微妙な身体のバランスを取って頂いて、大病にならずにここまで来られたというのは本当に感謝しております。

 蓮風 先生のお言葉で言うとね、「微調整お願いします」といつも仰ってたんです。そう悪くないんだけれども、微調整やってもらうと、後がすごく楽なんだということをしょっちゅう仰ってましたね。

 小山 だから治療院来ると、待合室で皆さんがどこが悪いとか、いろいろお話しなさってらして、そういった意味では私はどこも悪くないので、肩身の狭い思いをしておりました(笑)。

 蓮風 あの実はね、そういう方は結構多いんです。でもそういう方が病院に行っても、「あなたどこも悪くない」って言われるんです、残酷なことに(笑)。ところが東洋医学から言うと、それは立派な病気であって。陰陽の幅が狭いんだな。幅が狭い中でなんとか調整してる。だから大きく揺らがないけれども、しょっちゅうバランス取らないとダメなんだな。それが肩こりとかに出とったんですね。

 小山 でも不思議と、先生のところにかかるようになってから、それまでは肩こりとかでしょっちゅう按摩に行ってたんですが、その症状がなくなったんですね。たまに温泉なんかに行って、按摩さんにやってもらうと「結構、凝ってますよ」と仰るんですが、意識としては凝ったという意識がないもんですから、先生にかかり始めてからは、いわゆる按摩・マッサージには行ったことはないんです。

 蓮風 修三先生は「わしが助かった」と言ってました(笑)。〈続く〉

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蓮風さんと小山修三さん(国立民族学博物館名誉教授)が「鍼(はり)」をテーマに対談する「玉手箱」のオープニング企画もこれが最終回です。これまで時空を超えて変幻自在に論考を披露した小山さんが鍼との出合いなどについて語ってくださってますが、まだまだ話題は尽きないようです。ふたりの対談の第2弾もあるかもしれませんね。(聞き手:「産経関西」編集担当)

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 ――小山さんが鍼に信頼を置かれてる理由は?

 小山 なんというのか、蓮風さんと馬が合うというか、鍼して気分がいいから。それと健康診断に来ているような気もする。

 ――最初なぜ鍼を受けようと思ったんですか?

 小山 私自身はあまり関心がなかったんです。女房が大学で外国人相手に日本語をおしえてたんですが、これが月曜から金まで朝8時からと厳しいスケジュール。いつも木曜日くらいからバテバテになり、学期末は金曜までもたなくなる。それで、病院にいったら抗生物質、胃薬、栄養剤など山のような薬をもらってきた。こんなのはよくない、捨てろって言ってお灸につれていった。しばらく通っていたら、ある時、体中がゴロゴロ鳴ったそうで、そのあとずいぶん良くなった。そのあと蓮風さんを紹介されて規則的に通うようになった。

転ばぬ先の鍼?
 蓮風 そうそう。先生のお弟子さんがうちの近所におられて、そのお母さんが僕の鍼のファンやったので紹介してくれたんです。

 小山 それがよく効いて“蓮風信者”になった。いろいろ人をつれてきていますよ。四国にいる姉は心臓をわずらって、私も行くって。

 蓮風 これが面白い人でね。大きい声で、他の患者がおる前で「あんた、何本うってもらってる? 3本? 私1本しかうって貰ってないの!」って(笑)。

 小山 しかも「私には、鍼を置く時間が短い」と(笑)。その娘婿が交通事故を起こした時、うちに1週間くらい泊まって通院したら治った。ほかに、肋間神経痛の同僚とか、みんなよくなおるので感謝されてるようです。わたし自身は、20年くらい前からか。そのころは酒は飲むわ、世界中駆け回るわで、もう理想の生活(?)だった。

 ――民博(国立民族学博物館)にいらっしゃった時ですね。

 小山 九州の学会から帰った後。(疲れていて)何かふわっとなった。そこで、無理矢理連れてこられた。おもしろかったのは、はじめから鍼は打たなかった。ウッチン(宛陳)だといって刺絡をしたり、灸から始めた。鍼を打ったのは2、3回後でしたね?
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 蓮風 そうです。

 小山 全体を整えてからはじめたんでしょう。それ以来、あまり病気したことないね。

 蓮風 一回だけ、お腹痛いといって来た。ここ来た時、吐くし。で、脈を診てから、若い子に(足の裏にあるツボの)湧泉(ゆうせん)だけ揉ませたけれど、全然脈が良くならない。で、舌診ると、これはあかんわ。我々の領域じゃないから、早く病院に連れて行けと若い者に車を運転させて行ったら、4時間かけて検査したら盲腸が破裂したっていうのがわかった。あの時は鍼一本もうってないやろ? あれは、やっぱ、やっちゃいかん。

 ――「等置」(国立民族学博物館の小山修三名誉教授との対話(3)参照)みたいなところですね。 

 蓮風 大事な先生ですからね、殺す訳にはいかんので(笑)。

 小山 今の僕の望みは、その昔の、玄宗と楊貴妃の世界。だけど、それは無理やって。

 ――絶世の美女を寵愛したいってことですか(笑)

