蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

タグ:笹松信吾


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市立堺病院での笹松信吾さん

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。倉敷中央病院初期研修医(対談当時、現・市立堺病院外科後期研修医)の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も終盤に入ってきました。今回は前回に続いて笹松さんからの鍼灸師への要望…。そして医師への提案です。“やさしい医療”として東洋医学に関心を示す医師も増えてきているようですが、対症療法的な西洋医学との違いはたくさんあるようです。おふたりは同じ考えで漢方薬を処方する危険についても警告しています。(「産経関西」編集担当)

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 笹松 実際に(鍼灸師が患者を診断して自分で治療できるか、すぐに病院に案内すべきかを判断できる)領域に達するまでって、結構長いこと修業しないといけないですよね。自分の実力と限界を見極めて無理はしないで欲しいなと思います。それから、もう少し西洋医学の先生方と鍼灸師の先生方に、交流していただきたいということです。

 蓮風 それは我々も思います。お蔭さまで(蓮風さんが奈良市に開いている)藤本漢祥院にはドクターがしょっちゅう研修に来ているからね。ですから患者の症状や検査データなどを伝えてドクターに「どうなんでしょうか」と相談します。そういう人たちと交流しながらやっていると良いんだけど、一般の鍼灸師で、そういう環境にいる人は少ない。残念ながら鍼灸師で「本当に自分たちは医学をやってるんだ」という自覚のある人が少ないんですよ。悪く言えば慰安的なね、ちょっと気持ちが良くなったらそれで良いという様な……。それから他には?

 笹松 そうですね、あとはですね、実際、僕も東洋医学の勉強するときは、良い先生を探して実際に見学をする。たとえば鍼灸で言えば蓮風先生の臨床を見学に来る訳ですけど、逆にですね、西洋医学の先生も良い先生はいっぱいいる訳じゃないですか。なので鍼灸師の方にも、ぜひ一度ですね、西洋医学の良い先生の実際の臨床現場を見学していただけたらなという風に…。

 蓮風 ああ、できたらやりたいですね。制度上の問題もあると思うし、それから大分良くなったけどね、僕が開業した今から50年ほど前は、もぅ鍼灸師といったら医者と比べたら虫けらみたいに思われとった時代で、「お前たちは医者でも何でもないんだ」と、ただ鍼をポコポコやって患者さんを気持ち良くしろというような時代やった。ところが最近変わってきましたね、うん。ちゃんとした医療人なんだと最初から意識してくれる人が多くなってきましたね。これはやっぱり世の中ちょっと良くなったなという風に僕は実感しとる訳なんです。そういう流れを進めて行くためにどうしたら良いんですかね?

 笹松 う~ん、難しいですが、実際に「北辰会」に来てるドクターは鍼灸師に対して理解がある。そういった先生の外来をちょっと見学させて下さいと言えばですね、見せてくれる先生もいると思います。なので、まず、そういったところからはじめてみたらどうかなという風に思いますね。
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 蓮風 良い話をしていただきましたね。それからドクターの間でも随分、東洋医学が意識されるようになったけど、まだまだ知らないし、分からないし、近づきたくもないという先生もいない訳じゃない。こういった先生たちに向かって、笹松先生の立場から、いやいや東洋医学はこうなんだ!と言いたいことがあったらおっしゃって下さい。

 笹松 はい。実際に最近、漢方薬を出す先生が非常に増えてきてはいるんです。

 蓮風 そうですね。

 笹松 はい。その病名に対してはこの漢方っていう考え方で使う先生が非常に多い。もちろん、東洋医学的に診断すると全然当たってはいないんですけど。

 蓮風 そうなんですよ。

 笹松 病名を見て使っているので、効いたり効かなかったりするのかな? 余り効かないな。と結局そういった印象が残るだけ。

 蓮風 全然でたらめに(人体の正気を補う)「補剤」と(病そのものをたたく)「瀉剤」を同時に使ったり。

 笹松 はい、そうですね。

 蓮風 だから、やるんであれば本格的に漢方の理論を勉強していただいて…とつくづく思いますがね。

 笹松 やっぱり、互いに現場を見せてもらうという、先ほどの話と関係するんですけど、「百聞は一見に如かず」ということですね。実際に鍼灸だとか、漢方が非常に効いている例を現場に来て見て欲しいというのが一つの思いです。目の前で効いているところ見せられたら、「いや、これは全然効かない」っていう訳にいかないじゃないですか。もう信じざるを得ないと思うので、実力のある先生の実際の治療を見たり体験したりしていただくのが一番かなという風に考えております。〈続く〉


