蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

2019年05月


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鍼灸師で「北辰会」代表の藤本蓮風さんと帝塚山学院大学教授の杉本雅子さんの「鍼(はり)談義」の第8回目をお届けします。今回は杉本さんが患者側の率直な疑問や、願いを蓮風さんに伝えてくださっています。買い物をするときは「賢い消費者」が得をするのと一緒で、病気になったときも「賢い患者」になったほうが得なのは当たり前のようです。ただ人それぞれの価値観や「体の性格」があるので選択肢も多様のようですね。回を重ねるごとに「鍼」への印象が変わってきた方も多いようです。今回は「鍼」も色々だということがさらに理解できるのではないでしょうか。(「産経関西」編集担当)
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 蓮風
 薬で(病気が)治るのも不思議やけど、鍼で治ること自体が、もう、ほんとに生命は上手く出来とって、それをよく見つめた人たちが鍼の名人になれるんです。

 杉本 うん。まぁそこがまた難しいところですけどね。今日先生と改めてお話しして、やっぱり鍼って難しいんよね、っていうのは思いますよね。でも、広めてほしいですね、ぜひ! このあいだ、たまたまここ(藤本漢祥院)にいるときに、お弟子さんたちが「初診予約の患者さん、時間の折り合いがつかなくって、キャンセルになりました」って話してるのが耳に入ったんです。家帰ってね、「今日、鍼のね、初診をキャンセルしてた人がいたんだよ」って夫に話したら、夫が「それは惜しいことをした。その人せっかく治るチャンスを無くした」って言って、私もそう思ってたんで「そうだよね、せっかくのチャンスなのにね」って言い合ったんですけど、いくつかの選択肢があって受けないのと、知らないで受けないのと、全然違いますからね。

 蓮風 医療の本質に関わる問題やけど、西洋医学は確かにこっちを良くするっていうことをやるんだけど、反面また副作用とかがあるでしょう?これは(鍼灸治療をする内科医)の村井和(むらい・かず)先生(北辰会)がよく自分の言葉で「鍼には非侵襲性がある。決して侵さない、侵さずして治す医療っちゅうのは、やっぱ西洋医学にはあんまないな」っていうことをおっしゃるんですよね。

 杉本 結局、病気が重かったら重い薬というか、激しい薬を使わないといけないということですよね。この間、皮膚がかゆかった時に、結局、ステロイド飲むことになっていたんですよ。もの凄く腫れてたし。だけど医者もあまり使いたくないくらい強いので、どうしようかなっていう感じだったんですけど、結果的には出たんですね。勤務医時代にはその先生は出さなかったらしいんですけど。ここ(藤本漢祥院)に来るまで飲んでましたけど、1日かな?2日くらい。だけど、来てからはもう飲まないですみました。見事に小さくなっていったんですよ。本当に。うん。見事に小さくなっていって、びっくりしましたから。うーん。で、これは私みたいに鍼の近くにいる人間でも知らないんですよ。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 打鍼も知らないし。そうするとね、鍼ってね、やっぱり受けたたことのない人に聞いたら、なんか、もう怖いとか、痛いとか思ったりするかもしれません。こないだなんか、先生にここ(左手の尺側=小指側)刺してもらって頂いたとき、刺したときはちょっとはそりゃあ痛みとか感じることもありますけど、それよりもなんかね、入っていってね「あっ気持ちいい今日は」って思ってたんです、実は。

 蓮風 あぁ、それはいい。

 杉本 「あっこれ凄い気持ちいいわ」って。鍼刺されて気持ちいいってことなんて…。 
 
 蓮風
 ないでしょ普通。「気持ち良くなって、しかも治るんだ」という患者の声は、素朴にも当たっているんです。

 杉本 うーん。まっ、そうですね。
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 蓮風 で、それがね、起こることは、もうひとつ言えば、生命に適う医療ということ。良くすることはあっても、悪化さすことはないんだという。まぁ、これは技術的には悪くすることが、これはいかんよ。そうやけど、通常良くしようと思ってやって、それが適量であっても、西洋医学の場合はどっかを悪くすることがある。そうやけどこの医学は、生命にもともと適った医学やから、正しいやり方さえやってる分には全然問題ない。これはね、医療として非常に重要な部分だと思うんですよ。だから西洋医学をくさすわけじゃないんやけど、この医学の特徴って言ったら非常に気持ちよくなるんだって患者の声がね、私は当たってると思うんですが。

 杉本 先生、あれはどうお考えなんですか?そのぅ、手術をしなくちゃいけないような病気って、まぁあるじゃないですか。

 蓮風 あります。

 杉本 そうですよね。で、そういうようなものは、やっぱり西洋医学なんですか?

 蓮風 いや、それも切らずに済むようになるやつもあるんですよ。

 杉本 はぁ。

 蓮風 すべてじゃない。たとえばね、あの、盲腸。

 杉本 盲腸?

 蓮風 うん。

 杉本 はい。

 蓮風 前に中国へ一緒に行った内科のドクターで、呼吸器内科の先生がいましてね。その先生は宿直医なんですよ。

 杉本 うん。

 

 蓮風 宿直にあたった。そこで夜中に何が起こっても大抵処置しないかん。

 杉本 うん。

 蓮風 そのドクターが、腹痛の患者を診たらねぇ、やっぱり盲腸やということがあるんだって。 で、西洋医学的な鉄則からいくと本当は手術をせないかんらしいのだけども、「わしは鍼したら治ると思うんやけど、どないしたら良い?」ってそのドクターが(私に)聞くわけ。〈続く〉

 杉本 うん。

 蓮風 だから、鍼やるんやったら、「もしこういう反応出とったらこうせぇ、そうじゃなくこっちにこういう反応出とったらこうしてみたらええんやけどな」って(教えた)。そしたら、その通りそのドクターが自分の判断でやりよって、そのドクターが翌日(その患者を)覗きに行ったら、なんと! 治ってたらしい。

 杉本 あらら。

 蓮風 で、冗談で、その、内臓外科の別の先生が「わしの(手術の)仕事の邪魔したらいかん」って(笑)。これまぁ冗談やけども。そのようなこともできる。

 杉本 盲腸なんていうのは、どっかの炎症だからっていうことですかね?

