医学ランキング

初回公開日 2011.9.25

鍼灸師の藤本蓮風さん(藤本漢祥院院長/北辰会代表)が「鍼(はり)」の力をさまざまスタイルで語る「蓮風の玉手箱」。今回からは中国文化などを研究している杉本雅子・帝塚山学院大学教授との対談をお送りします。鍼が取り持つ縁で、蓮風さんの中国語の先生もつとめる杉本さんの口からどんな話題が飛び出すでしょうか。玉手箱の蓋(ふた)がまた開いて鍼が開く新しい世界を見せてもらえそうです。(「産経関西」編集担当)

花

杉本雅子(すぎもと・まさこ) 岐阜県生まれ。お茶の水女子大学文教育学部文学科中国語学中国文学専攻卒業後、東京大学大学院人文科学研究科中国語学中国文学専攻課程修士課程に進学、同課程博士課程で単位を修得。現在、帝塚山学院大学教授。



 蓮風 先生にずっとここ数年中国語を学んでいながら、いっこうに上達しないで申し訳ありませんけれども、本人は一生懸命やる気でおりますんで(笑)。

 

 杉本 いえいえ、蓮風先生の上達はすばらしいですよ!

 

 蓮風 先生が大学で担当しておられる中国研究、中国語、情報処理、中国語コミュニケーション。専門分野で中国文化、中国現代社会など、すごいこといろいろやっておられるのですが、その中でも特に2年前の、大阪で開催された日本伝統鍼灸学会、わたくし、会頭でありまして、先生にご足労願って「中国伝統文化と中国医学」ということでご講演いただきました。これ非常に好評でした。

 

 杉本 ありがとうございます。

 

 蓮風 やはり内容が濃いもんだから、聞く者が聞くと迫力があって。特に鍼灸ジャーナリストの松田博公氏がとても褒めておりました。さすがいい人を連れてこられましたねと。

 

 杉本 そういっていただくと、私もうれしいですね。

 

 蓮風 そういうわけで、ひとつは先生のご専門の立場から鍼灸や、中国医学についての思いを語ってくださってもいいし、もうひとつは、今、先生にも鍼をぼつぼつ受けておられる、もともとは先生はね、私の患者さんで始まったのだし、仲良くさせてもらって、ご家族にも鍼をさせてもらって、そういうことから、まぁ言ってみれば素人の目で鍼受けられて、こういう感想があるけれど、どうなんだろうか、とご意見を伺ってもいいし、なにかまた別に面白い内容があれば伺いたいし、僕も喋りたいなと思っていますので、よろしくお願いします。

 

 杉本 はじめに、私が最初にまず患者としてやって来たことからお話しさせてもらおうと思いますが。もとはねぇ、急に、今までなったことのないぎっくり腰みたいなのになったんです。ギッギッ、立てない…みたいになって、家で這いながら。(笑)その時、最初に考えたのが、整形外科。整形に行って、レントゲン取って、「べつにどこも悪くないですよ」と言われて、湿布薬をもらう、これで長い時間かけておしまいやね。と思ったとき、「あ、鍼!」とピンと閃(ひらめ)いたんですね。受けたことなかったんですけど、やっぱり自分が中国っていうのをやってるせいか、レントゲンが決めるみたいな、そういう西洋医学のやり方に不信感みたいなのがあって…実は私、母が病気で倒れた時に、感じたんです。母は脳の動脈瘤の出血で亡くなったんですけれど、入院してたんですよね。その日、私が見ても、母の顔がおかしいんですよ。


 で、「おかしいんです」と先生に言っても「え、データは良くなってますよ。異常ありませんよ」と言われて。でも帰ったら、その日の晩に亡くなったんですよ、脳動脈瘤で。もうそこから、データしか見ない医者は医者じゃないという想いもあって。で、特にそういうのが顕著に現れてるのが、整形外科みたいに見えにくい所で、レントゲンにしか頼らないとこかな、というのがあったものですから、鍼、と急に思ったんですね。そこでインターネットで検索してホームページを見せていただいて。でもいくつもあるわけですよ、鍼灸院というのも。沢山あるんですよ。その中で決め手はね、胡散臭くなかった(笑)。胡散臭くないという言い方もおかしいですけど、先生が、うちでは漢方薬その他の販売は一切していませんと書いてらっしゃったんです。


