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 鍼灸師の藤本蓮風さん(藤本漢祥院院長/北辰会代表)と中国を研究している杉本雅子・帝塚山学院大学教授との対談の3回目をお送りします。ご自身の体験をもと「鍼(はり)」を語る杉本教授と蓮風さんのやりとりを待ちかねていた方も多いようです。というわけで、前置きはこれくらいにしないと…。おふたりの鍼談義をお楽しみくださいね。(「産経関西」編集担当) 

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 蓮風  歴史的に見ると、我々が子供の頃は先生、「くさっぱち」いうの…。

 杉本  あれは多かったですね。

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 蓮風  あいつはなぁ、生の芋(いも)食べたり、生ものばっかり食うからあないなるんやって。頭にねぇ、おできみたいなんが、いっぱいできる。これを「くさっぱち」言うんです。

 杉本  切られました頭を。

 蓮風  ぼくらも切られたよ。

 杉本  手術されました。手術というか、切開みたいなのをされる。

 蓮風  今の子をみるとそれがない。

 杉本 中に溜まっちゃうんですかね。

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 蓮風 ところが、アトピーとか喘息になる。だから、生活の変化、特に食べ物の変化が大きいんだろうと。不思議なことに、インドネシアの方の原始的な生活をする人達は、あんまりアトピーないんですよ。調べるとねえ、不思議なことにお腹に回虫がおる。

 杉本  寄生虫でしょ。そうそう。お腹に寄生虫を飼ってるとアトピーにならないって言いますよね。

 蓮風  そうそう。寄生虫を飼っていると(笑)。

 杉本  大事に飼っておかないと(笑)。

 蓮風  何がどうしているかわからないけど、とにかく生活が変わった。

 杉本  そうですね。昔の子なんて本当に虫下しの薬を飲まされましたよ。

 蓮風  まくり? 海人草?

 杉本  なんだかわからないんですけど、飲まされたんですよ。虫下しっていうのを。蟯虫(ぎょうちゅう)検査なんて必ずやりましたしねえ。その頃はあまりアトピーなんてねえ、言われてなかったですよね。

 蓮風  ないない。その代わり、今はくさっぱちはないねえ。面白いですねえ。

 杉本  さっきの子(前回参照)の話に戻すと。その子、この間、たまたま職場の大学に連れてきてらっしゃって、「どう?」って聞いたら、「綺麗になったんですよ」って。いろいろ食べ物の制限をしているけど、綺麗になりましたって。見たら本当に綺麗になっていて。すごく可愛い子なんですよね。先生が時々、人助けだとおっしゃいますけど、私まで、「人助けした」みたいな感じがして(笑)。

 蓮風  それって一つ、なんていうか、このサイト(「蓮風の玉手箱」)のテーマなんですよ。あのね、知っとって治療をしないとかね、それは趣味だと思うんですよ。西洋医学はそれはそれでいいんや。ただ、残念なのが、鍼がこんだけの効果があって、病気を治してきた素晴らしい実績があるのに、それを知らずしてね、治る病気が治らなかったり…。私は口惜しい。

 杉本  本当ですよね。

 蓮風  そのためには、ちょっとずつでも素人さんにわかってもらおう、っていうことが私達の運動なんですよ。

杉本  私なんか、誰かが調子悪いって言うとついつい「鍼」って言っちゃうんですよ。いい先生いるよ、学園前だけどって言ったりして。やっぱり、選択肢として鍼を受けるっていう選択肢を持っているか持ってないかって、全然違うと思うんですね。まあ、自分がそれを体験した、身をもって実感したからこそ言えるって部分があるんでしょうけど、選択肢としてそれを持っていないとね。普通は日本の患者はやっぱり一番には西洋医に行きますよね。行って検査してもらうってことが当たり前で、私もまぁそれはするんですよ。現状認識は大事ですからね。するんですけれど、検査は検査。検査結果を受けて、さてどう治療するか、そこは自分で選択したいですね。先生もよく(鍼灸治療をする内科医)の村井和(むらい・かず)先生と写真なんかで、治ったかどうかのチェックをされたりしますよね。

 蓮風  あの、ぼくはね、村井先生とのコンビを組んでやっているのは、先程言いましたように、この医学は形のない医学。これが治ったと言うことを説明するのは、先程のアトピーの患者が治ったと言うのは誰が見たってわかる。

 杉本  そうですね(笑)。

 蓮風  ところが、内臓の病気とかもっと重い病気の場合は、簡単にわからん。それを我々は脈とか舌とかでちゃんと証明できるんだけども、世間にはわからん。そこで、たまたま形を専門とする西洋医学の村井先生は、特に東洋医学に対するシンパですから、西洋医学もやっておられるんで、先生こんなん治ったらこれ西洋医学的にどうなるかなってことで、できるだけ形に表してもらって、それが今、『鍼灸ジャーナル』という専門雑誌の難病診療シリーズになっている。ただ、先程の根本問題は、その形のない医学やから、形に出ない場合がよくある。実際はよくなっとっても。それはどうするかっていうとね、今後の問題ですわ。事実として私はとにかく残す。西洋医学でいくら検査しても治った証明にならないことってたくさんあるんです。