 蓮風 いやぁ。我々は腸癰(ちょうよう)っていって、腸のおできというものは、やはり気血の巡りが悪くなっているから、上廉(じょうれん)=巨虚上廉(こきょじょうれん)、上巨虚(じょうこきょ)ともいう=というツボを使って、ほとんどが正気の弱りがさほどなく、邪熱や瘀血や湿痰などの邪気が中心となる“実型”やから、そういうツボに(実際に反応が出てれば)鍼を刺してうまく邪気を散らして気血のめぐりを良くする術をやると腹膜炎も起こらない。ところが…。

 杉本 ところが?

 蓮風 (国立民族学博物館名誉教授で大阪・吹田市立博物館館長の)小山(修三)先生っていうのは面白い人で、私の患者でもあるんやけど、ある日もう、吐き下ししてね「どないした?」って言ったら「いや俺は藤本さんの鍼を受けたら治るんや」って言って来たんやけど、脈診たらどうもおかしいんや。で、鍼一本もせんと、ちょっとツボを調べてみたけど反応が悪いから「これは先生すぐ外科行かなあかん」って。ほんであの時は病院に行ってもらった。なんだかんだ4時間かかって、やっと盲腸から来た腹膜炎やと言われた。

 杉本 はぁ。もう腹膜炎になってたんだ。

 蓮風 だから俺はもう危ないから早くやれって言うてるのに…。そこまで見破るんですよ。だから、そういう本当に腕のある人にかかったら、まぁ安心・安全。

 杉本 要するに先生は西洋医を否定しているわけじゃないんですよね、全然。

 蓮風 そう!してない。

 杉本 うん。それで何、西洋医はそれで調べるのに時間かかっちゃったんですね。

 蓮風 そこが面白い。機械をたくさん使って4時間かかってる。僕は脈診と舌と、お腹を触るだけでわかった。

 杉本 ほぉ~ん。

 蓮風 これも、東洋医学のやっぱ凄い点じゃないですか?

 杉本 そうですね。

 蓮風 人間の五感を頼りにしてやっているけど、なんか一見、主観的とかなんとか言われ、怪しげに見えるけど、そうじゃなしに、客観性をとらまえているから、そういうことが言えるわけ。


 杉本
 うーん。いや怪しげっていうのは多分ね、関係無くて、怪しげって思えるのは、そのなんか、やっぱ診立ての個人差があるからだと思います。

 蓮風 あぁ、なるほどね。

 杉本 診たての個人差がね。怪しげって見せてしまう。マニュアルがある方の医学は、マニュアル通りにやっていれば、まぁ当たらずといえども遠からず。10のうち8くらいは、ヒットするかなって。東洋医学はなかなかそういう風にいかない。マニュアルはあるけれども、そのマニュアルの使い方っていうのにマニュアルがいるくらい。

 蓮風 そうそうそうそう。

 杉本 そういうようなものなので、あまりにも、こう、深いものなのですからね。それ使うとやっぱり使う側の腕によって1から10くらいまで差が出てしまうかもしれない。で、その1の方を見た人は「あれ~?」って思う。10の人を見た人は「奇跡だ!」と思うかもしれない。

 蓮風 うん。うん。
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 杉本 このね、やっぱり、差が出やすいっていうのはね、これは、まぁもちろんですけども、鍼の先生方にそこはちゃんとして頂きたいというのが受ける患者としてはあります。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 でもそうするとね、患者も鍼にかかるときに、一体どこの鍼の治療に行っても、まぁ蓮風先生が盛んに鍼は凄いよってやってらっしゃるけど、でも一人、1から10のうちの1程度の腕の人に見てもらったら、それでいっぺんにね、鍼に対する評価がごぉーんっと落ちちゃうわけですね。ありましたよね、去年。あの、死んじゃった人。本当は打っちゃいけない人が打ったかなんかして。あぁいうことがあると皆今度は逆に鍼灸院を十把一絡げにして、だめだみたいな風に扱ってしまう。そこで、蓮風先生に、皆さんに向かって鍼は凄いよっていうのを言って頂くと同時に、だけど、鍼灸院は全部が同じじゃないよっていうね、そこはね認識して貰うようにしないと間違いが起きると思うんですよね。

 蓮風 そうですね。それはありますね。それをねぇ、40年間、私、業界に向かって、ずぅーっと発信してきた。

 杉本 そうなんですね。

 蓮風 だけど、もう疲れた。

 杉本 ははは(笑)。

 蓮風 だから、それやったら、消費者の側が賢くなったら、商品はよくなるというセオリーにしたがえばいいと…。患者さんが賢くなってちょっとでも鍼の本質がわかったら、どの先生が立派かってすぐわかるんだという立場で今ブログ(「鍼狂人の独り言」)とか、このサイト(蓮風の玉手箱)をやっているわけ。

 杉本 ぜひ本当に、根本のところを勉強した先生に、やって頂きたい、打って頂きたいと思いますもんね。

 蓮風 そうそう。そういうことなんですよ。

 杉本 で、先生、これから何か、こんなことしたいみたいなこと、おありになりますか?

 蓮風 あー、それはもう沢山ありますけどね。

 杉本 ええ。

 蓮風 ただやっぱり、なんと言ったかって臨床家やから、毎日鍼を持っている事だけで、もう大変な発見ができるんですよ。

 杉本 はぁ~。もう何人くらい診られましたか?

 蓮風 1日にですか?