 鍼だけで治す、ということで、他になんかいろんなもの勧めたりしていないと書いてあるんだから、ここはいいんじゃない?と思ったんです。混ざりもののない、鍼だけで先生が向き合う姿勢が見えた、ということなんです。で、やっていただいたら、やっぱり良くなって。でも、その時は1回良くなったんですけど、なぜかちょっとだけぶり返した感じだったんです。そしたら先生が、2回目の時にね、「オレの鍼はそんな安い鍼じゃない」と言われて「怖いわぁ…」と思って(笑)。でもそれでホントにすっきり治ってねぇ、すごいなぁ、不思議なもんやなぁ、こんなふうに簡単に痛みも取れるんだ、薬も使ってないですしねぇ。

 

 蓮風 で、その後、一樹先生がいらして。

 

 杉本 あ、夫が。

 杉本雅子1 

 蓮風 一樹先生が「先生、あちこちが辛(つら)い」と言うから、いつも頭に鍼打ってたら、先生が悪いこと言って。「そんなにアタマ悪かったんや」、言うて(笑)。悪い所に打つわけじゃないとか話したりして、というようなことでだんだん…。

 

 杉本 私自身が夫にも行けだの、娘にも行けだの、行け行け攻勢をしながら、自分はちっとも患者としては行ってないみたいなところはあったんですが。実際は先生に1本しか打っていただけなかったので、「これだけ?」ってすごく意外だったんです。なぜなら中国の鍼は、私自身は打ってはいませんけど、見て知ってはいましたから。こんなに長い鍼、あれは20センチくらい?もういくつも立てて、おそろしいほど沢山、身体に刺さってるのを知ってるんです。鍼とはああいうものだと思っていたので、「え?1本?」という感じがすごくしまして、意外でしたね。でも効くんですから、それはそれでと思ったら、あとで先生が、「ココもココもと刺したら、どこが効いたのかわからなくなってしまうから1本しか刺さない」と説明してくださった。北辰会の手法っていうのがあることを聞いて、それですごく納得したんですね。
 

 で、それがご縁で、もともと中国医学に興味があったわけではないのですが、たまたま伝統の文化が中国でどういうふうに扱われているかという変化が、ちょうど私がぎっくり腰でこちらに鍼に来ていたその頃、中国であったんです。それで自分でそれをテーマにずっと見ていたら、必ず中国医学というのにぶち当たるんですよ。そこがね、これが中国医学の特徴かっていうのをすごく感じたんです。先生もご存じのように、ずっと中国は中西医結合ですよね。中西医結合ということで毛沢東が主張してからそれが当たり前という感じになっていて、必ずしも中医のお医者さんが優遇されている状況ではないというのがあって、なのにそういう伝統文化という話が出てきたときに急にスポットライトを浴びたんですね。中国医学というものがスポットライトを浴びるというその状況がすごく意外な気もし、でも面白い気がしたんです。
 

 というのは、その後に、批判が起こってくるんですが、批判する人は文化として批判するわけではなくて、科学として批判するわけなんです。で、え?科学なの…?科学といっても実験室の科学ではなくて、実際にもう行われている治療法として向き合って、それを科学で解明できるか、みたいなのことを言うんですけれども、でもその前に中国医学って伝統文化なんじゃないの?伝統文化ということは伝統思想があって、その思想がないと生まれなかった文化で、文化なんだけれども実用で使われているというのはほかにはないんですね。中国医学しかないんですよ。文化っていうのは大体、不用品が多いですからね、どうでもいいというか…。

 

 蓮風 そう、ビタミンみたいなもんで。〈続く〉