蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

タグ:東洋医学


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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の続きです。3回目の今回は児玉さんの鍼灸への感想から話が始まりますが、児玉さんにとっては「鍼灸=蓮風さん」のようで、出会いの最初から、病に向き合う姿勢に影響を受けられたようです。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 ご縁があって児玉先生は我々「北辰会」のドクターコースで勉強されています。(蓮風さんが奈良市で開院している)「藤本漢祥院」で週1回の研修もされて、実際に鍼治療も受けておられます。そういう経験を重ねておられる中で、この医学についてのざっくばらんな感想を聞かせていただきたい。

 児玉 鍼灸に関してっていうことですよね。

 蓮風 そうですね。鍼灸、漢方薬…一般論でもいいし、鍼灸そのものについてでもいいし。特に先生は西洋医学専門でずっとやってこられた。その中で、まぁ言うたら「異邦人」と出会ったわけですよね(笑)。

 児玉 そうですね(笑)。

 蓮風 その異邦人がいかなるものか、ということ。これは今後、変わっていくだろうと思いますけど…。今の時点で先生から見て異邦人がいかなるものかというのを我々は知りたいということなんです。

 児玉 私が(東洋医学を)専門の先生に就いて学ぶのは蓮風先生が初めてなんです。こんなに長い期間ですね、親身になって教えていただいたのは初めてなので、私が持ってる東洋医学の考え方っていうのは、藤本蓮風先生そのものなわけなんです。なので、東洋医学一般とかってなってくると、ちょっと正直言って分からないです。けれど、蓮風先生の診療を拝見してて、先生の印象は、最初3年前にお会いしたときと全く変わらないです。最初に先生の診療を拝見したとき「あっ、この人は本物の医者だな」と思ったんですよ。

 蓮風 あ、そうですか。嬉しいですね。

 児玉 これを言うと何ていうかちょっと失礼な言い方かもしれないんですけど…。

 蓮風 いやいや。

 児玉 何ていうか、この人は本物。僕も色んな所で色んな医者に出会ってきましたし、有名な先生の診療も見てきましたけれども「あ、この人は本当の医者だな」と感じました。結局、人を治す気迫に満ちてるって言うんですかね。

 蓮風  あー、気迫ね。あ、そうですか。

 児玉 そういう所をこの3年間ずっと学び続けてるというか、そこが一番大きいかなと思ってます。
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 蓮風 なるほどね。特に僕の鍼の場合は、著しく鍼の数が少ないですね。こういうことについてどうですか? 奇異の念が最初はあったと思いますが。

 児玉 ええ、まぁ、そうですね。奇異と言うか、私は鍼の治療を見たのが初めてだったので。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 たくさん刺す鍼を見たことないんですよ。

 蓮風 あはは!それはね、よかったですね(笑)。

 児玉 テレビで見たくらいのもので、実際にはなかった。それまで私が接してきた鍼の治療というのは、鍼治療に保険適用をするときに診断書を書くくらいでした。

 蓮風 はいはい。あれはねぇ、色々と考えがあるんだけれども。日本の医療の中では、患者さんにできるだけ負担がかからんようにするためにはそういうことが必要なんですね。それはあくまでも医者の方の監督下に置くという日本の医療制度の表れなんです。だから(鍼灸師には)独立した医者としての権限がない。これはしかし現段階では仕方がないかなと思うんですよね、将来は独立した東洋医学の医者、中国がやってるように「中医」と「西医」という関係になれば一番いいんだろうけども、今の段階では無理ないなと思います。

 児玉 あー、そうですか。<続く>

 ※現在の日本の医療制度では(1)神経痛(2)リウマチ(3)腰痛症(4)五十肩(5)頚腕症候群(6)頚椎捻挫後遺症、その他、これらに類似する疾患などに限り鍼灸治療への保険適用が可能。患者は、これからかかろうとする鍼灸院に問い合わせて用紙(同意書)をもらい、その用紙を治療を受けているかかりつけの医院・病院などに持参して必要事項を記入してもらう。