 杉本 いやいや、延べで。

 蓮風 あぁ、延べで言うともう70万人近いんじゃないですか。だけど、そんだけやっても、毎日がワクワク、鍼を持つとね。

 杉本 どうしてワクワクされるんですかね?

 蓮風 いや、やっぱり、新たな発見があるから。

 杉本 ふーん。あっ、それはやっぱりあれですよ、オーダーメイドだからですよ。

 蓮風 うん。

 杉本 一人一人違うから、この人に合わせて、今日はどこにしたらいいかなっていうのは、先生がいつも考えてらっしゃるから。

 蓮風 そうそう。それでね、古典理論は使っているんだけど。古典を乗り越えるような理論が見え出してくるんですよ。それがまたワクワクする。〈続く〉

 

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「蓮風の玉手箱」は杉本雅子・帝塚山学院大学教授との対話の7回目です。毎回、素人には眼からうろこの話題が飛び出す「玉手箱」。今回も期待してくださいね。自分の心や体とのつきあい方の参考になるかもしれません。今回の対談を読まれたあとにあらためて心と体の関係について考えてみてはいかがでしょうか。(「産経関西」編集担当)
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 杉本 先生のところはどっちかっていうと徒弟制に近いみたいなイメージがありますね。

 蓮風 まぁ、そうですね。

 杉本 今日も来た時になんか、あんなに白衣着た人がぞろぞろ居たら怖いわと思って。どこの病院でもこの頃こんなに先生いないのに、みたいな気がしましたから。

 蓮風 そうです。

 杉本 びっくりしましたけども。まぁ、熱心さの表れという、ね。

 蓮風 そうですね。今日も ある患者がかなり遠方からね、治療に来てるんですよ。

 杉本 そうなんですか。

 蓮風 で、これも、あのー、医学生が自分の親戚が肺ガンになったから診てくれって。

 杉本 はぁ。

 蓮風 医大のドクターはどない言ったかというと、「もうガンは間違いないけど、どういう治療したらいいか、検査をかけないかん」と。ところが、僕が鍼をやったら血痰吐いてしょっちゅう苦しかったのが、もうわずかな間に咳が減って血痰も出なくなった。

 杉本 うん。

 蓮風 ほんで、一回 御自宅に帰って、また今来て、どうも調べたらあんまその、癌の形(大きさ)が変わってない。

 杉本 ふーん。大きくなったりして無い。

 蓮風 だから、その辺り(癌自体は変わっていないのに、癌による咳や血痰が激減していること)がね、非常に興味深くなってくるんですわ。西洋医学をやりながら東洋医学の本質をみている人はね、生きた東洋医学を常に求めていくんですよ。だから今、現実におこってる病気を治さんかったら意味がないんですよ。
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 杉本 うん。本当ですね、今みたいな時にね、心も結構、皆さんやられてますでしょ? 体がやられたら心もやられるということになりますからね。

 蓮風 僕の患者さんには精神科までもいかんとしても、神経質の鬱(うつ)の人が多い。

 杉本 うん。

 蓮風 普通はねぇ、ああいった病気は、この、お話を、カウンセリングを一生懸命やるんですよ。そんなことせんでもね。身体の方を、五臓六腑のバランスをととのえると、極端に言ったら人間が変わるんですよ。

 杉本 ふんふん。

 蓮風 もの凄い悲観的に考えとったのが明るくなってきてね。

 杉本 ほお。

 蓮風 だから、体というのは心、魂の器やから、その器をね、器をどれだけ元の状態、健康な状態に戻せるか。それが上手くできたらね、心まで変わっちゃうよ。

 杉本 うんうん。

 蓮風 実際そないして鬱から解放された、と感謝してくれた例がたくさんあります。

 杉本 まさに「病は気から」ですね。「気」を整えて体が良くなったら精神も良くなってくるということなんですね。

 蓮風 そうなんです。そうそう。精神もその気のひとつなんですよね。だから、そこら辺りになってくると、鍼の技もあるんやけど、その人の持っている勢いというか、人間性というか、そういったものがね、ごっつ影響する。鍼はあくまでも、物質ですよ。この物質を生かして使うか、生かさんか。それは、やっぱその人の人間性にあると僕はみてるわけですが。

 杉本 うん。打つ側のね。

 蓮風 そうなんです。

 杉本 まぁね。だからまた難しいんですよね。

 蓮風 まぁね。そう。

 杉本 だから

 蓮風 だから、僕が今言うてる

 杉本 注射をここの場所(前腕内側を指す)に、注射液入れたら、血液が巡って治りますよって、さっき言ったようなオートメーション式だったら、話は簡単なんだけど、鍼の場合は、打つ人の腕によって効果が変わるっていうね、ここが難しいところですよね。

 蓮風 ねぇ、先生今せっかく注射の話なさったけども、

 杉本 うんうん。

 蓮風 あのー、フォン・シーボルト。(蘭方医の)シーボルトが、あの、江戸の、その、石坂宗哲という鍼の名人に、鍼を教わった。で、そのことをオランダ語で解説したやつが残ってるんや。
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杉本雅子3
 杉本 うん。

 蓮風 え、その時に差し出したのが『鍼灸知要一言』という本。で、鍼でこないして病気が治るということが書いてある。で、シーボルトが真似してやったけど、そう簡単にできない。

 杉本 当たり前。

 蓮風 オランダへ帰って、この鍼と、薬を合わしたらどうや。薬鍼という発想。今中国でもやってますね。

 杉本 あー、はい。ありました。

 蓮風 あったでしょ?

 杉本 広州でありました。見ました。

 蓮風 うん。で、それはね、鍼は使っているけどね、これはやっぱり薬。

 杉本 そうなんですよ。

 蓮風 ところが、これがまた面白い事に、医者がやる肩こりの注射っちゅうのがあるんですよ。知ってる?

