蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)


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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談も7回目となり、中盤に入ってきました。今回は東洋医学と西洋医学をそれぞれ対等な「医学」として、どのように実際の現場で患者が選択していくか、という具体的な方法についての話。東洋医学は西洋医学の代替や補完ではなく、患者自身が選択できる状態をどのように作っていくか、についての考察となっています。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 これから東西両方の医学が相互にそれぞれの位置を保持しながら発展するためには、患者さんに説明するコンサルタントの医者も必要やなと思うんです。そのためには、相当実際を見てもらわないといけないし、西洋医学ではこういう治し方をする、東洋医学ではこういう治し方をする、あなたはどっちを選びますか、という説明ができる人材が必要だと思うんです。

 先生は実践しながら、そういうことをずっと考えておられると思いますが、なんかその辺りでこういう風にしたらもっといいんじゃないかという提案はありませんか。

 児玉 (東洋と西洋の)2つからだけじゃなく、それ以上の選択肢があるかもしれませんが、どのように患者さんの選択をサポートするか、ということが大切になってきますよね。

 蓮風 現状は、とにかく患者さんがあちこちに行って、縁があった、縁がなかったということで、運の良い人しか東洋医学には出会えないことが多い。そういうセレクトしかできないけれども、この両医学(の併存や相互補完)がやっぱり大事やなと思う人で、そういう専門的な説明をして、そしてこの医学はこれが特徴なんだからこうした方がいいよ、とアドバイスができるような、そういう機関みたいなのがあったらいいですね。

 児玉 そうですね。患者さんのためにはいいと思いますよね。

 蓮風 確かに患者さんが自分で、探して実際に色々と体験するのもひとつの方法やけど、なんか無駄ですよね。無駄をはぶいて患者さんがよりよく納得して上手く治っていけば、最高の医療だと思うんです。だから今の患者さん自身が(探して)選べるというのはひとつの方法やけど、必ずしもいい方法ではないと思うんですよね。
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                               和歌山県岩出市「こだま小児科」で

 児玉 お話を聞いていて思うのは、コンサルタントとして多分2つのタイプに分けられて、ひとつは両方の医学に精通する(人材)ということでしょうね。これは相当に難しい。まあ、ちょっと考えられない。可能かもしれないですけれども難しい。もうひとつは、それぞれの医学両方に精通している人たちから、それぞれに意見を平等に集められる人(によるコンサルティング)かなと思うんですよね。

 すべてを網羅することって不可能なので。僕ら内科もアップデートしていきますし、小児科もアップデートしていくし、僕は皮膚も関節も診ますし、他のこともやりますから、それを全部アップデートしつづけるというのはそれだけでも結構大変なんですけれども、そこに東洋医学も進歩していくでしょうし変化していく、東洋医学以外の医学もあるかもしれないし、東洋医学いうてもその中にもいっぱいあるでしょうし。

 蓮風 あります。ちょっと話がずれるかもしれないけれども、西洋医学では、鍼灸医学を「代替医療」っていうんですね。私はある意味けしからん言い方やと思うんです。「代替」とは何事かと(笑)。あくまで西洋医学をファーストチョイスとしていくのか、あるいは、あくまで東洋医学をファーストチョイスとしていくのか(というように、両方を)医学そのものとして扱うなかで対等に話ができないといけないのに、(一方的に)補完医療と呼ぶのは、おかしいなと思うんですよね。 

 
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 すでに海外では論文になっているわけですよね。鍼を刺したらどれぐらいの確率でよくなるのか? たとえば、救急外来で(素人である)レジデント(研修医)がですね、喘息の患者に鍼をするのと、吸引をさせるのと、何もしないのとどれが一番よく治るのか、を出した統計があるのです(註1。そうすると(患者の自覚的な改善度は)案外、変われへんやんという感じで…。とはいえ誰がどんな風にやるのかによって治療効果が絶対変わってくるので、レジデントが鍼を刺すというのでは鍼の効果というのは充分に出ないはずなんですよ。

(註1研究論文Wechsler ME,et al.Active albuterol or placebo, sham acupuncture, or no intervention in asthma. N Engl J Med. 2011 Jul 14;365(2):119-26.

