2012(平成24)年を迎えて2回目の「蓮風の玉手箱」をお届けします。社会の高齢化が国の財政を圧迫の大きな要因となり、国全体の活力も奪っていく現実が明らかにになってきています。消費税問題などとも絡んで今後、医療費の問題がさらにクローズアップされてくるのは間違いありません。自分の身体のことなのに病院に頼り切りでいいのか? 九州大学大学院医学研究院教授(麻酔・蘇生学分野)の外須美夫さんと鍼灸師の藤本蓮風さんと今回のお話しは日本の医療の将来像を描く大きなヒントになっているような気がします。みなさんはどのような意見をお持ちになるでしょうか。とにかくじっくり読んでみてくださいね。(「産経関西」編集担当)
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 外 東洋医学の魅力は、調和という全体で見る考え方ですね。

 蓮風 はいはい。

 外 東洋医学は根本を治そうとするじゃないですか。そこが長所であり、そこでは「等置」(前回参照)とは違う考え方でいいと思います。

 蓮風 そういう点から言うと、先ほど先生が仰ったように、この各部門、分解してやっているのと、総合して診る監視役が必要ですね。

 外 うんうん。

 蓮風 それは東洋医学にはなれないでしょうかね?

 外 いや、なれると思います。

 蓮風 そうですか。

 外 東洋医学だけだと、西洋医学の細かい所はわかりにくい。西洋医学の持つ大きな力というのがあると思うので、やっぱりそこを分かった上で見ていく。

 蓮風 それはそうですね。かつて中国では、よく『中西医合作』と言われたのですが…。ご存じですか? これ毛沢東が言った言葉なんですけどね。あのー、西洋の医学も医学で立派なんだけど、中国の発想によってできた漢方医学もあると。これがひとつになれば、素晴らしい医学になるんじゃないのかと。

 外 うん。

 蓮風 これが現代中国の中医学と西医学の、その発展の大本をなしているんです。今はまただいぶ変わってきましたけども。だからまぁ、西洋医学もない東洋医学もないひとつのものを作ろうという、そういう発想もあるんですよ。で、事実鍼灸界には代田文誌(しろた・ぶんし、鍼灸師、故人)とかあの辺りはやっぱり、西洋とか東洋じゃないんだと、次の医学を作る、それは東洋でも西洋でもないひとつの融合した世界だという人もおるんですよ。その辺りを先生にも話を聞きたいと思うんですが。

 外 どうですかね。合作というか融合しなければいけないのは確かなのですが。多分ですね、西洋医学をやっている人は東洋医学の考え方を納得できないと思います。

 蓮風 そうですよね。ほとんどね。ほとんどがそうだと思います。

 外 だから私が今大学病院でそういう事を言ったり、鍼を刺したりしても、若い人たちは何をやっているのですかという感じです。

 蓮風 あやしげなことを。

 外 だからあとは患者さんがどうするかいうことです。今の患者さんのニーズもだいぶ変わってきていると思います。で、これからは特にもっと大きく変わるでしょう。これから高齢化が進んで、攻めの医療じゃなくて、守りの医療というか、いわゆる優しい医療というのですかね。そういう医療が求められるわけで、しかも医療費の削減ということもあるでしょう。強力な西洋医学の攻めでかえって苦しめてしまうのではなくて、穏やかな医療に道があるのではないでしょうか。合作とか、一緒に取り込むというところにはあまり感心しません。

 蓮風 感心しない?

 外 うーん。西洋医学の人たちはそういう思いにならない。

 蓮風 全然知らんふりしてますね。

 外 中々そこに向いていかない。

 蓮風 で、僕はね、やっぱりこの、根本的に、形の医学と形で無い医学ということ、それからやっぱし、生命観が違いますよね。さっき仰ったように、あのー部分部分のあれが繋がってできた全体じゃなしに、東洋の場合気というものによって統一されているわけですから、従ってその生命観が違えば、やはりあの、それぞれの医学であっても、簡単に一つにならないだろうし、する必要も無い。ところが現代の鄧鉄涛という漢方の偉大な方は、現在はそれでいいんだと。しかし、将来同じ生命観が出てくるかもしれない。