 杉本 いや、知らないです。

 蓮風 とあるドクターがね、肩こりのところへね、なんか薬液を注射に入れてポッポッポやるみたいなんですよ。うちに頻繁に研修に来るドクターのなかでも、特に麻酔科のドクターは、上手いと思いますがね。

 杉本  あぁそうですか。

 蓮風  うん。なんかね、僕らから見たらあれ小児鍼ですわ。

 杉本 子供用だと。

 蓮風 そうそう。

 杉本 深く刺さない。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 いや、でも今小児鍼とおっしゃいましたけど、なんか鍼にもいろんなものがありますね。

 蓮風 もう。だから(「東洋医学のバイブル」といわれる『素問』『霊枢』の中の)古代の九鍼っていうのは色々な意味を持っている。
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 杉本 で、なんか、ヒョコヒョコ、ヒョコヒョコってされて、で、終わり?みたいに思っていたら、お腹が急にね、もの凄く動き出したんですよ。「先生、何したの?今」っていうくらいの感じだったんですけど、あれは先生が初めにされたってことですか?

 蓮風 いや、あの、日本の元々「打鍼(だしん)法」っちゅうのがあったんだけど、それを現代的に甦らせたと、形と手法を変えて。

 杉本 変えてっていうことなんですね。

 蓮風 そうです。そうです。

 杉本 するとオリジナルに近くなりますね。これがそれですか?

 蓮風 そうです。

 杉本 あぁ~。なるほど、これ、こんなんだったですね。スコン!みたいな音がして。

 蓮風 えぇ音したでしょ?

 杉本 そう、いい音がするんですよ。スコン!って。

 蓮風 あれね、先生のお腹が、あの、空気がようけ入っとったから(笑)。

 杉本 そうそう。だから動いたんですね。あぁ、なるほどわかりました。その後にね、さっきもお話ししましたが、あの、虫に刺されて、えらいことになったら、今度は鍼でひっかくっていうのがあって、鑱鍼(ざんしん)っていうんだって教えて頂いた。私達の感覚ではね、鍼がまさかそういう、なんか、外傷とはいいませんけど、外部からのものに効くっていう感じ無いですよね。

 蓮風 それはね、先生ね、非常にいい事仰ってくれた、それはね鍼の起源という事に関わってくる、で、元々鍼は、あの、外科の手法のひとつなんです。

 杉本 そうなんですか。

 蓮風 だから、おできを切ったり、膿を出したんです。韓国のドラマにも出て来てたでしょ?

 杉本 ほぉ。

 蓮風 はい。で、そういう外科から始まって、だから古代中国の名医、華佗(かだ)なんかは、外科で鍼の名人やったわけです。

 杉本 ふーん。

 蓮風 だから外科医者に鍼の名人がおったっていうのは、そういった関わりがひとつある。そういう歴史をしってない。鍼灸師が知ってない。

 杉本 あー、まぁ私達一般人は当たり前として。うーん、なるほど。ということは、鍼にはまだまだこう、無限の可能性があるという気がしますけどね。

 蓮風 だから、これがハリ合いのある人生(笑)。〈続く〉 

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「蓮風の玉手箱」は、まだまだ鍼灸師の藤本蓮風さんと杉本雅子・帝塚山学院大学教授の「鍼(はり)談義」が続きます。おふたりの話から、鍼は「まじない」でも「奇跡」でもない古来からの知恵だということを再発見した思いがする方も多いのでは? 今回も、そんな眼からうろこの話題がいくつもありますよ。(「産経関西」編集担当)
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 杉本 この間、虫にさされて腫(は)れ上がってたときにやっていただいた、鑱鍼(ざんしん)。あれって普通にもやるんですか。

杉本雅子2
 蓮風 普通には使わない。それこそ(「東洋医学のバイブル」といわれる)『素問』『霊枢』の中の古代九鍼。その中のひとつで、皮膚にある熱を漏らす。だから風邪(かぜ)をひいて発熱性の疾患にも使うし局部的な皮膚の熱にも効くし、いろいろ使います。 

 杉本 ふむふむ。あれ皮膚の軟らかい赤ちゃんなんかはやっぱり無理なんですか。

 蓮風 いや、加減してやればいい。

 杉本 あ、さては先生、私が歳やと思って、おもいっきり(笑)。

 蓮風 それこそあのー、そういう赤ちゃんの場合やったらあの、バターナイフで撫(な)でるだけでいい。

 杉本 あっ、なるほどね。

 蓮風 もう頭柔らかくして、もう古典を読んどったらもう様々なこと言ってるわけですよ。一言で。でそれをね、原典はとにかく応用できるように考えればいいんですよ。僕はそういう古典の読み方してるから。

 杉本 実践から理論ですね。

 蓮風 まぁまぁそうですね。

 杉本 それ結構キーワードだと思いますよ。中国医学を今やっていく上では。

 蓮風 我々、北辰会によって『体表観察学』という本が間もなくできるんですね。あれは中医学(=中国医学)にはないんです、ほとんど。だから(中医学の権威として有名な)鄧鉄涛先生もね、それを知ってるから日本の腹診を取り上げておられるんで、できたらあの辺りをね、穴埋めさしてもらったらね、中医学自体が良くなる。

 杉本 そうですよね。あれ(体表観察)は日本の発祥ということですか。じゃなくて中国にも元々あったけど消えちゃった?