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笹松信吾さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。倉敷中央病院初期研修医(対談当時、現・市立堺病院外科後期研修医)の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も6回目となりました。今回は蓮風さんが治療した症例も紹介されています。複数の同じようなケースを一定の方法で改善させた―とは言えないので、科学的には「例外」で片付けられてしまうかもしれません。つまり確率的に再現性が優位ではない…と指摘されそうですが、もともと人間そのものが千差万別なので条件によって症状もケースバイケースで無限なのが現実。そこに対応できるのが東洋医学の長所でもあり短所でもあるといえるのかもしれません。しかし改善した「事実」の意味は小さくはない。患者個人にとっては、それがすべてとも言えるでしょう。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 最近、脳挫傷の患者さんが来院したんです。軽トラックに乗っていて、何かの間違いで止まってたダンプカーにぶつかって前頭葉が潰れとんですよ。ちょっと写真(MRI画像)を見せますね。

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前頭葉の白く濁っているのが損傷している部分。特に右側がひどい。反動でぶつけたと考えられる後頭部と左側頭部にも損傷が見られる。(「北辰会」註)

 前頭葉が潰れて、意識が2カ月ほどなかった。意識が戻ったけども最初のうちは「あんた誰や?」という感じで家族の顔も認識できていなかった。最近はちゃんと分かる様になってきた、鍼をしだしてね。その鍼も刺すんじゃなしにかざすだけ。

 こんな症例もあるわけ。こういうことになってくると西洋医学との矛盾がかなり生じてきますよね。良いですか? これ脳、こういう感じ(MRI画像の説明)で、最初はトイレも一人で行けなかった。それからお母さんが「これ誰?」言うたら「おかぁんや」ていう様になったね。これもお臍の近くにある穴(ツボ)で天枢という経穴があります。金の鍼を5センチくらい離してかざすだけで大分良くなりました。

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天枢:古典では一般的に禁鍼穴として鍼をするには危険なツボとされているが、藤本蓮風は逆にその陰陽を一気に変化させる(調整できる)経穴として、正しく施術すれば著効を得られると認識し、臨床で多くの結果を出している。専門的な内容の詳細は『経穴解説増補改訂版』(メディカルユーコン)に譲る。(「北辰会」註)

 うん。その他にね、てんかんの発作が1、2回あったのかな? それもよほど疲れた時しか出ないですけども、これも麻酔科のドクターに診せたら「これ、しょっちゅう、てんかんを起こすはずや」って怒られた。西洋医学との、意見がいつも一致しとれば良いけど、まったく真っ向から違う部分があるんでね。「笹松先生は、これからどうするんかな?」っという風に思ったけど「今の時点では分からない」とおっしゃった。それで正解だと思うんですが。「北辰会」以外の鍼灸師とも交流があるんですか?

 笹松 「北辰会」と主に交流があるんですが、「北辰会」以外の先生も何人かは知っています。
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 蓮風 先生は、初々しくもドクターの道を歩み出しておられる訳ですけども、そういう立場からね鍼灸師たちに何か言いたいことはありますか?

 笹松 そうですね、いくつかあるんですけど…。

 蓮風 はい、それ教えて下さい。

 笹松 まず、たとえば「北辰会」で鍼灸をやられていると、西洋医学的な疾患もどんどん治療していきたいなという風になって来ると思うんです。たとえば、盲腸…虫垂炎だとか。

 蓮風 あぁ虫垂炎。

 笹松 はい。まぁ色んなもの治療していきたくなると思うんですけど、西洋医学的な治療をしたら、すぐ良くなるけど、時間が経ってしまったがために西洋医学的にも手がつけられなくなるといった、けっこう緊急を要する病気がいくつかあると思うんですよ。