 あのね、例えば目が悪いとするでしょ。緑内障で何人か治したんだけども、西洋医学の視力検査に出てくるやつもあるし、全然出んやつもある。せやけども、現実に今まで見えんかったやつが見えだしたんだから見えてるわけや。だから、それが数値に現れないっていうだけで、効いてる、効いてないっていうものさしがやっぱりおかしい。

 杉本  そうですよねえ。うちの犬が一回ね、何食べても吐く時期があってかかりつけの獣医さんに連れて行ってる たんです。そのとき検査したら、「すごく肝臓が悪くなってる」って…。で、蓮風先生に相談にうかがったら、金属の串?棒?みたいのをチョンチョンって犬の背中に撫でるようにやってくださって、そしたら、すごく元気になっていったんです。あぁよかった。治ったわ」って思って、で、病院にいって血液をしたらね、その獣医さんがね、首かしげて言うんです、「おかしいな…こんな肝臓の値で」って。血液検査の値はよくなっていなかったんですね。よくないんですけど、この状態とこの血液検査の値が全然あってない。信じられないって。こんなの有り得ないって。もう獣医さんの頭、クエスチョンマークいっぱいになってしまって。

 蓮風  だから、そこに、生命というのも見方の違いがあるし、治った治ってないってことの基準がなんなのか。ぼくは患者さんが「あぁ楽になった」って日々の生活に問題なく生活できればねぇ、それは治ったとみていいと思うんですよ。

 杉本  でもね、少し遅れて血液検査も良くなっていくんですよ。別に薬も飲んでないのに。

 蓮風  そうそうそう、遅れて良くなって行く場合もある。

 杉本  少し遅れて良くなっているんです。良くなっているんだけど、とにかく再検査のあとで、出てくるなりね、首かしげて、「おかしいなぁ…この元気な様子とこの血液検査の結果は全然一致しない…。本当に不思議でしょうがない」 。

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 蓮風  だからね、それは昔の思想に戻ると、「形」というものは無形の「気」から成り立つ。で、気が先行するんです。それをぼくが説明するのに、「歩く足」と「歩く足がつけた足跡」の問題、足跡は形なんです。だから気が先行すると、先程のデータは遅れているかもしれない。

 杉本  うーん。あるかもしれないですねぇ。本当にねぇ。全体からじっくりとね。元々、まぁ東洋医学って、劇的な変化をバンって急に起こすものとちょっと違いますよね。

 蓮風  違いますねぇ。

 杉本  体調を整えるところから始まる。

 蓮風  だから、ある患者さんは面白いこと言って、私のところに30年かかっている患者さんが、「今、私風邪を引いているけれど、西洋医学にかかっても治るんだ。先生の鍼を受けても治る。でも、どこが違うかって言うとね、非常に気持ちよく治る。西洋医学やってね、注射一本打って、気持ちよく治った試しがない」って。だから、これは趣味の問題かな。

 杉本  趣味ですか(笑)。

 蓮風  うん。だから、私は気持ちよく治る医学。病気が治るか、治らないかって言ったら風邪も治る。せやけども、不思議なことだけれども、鍼を打ってもらうと気持ちよく治る、っていうこと言いましたね。これはまた一つの、医学の違いが出ているんじゃないでしょうかね。

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 杉本  でも、逆にね。この間の、私のギックリ腰の時には、一回で劇的に治るわけですよ。

 蓮風  そうそう。

 杉本  そこら辺がねぇ、すごい、不思議でしょうがないですよね。で、どういう違いがあるんでしょう?ゆっくり治るタイプと、即効性のタイプ…。

 蓮風  それはねぇ、「身体」と「病気」と「タイミング」ですわ。はい。だから、それ3つをふまえて、ちゃんとやったら、いつでも即効的ですわ。今日も、あの乳癌で、左の乳癌を取って、左肩があがらんかった患者が来たんや。それでぼくが左足のこの、外くるぶしの辺に鍼を一本打った。すると左肩が動き出した。だから、古いから時間がかかるっちゅうわけではない。今言うように、いろんな条件があって、条件をたくみに利用すると早い。

 杉本  なるほど。でもね、選択肢の一つに鍼があって、治ることを知らない人に教えたいって先生はおっしゃったけど、どの鍼もいいっていうわけにはやっぱりなかなかいかないですよね。

 蓮風  そうそう。だから、それはね、この業界の側の問題なんです。これはやっぱり、一つはあの明治時代にとにかく、鍼灸、按摩をひとからめにしてね、社会福祉的な立場で、政府はある意味で援護したと。逆に言えば、それがもう医学としては堕落なんです。その程度の勉強しかしない。それからそれがもう常識化してやはり、本当にすごいことやっているのに、昔の鍼はすごかったのに、そういう勉強を一切しないでやる。だから、段々、段々レベルが落ちた。そして、それをなんとか糊塗しようとして科学的な装いをする。さっきのレッテル貼りをやりだす。どこそこ大学の先生はこの鍼はこう効いたっておっしゃったっていうね、レッテル貼りをやりだす。おかしい。本当に効いたら、そんなもんどうでもええやん。だから、本当の勉強をして、本当の鍼をやれば、必ず患者さんは付いて来る。そのことをずっと私は40年間叫びっぱなし。未だにこう「独り言」とかなんだかんだ、ガムテープ貼られても、はがしてしゃべっているというような実態がある(笑)。 <続く>