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中国を研究している杉本雅子・帝塚山学院大学教授と鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の第4回をお届けします。内容はさらに率直さを増して「過激」と感じる方もいらっしゃるかも…。対談発信の場を提供させていただいている「産経関西」は異論・反論も受け付けます。医療は患者や社会のために存在するのが本来の姿ですから、その実現のためにも、さまざまな立場からの発言は常識の範囲内で歓迎します。今回は蓮風さんが代表をつとめる「北辰会」が対談を収録した動画の一部も公開します。少々、音声などがよくないですが、雰囲気を感じてみてください。(「産経関西」編集担当)

杉本 この頃ね、西洋のお医者さんでも鍼灸みたいなことをやる人がいたりするじゃないですか。これ、前に、中国語の教室のときにしゃべったと思いますけど、テレビで「夏の女性の病に効く鍼(はり)、これだけを知っていれば○○が治る」みたいなのをやってたんで、ちょっと期待して見てたんですよ。でもね、そこでやってたのって、肩が凝(こ)っている人だったら、肩に鍼を、だったんですよ。えっ、肩凝ったら肩?って、それは私、自分でも普通に触るし、当たり前じゃないって。でも、先生のところで鍼を打ってもらおうと思うと、うちの夫じゃないですけれど、頭悪くないのに頭に鍼がくる(笑)。

蓮風 あっはっは(笑)。あれはおかしかった。
杉本 私には楽しみでいいんですけれど、また頭、やっぱり頭悪いのねって言えますからねぇ。でも、先生は、私の背中触って、ここがおかしいって言いながら、今日は指とか、お腹なのに足とかね。そういう全然違うところに鍼がくる。そういうふうに打ってくれる先生ばかりじゃないですよねっていう意味だったんです。つまり、症状が出ている場所が鍼を打つべきツボっていうのは本当にそうなの?っていうね。これって、もしかしたら、鍼灸学校の教育ですかね?
蓮風 そうそう。
杉本 北辰会だったら古典から学んで、本当の理論みたいな、そこにある中医学の思想って言うんですかね、そこのところを学んでいるけれども、鍼灸学校で、その大本を抜きにして、「はい、ここにツボがあります。で、打つときはこの角度で、こうやって刺しましょう」みたいなことだけをやってきていると、結局、西洋医学で、「あぁ風邪?頭痛い?はい頭痛薬出します」っていうのと、同じことになっちゃうんじゃないかなって思って。
蓮風 一緒、一緒、全く。全くその通り。
杉本 そしたら、東洋医学じゃないんじゃないですかね。いってみれば、頭痛薬に変えて鍼を持っているだけの対症療法になってしまう。だからそこら辺は確かに先生がおっしゃったみたいに、鍼全体の問題としてはあるかも知れないですよね。まぁ、それ、中国の問題としてもあるんでしょうかね。

