対談中の小山揚子さんと藤本蓮風さん=2012年4月11日、奈良・学園前の「藤本漢祥院」
鍼(はり)が持つ本当の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。これまでに鍼灸の治療を受けたことがある方はどのようにして鍼灸院を選ばれたでしょうか? たとえば風邪がひどくなったので、とりあえず勤務先の近くにあった医院に入ったという場合とは違うケースがほとんどではないでしょうか。つまり知人の紹介とか、家族が代々受診しているとか…。信用できる情報の裏付けがないと躊躇しますよね。今回、関西外国語大学名誉教授の小山揚子さんと鍼灸師の藤本蓮風さんが繰り広げているのは、そんなお話です。なぜ、躊躇するのかという私たち“素人”の気持ちをうまく代弁してくださっています。(「産経関西」編集担当)
蓮風 我々専門家でも、そう思います。だから患者さんを啓蒙しているわけなんですが、同時に内部の改革というか教育が必要なんです。はっきり言って我々の医学には『黄帝内経』という2500年前のバイブルがありまして、これにのっとってやるというのが漢方医学なんですよ。学校ではそれすらも教えない。
小山 先日読んだ朝日新聞出版のPR誌「一冊の本」に掲載されてる「テイ先生の診療日 東と西の薬談義」によると、昔は弟子入りしたら掃除洗濯から飯炊きまでしなくてはいけなくて、なかなか教えてもらえない。それが採用かどうか決める面接にあたる。会社の入社試験は5分から30分くらいの面接で決めるけれど、自分のノウハウを全部教えるのに足りる人間かどうかを何年とか何十年かけて見定める。それでやっと、っていう感じで。でも、それだとねぇ…。
蓮風 ここ(藤本漢祥院)では内弟子制度をとっているわけですが、一般的な教育と違って、本当に患者さんを守るということであれば、やっぱり師匠と一緒に暮らすということ(の効果や影響)がかなり大きいみたいです。だから、現代の漢方医学を得意とする中国もですね、医大をようけ作ってそこで沢山医者作ったけども結局役に立たんと…。
小山 あーそうなんですか。
蓮風 だから中国でも、一流の先生が縁あって受け入れた人を内弟子みたいに教育する。それで、なんとか名医を残そうとやっとるみたいですねぇ。でも、それも限界がありますわね。
小山 だからやはり、町医者に行くような感覚では東洋医学の先生のとこには行けませんね。誰か知ってる人があそこ行ったらいいというような。
蓮風 口コミですね。
小山 口コミでしか行けないですよね、診てもらう方にとってはね。
蓮風 まぁネットみたいのがね、流行りだしてネットで調べてくる人も多いですけど、基本口コミですよね。
小山 そうですね、大体そう。
蓮風 特に西洋医学と違って学問は学問だけれども、非常に感覚的なものを重視する医学ですからね、それに見合った人物かどうか、見分ける、その人物にいい先生がついて教える、というのが本当だろうと思うんですよね。ところが今そういうふうになっていない。そういう意味では、うち(藤本漢祥院)は非常に古い制度を持っているわけで、非常に意味があると思うんですけどねぇ、先生。
小山 でもやはり今の内弟子さんが日本全国に散ったとしても、診ていただける確率は低いですわね。街のお医者さんを特別に選ばないで、スっと行けるような感覚で鍼灸院にも行けるようになればと思います。
蓮風 それはもう患者さんの立場からしたらいいことでしょうね。我々も、鍼灸自体が一定のレベルに達さないとモノが言えないという気もする。しかし、いつも言うんだけれども、いい品物を作るにはいい品物を褒めて買ってくれる消費者がおらないかん。そうすると、ささやかだけど、我々みたいな人間が一人ずつ患者さんを治すことによって消費者というか、そういった人たちの間に鍼灸への理解を広げていくのも一つの方法かな、って思うんです。
小山 最近、ようやく西洋医学以外の治療がマスコミで紹介されるようになり、間口が広がってきていると思います。
蓮風 そうですか。そう言ってもらえて非常にありがたいですけどもね。まぁ沢山…70万人近くの患者さんを診ているんですけども、やっぱり鍼は素晴らしい。西洋医学と比べれば比べるほど素晴らしいという風に思えるんですよ。だから生きてる間に叫んどかないかんというのはあるんです。ちなみに先生と僕は同い年ですよね?
小山 先生の方がお若いです、私、昭和16年です。
蓮風 あーそうですか。これは失礼しました(笑)。同い年かと…失礼しました。〈続く〉