 蓮風 あぁ(病院に任せる)時期をずらしてしまったと。

 笹松 はいはい。そういうところは、鍼灸で治そうと思って無理に引っ張ったがために治療時期を遅らせることになった、ということは避けて欲しい。

 蓮風 それは、まったくそうですね。ただね、弁解じゃぁないけども、私が言うように脈を診て、そして舌を診て、それからいわゆる弁証をやっておればね、これは今触って良い、触ってはいけないという順逆というのがわかるんですね。

治癒に向かう力がある状態を「順」といい、反対に治癒する力のない状態、つまり死に確実に向かっていて、それを食い止めることがもう不可能な状態を「逆」という。(「北辰会」註)

 それもねあの、ここへ(患者として)来院している民俗学者の小山(修三)先生(国立民族学博物館名誉教授)という方がおられて、ある日突然お腹が痛い、吐き気がするいうて来られた。で、僕ずっと脈とか舌がどう変化するのかを診て、「これはいかん、これは西洋医学の病院に早く行きなさい」と、30分も経たん間にそう結論を出した。ところが、その病院を紹介して送ったら、4時間かかって盲腸からきた腹膜炎やということがやっとわかったらしい。

 だからね、しっかりした(鍼灸の)学問と技術を持っておれば、これはすぐに、西洋医学の病院に行った方が良いな、これは東洋医学のままでいけるぞと判断できる。その時の話をいまだに小山先生に話すんやけど、「一本も鍼打たんかったな」って、非常に感動しておられますね。鍼をすべきでない状態だと判断できるかどうか。そういう鍼灸師が出てこんといかんのですがね。う~ん。それは、まったく先生が言うように、その場で一回だけの鍼をするにはアブナイ、西洋医学に送らなければいけないやつを、その時期をずらしたために重くしてしまった、ということは気をつけていただきたいということですね。はい。〈続く〉


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白衣姿の笹松信吾さん=市立堺病院

 鍼の力を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。倉敷中央病院初期研修医(対談当時、現・市立堺病院外科後期研修医)の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も中盤に入ってきました。今回の話題は笹松さんがめざしている方向性を中心にして東洋医学が西洋医学と併存して役割を果たしていく方法について語られています。結論は簡単に出ないようですが、それは患者の視点から、この課題に取り組んでいるから、ともいえるようです。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 最近では、西洋医学における癌(がん)の「緩和ケア」でも、ひどい痛みの出る末期に至る前から、患者さんにどう対応するかということを考えているみたいですね。その中で、単に人間の心だけでなく、魂…スピリットの部分まで踏み込んでどのように対応するか、ということをテーマとする考え方も出てきているみたいですね。

 笹松 そうですね。

 蓮風 ということは、西洋医学の人間観みたいなものは変わってきたんですかね。

 笹松 昔に比べると心だとか環境の問題にも配慮する医者が増えてきたというように感じています。特に今、家庭医という分野に力を入れてきていると思うんですけれども…。

 蓮風 ホームドクター。

 笹松 家庭医をされる先生の中には、直接身体を触ったり、診察を大事にするだとか、人の心だとか人との繋がりを大事にしていくという(流れはあります)。

 蓮風 極端な話やけども、医療の機械も何もない所へ行って、ドクターたちは何ができるかといったら、ほとんど何もできないんですよ。血圧計ひとつなくても困るんですから…。

 東洋医学は脈をみて、舌をみて、身体に触れると分かるようになっているんですね。いわば野戦病院的な医者の姿が東洋医学にはあると思うんやけれども。機械がないと分からないというのは、機械さえあれば分かるということなんで一面的には便利、すぐ中身が分かるという所もあるんですけれども、同時に不便な所もありますよね。

 笹松 そうですね。

 蓮風 先生は体表観察をずっとやっていたら手の感覚がよくなるだけではなく、全身が敏感になるという話をなさいましたけど、非常に大切なことですよね。

 それから、先生は今、消化器外科として頑張っているんだけれども将来自分の医学としては、どういうものを作っていきたいですか? 何を求めていくんですか? この鍼灸を踏まえながら…。

