鍼(はり)の力を伝える「蓮風の玉手箱」は今回が関西外国語大学名誉教授の小山揚子さんと鍼灸師の藤本蓮風さんの対談の最終回になります。小山さんは長年、患者の立場で蓮風さんと接してこられて自身の体験で鍼に高い信頼を寄せていることが伝わってきます。背景にあるのは鍼の治療が理にかなっているという安心感かも。その気持ちは「鍼を知らないのはもったいない」と言い換えられるかもしれません。お二人の口からは現代医学への辛辣な批判も出てきましたが、今回は東洋と西洋の医学がうまく融合すれば患者さんはもっと楽な治療を受けられるはず、というお話です。(「産経関西」編集担当)
蓮風 「東洋医学と西洋医学の両者の関係は患者さんにとってどうあるべきであろうか」という、問題なんですが。
小山 理想的に言えばこの間の、シンポのドクターのように、西洋医学を当然知っていて、東洋医学にも理解があるという先生がいて下さって、西洋医学ではこういう治療法があります、だけど、オルタナティブ(代替手段)にはこういう風なのがありますってキチンと説明をして、患者にどちらかを選ばせるというのが、理想的だと思います。しかし、それはある意味では患者に対して非常に厳しい選択を迫るのではないかと思う。だから、患者の方もどちらかを選ぶより医者にまかせてしまう、もう、手術をしちゃいました、はい、抗癌(がん)治療しました、はい、もうこれ以上期待できないから、ハイさようならというように。それで慌てて、東洋医学の方に行くと、東洋医学の先生はもうちょっと早く来てくれればと(笑)…。もうちょっとラクに手の打ちようがあったのにということになるんだろうと思うので、そういう意味で、理想的には両方の医学を知っている先生が増えればな、と思います。
蓮風 僕は内科のドクター達とたくさん付き合って意見交換していますが、西洋医学と東洋医学は両方必要なのはわかる。だけど、ひとつの発想として、東洋医学を中心にやっておいて、何ぞの時にちょっと手伝いしてくれるのが西洋医学やったら、面白い病院ができるんじゃないかなって思っています。
小山 発想の転換ですね。
蓮風 「鍼灸病院」なるものを考えているんです。僕のひとつの発想としては、東洋医学を中心にやっておいて、どうしてもいかんときは西洋医学にお手伝いしていただくというシステムの病院です。
小山 そうですね。主人(小山修三・国立民族学博物館名誉教授)が虫垂炎になったときに先生が診てすぐ手術のできる病院に送り込んでくださった、あの時の判断の適確さに感銘を受けました。先生のおっしゃる鍼灸病院ができれば理想的ですね。
蓮風 はい。そうですね。 あんまり患者さんに苦痛じゃない診方をして、苦痛でない治療をやってもらって、それでいかん時は西洋医学に「ちょっと手伝ってよ」って、できればいいなっと思ってるんですよ。某国立大学の地震専門の学者がここへ来とるんですがね。この人は勉強よくできるから一生懸命やるんだけど、心臓が悪くなって、多分あれ狭心症か心筋梗塞まで行ってると思うけど、冠状動脈にステント入れてるんですね。それで何とかこう拡張して、心筋を助けたわけやけど、それから後でも発作がしょっちゅう起こるんです。
小山 うん。
蓮風 どうにもならんからって言うて、その、ご家族の方は私のところに何十年来てる方だったんで、お前あれ(鍼灸に)行ってみてってことで来院されました。
小山 うん。
蓮風 そして、鍼やったら難なくもう、発作起こらんようになった。
小山 ふーん。
蓮風 ただ最近は、無理するんで、何か貧血様の症状が起こると言うけど、もう心臓は全然何ともないですね。
小山 うん。
蓮風 で、こうしてみると、やっぱりこの東洋医学はもっとね、前に出て患者さん救わなあかん気がします。だから東洋医学で本当のプロの診立てのできる者と、で西洋医学の腕のある人とが組んだ時にどういうことになるんかなぁっちゅうこともひとつ考えているんです。
小山 そうですよね。
蓮風 手術して(体内に)水が溜まることがある。水が溜まるっていうのは、やっぱり、理由があるんだ。膝もそうなんですが、(小山)先生も膝で苦労されたんですよね。
小山 えぇ(笑)。
蓮風 もう僕がお手上げの時があって、先生も整形外科で手術した方がいいじゃないかって仰って、で、行ったら実際、もう、あの、骨がガサガサになってるからどうしようもないって…。で、人工関節かって話まで出ましたね。
小山 出ました。私はわりと活動的なのにあんまり出歩けないので、出歩かないっていうのがストレスになるんですね。3カ月くらいしたら、もうこんなストレスは嫌だから先生もう手術しますって言ったら「ちょっと待ってくれちょっと待ってくれ、もうちょっと僕に任せてくれ」って仰られて、刺絡を始めたんです。