 または同意書の代わりに、病名、症状及び発病年月日が明記され鍼灸の治療が適当であると判断できる診断書を書いてもらう。その記入済みの書類と保険証、印鑑を鍼灸院に持参すれば、保険適用での治療が可能となる(ただし鍼灸院ごとに保険の取扱いが可能かどうかの確認が必要)。長期間にわたり治療する場合は3カ月ごとに医師の同意が必要となる。(「北辰会」註) 

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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の2回目をお届けします。前回は児玉さんが医師となった環境の話題から始まりました。『HAPPY!こどものみかた』(日本医事新報社)という本やDVD『こどものみかた シミュレーションで学ぶ見逃せない病気』(ケアネット)の制作にも関わりながらも、臨床の悲喜交々(ひきこもごも)のなかに面白さを感じるとお話しになりました。今回は、その続きとなります。(「産経関西」編集担当)

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 児玉
 本を書いたりとか、DVDをつくったりする仕事もすごく刺激的で面白いんです。両方ともすごく楽しんでやってます。

 蓮風 なるほどね。

 児玉 なんですけど、ちょっと(臨床とは)種類が少し…。

 蓮風 違いますか?

 児玉 違うかなぁと。

 蓮風 先生は僕の目から見ると、東洋医学的なね、物の見方、考え方…。特に人間を見つめる目が僕によく似てると思うんですけれども、結局、臨床の中で患者さんが良くなるということは、どういうことなんですかねぇ?

 児玉 先生に最初にお会いした時にそのお話をしましたね。その時はたぶん「僕が必要でなくなることだと思う」とお答えしたのではないでしょうか。医者が必要じゃなくなるっていう状態が患者さんが良くなる、治るっていう状態なんだろうなっていう風に思ってまして…。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 ええ、今はまたちょっと考え方が少し変わってきてまして。

 蓮風 ちょっとずつ変わりますでしょ。

 児玉 はい、変わってきてますねぇ。

 蓮風 やっぱりねぇ、色んな患者さんに出会って自分の世界が変わっていくからでしょうね。

 児玉 先生にお会いして色んなお話をさせていただいたのが一番大きいかと。

 蓮風 いやいや(笑)。
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 児玉 やっぱり「藤本漢祥院」で学ばしていただいたことっていうのは、医学そのものもそうですし、哲学的って言うと変かもしれないですけれど、どういう風に患者さんっていうか、人間を捉えるかっていう所とか。

 蓮風 そこ、そこですね。人間観ですね。

 児玉 そういう所をですね、すごく学ばせていただいてます。

 蓮風 いやぁ、嬉しいですわ。優秀な方ですからね。せっかくここまで西洋医学をやっておられて、東洋医学をもっと深く学ばれたら、恐らく先生自身がさらに変わっていくだろうと思います。今の段階で、ここまで来ているのですから、まだまだ変わっていかれるはず。それは僕も楽しみなんです。

 児玉 有り難うございます。

 蓮風 ちょうど自分の子供を育てるような気持ちで、色々と「こんなんもやれ」「あんなんもやれ」「どう考えますか」っていう課題を出していくのも楽しい。そして、その中で先生が大きくなられるのを見るのが一番の楽しみです。ただ、そういう意味で長い付き合いになると思います。よろしくお願いします(笑)。

 児玉 有り難うございます(笑)。先生も同じだと思うのですが、僕らが本を書くっていうのは自分たちが信じる医療を世の中に広めていきたい、より良い医療を受けられる人が増えていってほしいっていう思いからなんです。やっぱり先生が僕らに色々と伝えてくださるということからも、そういう思いをすごく感じてまして、そういう面でも勉強させていただいています。

 蓮風 なるほど。〈続く〉


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初回公開日 2015.1.10

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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は今回から、和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんをゲストにお迎えして、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんと対談された模様をお届けします。まず“本番”の前に児玉さんの略歴を以下にご紹介します。