杉本 私が中国を貶(おとし)めているみたいな(笑)。犯人にしないでくださいね。だけど、実はね、広州中医薬大学の学術大会、論文の締め切り8月31日(注:対談は8月4日)でいいよって言われて、書きかけているのがあるんですよ。中国医学っていうのはこのままでいくと、将来的に、中が本当にふるさとだったのか、韓なのか、日なのか、それとも全然よその文化になってしまうのかっていう問題があって、そうそう、他の多くの文化みたいに、本場だったはずの中国ではなくなってしまって、中国へ行ったけれど、本当の中国医学はもうないっていうね。今、実は中国、後悔しているんですよ、それを。かなり韓国にいろんな文化を持っていかれてしまって、それに気付いた。気付いたけれども、なかなか難しいですよね…。一回失ったものは。なかなか取り戻せない。もう、一朝一夕では無理なんで、ものすごい時間がかかる。それを今、やる気があるかどうか。広州の鄧鉄涛先生なんかそれで頑張っているんですけれどね。今やらないと…。
たとえば中国のドラマなんかを見ていても、鍼が出てくるってことがないんですよ。鍼の医者をテーマにしたようなドラマとかはあるんですよね。でも、まぁ普通のドラマに出てくるような日常生活で、鍼を受けに行っている姿みたいなの、あまり見たことがないんですよ。多いのは、西洋医の病院に行って、お金をたんまり包んで手術してもらうとかね(笑)。そんなのは多いんですけどね。それに引きかえね、韓国のドラマを見ていると、しょっちゅう出てくるんですよね。ちょっと、食べ過ぎた、胃がもたれたとかだったらね、このくらいの石鹸箱みたいな大きさのを出して、カパって開けて、中から鍼出して、「手出してごらん」って言って、ここら辺にちょんってなんかして、瀉血みたいなことしたりもしますね。それでこれで気分が良くなるんだよって言って、ある時はまたなんか「お父さん!清心丸!」って言って牛黄清心丸を、かぁーっとなっちゃったおじいちゃんに飲ませたりね。そういうの見てると、韓国の方が、中国より遥かに日常化している。
で、日本は日本で、また違う。私たちだれも、普段から鍼を習ったりはしてませんからね。で、どういうふうにこれからなっていくのかなってとこに私の関心はあるんですね。中国は中国で、本家を取り戻す気があるのか、韓国は韓国で韓国のツボってのを発表して、これがまた中国との揉め事の種になっていますけれども、鍼を輸出するものとして推したりして。韓国が海外へ売れる輸出品みたいにね。中国はどっちかっていうと「中国薬」の方を輸出品ととらえて推してる。
蓮風 そうですね。「中医薬」です。
杉本 中国薬、漢方薬の方を売り出す気は満々なんですけれどね、なかなか鍼灸の方にはいきにくい。たぶんそれはね、鍛錬が必要だからだって思うんですよ。薬はものですから、簡単に売れるしね。でも鍼はそういうわけにはいかない。勉強があって、本当にどこにどうやって打ったら治療できるかってことがわかっていないと、売れない。鍼灸を売り出すってことは、つまり人間ですよね、鍼灸ができる人間。だから、むつかしい。
蓮風 だからねぇ、中国医学の歴史の中で、中国の唐の時代の漢方医学の専門書なんだけれど『外台秘要』っていうのに、薬は確かに効くんだって。ところがねぇ、鍼を用いると、人を殺すことはできるけれど、治せないって。専門書が書いているんです。歴史的にみるとね。またそれに対する反論の本もあるし。だから、中国医学自体が、そういう、この今先生がおっしゃるようにテクニックに関わって、非常にやっぱ難しい医学やなっていうことがあった。それがまた、最近では近代ではその清朝にね、鍼をやるなという。一時的に鍼の禁止令が百年から百五十年くらい出ているんです。危なくって、人の病気を治すどころじゃない、あれは殺すぞと、そういう認識があった。だからねぇ、鍼灸は漢方医学の中で特殊と言ったら特殊なんですねぇ。
杉本 そうなんですね。薬とは違って、さっき先生がおっしゃったように、速効性もある。速効性があるってことは、そういうちょっと紙一重みたいなとこがね。
蓮風 そうなんです。いやっ、昨日ね、また面白いんですけれど、京都大学出の30歳代の秀才で、「西洋医学はだめなんだ」って最初から言うんですよ。で、そのくせ自分は某学会の講師をやってらっしゃるんです。で、自分が腰痛いんで、いろいろやったけれど治らん。そこで、当院で、ちょっと鍼をしてみた。「鍼した後どうやった?」って聞いたら、「なんか息が止まるくらい眠くなった」って。
杉本 ほぉ。
蓮風 これ効いた?って聞いたら、「間違いなく効いてる」って言った。だから、この方もドクターなんだけれどね、今は若い人が意外とねぇ、なんらかのきっかけで一回鍼を受けたら、鍼が効くんだってことを知っていますね。下手に、年寄りはもうだめですわ。
杉本 頭かたいですからね(笑)。
蓮風 うん。意外とね、若い人はねぇ、自分で体験した事実を言いますから、あの、僕はそういう意味でちょっと希望が持てるかなって、そういう気がしてるんですわ。まぁ、先ほどの中国の話、韓国の話があるし、日本の伝統医学とかなんとか言っているけどね、まぁそれはそれとして大事なことなんだけど、問題は患者さんがついてくるかどうかなんです。医学なんだから、先ほどの話、伝統文化であり、実用の学なんだから、それは実際に有効でないと意味がない。
杉本 そうなんですよね。まぁ文化として学ぶのは、その鍼の先生達に学んでいただくとして、私たち患者にとっては、治ればいいだけのことですけどね。
蓮風 患者にしたらね。
杉本 患者にしたら、別に理論はどうでもいい、治ればいいっていうのが本音。本当に効いたらいいんですよね。なにかで証明されなければいけない訳じゃないですから、治ることが要件なんで、知りたいのは治るかどうかってこと。でも先生たちには治すために勉強してもらわないと。
蓮風 そうなんです。そこから発して、東洋医学の原点に戻って、そしてその理論を使うと、先生ご存じかなぁ、先天的な病、血友病による出血が止まらない、当院のある患者、様子が改善してきましたよ。
杉本 えっ。男性に圧倒的に多いとされる遺伝子病、遺伝病ですよね。
蓮風 出血が止まらんようになる、血液の凝固因子云々の問題で止血しにくくなる病気です。
杉本 あれって、先生すみません…。遺伝子の問題じゃないんですか?
蓮風 だから、それが西洋医学なんです。
杉本 そうそう。だから、今それで聞いたんです。あれはあの、学校で習っていますから。血友病イコール遺伝病、ってことは遺伝子が悪さしてるなって思ってますから。
蓮風 とりあえずは、その、遺伝子の病。西洋医学的に、今の常識ではね。それと、もう一つはダウン症。それはよくなるよ。
杉本 ダウン症はねぇ、先生のところで何人か見ましたけれどね。
蓮風 よくなる。
杉本 顔が変わってくるって。
蓮風 これはねぇ、やっぱり今言うようにねぇ、理屈はともかくねぇ、事実として起こるんですよ。だから、何で?って言われたら、あんたら説明してって(笑) 。説明して欲しい。ただ、鍼を上手に巧みに使って、あの、『素問』『霊枢』の教えのように局部に鍼するんじゃなしに、気の歪みを治すと、そういう理論でもってやれば、ある意味で奇跡みたいなことを起こすことができる。〈続く〉
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