 蓮風 それに関わって、WHO(世界保健機関)が大きな辞書を作成しているんですよ。西洋医学の病名も、東洋医学の「証(しょう)」の問題もね、結局、概念がてんでばらばらやから、東洋医学やったら少なくとも東洋医学の中で概念を統一しようという方法でいっているんですよね。

 その場合、2015年(今年)あたりにはさっそく概念を決めるという、中医学を中心にやる方向にきてるみたいですね。僕は、東洋医学ということで中医学を中心にまとめようとするならば、ああいう形でしかないと思うんですよね、どう考えても。日本でもいろんな流派に分かれてやっているけれども、あれでは話し合いができない。

 児玉 そうですね。

 蓮風 この前の藤原昭宏先生(京都府城陽市「藤原クリニック」院長)との対談でも出てきたんですけれどもね、西洋医学でも色々流派がありますけれども、とりあえずどの大学どの流派でも最低限これをおさえるという概念があるから話し合いができるけれども、東洋医学にはそれがないんだと。

 蓮風の玉手箱」2014118日~322日、10回にわたって掲載

 児玉 西洋医学の医者でも、話し合いにのってこない医者がいますから(笑)。

 蓮風 それはまあね、(西洋医学としては)特殊例で一般的ではないから(笑)。〈続く〉

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児玉和彦さん=和歌山県岩出市「こだま小児科」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の6回目をお届けします。おふたりの話も中盤に入ってさらに医療の現場の問題点の核心を突く発言が増えてきました。今回は西洋医学の科学性についての言及です。身心や、その環境は人によって千差万別。そこに科学としての医学の再現性はどれくらい保証されているのでしょう。その本当のところが語られています。(「産経関西」編集担当)

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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

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 蓮風 先生が、医師として、このケースは鍼の方が効くと判断しても、患者さんが納得しない場合なんかは非常に難しいでしょうね。

 児玉 実際そのケースがつい先日ありました。ただ、僕の鍼のレベルではまだ手に負えなかったんで、ちゃんと(鍼で治療が)できる方にお任せしたんです。でも、ずっと西洋医学の治療を受けてこられた患者さんなんで、1、2回の鍼で効果が出なかったことに疑問を感じたのか、僕のところに戻ってこられて「鍼でいいんですか?」という感じで質問されたんです。「そのときはあなたの症状は鍼灸がベストだと思います」という風にはお答えしました。

 蓮風 なるほど。その前に、先生はこれから腕上げてきたら、(自分で)やるでしょ?

 児玉 そうですね、程度問題ですけど(笑)。今でも、ご相談させていただきながら治療させていただいてる方がいらっしゃいますし。

 蓮風 大いにやられた方が良いと思います。

 児玉 はい。有り難うございます。

 蓮風 東洋医学っちゅうのは、確かに臨床的な効果を持ってるし、西洋医学と違う特徴みたいなんがありますね。その特徴をどういう風に生かして行くか。そういうことを考えていくと、絶対に両方の医学とも必要なんですよ。必要なんだけども、それぞれの領域をどのように調整するかという問題はありますねぇ。

 児玉 うーん。

 蓮風 実際は風邪ひとつとっても鍼で充分治せるんですよね。この間もインフルエンザをね、朝昼晩と治療して2日で治すという、一般には考えられないことをやってみせたんです。それぐらいこの鍼の医学には能力があるんだけれども、先程の話、いつでも誰でも、どこでもできるというわけじゃない、ある意味で科学性がないのかもしれませんね。

 児玉 そんなことは全く思わないですよね。実際やっぱりこの3年間、僕ら(西洋医学)の考え方ではそういう治り方しないとか、この病気はこういう風には治らないものが鍼治療で治った例がありますし、どんどん進行していくはずのものが進行しないというようなことも経験しました。やっぱり早い話、今の科学はちょっと嘘(うそ)が含まれていまして、医療は統計、確率論なんですよ。この治療をしたら何%治る、何%治らないという確率論なんですよね。