 外 うんうん。

 蓮風 その時はひとつになるのかもしれないと仰っているんですね。

 外 うん。

 蓮風 これよくわかるんですよ。

 外 うん。
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 蓮風 だから僕たちは今、西洋医学を、まぁ、お互いに良さを認めるならばね、あの、合作じゃなしに協力という概念。互いに「こんな時は助けて頂戴よ」「じゃあやりましょう」「僕らも困るからちょっと助けてよ」という具合に。

 外 ええ。そうだと思います。

 蓮風 はい。実はそういう鍼灸医療病院みたいなものをね。

 外 ほぉ。

 蓮風 はい、ひとつは構想も持っている。

 外 うん。

 蓮風 はい、だから西洋医の先生にも来てもらうんだけど、あくまで鍼灸を中心として、この病院の場合は、西洋医学に「あぁ、これちょっと我々では弱いから手伝って」って。
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 外 いやぁ、そういう病院ができればまた画期的だと思います。そうやって確実に地道に広がっていって欲しい。

 蓮風 そうそう。だからこういう合作とかなんとかじゃなしに、この医学特有のものを大事にしながらね。ただ西洋医学も立派なことをやっているわけやから、先ほど先生が仰るように、長所短所があるならば、短所がある場合は補ってよと。

 外 そうそう。

 蓮風 これはお互いありうると思う。だからそれを私は協力という概念で話しているわけなんですけども。

 外 そうですね。

 蓮風 はい。まぁ勝手なことばっかり言うてるけど。さぁいよいよもう、大詰めになってきているわけなんですけども。西洋医学も東洋医学も実際はどうですかね、あの、患者さんのためにどういう方向に向かった方が、先生は理想的というか、こうあるべき、というような形があったら仰って頂きたいのですが。
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 外 ひとつは患者側ももうちょっと学ばなければいけないと思います。例えば、東洋医学だけを求める人もいますね。最初から西洋医学だけを求める人もいます。やっぱり頼りすぎている。もっと自分で考えて欲しい。

 蓮風 自分で選ぶと。

 外 それならいいのですが。そして、今のところ、多くはやっぱり西洋医学の薬、薬というように、薬神話がありますね。あれは大きな問題で、病院に行って、なんか薬下さいっていうわけです。

 蓮風 そうそうそうそう。

 外 薬なしで生活を変えましょうとか、別なことを言ったら、そういう医者は求められないわけです。医者は患者さんに薬をくれる人になっています。それは間違った方向だと思います。

 蓮風 そうやろうなぁ。

 外 だから、根本的にはそういうところも変わらなければいけないと思います。医療も変わらなければいけない。東洋医学では未病って言うんですか。
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 蓮風 未病ね。未だ病にならざるを治す。と。

 外 そうそう。そこが大事なポイントです。

 蓮風 そうですね。だから病気じゃないんやけど、病気の前段階であるということ。

 外 私はそれが東洋医学が発展する非常に大事なところだと思います。

 蓮風 そうですね。

 外 健康というものを考えると、病気があって、何か異常があって、病院に行きます。しかし、最近は、生活習慣病であったり、生活が狂っていたり、食べ過ぎたり、飲み過ぎたりして病気になる。それらの全部の結果を病院で治して貰おうと考えている。自分には責任は無いのだから、薬で治してくれと言う。

 蓮風 で、治らんかったら医者が悪いという(笑)。

 外 そうです。医療がなんとかしてくれるという思いがある。

 蓮風 ありますね。

 外 それは誤っていると思います。

 蓮風 うーん。

 外 病気にならない為にどうしたらいいか。そしてそれは、東洋医学の力が発揮されてもいいところじゃないかなと思います。

 蓮風 だから、まぁ、私は毎日の診療の中で、大病になりたくなかったらね、健康維持に予防に治療しなさいと。それこそ本当の東洋医学なんだよって。で、その中で僕は、色んな小言を言うけれども、やっぱり生活を正さんと、だめですよね。まぁ私、酒飲みで、まぁ酒で死ぬのかもしらんけど(笑)。〈続く〉