 こだま・かずひこ 小児科医、医療法人明雅会「こだま小児科」理事長。昭和53(1978)年生まれ。和歌山県出身。京都大学医学部卒業。神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)内科研修医、医療法人鉄蕉会「亀田ファミリークリニック館山」家庭医診療科、医療法人同仁会「耳原総合病院」小児科医長などを経て現職。日本小児科学会小児科専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医医療専門医、同指導医、日本内科学会認定内科医。日本小児科学会、日本小児心身医学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本内科学会に所属。

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 蓮風 児玉先生、「蓮風の玉手箱」へようこそ。

 児玉 お招きいただき有り難うございます。

 蓮風 きょうは、よろしくお願いします。ドクターのゲストには毎回最初に聞いているんですけど、先生はなぜ医者を目指されたのでしょうか。ここらから聞かせていただきたいと思います。

 児玉 はい、そうですね。「なぜ医者に?」っていうのはよく聞かれるんですけれど、うーん、そうですね、父と母が医者だったのと、父方の大叔父が軍医でしたので。

 蓮風 ほー。

 児玉 南方の島で戦死してるんですが、そういう繋(つな)がりもあって、医者というものに対してのイメージがあったわけですよね。

 蓮風 そうでしょうね。

 児玉 はい。ですから、医者を目指すとか医者になると決めること自体はすごく自分にとっては自然なことでありましたね。

 蓮風 はいはい、環境がね。そしてやっぱりお父さんお母さんが患者さんを治していく姿を見られて、やはり良い仕事だなと、そういうことですね。

 児玉 そうです。自宅で診療してたわけじゃなかったので、実際に治してる場面には出会わなかったんですけれども。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 夜でも求めに応じて出て行ったりとか…。やはりそういう仕事に対する真剣さっていうか、そういうのは感じてました。

 蓮風 それは大きいですよね。やっぱり、親の背中を見て育つというようなことを言いますがね。環境は大きいですね。

 児玉 はい。

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 蓮風 かくいう私も、そういう(鍼灸師の家系という)環境の中で育ったから、鍼灸を目指したということだろうと思いますがね。しかし最初は抵抗あったんですよ。

 児玉 あー、そうですか。

 蓮風 僕らがね、21歳いうとちょうど50年前ですから。非常に(鍼灸の)医療としての環境も良くなかったですね。特に西洋医学のお医者さんにすると、あれはなんじゃというような白い目で見られる。今でもありますけど、それでもずいぶん良くなりましたね。そうするとやはり、ご家族の影響が大きかったと。

 児玉 そうですねぇ。平たく言うとそうかもしれないですが、どちらかと言うと神仏のお導き的な所かもしれないです(笑)。

 蓮風 (笑)

 児玉 なんかこう自分のこう、なんていうか…。

 蓮風 意志というよりも、運命的なものがね。

 児玉 はい、そういう感じがします。

 蓮風 誠にそうだろうと思います。先生は小児科・内科がご専門です。『HAPPY!こどものみかた』(日本医事新報社)という著作やDVD『こどものみかた シミュレーションで学ぶ見逃せない病気』(ケアネット)の制作にも関わっておられます。お仕事に非常に熱心ですが、面白いですか?(笑)。

 児玉 あー、そうですね(笑)。面白いのは面白いです、やっぱり。ただ、僕は医者になって12年目になるんですけれど、面白さで言うとですね、やっぱり臨床をしてるときの方が面白いです。本を書いたり、セミナーをするのもすごく楽しいんですけども、すごく落ち込むのも、すごく幸せな気持ちになるのも両方ともやっぱり臨床ですね。

 蓮風 あー、そうですか。患者さんに出会って、患者さんの病気を治そうと格闘してる時。

 児玉 そうですね。すっごく上手くいかなくて落ち込むこともあるんですけど…。

 蓮風 あります、あります。

 児玉 やっぱりすごく、あぁやったなって思うのもそっち側で。

 蓮風 悲喜交々(ひきこもごも)があるわけですね(笑)。〈続く〉

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鈴村水鳥さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。小児科医の鈴村水鳥さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も今回でひとまず最終回。ご自身の病気治療の経験も踏まえながら病院の医療現場で患者さんのために鍼を役立てようと奮闘している鈴村さんの姿に共感を覚えた方は少なくないと思います。そんな鈴村さんが最後に患者さんを癒やし病気を治すために一番大事だと考えていることを語ってくださっています。(「産経関西」編集担当)

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 編集担当 蓮風先生、やっぱり時代の変化によって患者さんも変わってきてますか?