蓮風 そうそう。
小山 おかげさまで、痛みが無くなった。長い間歩くとやはり、まだ途中で休みますけれど。
蓮風 それぞれの医療の考え方についてどうですか。一方は、あの、骨がダメだから人工関節。で他方は気血の流れが悪いから、でまぁ刺絡を通じて、気血を流れるように。で、それでもまだ不便なところあるけど、まぁ、あの、そこそこ…。
小山 私としては人間の身体っていうのは完成品だから、パーツ取り替えても、絶対そう上手くいかないんじゃないかなっていうのは、頭の片隅にありました。先生が「ちょっと待ってくれ」って仰ったので、あぁ助かったって思っていたんです。
蓮風 医療人として、治らんものを引き止めるんも、かなり神経使うんですよ。
小山 えぇえぇ。そうだと思います。
蓮風 だけどね、小山先生は、西洋医学よりも東洋医学を選んでずっと鍼ばっかりやってきて、今更ね、西洋医学いうのはおかしいし、やっぱり酷だなって思ったんで、何とか工夫して。
小山 歩くとかそういうことに関しては手術の方が回復したかもしれませんけど、体全体のバランスとしては、どうなのかなぁっていうのが私の、正直な疑問でした。
蓮風 そうですね。まぁハッキリ言ってその、古くなれば痛みますからね。
小山 そうですそうです。もう何十年も使っているから。
蓮風 どの程度改善するかって問題ですよね。で、西洋医学のとにかくパーツやからということでその部分を取り替えようと人工関節にしたからって100パーセント上手くいくかっていうのは、これはまた、色々ありますしね。
小山 そうですね。
蓮風 我々の方で治せたらそれが一番、患者さんにとってはね、良いことだなって気はするんですけども。そのほかどうですか、西洋医学と東洋医学はどういう関係にあった方が患者の立場として良いと思われますか。
小山 どうでしょうね。
蓮風 「この病気には、この東洋医学の方がいいですよ」とか「この病気だから西洋医学行った方がいいですよ」とアドバイスできるコンサルタントの役割ができる人がいれば、どうでしょう。
小山 うーん。でも、万一私がそういうコンサルタントになったら、やりにくい仕事ですよね。
蓮風 ははは(笑)。
小山 コンサルタントの方が、ストレスで倒れてしまいそう。
蓮風 (大笑いして)なるほどね、なかなか難しいですね。
小山 えぇ。だからそれが、まぁ、患者がどちらか選ばなくてはいけない、患者のリスクとして選ぶというのは、それはそれで大変ですけど、一回で済みます。ところが、そのコンサルタントっていうのはそういう方を何人も相手にするわけだから、えらいことだと思います。
蓮風 そうですね。
小山 うーん、だから現実的にどうなんでしょうか。
蓮風 コンサルタント自体の問題がありますよね。なるほど。
小山 だから、私としてはやはり、もう、何十年も先生のお世話になったので、あぁ鍼灸あたりで、ちょっとそれで、手に負えないとか、こっちの方が効果的という時に、西洋の医学が、お手伝いに入ってくれるような、そういう医療施設があったらいいですね。
蓮風 そうですね。やっぱり鍼灸病院ですね、結局。
小山 えぇ。
蓮風 さっきの話にちょっと戻るんですけど、水が溜まるという現象は膝でも心臓でも、それから癌でも胸とかお腹に水が溜まる。これは原理は一緒だと思うんです。水が溜まるというのはね、中に熱がこもるということなんですよ。
小山 うんうん。
蓮風 熱を冷やそうとして水が溜まるんです。ドクターのところ行くと、水を抜く。(膝などの場合)抜くと確かに歩くのは楽なんだ。そやけど、すぐにまた溜まるんですね。
小山 うん。
蓮風 何でかというと、いろんな薬液を注射したりするようですけども、その熱をとりきる治療になっていないんでしょうね。
小山 うん。
蓮風 そういう考え方を持つと、癌の胸腹水に対しても、この頃、それを解消する術がわかってきまして、やってるんですけども。あの、水が溜まること自体がやっぱ、身体の異変を示しているわけですね。本当に長時間ありがとうございました。
小山 いいえ、全然たいそうな話ができませんで、申し訳ありません。
蓮風 充分です。患者さんの立場で語って貰ったのは、蓮風の玉手箱で初めてですので、非常に参考になりました。
小山 とにかく未病の状態を保って、どうにかその、大騒ぎにならないで済むというのも、非常に患者として助かります。<終わり>
★次回は鍼灸ジャーナリストの松田博公さんとの対談をお届けします。
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