 蓮風 そうそうそう。でそれを日本人ちゅうのは手の感覚がいいから手で触ることを中心に診断学を発展させたっていう。

 杉本 難しかったのかもしれないですね。やっぱり手で触るんやからね。

 蓮風 あーやっぱり難しいですよ。だけどこの間、鄧先生と握手したら…。

 杉本 柔らかい手でねぇ。

 蓮風 いい手ですわ。だからあれはたくさんの人を治したなっちゅう感じしますわ。

 杉本 手技すごかったじゃないですか。ビデオで見た筋無力症の治療手技。こう、こうやってだんだんよせてって。先生が亡くなったら(術が)消えちゃうから、だからそういう治療法を残しておかなきゃいけないっていう、つまり広州中医薬大学の中でそういうプロジェクトを組んで、やってるんですよ。で、治療法を撮ってるんですね。ビデオにね。鄧先生の治療法、なんかこう背中にどんどん波寄せていくみたいに…。

 蓮風 それはね先生、だからそういう鄧先生のあれもすごいんだけど、また民族学の小山修三先生(国立民族学博物館名誉教授、吹田市立博物館長)がね、「お前、手を研究するんやったらこれ見とけ」言うて(オーストラリア先住民の)アボリジニーのね、ヒーラーの手を写真を見せてくれた。それがね、我々と同じような手してる。

 杉本 へぇー。

 蓮風 だからねぇ、あのいろんな理屈とかいろいろあるだろうけど、とにかく人を癒やしてるっていうのはすぐわかる。鄧先生の手に触れた時に、あっ、これはたくさんの人を治したなと、わかりましたねぇ。
杉本見出し
 杉本 なるほどねぇ。

 蓮風 とにかく病気は治してることはわかる。うん。それじゃさっきの話に戻そか。

 杉本 本当にね、でもあんなの(鄧先生の治療)見たことないですよね。びっくりしました。で手当てっていう言葉があるじゃないですか。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 その手当てって言葉は一体何って言ったら、やっぱりこう痛いところを、こどもが転んだ時なんかにお母さんが、なでてさする。それだけで痛いのが治まるっていう。

 蓮風 小さい子供がおる母親が、子供がこけて「痛い痛い」言うたら「どこ!?」ってこう触ってる。あの癒やしこそが原点なんです。

 杉本 うんうん、やっぱりねぇ。
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 蓮風 自分でもこう(手を当てて)やってるけども、母親がもってきたその手っちゅうのは、そういうぬくもりがねぇ、もう医学そのものなんです。

 杉本 うーん。手当てっていう言葉は本当にそういうことですよね。

 蓮風 だからそれを忘れた医学…。だから体表観察学いうのは深い意味があるんですよ。

 杉本 そうですよね。そりゃそうだと思います。

 蓮風 サーモグラフィとか使って温度差で体表観察の一部はわかる。せやけどほら、さっきの話、形にしないとわからん連中ばっかりでほら、こういう風に形にも出るよという手段にはええけどね、あれでもって体表観察の全てじゃない。

 杉本 それだけでやったらね、絶対ダメですよね。

 蓮風 だから人間の感覚いうのはずっと上なんですよ。

 杉本 そうですよねぇ。

 蓮風 だからね、このいい手で触られるとね、もうそれだけで癒やしですわ。

 杉本 うんうん。まぁ手当てって言葉自体が、なんか報酬でもらえるお金みたいになっちゃったから、手当て自体もあんまりわかんなくなっちゃったのかもわかんないですけどねぇ。たぶんね、日本にね、手当てって言葉が入ってきたときはそのまんまちゃんとそういう意味だったと思うんですけどね。ほら、「病は気から」っていう言葉なんかもね、みんなが病は気(気持ち)からって言うけど、私は病は「気」からって言うんです。

 蓮風 なるほど。

 杉本 「病は気から」って言ったらみんな、気の持ちようでしょって。違うよ、病は「気」の流れが乱れるからだよって。どっかの「気」の流れが乱れるから、病になる。だから「気」からなんだよって言うと、みんなが納得してね。オォーって言うんです。なんか日本人が勝手に解釈して、気持ちからになってしまってるけれども、やっぱり本質は

 蓮風 それは気の中の一部なんだけどね。

 杉本 ほんとにそうなんですよ。

 蓮風 この前、僕が杉本先生から中国語のレッスンを受けているとき、中国人が病気治すのは「ティアオティアオ・シェンティ」っておっしゃった。身体を整えるんだという。あれこそが東洋医学。

 杉本 「調調身体(ティアオティアオ・シェンティ)」ですよね。

 蓮風 うん。病気治すんじゃない。あの病治すんじゃない。身体を整えるんだというあの発想こそが『素問』の考え方なんでね。

 杉本 養生とかね、全部そういうことですよね。 いや、私自身ね、先生、昔からね、医者が血液検査すると、白血球が異常に高いとか出るんです。でも原因不明って言うんですよ、医者は。そしてしまいには特異体質ですねって。

 蓮風 あぁいうこと言うねん。

 杉本 私、特異体質かよ。みたいな。エイリアンじゃあるまいしとか思うけど、わからないと特異体質だって言うんですよ。でも特異体質って言ってもなんかやっぱりあるんですよね。でやたらになんか免疫力が強いらしくって、あのー自分で、自然治癒能力みたいなのがある程度高いらしいと。盲腸(虫垂炎)しても3日ぐらいですぐに病院から退院させられるとか、抜糸もしないうちに。赤ちゃん産んだ後も、病院がちょっと混んできたら3日ぐらいで、「すいません、杉本さん一番元気そうなんで退院して下さい」とかって言われてね。うちで子供のへその緒を取らないといけないことになってえらいことだったんですけどね。やっぱりね、身体っていうのは自然に治そうとする力を持ってるはずで、その治そうとする力をどうやって助けてやるかっていうのがたぶん東洋医学だと…。
杉本見出し6-3
 蓮風 だからそれを専門的に言うと「補瀉(ほしゃ)」と言うんです。