 笹松 消化器外科をめざしているんですが、今めざしているところで、こういってはなんですが、最終的には僕はたぶん外科はやっていないと思います。

 蓮風 ああ、そうですか(笑)。

 笹松 多分10年かそこらで辞めて、内科に戻るという風に考えています。

 蓮風 まぁ最も西洋医学の西洋医学たる部分が外科ですから(笑)。性格的にはあなたは内科的にぴったり合うと思います、最初に言った通り。だからそれは向いているけれども、その真反対の部分を最初にやっておくというのは、これは意味がありますね。

 笹松 そうですね。最初にその西洋医学の花形の外科をやることで、逆に外科の限界だとか、どこまで外科でできるのかということがみえてくる。

 蓮風 そうそう、見えてきますよね。
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 蓮風 そうですね。西洋医学では手術せんといかんいう患者を、僕らは手術をしないでも、良いという判断をして、結果的にその方が患者にとって正解だったということがあります。最近の僕の症例ではね、これは有名な国立大学の医学部の教授が判断下したんやけど、肝硬変で、あれ肝癌やったかな? 生体肝移植。肝硬変?

 笹松 そういった考えもあって外科をやろうと思います。やはり最終的には外科の限界を踏まえたからこそ、できるだけ手術をしないで何とかしようと…。

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 弟子 肝硬変ですね。

 蓮風 ちょっとカルテ持って来て。

 弟子 はい。

 蓮風 もう生体肝移植しか救う道がないとドクターが言ったやつを、私は鍼で治療してね、良くなってきたですよ。

 笹松 そうなんですか。

 蓮風 はい。多分あなたが理想とするのはそういう世界じゃぁなかろうかと思って、(内弟子がカルテを持ってくる)良いですか? 先程言った肝硬変です。肝硬変の末期で、生体肝移植しか方法がないっていわれていたんです。最初、舌や脈を見て、それから腹部では右の季肋部…経穴でいうと右の「不容」の辺りに(肝臓が悪いことを示す)硬いものに触れたんですよね。 半年くらい治療して、最近触れなくなった。

 (その患者は)関東におられるんで、関東支部の仲間にある程度手伝ってもらってるんですけれど、ついこの間も再診に来て、もう非常に元気でおられるんですよね。こういう現実が幾つも起こって来るんですよね。そうすると先生がおっしゃるように、手術せんでもいけるやつが沢山あるんじゃないか。それこそね僕はこの鍼灸医学の果たす役割だろうと思うんです。

 ただ先生の場合、西洋医学の物差しと、それから東洋医学の物差しの2つの物差しを持つことになりますね。これがいつも平衡状態であれば良いんだけども、これがチャンチャンバラバラやる時があるんですよ。うん。そういった場合どうなさいますか?

 笹松 そうですね、それは非常に難しい問題ですね。

 蓮風 そう、非常に難しい。

 笹松 実際には自分のレベルによって変わって来ると思うんです。自分の西洋医学の技術と東洋医学の技術の…。なので現段階では何とも言えないです。

 蓮風 そうだね。まぁ医者に成りたてやからね(笑)。そらそうだ。

 笹松 ただどちらも同じような効果があるとしたら、やっぱり患者さんに聞いてみてですね。

 蓮風 患者さんが決めることね。

 笹松 はい。そうかなというふうに思ってます。やっぱり医療者というのは「こういった選択肢があるよ」ってのを、患者さんに提示するのが一つの仕事かなと思いますので。〈続く〉


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笹松信吾さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。倉敷中央病院初期研修医の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の4回目です。今回は笹松さんが東洋医学への魅力について話してくださっていますが、そのひとつが「体表観察」で病気が分かるという点。道具をつかわないで身体の中の状況を知るということですから神秘的でもあり、そこが現代西洋医学の立場からすれば、非科学的で不信の理由にもなるようです。しかし検査の数字や病巣だけを見て病気が分かるというのも乱暴な気がしませんか。人間の身体は年齢、環境、生活習慣などで千差万別ですからね。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 先生の場合は本格的に東洋医学をやろうとしておられるんですよね。ところが、一般的なドクターで東洋医学に興味をもって小手先で利用しようかなという人たちが多いような気がするんですよね。昔、肝臓病の患者さんにドクターが「小柴胡湯(しょうさいことう)」という薬を与えたら死亡した、なんていうニュースがあったでしょう。あれなんかは西洋医学でいう“肝臓病”と東洋医学でいう“肝の病”を一緒くたにしたために誤治したにすぎない。そういうことがあっちゃならんと思います。