 だけど、この患者さんがどっちに入るかは実は誰もわからない。9割治ると言っても、(治らない方の)10%に入るかもしれないし、半々でも治るかもしれない。今の西洋医学はそういう医療なんです。確率論ではお伝えできるんですけれども、あなたがどうなるかは分からない。そういう意味ではそれって本当に科学的なのかと言われると…。
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 蓮風 いいとこつきますね。全く私もそう思います。確率でこんだけ治ると言われても、自分にとって本当に治るかどうかは、また別なんですよね。

 児玉 なので僕は『HAPPY!こどものみかた』という本で診断学についても書きました。どうやって患者さんを診断するのか、病気と診断するのかということに関して書いているんですけれども。あれは「診断特性」という論文になっていて、こういう所見があれば何%でこんな病気だというのがあるんです。まず、(医師が)この所見がちゃんととれるかどうか…。「北辰会方式」でも一生懸命に体表観察をしますけれども、(所見が)とれるかとれないかというのが一番大きくて、それを正しく認識して組み合わせられるかどうかというのは、「北辰会方式」と同じ過程だと思うのですが…。

 蓮風 そうですね。僕も基本的には一緒やと思うんです。論理の組立てがね。

 児玉 それ(=医師が適切に患者さんから情報を得られるかどうか)ってかなり個別じゃないですか。術者と患者さんとの関係性にもよるし、そこがある以上、科学的と言えば科学的なんでしょうけど、何を持って科学的と言うのか。そういう意味では、鍼も充分……充分という言い方をすると失礼かもしれませんけど、科学的だと思います。

 蓮風 分かりました。鍼は科学という事ですね。〈続く〉

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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の5回目となります。前回は西洋医学の外科手術の腕前の上手下手があって医師によって差が出てくるという話になりました。今回はその続き…。では、内科の医師の診断・治療には“上手下手”はないのか、という点についての児玉さんの見方から始まります。(「産経関西」編集担当)

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 児玉 実は内科でもそうなんです。

 蓮風 あぁ、そうですか。

 児玉 たとえば、僕が「藤本漢祥院」でカルテを拝見して、いやこれは(患者さんを診察していた医師の)診断が間違えてるっていうことがあるじゃないですか。やっぱり内科でもきっちり診断して治療できる医者と、そうでない人がやっぱりいますし、その違いはプロじゃないと分からないかもしれないです。

 蓮風 そうですよね。

 児玉 はい。なので、よく東洋医学の話の中でステロイドの使い方がどうこうっていうのが出るんですけど、これはですね、やっぱり使い方が間違えてて上手く行かないっていうケースも、けっこうたくさんありますね。

 蓮風 あぁ、そうですか。

 児玉 アトピーの皮膚への塗り方一つにしても、良くなっていれば、ステロイドも、やめられるのに、塗り方が上手くないために、何年も塗り続けてる例がありますね。それは指導が悪いんですよ。西洋医学の医者の腕が悪い。

 蓮風 そうですね。その腕に関して我々が考えてるのは、昔はね、一人の名人がおったら、弟子たちが100人、1000人おったんですよ。で、その名人の人がこうだって言うと絶対そうなんです。やけどね、僕は東洋医学をこれから西洋医学と肩を並べるほど個性的な医学にするのであれば、名人芸は大事なんやけど、名人芸やったら(再現できる人間が)限られてくるから、限りなく名人に近い一般化した学問なり、技術なりを作ろうとしてるんですよね。だけど、最終的には名人芸があるかないか言われたら、やっぱりありますよ。

 児玉 ありますね。

 蓮風 それはもう否定せんと肯定したうえで、でも社会的に認められて、そしてまさしく患者さんが救われるためにはどうあらないかんかということを考えたときに、限りなく名人に近い人たちを作って行くというのが理念なんですよね。しかし、ステロイドの話は…。あー、そうですかぁ。日本の医療の、これまた衝撃的な話ですね。うーん、ステロイド一つでも使い方一つで、ずいぶん違うんですねぇ。

 児玉 違いますね。

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「こだま小児科」での児玉和彦さん。
診察室では基本的には白衣は着ないという=和歌山県岩出市 


 蓮風 今後、診療に鍼治療を取り入れられると思いますが、どのような点に意識を置かれますか?