 杉本 あーなるほど。

 蓮風 人間の中にある、そのまぁ味方が身体を護ろう護ろうとする。これを正気。正しい気。それを歪めてくる、邪気の邪。これ歪ますっていう意味があるし、あの中に。だから気を歪ます因子を邪気という。そうすると、戦に例えると、戦は勝ち戦もあるけれども、負け戦もある。で勝ち戦の時はその邪気を刈り取っていけばいいけど、負け戦の時はそれでやると相手もやられるけど、自分がやられちゃう。その場合は自分の味方の兵糧を足したり、それから軍を強くする。(足りないものを補う)「補法」です。結局先生がさっきおっしゃった、人間が元々持ってる力をどういう風に引き出すか。それが具体的、専門的に言うと「補瀉」という概念なんだと。
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 杉本 ま、そこが西洋医学とはね、違ってますよね。西洋医学っていうのは診断はある程度一つですよね。「はい、C型肝炎です」でおしまい。この人はこういうタイプのC型肝炎ですとかいうことはないので、そうすると治療法は同じになる。だけれども東洋医学でやると、鍼で治療しようと思うと、そのC型肝炎っていう病名よりは、その人の身体の状態がどうかっていうことを診て、そこに合わせてやっていかなきゃいけない。これ完全にね、オーダーメイド医療なんですよね。

 蓮風 だからそれをね、あの昔の概念で言うと陰陽。

 杉本 ですよね。

 蓮風 陰陽をよく診て、そしてそれに合わせて治療せよと。

 杉本 でまぁ難しいのは結局ね、オーダーメイドの治療なんで、工場生産みたいな西洋医学ではできない。究極のオーダーメイドですからね。ということは、オーダーメイドということは、やっぱり、腕の差が出る。先生いつもいい背広とか着てらっしゃいますけど、仕立てる人の腕がいりますよね。ね。工場生産ならみんな同じですから、どれ着ても同じで、差が出るのは、それは着る人がきれいかどうかってことでね、私みたいな。ハハハ。

 蓮風 ハハハ。

 杉本 それは置いといて。だけども、ほんとにね、オーダーメイドっていうところをね、やっぱり受ける側もね、認識したいと思うんですね。私西洋医学受ける時はいつも、もうこれは工場生産やからみんなどの人にも同じようになるって自分にも言い聞かせる。このごろ日本の漢方で、こんななんていうの、顆粒になってる…

 蓮風 エキス剤?

 杉本 エキス剤。あれもね、あの、だし方がね、西洋医と同じ基準でだしてる気がして、私個人としては、これ本当の東洋医学じゃないよねっていう気がして。東洋医学の材料は使ってるけど、西洋医学の薬として出してるんだよねっていう風に思ってる。っていうのは、みんな体質違うから、本当は中の材料は同じでも配合を変えなきゃいけないはずなのに、みんな同じ配合になってますからね、症状をパターン化して出す。これが東洋医学だって言われると、これもまた困ったなっていう気がしてるんですけど。便利は便利なんですけどね。

 蓮風 まぁ大雑把にやる場合はね、あれで十分なんでしょうが、でも、ただやっぱりデリケートな操作はね、鍼も昔からやっぱりさじ加減。

 杉本 そうですよね。ほんとはさじ加減。さじ加減が大事ですよねぇ。

 蓮風 さじ加減。うん。たぶん鄧先生もそういうところは巧みだろうと思うんですよね、ご本を読んでも。やっぱりあのーある程度のところへくるとやっぱり名人芸的になるんですよ。でその名人芸的いうのが難しいんですよ。

 杉本 うーん。

 蓮風 そら患者さんの側からしたら名人芸でやってほしい。ほな名人になる人言うたかてそんなようけ(そんなに多く)おらへん。そこで北辰会も、もう名人が昔は百人に一人出てくりゃいいって言うたけど、今はねぇ、そういう時代じゃない。百人が百人とも名人芸に近いけども、限りなく近いやつをたくさん輩出せないかん時代やというのが僕の認識。

 杉本 まぁそうですよねぇ。

 蓮風 はいはい。だから難しいんですよ。あんまり一般化しすぎるとさっきのエキス剤なるし。かといってその名人芸だけを追求するとその、そのあたりをたぶん鄧先生があの、徒弟制度が大事だということをおっしゃったんだろうと思いますがね。

 杉本 一人一人を育てていくって感じですものねぇ。〈続く〉
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藤本蓮風さんと杉本雅子・帝塚山学院大学教授の「鍼(はり)談義」はまだまだ続きます。今回は前回、蓮風さんが「理論によって気の歪みを治すと、奇跡みたいなことを起こすことができる」と強調した、その続きです。人間と宇宙や気象との関係に話題が広がっていきますよ。(「産経関西」編集担当)
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 蓮風 それが鍼の本質だと私は思って、「北辰会」を立ち上げて40年間で発展してきてるわけです。

 杉本 もうね、いっそのことね、鍼灸の先生がみんな北辰会やったらね、安心して受けられると思うんですよ(笑)。

 蓮風 そうそうそう。でもね40年かかって、昔はねぇもう相手にされなかった。今はもう北辰会なしに日本の鍼灸は語れないとこまで、先生、本当にそれは事実なんよ。そこまでたった一人の男ががんばってみんな引っ張って

 杉本 だってね、中国に行って(中医学の権威として有名な)鄧鉄涛先生とか、●(=「折」のてへんが革)士英先生とか、がですよ、(蓮風)先生のことを、「おぉ、ものすごいなんでも中医学の古典の事全部知ってはる」ってびっくりするんですから。うん。そりゃもう中国捜してもそんなになかなかいないと思いますよ。

 蓮風 まぁでもそこまで言ってもらったらうれしいね。ただ我々は、先祖 代々、鍼医者でね。

 杉本 14代でしたっけ。

 蓮風 うん、そうなんです。血統書付きで。ハハハ。で実際もうたくさんの話しを聞いとるんですよ。先々代は首吊って意識なくなった人を抱いて綱を切って、寝かせて、それである場所へ鍼して意識を戻すんです。そういうもう今から言うととんでもない奇跡みたいなことをたくさん起こした事実を僕は子供の頃から聞いてる。だから(鍼灸は)効くんだと。じゃあどうしてそう効くんかと言うと、今言うように『黄帝内経』に書かれてある理論をきちっと学べばできるという。そしてあの『素問』の中の陰陽応象大論の中に、陰陽調えばなんでも治るんだという事が書いてあったんでね。あれが一番大きかったですね。うん。
杉本雅子見出し8
 杉本 まぁ、してみるとこの中国の古典の、古代の思想はもの凄いということですよね。『黄帝内経』が今だにバイブル。