 現に“冷え症”だから「附子剤(ぶしざい)」を処方する、というのも問題ありますよね。そういう意味で、小手先で利用しているとしか私には思えない。笹松先生は、そういう方向ではなしに本格的にやろうとしていると思うんですね。そんなドクターが東洋医学の考え、哲学思想、こういったものを自分の中でどういう風に消化なさるのかなと思って興味があります。西洋医学の世界観をもちながら、同時に東洋医学の世界を持っていくことについて何か考えがありますか? まあ矛盾する部分はあるんですよね。

 慢性肝炎、肝硬変、肝癌の患者さんに対して「小柴胡湯」を使用し、間質性肺炎(通常の細菌性肺炎とは治療法や予後が異なる)を引き起こした例が多数報告されている。なお、薬剤性間質性肺炎は漢方薬に限らず様々な西洋薬でも生じることがある。ツムラ小柴胡湯の添付文書の効能または効果に「慢性肝炎における肝機能障害の改善」という記述があるが、分別なく機械的に慢性肝炎に対して小柴胡湯を使用すると、例えば肝熱がなく肝血虚の状態に対して「黄●(=くさかんむりに今)」(おうごん、漢方生薬のひとつ)で清熱してしまうなど「証」に合わず副作用をきたすことがある。これは他の漢方薬にも言えることで、「漢方薬は副作用が少ないので安心」という言葉に騙されてはいけない。漢方薬はもっと厳密に使用するべきである。「漢方薬は証に合っていれば副作用が少ない」が正しい。(「北辰会」註) 

 笹松 そうですね。僕は基本的にできるだけ自然に生きて行きたいという考えをしていてですね、自然に生きて行くための手助けの一つの道具として医学があるという風に考えています。自然に生きて行くためには病気だけじゃなくて、自分の身の周りの環境だとか、心の問題だとか…。もちろん住む土地もそうですし、色んな問題があると…。
  

 蓮風 そうですね。

 笹松 医学というものは、本来そういうものもすべて含めて診ていかないといけないと思うんですよ。そういったことを考えた時に東洋医学の方が西洋医学より優れていると思います。先生がいつもおっしゃるように東洋医学は色んなものを診るじゃないですか。環境も心もそうです。

 人の本来の生活にそった治療をしていくと、治療が自然な流れにそっておこなわれて行くということですよね。なので、その人が本来持っている力を引き出したり、人が自然に生きるための手助けのひとつとして東洋医学を使っていこうかなあという風な考えをしております。

 蓮風 なるほど。また似たことを聞くみたいですけど、先生は「北辰会」本部定例会のドクターコースに熱心に来て、体表観察なんかをよくやっておられます。ひとつは先にも先生がおっしゃったように、触ってくれる…手当の医学がこの医学の魅力だろうと思いますけれども、その他に何かありますか?

 笹松 そうですねぇ。
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 蓮風 たとえばね、体表観察を一生懸命やる。西洋医学だと検査、検査、検査…。血液を調べて、場合によってはMRIとかCT使ったりして、身体の実態というか、「形」にごっつう意識を持っていきますよね。東洋医学というのは実態を直接相手にしていないんですね、結果的には。それは非常に哲学的になるんだけれども、生命というのをどういう風にみるのかということに関わってくる。体表観察というものはその最たるものですね。中の物を外から分かるというような発想ですから。どうですか、そこらあたりの東洋医学の魅力というか神秘性というか?