 児玉 そうですね、うーん。

 蓮風 たとえば、この間先生がご質問なさった、ゲップが頻繁に出るケース。

 児玉 あぁー、そうですね、あれはなかなか難しいケースでした。

 蓮風 ああいう病気はどっちか言うと、西洋医学あんまり得意じゃないですよね。

 児玉 えっとね、西洋医学で治せないこともないんです。恐らく。そういう種類の薬があるので、使ったら治せたと思うんですけど。その場合はちょっと正直、ゴールが僕の中で見えてこない、何カ月くらい治療しないといけないのかが、僕の中でイメージしきれなかったんですよね。

 で、今までここ(藤本漢祥院)で拝見していますと(このケースでは)鍼や漢方の方が早いっていう風に思ったので、相談させていただきました。そういう中で自分はじゃあどういう風にして治療を選択したのかと、振り返ってみるとですね。何て言うんですかねぇ。病気を敵だとすると、その敵に一番効果のある武器を選ぶって言ったら変ですけど…。まあ、たとえば、魚釣りでしたらルアーですね。適切なルアーを選ぶってあるじゃないですか。ま、そういう感じですかね。

 この病気には当然西洋医学の方が適切なケースっていうのが正直言ってあるんです。一方、これはちょっと東洋医学の方が得意だろうとかね。で、どっちか分からないけど、どっちか言うたら今までの経験からこっちだろうと…。で、自分がやる場合はそうですけど、たとえば、マグロ釣りの名人がいる場合ですね。マグロを釣りに行かなあかんと思ったら、その人に紹介する、任せる。で、結局僕たちのやるべきことは、最良の医療をその人に届けることであって、自分の持ってるものに拘(こだわ)ることではないと思うんです。

 蓮風 これは逆の立場においても同じですね。僕らで治せんこともないけど、これはやはり西洋医学の方が上手くやるだろうし、と思うことがあれば、そちらへ送りますよ。それが本当の医療じゃないですかね。

 児玉 そうですよね、思います、はい。

 蓮風 そりゃあ自分の医療やから絶対誇りを持ってるけど、頑固(がんこ)に意地を張って患者さんが迷惑を受ける、これ一番不幸なことです。

 児玉 そうですね。

 蓮風 だから、それはあると思いますねぇ。で、先生が内科、小児科で、この鍼を使う場合、患者さんをある程度説得せないかんですねぇ。

 児玉 うんうん、はい。〈続く〉

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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の4回目です。前回、蓮風さんは鍼灸師が医師の監督下に置かれている現状を変えて将来、独立した「東洋医学の医者」としての立場を獲得する必要性を強調されました。今回は、その続きです。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 鍼灸師になるには専門学校の場合、3年間勉強するんだけども、たかだか3年で医学はできない。西洋医学は最低6年間必要ですよね。それが鍼灸師育成の実態だから仕方がないですけれども、鍼灸師が(西洋医学の)医者と同様の独立した判断ができる、そういう社会システムを作っていくべきだと思っております。そういう中で、私の診療を見て、西洋医学と比較なさってですね、現在の先生の鍼灸への考えはどうなんですか。