 蓮風 いや、だからあれを通じてね、僕は古代の中国思想に触れていったんですよ。だんだんだんだん。まぁ老荘が中心ですけどもねぇ。あれは本当に大きなスケールの大きな考え方だなと思ってね。でそれを背景に『素問』『霊枢』ができてるもんやから、先生がおっしゃるように、人間の身体だけじゃなしに天地からね。

 杉本 全部ですよねぇ。いやでもあのーよくあの(蓮風)先生おっしゃるじゃないですか。こうなんか気圧が変わるから、うちの犬が発作起こす時も、気圧が変動するからきてるんやわ頭にって。やっぱりそれと同じことですよね。この全部の、この宇宙の中で人間の「個」っていう存在があるけども、宇宙の影響受けないでこの「個」はいられないですから。

 蓮風 いられないです。だから大自然の子供という発想はねぇ、正しいしもう臨床の中で実際活きてる。で内経気象という学問が実際それをまた証明して。先生喜んで下さい。日本生気象学会。生物における気象の学会で発表するんですよ。いやこの東洋医学でね、よその学会行って喋るっちゅうのはまずない。

 杉本 すごいですよねぇ。

 蓮風 だから(鍼灸師で気象予報士の資格も持つ)橋本浩一君のねぇ、あれ(内経気象学)すばらしいです。うん。
 
 杉本
 あのね、あの去年、なんでしたっけ、あのぅ、新型インフルエンザ。そうそう新型インフルエンザ。普通インフルエンザウイルスっていうのはその、冬にしか強くならないんで、インフルエンザは夏には流行しないっていう常識があったのに、去年の新型はそうじゃなかった。で、夏ごろになってでてきたら、テレビに出てくるお医者さん、なんか適当なこと言って、なんでインフルエンザなのに今ごろまだでるんですかっていう質問に、なんかこうその場しのぎのみたいな答えしてましたでしょ。無理やりなこと言って。今具体的にどういう表現してたか忘れたんですけどね。でもそれを(蓮風)先生達は、「今年のは夏までくるよ」っていう風に最初からもう気象の関係からわかってたとおっしゃた。それはまったく本当に宇宙の中で全体として捉えるということですね。

 蓮風 そうです。

 杉本 そういうのを科学って言わないでなんなんでしょうね。

 蓮風 そうそう。真にそれは私は声を大にして言っていただきたい。しかもねぇ、ちょっと一見怪しげやけど、五運六気というねぇ、大変な哲学があって、あれから割り出すとねぇ、今年の夏は大して暑くならんだろうと言ったけど、だいたい当たってますねぇ。

 杉本 あ、あのぅ、すいません先生。気象庁が今年の夏は超暑いって言ってて、なのに、今年はなんか途中で、えっ、あんまり暑くなんないって、みんなちょっと予想に反してて。

 蓮風 あのねぇ、それはねぇ、朝晩にねぇ、風を僕は肌で感じるんですよ、家で。完璧秋の気配。(編注:対談は2011年8月4日)

 杉本 私もそう思ってます。

 蓮風 あっ、わかる!?あーすごい。

 杉本 もうねぇ、1週間ぐらい前から、もっと前かな。なんか朝の、えっ、風違うよ、これ秋。っていう。

 蓮風 「秋きぬと目にはさやかに見えれども風の音にぞおどろかれぬる」あのね、萩の花がね、僕この間から散歩して歩いてるとボツボツ咲いてるんですよ。あれは完璧に秋の花なんですね。だから自然はそれをはっきり打ち出している。
杉本雅子見出し9
 杉本 このごろ本当に朝夕のね、温度の感じとか、上がり方、下がり方、風の感じは秋ですよね。

 蓮風 そうですねぇ。確かに気温は高いけど、全体としては空気は乾燥気味でねぇ。

 杉本 そうなんですよ。違うんですよ。
杉本雅子5
 蓮風 いつものムシムシとちょっと違う。

 杉本 本当にジメジメ、ムシムシはないですよねぇ。

 蓮風 だからねぇ、僕はねぇ肌で感じるもの、ものすごい大事ですし、弟子達にも教えるのにベッドが分かれてるでしょ。「この人、においわかるか?」って。「これは湿熱やで。」「これはあの、湿熱のない陽虚のかたちのにおいやで」って。わかるんですね。

 杉本 へぇ、においで?

 蓮風 だから肌で感じて、においで、耳で、目で、この五感を駆使して人間の身体を中心にして自然界の動きも全部わかってしまう。これが東洋医学だと思います。うん。

 杉本 だから本当に今東洋医学のすごさっていうのはあるんですけどね、ただ日本の中でどうやってこれから位置づけていけるのかなっていうのは、私としては個人的に気になりますよね。早く健康保険きくようになればいいのにとか、思いますから。これ、自分の治療費が安くなるからとかじゃないですよ先生。そんなセコイことじゃなくって、みんなが気軽に受けられるようになるから。

 蓮風 それはあります。

 杉本 だって知ってもらわないとダメなんだから、特に若い人なんかにね。もっと気楽に行けるようになれば、当然、土壌が拡がりますからね。

 蓮風 そうです、そうです。

 杉本 でみんながそれをできるようになれば、ほんとに人助け。まあ、中国の中でもだいぶ中国医学に関しては温度差がありましてね、地域によって。

 蓮風 地域でね。

 杉本 (中国の)北の方なんかに行くとあんまり中国医学なんて話も聞かないのに、南の方に行くと、それこそ北辰会と協定を結んでる広州辺りに行くと、もう中国医学っていうのが日常の中で当たり前のように根づいている。それはなぜかと言ったら、やっぱりその、南の方っていうのは疫病の多いとこだからですよね。

 蓮風 そうなんです!