 笹松 そうですね。西洋医学ですと色んな検査をして病気を探して行くということをやるんですけれども、東洋医学の場合は体表観察を中心に診断をしていくと。道具もいらないですし、人と人とのふれあいだけで病気が分かっていくというのは、実際に冷静に考えると、どういう原理か分からないんですけれども、確かに気の流れというのも感じます。やっぱり自分の手一つで診断して、治療もしていけるということで、非常に魅力的だと思います。あと一つ思うことは、体表観察を勉強していると何となくですね、やっぱり自分の感覚が鋭くなっていくというのが分かってくるんです。

 蓮風 そうそう。

 笹松 昔は漢方薬飲んでもなんとなく効くなあとしか感じなかったんですけれども、最近は「葛根湯」を飲むと背中から首のあたりにかけて温かくなってくるなあとか…。

 蓮風 身体全体が敏感になってきた。

 笹松 そうですね。

 蓮風 なるほど。

 笹松 後は、身体に触れるということに関しての話なんですけど、僕、ふだん病院に行ってもできるだけ患者さんの身体に触れて診察するように心がけているんですが…。

 蓮風 それはいいことですね。

 笹松 よくご高齢の患者さんからですね、最近はこんなに身体を触って診てくれる先生はいなかったと、何十年ぶりだろうというような話をされていて、非常に喜ばれる方がいます。

 蓮風 そうですね。最近は聴診器を飾りにつけているだけで、ほとんど使っていないという(笑)。昔はこの聴診とか胸叩いて打診とかいってね、中の様子をうかがった。そういう意味ではとりあえず外からでも分かるんだという発想はやっぱり似た所はあるわけですよね。西洋医学そのものが「形」という実態にせまろうとしているから、どうしてもちょっと違うんですよね。

 笹松 ただ西洋医学も今は色んな最新の機械を使って検査をしようという流れにはなってはいるんですけれども、その一方でできるだけ患者さんの話を聞いて後は診察をして実際に触れてみて打診だとか聴診をして、それだけを使ってどういう病気かを考えていこうというそういった流れもあるんです。

 蓮風 それは、いいことですね。<続く>


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笹松信吾さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は倉敷中央病院初期研修医の笹松信吾さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の3回目です。今回は笹松さんが鍼灸に興味をお持ちになったきっかけを話してくださっています。患者の視点に立つと、鍼灸の可能性や効果が見えてこられたようですが、症状を抑えることと、病を治すことの違いも明確に浮き彫りになっているのではないでしょうか。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 学生時代からこの医学に興味を持たれたようですが、西洋医学を志しながら、なぜ鍼灸に目が向いたんでしょうか?

 笹松 西洋医学は何となく人に優しくなさそうな気がする。検査とか注射とかもそうなんですけど、痛いですし不快感を伴う。西洋医学の先生の診療を見ていてもあんまり触ってくれないなぁというのもあって、もうちょっと人に優しい医療はないかと…。

 蓮風 それは患者さんからの視点ですよね。検査も良いんだけども、僕の身体はこうなんだよと触って診てほしいという。まぁ我々は常に“手当ての医学”という事をいうんですけども、そういう意味では東洋医学の方が優しい感じがするというわけですね。

 そういった鍼灸の優れた面に目を向けて頂いたんですけど、西洋医学がある意味で医学を支配しているわけですけれど、その中で鮮明に鍼灸医学が果たせる役割がありましたら、先生のお考えを教えてください。

 笹松 西洋医学は世の中を支配しているだとか、西洋医学は万能だっていう考え方をされている方もたくさんいらっしゃると思うんです。でも、実は西洋医学では治せない病気というのは非常に多いんです。簡単な例をとってみれば、肩こりもそうですし、頭痛もそうです。そういった西洋医学では治らないものを治療していけるのが東洋医学なので、まだまだ西洋医学に東洋医学がくい込んでいく余地はあると思います。

 蓮風 そうですね。その辺りがね、実際専門である鍼灸師が分かっていないんですよね。神経痛とか肩こりとか、それを馬鹿にするわけじゃないけど、それだけじゃないだろうというのが僕の考えなんですがね。

 難病治療というのは西洋医学にとって難病で、東洋医学にとって、やはり難病のものもあるけども、案外簡単に治るものも沢山あります。たとえば潰瘍性大腸炎とか、それに類するクローン病とか、意外と鍼がよく効くんですよね。そういうことに鍼灸を専門とする鍼灸師があんまり気づいてないんですよね。