 児玉 うーん。治療効果に関してですよね。

 蓮風 そう治療効果も含めて。治療法、治療効果、そして(西洋医学の診断にあたる)診立てとかね。

 児玉 あぁ、診立て。

 蓮風 全然違いますよね。

 児玉 そうですねぇ、やっぱり、違う部分が多いですね。

 蓮風 そうですね、同じような部分もないことはないけど、どっちかいうと違う部分多いでしょ? だから先程(鍼灸師を)「異邦人」という言葉で表現したんだけども。


 児玉 先生はそう、おっしゃいますが、僕は(「北辰会」の)先生方の治療を見ているときは、あまりそういう風に意識しないんです。先にも言ったように鍼灸治療に保険を適用するための診断書を書いてた時は違いました。

 蓮風 そらそうです。

 児玉 これは何なんやろうって。まだずーっと痛がってるのに、もちろん西洋医学の、例えば整形外科などで治せてないっていうのも悪いのかもしれないんです。けれど、続けて行くっていう医療って、これは何なんやろうって、この人たちは何にお金を一体払っているんだろうって。

 蓮風 そこに異邦人を感じましたか()

 児玉 ええ、そこは違和感が実はありました。

 蓮風 なるほどねぇ。

 児玉 「北辰会」に入ってからは、あんまりそういうことは感じないですね。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 同じように患者さんを治していくっていう、方法論の一つというか、向いてる方向は一緒なので。全体を診るか、部分的に絞っていくかなど、方法論の違いってのはあると思うんですよ。

 蓮風 ということは、児玉先生は、「北辰会」や私と出会う前は、鍼灸に関してどう思われていたんですか?

 児玉 まぁ正直言うと「治らないな」って思ってました(笑)。

 蓮風 これは強烈なパンチですな(笑)。いやぁ、実際そうやと思います。

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 児玉 いえいえ(笑)。やっぱり毎回診断書を書かないといけないっていうことは、ずーっと通ってるってことなので。治ってないっていうことなんだろうなっていうのは思ってました。

 蓮風 だいたいどういう病気でしたか? それは。

 児玉 膝の痛みとか、肩の痛みとか、腰痛症とかですね、そういうような病名になってきますね。

 蓮風 どっちかというとそういう鎮痛には非常に鍼はよう効く方なんですけどねぇ。

 児玉 はい。

 蓮風 やはり鍼の力が発揮できていない実情をみると、まさしく鍼灸医師を育てるような環境を作って行かないといけませんね。

 児玉 やっぱり思うのは、西洋医学には外科とか内科とか小児科とか色々あるじゃないですか。鍼灸って西洋医学に置き換えると、外科やと思うんですよね。術者の依存性が非常に高い。

 蓮風 あー。腕のあるメスであれば上手く行くけど、下手なやつはあかんと。

 児玉 はい、そうなんですよ。外科の手術って、僕も麻酔とかかけたことあるんで分かるんですけど、上手い人がやれば全然出血しないです。これは言ったらあかんのかもしれないけど…。でもそういうのはみなさんも、ご存じのことだと思うんです。やっぱり手を動かすものですから、上手い下手ってありますからね。

 蓮風 僕はね、出会ったドクターたちにはそういう話をするんですよ。実際、鍼はやり方だって違うし、治療する人間が違うと鍼も違うんだっていう話をしたら、だいたい「西洋医学はできるだけ、そういう名人を作らないことにしている」とおっしゃる。つまり(どの医師が治療しても原則的には平均的な結果が保証できる)一般化された医療ということですよね。

 児玉 まぁそうですねぇ、はい。

 蓮風 だけど、明らかに外科なんかでは上手下手がはっきりするわけで、それを平均化することできないですよね。

 児玉 無理ですね。〈続き〉


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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の続きです。3回目の今回は児玉さんの鍼灸への感想から話が始まりますが、児玉さんにとっては「鍼灸=蓮風さん」のようで、出会いの最初から、病に向き合う姿勢に影響を受けられたようです。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 ご縁があって児玉先生は我々「北辰会」のドクターコースで勉強されています。(蓮風さんが奈良市で開院している)「藤本漢祥院」で週1回の研修もされて、実際に鍼治療も受けておられます。そういう経験を重ねておられる中で、この医学についてのざっくばらんな感想を聞かせていただきたい。