 蓮風 僕が開業したのは21歳で、今から50年前。地域性もあると思うんですけど、大阪・堺のごっつぅ庶民的なところでやっとったんで、ものすごいやりやすかった。でも、こっち(奈良)へ来たらね、ものすごいやりにくかった。なんでか言うと、古いんですね、奈良は。ふつう堺でやったら、この人が治ったら、あの人へ…って、口コミで伝わっていくんだけど、奈良はそれがダメなんです。それで僕は一計を案じた。奈良は学校の先生とお坊さんを大事にするところだから、お坊さんとか学校の先生にアピールしてね、「ああ、あれはいいじゃないか!」と言わせたんですよ。そしたら患者さんが来だした(笑)。だからね、もちろん腕は大事なんだけども、社会性というか世の中の動きに鈍感ではダメですね。

 編集担当 そういう意味では、鍼灸に興味を持たれてるドクターに(現場での理解を広げるために)ある程度戦略を持つことも考えていただかないといけないってことですね。

 蓮風 そうそう。大変な野望なんですけど、最終的に僕が求めるのは鍼灸病院です。もちろん西洋医学も入ってきてもらいますけども、鍼灸だけで、どこまでできるかいうことをね、みんなで追求できる、そしてそれを求める患者さんを集めて治療することが私のひとつの希望なんです。その時は鈴村先生にも、お手伝いに来ていただいて(笑)。

 鈴村 はい、よろしくお願いいたします。

 蓮風 私が鍼灸師をボロカスに言うのは、志の低い鍼灸師が多いからです。貧しいと言うかね。「あんたとこの治療院どうや?」って聞いたら「まぁ、なんとか飯食えとります」「なんとか家建てました」って…。このレベルじゃダメです。私が一番幸せを感じるのは、何やっても治らんかったのを何とかして鍼一本で工夫して治すこと。そういう誇りがあるんですわ。それを世の中に広めていくのが私の仕事やと思ってます。この「蓮風の玉手箱」もその一環だと位置づけてるわけです。先生はいずれは開業なさる予定ですか?

 鈴村 はい、いずれはするつもりです。

 蓮風 開業すると自由が増えますね。一定の病院とつながりを持っておくことも悪くはないですわ。なんでかと言うと西洋医学はどんどん変化して(現場に)新しい情報をもたらしますからね。それはそれで医者としてね、必要な勉強だと思うし、それができなかったら講習会行きゃいいんかな(笑)。

 鈴村 無駄なエネルギーを使う必要はないと思いますが、でもやっぱり最初は病院の中でやってみたいという気持ちがあります。病院の中でやるっていうのは見学に来る研修医とか若手が漢方なり鍼なりを知るチャンスがまず増える、後継者になってくれる可能性のある方の興味を引くことができます。

 また、勤務医で西洋医学を行っている長所は、マンパワー…母体数が多いのでいろんな人が助けてくれるのがメリットです。薬剤師さんとか、看護師さんとか、管理栄養士さんだとか、そういったたくさんの人が知恵を出し合って協力するというのは一つのメリットだと思います。

 蓮風 そうですね、それは全くそうだと思います。
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 鈴村 鍼灸の先生方というのはお一人で開業されることが多いと思います。それにも、もちろん長所もあると思いますが、私なんかは勉強しながら治療していかなければいけない立場なので、アドバイザーなり、いろんな考え方が合わさるほうがいいかなと思っています。それは若い方も私より年上の先生もそうですけれども、なるべく沢山の人と、しっかりとタッグを組んで治療する、仲間を増やすという意味では病院での挑戦を重ねたいと思っています。