 
 蓮風 小山先生の面白いのは、理想と現実がズレるんですよ。

  
 小山 だから、週1回行きなさいって言われてるんだけど、時々忘れて。

  
 蓮風 健康維持には、なってるね。


 小山 私は、あんまり必然性無く来てるんですよ。

 蓮風 でも先生の鍼の受け方っていうのは正解なんです。東洋医学では未病を治すというくらいですから。病気じゃないけど、病気の一歩手前のところで治療しとくと大病しないという考え方がある。そういう意味で一番合っているんじゃないですか。

 小山 うん。

 蓮風 なってからも効くんだけど、ならない前に、ね。<終>

 

★次回からは、帝塚山学院教授の杉本雅子さんと蓮風さんの対談が始まります

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 宇宙にまで広がる鍼灸師・蓮風さんと小山修三さん(国立民族学博物館名誉教授)との対談はいよいよ本題の「治癒」に入ってきました。今回はカトリック協会が「奇跡的治癒」を認めた例があるフランスの「ルルドの泉」の「奇跡」からお話しが始まります。さて今回はどんな方向へ洞察や“口撃”が向かうのでしょうか。(聞き手は「産経関西」編集担当)
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 ――「ルルドの泉」の奇跡的な治癒はは東洋医学に通じるところがあるのでしょうか?

 蓮風  それを東洋医学では「心神(しんしん)」っていうんですよね。心の神様。まぁ神じゃないんだけども、非常に霊妙不可思議な働き、漢字の方からいうとそういう形のものがある。それが本当に動けば、いろいろなことが起こるんですよ。例えば、癌(がん)の痛みでどうしようもなかったやつを、「手の少陰心経(しょういんしんけい)」っていう、この心の臓、いわゆる「心神」を動かす、そこに関わる穴を一本やる(=鍼を打つ)と、何やっても止まらなかった痛みが止まることがかなりあるんです。西洋医学はびっくりしますよ。そうすると、心を我々は肉体を通じて動かすことができるけど、本当に心の底から奇跡が起こるぞと最初から前提した場合には、起こると思いますよ。だから、心から納得されるってことがものすごく重要なんです。

 「ルルドの泉」は昔から奇跡の泉だってことをみんな知っているし、ここへ来たら何か起こると思う。それはあの四国のお遍路さんでもそうです。弘法様のおかげ、八十八カ所まわっているうちに必ず奇跡が起こるっていう言い伝えがある。そうすると、やっぱり起こってくるんです。東洋医学的に言うと五臓の中の心神っていうのが動くと、いろんなことができる。逆に、心神を動かせないことには鍼が効かないとも言えるんです。
まあ、わかりやすく言えば「信頼関係」。この先生は必ず治してくれるんだという信頼が前提にあって、いろんなことができる。

 ――医学の東西を問わず、信頼関係があれば、やはり同じような効果が得られるということですか?

 蓮風  ああ、得られます。同じ注射液を打っても、この先生に打ってもらったら効くっていう患者さんはよくいます。同じだと思うけれども、やっぱりあるって言う。だとしたら、それは事実だと思うし、いわんや、東洋医学みたいな、種も仕掛けもないような金属をちょっと刺しただけで効かすというのは、その部分がなかったらねぇ。だから、最初に知らん人が来て、いきなり治るというのはなかなか難しい。だから、「ルルドの泉」の奇跡は奇跡じゃないと東洋医学的に説明できます。

 小山 治るからすごいなぁ。

一人の名人より数多くの名人に近い人間を

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 ――痛みの問題でいうと、やはり脳と関連付けるということを西洋医学はやるじゃないですか。例えば、手の神経は脳のどこらへんで司っているとか…。そこのところの東洋医学と西洋医学の接点はあるのでしょうか?

 蓮風  西洋医学もどんどん進展していて、痛みが取れるのも、こう鍼をすると(脳に作用して)エンドルフィンという痛みを消す物質がでるという、まあ仮説ですが、どんどんそういう仮説を作ってますわ。

 小山  西洋医学は仮説をたてて証明することだから、そういう方法になるのかな。「気」とかそうのは、ひょっとしたらまだ調べきってないのかもしれませんね。

 蓮風  私の友人や弟子に、西洋医学のドクターがたくさんおるんですよ。彼らに共通するのは、私の前では何も言わないし、西洋医学的に説明しないことです。東洋医学を知らないドクターは、それは自律神経系で説明できるとか、脳で説明できるとか、すぐ言うんですよ。私の医療をみたことも、受けたこともない人が、簡単に説明するんです。それはやめてほしい。弟子には、説明はいらない、まず事実がどうなっているかを見てくれと。

 小山 頭に鍼すると足が治るのは、電線みたいなのがつながっているという仮説が立てられれば、説明できるわけですね。仮説を証明しながらやってきたのが西洋医学でしょ。

 蓮風 いや、だからその辺りは一緒なんですよ。我々でも、どうもここへ打ったらこのメバチコ(=ものもらい)が治るいうのは、こういう経絡が働いてるからではないか、という理論を立てるんですよ。その理論を立てて、仮説を立てて、それを再実験する。そしたらやっぱり効く。それが、一人や二人やない。何百例出てくるということになると、やっぱりこれは今の理論で説明できるとなる。だから科学的な思考法とか実験法はほぼ変わらんと思います。でないと、実践できないもの。ただ形がある医学とない医学、それから「気」というようなものを認める医学と認めないという違いがあるんですね。