 児玉 鍼灸に関してっていうことですよね。

 蓮風 そうですね。鍼灸、漢方薬…一般論でもいいし、鍼灸そのものについてでもいいし。特に先生は西洋医学専門でずっとやってこられた。その中で、まぁ言うたら「異邦人」と出会ったわけですよね(笑)。

 児玉 そうですね(笑)。

 蓮風 その異邦人がいかなるものか、ということ。これは今後、変わっていくだろうと思いますけど…。今の時点で先生から見て異邦人がいかなるものかというのを我々は知りたいということなんです。

 児玉 私が(東洋医学を)専門の先生に就いて学ぶのは蓮風先生が初めてなんです。こんなに長い期間ですね、親身になって教えていただいたのは初めてなので、私が持ってる東洋医学の考え方っていうのは、藤本蓮風先生そのものなわけなんです。なので、東洋医学一般とかってなってくると、ちょっと正直言って分からないです。けれど、蓮風先生の診療を拝見してて、先生の印象は、最初3年前にお会いしたときと全く変わらないです。最初に先生の診療を拝見したとき「あっ、この人は本物の医者だな」と思ったんですよ。

 蓮風 あ、そうですか。嬉しいですね。

 児玉 これを言うと何ていうかちょっと失礼な言い方かもしれないんですけど…。

 蓮風 いやいや。

 児玉 何ていうか、この人は本物。僕も色んな所で色んな医者に出会ってきましたし、有名な先生の診療も見てきましたけれども「あ、この人は本当の医者だな」と感じました。結局、人を治す気迫に満ちてるって言うんですかね。

 蓮風  あー、気迫ね。あ、そうですか。

 児玉 そういう所をこの3年間ずっと学び続けてるというか、そこが一番大きいかなと思ってます。
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 蓮風 なるほどね。特に僕の鍼の場合は、著しく鍼の数が少ないですね。こういうことについてどうですか? 奇異の念が最初はあったと思いますが。

 児玉 ええ、まぁ、そうですね。奇異と言うか、私は鍼の治療を見たのが初めてだったので。

 蓮風 あー、そうですか。

 児玉 たくさん刺す鍼を見たことないんですよ。

 蓮風 あはは!それはね、よかったですね(笑)。

 児玉 テレビで見たくらいのもので、実際にはなかった。それまで私が接してきた鍼の治療というのは、鍼治療に保険適用をするときに診断書を書くくらいでした。

 蓮風 はいはい。あれはねぇ、色々と考えがあるんだけれども。日本の医療の中では、患者さんにできるだけ負担がかからんようにするためにはそういうことが必要なんですね。それはあくまでも医者の方の監督下に置くという日本の医療制度の表れなんです。だから(鍼灸師には)独立した医者としての権限がない。これはしかし現段階では仕方がないかなと思うんですよね、将来は独立した東洋医学の医者、中国がやってるように「中医」と「西医」という関係になれば一番いいんだろうけども、今の段階では無理ないなと思います。

 児玉 あー、そうですか。<続く>

 ※現在の日本の医療制度では(1)神経痛(2)リウマチ(3)腰痛症(4)五十肩(5)頚腕症候群(6)頚椎捻挫後遺症、その他、これらに類似する疾患などに限り鍼灸治療への保険適用が可能。患者は、これからかかろうとする鍼灸院に問い合わせて用紙(同意書)をもらい、その用紙を治療を受けているかかりつけの医院・病院などに持参して必要事項を記入してもらう。

 または同意書の代わりに、病名、症状及び発病年月日が明記され鍼灸の治療が適当であると判断できる診断書を書いてもらう。その記入済みの書類と保険証、印鑑を鍼灸院に持参すれば、保険適用での治療が可能となる(ただし鍼灸院ごとに保険の取扱いが可能かどうかの確認が必要)。長期間にわたり治療する場合は3カ月ごとに医師の同意が必要となる。(「北辰会」註) 

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