 笹松 あともう一つ挙げると、みなさんがよくかかる病気として風邪があると思うんですけど、西洋医学で風邪というとですね、特に何もする事がないんですよ。たとえば細菌に感染した肺炎だとか、細菌が関係するものだと抗生剤を使うんですけど、ウイルス性の風邪っていうものは、抗生剤は当然効かないので、たとえば、熱冷ましを使うだとか、咳止めを使うだとかそういった症状を消す治療しかできないんですよ基本的に。

【メモ】一般の人が使う言葉である「風邪(かぜ)」は医学的に正確な定義がない。ここでは西洋医学における「普通感冒」、つまり、咳・鼻汁・咽頭痛・頭痛・発熱などの症状を呈するウイルス感染症を「風邪」とした。「風邪」は一般的に薬を飲まなくても自然に治る。「インフルエンザ」は症状が強いが「風邪」の一種と考えてよい。タミフル(R)はインフルエンザウイルスの増殖を抑える薬で、発熱期間が半日~1日程度短縮されるといわれている。インフルエンザウイルス以外の「風邪」ウイルスに対する特効薬は現時点ではない。(「北辰会」註)
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 蓮風 風邪を西洋医学的に正確に言うと急性上気道炎というような概念で捉まえてますね。もうその言葉自体がここらあたり(鼻から喉、気管の入り口にかけて)に炎症が起こっとるぞということを大まかに言ったもんだろうと思うんだけど、東洋医学で言う所の<風邪(ふうじゃ)>という概念が西洋医学には無いですね。風邪(ふうじゃ)というものこそ実は病の本質の大きな部分を表していると思うんですよ。

 というのはインフルエンザも含めて、同じ風邪でも人によって違うじゃないですか。『傷寒論』的に言うと、最初から陰証を示すものと、最初から太陽病からいくものと違いますよね。それから同じ風邪でも冬の風邪と春の風邪と夏の風邪はまた違うんですよね。それから同じ風邪でも中国で流行っている風邪と日本で流行っている風邪もまた違う。これを中医学的に言うと“因時制宜(いんじせいぎ)”=時に因る=、それから“因人制宜(いんじんせいぎ)”=人に因る=ですね。それから“因地制宜(いんちせいぎ)”=場所に因る=の3つ、つまり、時・人・場所(地理)によって色々違ってきますよ、ということを認識しています。こういう考え方を東洋医学はするんですけどね、西洋医学にはあんまりないですね。

  『傷寒論』:中国後漢の時代に張仲景という医者が著したとされる書物。当時、インフルエンザである村の人口が激減したときに、病がどういう進展をたどり、どの段階でどういう治療をすると治せるか、あるいは、こういう状態になればもうだめだ、という内容が薬の処方のみならず、鍼灸に関する記載も出てくる。最も初期の浅い位置を示すのが「太陽病」で、陽明病・少陽病とともに「陽証」の段階とされ、これらに比べより深い位置でより重篤な状態が「陰証」(太陰病、厥陰病、少陰病)である。その人の体質や誤治によってどの段階からスタートするか、あるいはどの段階に一気に進んでしまうか、など、十人十色である。(「北辰会」註)

 笹松 西洋医学にはないですね。西洋医学は気候による変化だとか、土地による変化だとか、人の心による変化だとかそういうものは切り離して考えるというかよくわからないのでそもそも考えない。

 蓮風 そこがね、東洋医学をやらないかん一番の理由にならないかんと思うんです。こういう考察をしていない。風邪一つでも時期により、それから人により、その場所によって全部違う。こういう発想がね、非常に大事な事やと思うんです。これはね、やはり東洋医学は自然とともにある人間を見つめている証拠なんですよね。西洋医学はそんなのを切り離してやってますよね。

 笹松 そうですね。実際に患者さんの話を聞いてると、腰が痛いおばあちゃんがいたとしてですね、やっぱり雨が降ると腰が痛いだとか、寒くなると腰が痛いだとか、そこを強調して言われるんですけど、西洋医学的に見ると湿気とか寒さと腰痛の関係というのは全然明らかにもなっていませんし、研究しようとする人もいないので、あぁそうですかと聞いて終わりなんですよね(笑)。〈続く〉

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