 ――蓮風先生のお話しを伺ってても難しいなと思うのは、最初おっしゃってた天才っていう問題。やはり東洋医学はある意味、天賦の才能を持った人間がやらないと本領が発揮できなくて一般化しにくいのでしょうか。

 蓮風 それはあります。

 ――人間の身体って個人によってバラバラですから東洋医学ではマニュアル化しにくいわけですよね。

 蓮風 ただ、そこには法則性がある。何千年昔の東洋医学の医者が、こういう病気にはこういう治療したって記録残してるんですよ。それを我々が見て、現在の患者さんにやってみるとよく似たことが起こる。地域が違い、それから時代が違うのにそのような共通する法則性があるのはなぜか。そういうことが、伝統医学の科学と言ったら科学なんでしょうね。

 ――でもマニュアル化するのは西洋医学よりは難しいんですね。

 蓮風 それはそうです。だから今言うように一人の名人より数十人、数百人の限りなく名人に近い人達が試行錯誤してきたのが我々の北辰会なんですわ。かなり成功してます。だからと言って、僕は47年間ずっと掌で触ってきたことを彼らがすぐできるかといったら、できない。最近では、よく身体を診てるから、指先の指紋が消えてくるんですよ。不思議ですね。こっちの身体自体が。だからある程度マニュアル化というか、そういう教科書的なものができる部分と、やはりいつまでたってもできないという部分とがある。西洋医学の場合は、一応医学部を出て、ドクターの免許持ったらある程度この病気はこういう風にとできるわけやけど、東洋医学は、そこがちょっとできにくい。だからたくさんのそういう名人に近い人を作らないかんいうことでやってきたわけです。

 小山 だから蓮風さんの個人技にたよることになる。ある程度まで頼れる人を育てていただかないと。

 蓮風 そうです、そうです。

 小山 その中からまた天才が現れるのかも。

 蓮風 そうそう、突然変異的にね。ハハハ。

天才は多様性のある集団から生まれる

 ――東日本大震災で、既得権益や官僚的な制度の弊害みたいな部分が明らかになってきました。変化するいいチャンスかもわからないですけれど、東洋医学を実践してる側の方から見ると、今どのようにお考えですか。

 蓮風 うーん。結局は、患者さんが必要とする医学にならないといけないんじゃないかと思います。我々がやっているのはかなり精度が高くて、彼ら(北辰会の弟子達)もある程度できるんです。ところが、鍼灸業界みんなそうかというと、そうじゃない。それでブログやなんや書いて、本当の鍼はこうですよ、言うて叫んでるわけです。

 小山 しかし、西洋医学にも良い医者と悪い医者がいますよね。

 蓮風 それはおりますね。

小山修三8
グラフを描いて「A」型と「B」型を説明する小山さん 

 小山 それは統計的に説明できるんです。試験の点数の例を挙げてみましょうか。点数をグラフであらわすと、極端にいえば、2つのタイプがある。平均値を中心にみると、裾(すそ)が広い「A」と、狭い「B」のもの。東大のような偏差値の高い学校はみんなよく出来るので、平均点は高い、しかし裾がせまい。能力は高いんやけど、似たような人が集まる。ところが、「A」型は裾がひろいので、平均点は低いが、意外な人材が隠れている。

 蓮風 天才はむしろ裾の方に…。それは非常に問題ありやね。うん。実際そうですよ。

 小山 アインシュタインとかエジソンとかすごいのが隠れている。

 蓮風 いや、このお話は非常におもしろいですねぇ。だから現在の中医学教えてる、広州中医薬大学は今、何を目指してるか言うと、大学で勉強するより、徒弟制度に戻れっていう。

 小山 ほう。 

 蓮風 教科書で、そりゃ理論はできてくるけど、実際の病気を治しに行ったらそんな面が出てこない。だからそこは徒弟制度で、やっぱり師匠のもとに馳せ参じて、一日の生活を一緒にするような徒弟制度によって初めて漢方医学みたいなものは伝えられるんだという方向に少しずつなってるみたい。

 小山 今の日本のいわゆる東洋医学はどちらかと言うと「A」型でみたいですね。玉石混交というか、ひどいのが混じっている。一方、西洋医学は「B」型なので規格化されているといえるでしょう。 

 蓮風 だからそれを、世の中にある程度伝えるにはどうしたらいいかというのは本当に難しいことです。西洋医学はね、小山先生が言うように、あの中心「B」やからそれはもうすぐできるわけ。

 小山 しかし「B」型から新しいものは出てこない。

 蓮風 それは非常におもしろい考えですね。実際そうでしょう。

 ――この分布「B」というのは、多様性がないので生物学的に脆弱ですね。

 小山 一番わかりやすいのが絵描きさんでしょうか。東京芸術大学は難関ですが、世を風靡する画家はあまり出ない。それは「B」型だから。〈続く〉

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