 蓮風 それはそれでおやりになったらいいんじゃないですかね。なんせ、僕はとにかく鍼を恋人として、一生懸命に邁進してきた。だから鍼の臨床家としては多分そこらの人には負けないと思うけど、そういう社会性という面では確かにちょっと弱いですね。だから先生がおっしゃる部分でそれが補われるとしたらそれは非常にありがたいことですね。

 では最後に…。「患者さんを治し癒やすには何が一番大切でしょうか?」

 鈴村 自分の(病気の)治療の経験からですが、入院治療を受けている間はとても寂しかった記憶があります。治療はしてもらっていますが、なんとなく寂しい感じがぬぐい去れませんでした。ドクターは忙しくて中々ゆっくり話をする時間が持てません。その時、一人だけいつも気持ちに寄り添って居てくださった先生がいらっしゃいました。その経験からですが、患者さんの「傍(そば)にいること」「寄り添うこと」がやっぱり大事だと思っています。

 病気は表現の一つであり、その奥にはもっと深いものがあります。でも患者さん自身がその奥にあるものに自分自身で気づくには長い時間が必要であるし、医師である私は、それを紐解いていくその過程に、「絶対に見捨てない」という気概を持って向き合うことが大切だと思っています。

 しかし、厳しい現実も伝えなくてはいけないこともあるし、「死」という局面に出会うこともあります。それを受け止めて次に進むことは大事だけど、一番大事なのは患者さんやその家族が病気を理解し受け止めることができて初めて、その歯車が進むと感じています。それとともに自分自身の素地となる、知識と技量が日々進歩していかなければ役に立つことはできません。

 蓮風 そうですか、なるほどね。そういうことも大事でしょうね。医者とか医療人ちゅうのは患者さんに寄り添っていくもんですから、そういう意味では「寄り添っていく」ということはものすごく患者さんに安心感を与えますね。だから病気を治すのは治すんだけど、その安心感があるかないかで、病気の治り方も変わりますね。それは大事なことだと思います。先生、どうも長時間ありがとうございました。

 鈴村 ありがとうございました。<了>

次回からは市立堺病院外科後期研修医の笹松信吾さんと蓮風さんの対談が始まります。

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鈴村水鳥さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。小児科医の鈴村水鳥さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の7回目です。小児科でも鍼灸の力を証明する例が示されてきましたが、さまざまな「関門」もあるようです。もちろん東洋・西洋どちらの医学が優れているというわけではありませんが、両方がうまく利用されるのは患者にとって悪いことではないのは確実のようです。では何が「関門」になっているのでしょうか…。前回に続いて今回も「産経関西」編集担当が僭越ながら質問をしたり意見を述べさせていただいたりしています。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 鍼灸を含めて東洋医学が認められてきたら、ケースによって、どんな医療や措置が適切なのかその仕分ける案内人がいりますよね? この患者さんには西洋医学よりも東洋医学の方が良いとか、いや、やっぱり西洋医学の方が良いんじゃないかという、そういうコンサルタントみたいな人がおってくれるとありがたいですね。
   

 編集担当 ただ、どうもそのように“仕分け”ができる総合医のような存在について医師会は歓迎していないようです。現在の教育システムの中で専門医として育成された町の開業医さんがそうなってくるとちょっと困るのかもしれません…。「国民皆保険」の是非の問題にもつながってきますが、現実として海外の医療の現状と日本の現状が解離してきているな、という印象はあります。

 蓮風 そうですね。この間もドイツから来た人おったけど、向こうは鍼灸がかなり普及してるみたいですね。

 編集担当 やっぱり、欧米っていうのは医療は高コストのインフラなので、みんなで効率的に分けていかなくちゃいけないっていう考えがあるみたいですね。だから、薬も高いので日本ほど投与されないそうです。

