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藤本蓮風さん=奈良市の藤本漢祥院
鍼(はり)の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。鍼灸師の藤本蓮風さんが正倉院事務所長の杉本一樹さんをお迎えした対談の7回目です。これまでの杉本さんのご説明で、正倉院や、その宝物は時間を超えて存在する過去の遺物ではなく、現在も生き続けていることがわかったような気がします。ただし“超高齢”。おつきあいの仕方が大切になってくるわけですね。歴史学と医学には似た部分も多いようです。逆に考えると同じ地球の上のことなのですから似てるのが当然で、あまり几帳面に分類しようとすると無理が出てくるのかもしれません。(「産経関西」編集担当)
蓮風 ある意味、日本ではメジャーとはいえない鍼灸などの東洋医学が今後発展するにはどうしたらいいでしょうかね?
結局のところ、患者さんを治療して、その実績で信用を得て、世の中に広がっていくというのが一番の基本でしょうけど、もうちょっと幅広くというか、力強く前進できる方法はないでしょうか?
杉本 難しいですね。例えば対外的に宣伝をうってね。それにもプラスの面とマイナスの面とあると思います。正倉院の展覧会も、ずいぶん効果があって最近は多くの方が来てくださるわけですけど、それによる保存上のデメリットもゼロではない。よく関係者の間では、これをできるだけ少なくしなきゃいけないというようなことは話しています。発展というと難しいですね。ただ、こちらの場合は、その根本の考え方をよく分かっておられる人を育てる、ということを非常に重視している。この点は、それでいいと思います。
蓮風 一方、薬でない薬、サプリメントも非常に流行っています。僕の目から見ますとあれはほとんど薬ですから、乱用されるのは非常に危険だと思うんです。分かって使えばいいけれど、我々から見とってもどういう目的でやっているか、なんでこんだけのもんをようけ入れなあかんのか、よく分からんことたくさんあるんです。例えば、貝のシジミだけのエキス。その成分だけを摂るんなら分かるんですが、何かもうあれこれ入れて万能薬のように言うておる。非常に危険だと思うんですが。先生はどうですか? サプリメントみたいなものは。
杉本 ねぇ。まぁ、家にありますけれどもね(笑)。
蓮風 はははっ(笑)。正倉院にはそういうサプリメントみたいなものないですか?
杉本 そうですね。正倉院にはないですね。ただし、先ほどの薬の名前を、あとでよくご覧になったら、これはサプリメントだというものも…。人参なんてのがありますね。元気になって、害にならないんじゃないですか?
蓮風 そうですね。そういうところがいい面とそれこそ危険な面があるんですよね。東洋医学の「虚実」の観点で「虚証」という人間の身体の抵抗力のある程度なくなった状態には非常に効果があるけど、逆に抵抗力があって、むしろ邪気(身体に病気を引き起こすもの)が身体の中で大勢を占めている場合に人参などの補剤(気血を増す薬物)を安易に使うとかえって悪化する、というのが東洋医学の常識なんですよね。人参はサプリメントに入っているので非常に危険だと思ってるんですよ。
杉本 それは危険ですね。もう少し啓蒙が必要ですね。
蓮風 正しい医療を示していかなあかんですね。昔はけっこうクチコミでね、患者さんが「あそこはいい」とか「悪い」とか言ってくれたものです。今はネットですね。ネットもいい面もあるんだけども、ネットを使って変な書き込みをする者もいますね。ツイッターなどのSNSやネットの掲示板なんかで医療について、あれこれ意見を言っている人もたくさんいます。良い面もあるんだけど、人を迷わす面もありますよね。サプリメントの問題も、簡単に薬に近いものが手に入って使える良い面はありますが危険な部分を孕(はら)んでいると思うんですよ。やはり何事にもメリットがあればデメリットもある。
杉本 (展覧会のプラス・マイナス面の問題にしても)本当に「物のため」ということでしまい込んで、「全然見せません」という選択もあるのかもしれないけど、(大事なので公開しないとなると)今度は、見た人が受ける感動みたいなものがなくなってしまう訳ですね。そうすると、「大事」「大事」という、言葉だけのものになってしまう。
蓮風 うん。
杉本 やはり、見てもらって、「さすがにいいな」と思ったり、「なんだ…大したことない」と思う人もいるかもしれないし、そういう人も含めて、まあ今、見ることができる人たちに機会を作って見てもらうというのも、やはり、先へ繋げる「種を蒔く」という、ひとつの行為だろうと思うんですね…。
蓮風 なるほど。
杉本 結局まぁ、限りある生命ですからね、物自体も。やっぱり経年でどんどん丈夫になっていく訳はないわけで、ゆっくりゆっくり衰えていく。じゃあ、その衰えていく中で、今の人たちがどれくらい取り分として、見て、それから後は未来の人たちに残しておく分も取っとかなきゃいけないっていう、そのバランスが「保存と公開」という言い方で、絶えず頭にあるわけです。<続く>
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