 鈴村 (日本は薬の投与が)多いですね。

 編集担当 安いからっていうのもあるし、患者さんも薬を欲しがるんでしょうね。

 蓮風 鍼灸・湯液(漢方薬)を含めて学んでるドクターの中から水先案内人みたいな方が出てこられると嬉しいですね。そういえば最近、医事評論家みたいな方をあまり見ませんな。

 編集担当 そうですね。

 蓮風 昔は医事評論家いうたら、かなり社会で評価されたけど、そういう医事評論家がしっかりした勉強をして、患者さんに対する適切な助言を与えるっちゅうのは、いいことやと思いますね。

 編集担当 そういうこと仰ってる人はいるんでしょうけど、投薬にしても法的に問題がなければ抑制しにくい実情があるので、「患者のため」と言われればメディアにとっても指摘に至るハードルは高い気はします。薬を供給する側と、投与される側が持っている情報量が非対称ですし、健康や治療のためと言われて効果を示されると、軽々に反論もしにくいですね。ただ薬が過剰なのは間違いないと思います。

 蓮風 ああ、なるほどね。
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 編集担当 蓮風先生に教えていただきたいんですけれども、子供さんを診る場合っていうのは、子供用の診察っていうのがあるのか、それとも大人と子供っていうのは明確に境があるもんじゃないから、単なる身体の個性として子供に接するんですか?
  

 蓮風 私はね、子供を診る場合、特に5歳以下の子供を診る場合は、子供以上に母親を診てます。幼児以下の場合、ものすごい母親の影響を受けますね。だから母親の嗜好品から考え方から全部うつってますわ。だから子供はもちろん治さないかんけど、お母さん治したほうが早い場合がたくさんあります。

 編集担当 この話の中でお父さんの存在があんまり出てきませんけども、お母さんを治すためにお父さんの協力っていうのもやっぱり必要になってくるわけですよね。

 蓮風 どこまで人間理解するかという非常に大きな問題に関わってきますね。当然、母親と子供は大きなつながりを持ってるけれど、父親との関係もあるし、父親との関係は社会とのつながりによって……。会社の中でいじめられたお父さんはいじけてくるに決まってる。それを家に持って帰ったら、必ず影響するに決まってる。それは本当にねぇ、どこまで理解するかっちゅうのは、なかなか難しいことあるけども、できるだけその子供を巡っての人々のつながりとか相当意識はしますね。

 編集担当 その話の流れの中で、少子化で一人のお母さんが育てる子供の数が減って、子供との関係が密になってきてますし、社会の状況も昔に比べたらかなり、変化してます。鈴村先生が教えを受けたドクター、教授なんかが経験した子供と、現在の子供ってやっぱり違ってきていて、先生も実際に現場で子供を診て「ちょっとこれは教科書にはないな」っていうことも増えてきてるような気もするんです。家族関係も含めて。やっぱりそういうようなことって実際にありますか?

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子供たちが鈴村さんに贈った手紙や手作り人形

 鈴村 色々なことが子供に影響していると思います。医療を行う地域によっても変わってくると思います。たとえば、田舎と都会ではやはり特徴も少しずつ異なると思います。私が勤めてきた病院は都心にある病院で、働きながら子育てをされてるお母さまが多い、核家族が多いという点も特徴だと思います。その生活背景が子供に大きく関わります。

 病気については、少し前に書かれてる教科書と最新の教科書では少しずつ病気の捉え方や治療法も異なりますし、最近は新しい病気の概念がどんどん出てきています。そういうのも時代の流れというか、昔はこんな病気なかった、と言ったら変な話ですけど、発症する人が少なかったんじゃないかと思いますが、種類の異なる病気も増加しているのではないでしょうか。

 だから蓮風先生が50年も臨床をされていて、多分いらっしゃっている患者さんのタイプとか質とか病気の種類っていうのは異なってきていると思うのですが、それを、どう時代を捉えて、常に新しい治療を模索されているかということを勉強したいと思います。<続く>

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