 杉本 疫病の多い地域で漢方とか東洋医学が根づいているっていうことは、やっぱり必要とされてるっていうことなんですよね。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 で北の方は乾燥ばっかりですからね、そういうタイプの病があまりないので、そうするとちょっと縁が薄くなるのかもしれない。

 蓮風 そうそうそう。

 杉本 それはわからないではないですよね。

 蓮風 だからあのー、鄧鉄涛先生のおられる場所、鄧先生のおやりにになってるのは、南側の温暖の地域における、その漢方医学、中国医学なんだけど、嶺南医学、また独特の医学を作ってるんだとおっしゃってる。でその通りなんですね。なんかむしろ伝染病とかなんとかいうんやったらあの医学を使わないかんのです。

 杉本 そうですよ。〈続く〉
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医学ランキング
中国を研究している杉本雅子・帝塚山学院大学教授と鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の第4回をお届けします。内容はさらに率直さを増して「過激」と感じる方もいらっしゃるかも…。対談発信の場を提供させていただいている「産経関西」は異論・反論も受け付けます。医療は患者や社会のために存在するのが本来の姿ですから、その実現のためにも、さまざまな立場からの発言は常識の範囲内で歓迎します。今回は蓮風さんが代表をつとめる「北辰会」が対談を収録した動画の一部も公開します。少々、音声などがよくないですが、雰囲気を感じてみてください。(「産経関西」編集担当) 
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 杉本  この頃ね、西洋のお医者さんでも鍼灸みたいなことをやる人がいたりするじゃないですか。これ、前に、中国語の教室のときにしゃべったと思いますけど、テレビで「夏の女性の病に効く鍼(はり)、これだけを知っていれば○○が治る」みたいなのをやってたんで、ちょっと期待して見てたんですよ。でもね、そこでやってたのって、肩が凝(こ)っている人だったら、肩に鍼を、だったんですよ。えっ、肩凝ったら肩?って、それは私、自分でも普通に触るし、当たり前じゃないって。でも、先生のところで鍼を打ってもらおうと思うと、うちの夫じゃないですけれど、頭悪くないのに頭に鍼がくる(笑)。
杉本雅子見出し6
 蓮風  あっはっは(笑)。あれはおかしかった。

 杉本  私には楽しみでいいんですけれど、また頭、やっぱり頭悪いのねって言えますからねぇ。でも、先生は、私の背中触って、ここがおかしいって言いながら、今日は指とか、お腹なのに足とかね。そういう全然違うところに鍼がくる。そういうふうに打ってくれる先生ばかりじゃないですよねっていう意味だったんです。つまり、症状が出ている場所が鍼を打つべきツボっていうのは本当にそうなの?っていうね。これって、もしかしたら、鍼灸学校の教育ですかね?

 蓮風  そうそう。

 杉本  北辰会だったら古典から学んで、本当の理論みたいな、そこにある中医学の思想って言うんですかね、そこのところを学んでいるけれども、鍼灸学校で、その大本を抜きにして、「はい、ここにツボがあります。で、打つときはこの角度で、こうやって刺しましょう」みたいなことだけをやってきていると、結局、西洋医学で、「あぁ風邪?頭痛い?はい頭痛薬出します」っていうのと、同じことになっちゃうんじゃないかなって思って。

 蓮風  一緒、一緒、全く。全くその通り。

 杉本  そしたら、東洋医学じゃないんじゃないですかね。いってみれば、頭痛薬に変えて鍼を持っているだけの対症療法になってしまう。だからそこら辺は確かに先生がおっしゃったみたいに、鍼全体の問題としてはあるかも知れないですよね。まぁ、それ、中国の問題としてもあるんでしょうかね。
杉本雅子1
 蓮風  そうですね。いやぁ、僕もね、あの本当は中国医学にもうちょっと憧れとったんです。先生の講義を聞いたり、それから中国語を通じての中国文化を聞いてるうちに、段々、段々、現実が見えてきてね、「ブルータスお前もか」っていう感じ(笑)。

 杉本  私が中国を貶(おとし)めているみたいな(笑)。犯人にしないでくださいね。だけど、実はね、広州中医薬大学の学術大会、論文の締め切り8月31日(注:対談は8月4日)でいいよって言われて、書きかけているのがあるんですよ。中国医学っていうのはこのままでいくと、将来的に、中が本当にふるさとだったのか、韓なのか、日なのか、それとも全然よその文化になってしまうのかっていう問題があって、そうそう、他の多くの文化みたいに、本場だったはずの中国ではなくなってしまって、中国へ行ったけれど、本当の中国医学はもうないっていうね。今、実は中国、後悔しているんですよ、それを。かなり韓国にいろんな文化を持っていかれてしまって、それに気付いた。気付いたけれども、なかなか難しいですよね…。一回失ったものは。なかなか取り戻せない。もう、一朝一夕では無理なんで、ものすごい時間がかかる。それを今、やる気があるかどうか。広州の鄧鉄涛先生なんかそれで頑張っているんですけれどね。今やらないと…。

 たとえば中国のドラマなんかを見ていても、鍼が出てくるってことがないんですよ。鍼の医者をテーマにしたようなドラマとかはあるんですよね。でも、まぁ普通のドラマに出てくるような日常生活で、鍼を受けに行っている姿みたいなの、あまり見たことがないんですよ。多いのは、西洋医の病院に行って、お金をたんまり包んで手術してもらうとかね(笑)。そんなのは多いんですけどね。それに引きかえね、韓国のドラマを見ていると、しょっちゅう出てくるんですよね。ちょっと、食べ過ぎた、胃がもたれたとかだったらね、このくらいの石鹸箱みたいな大きさのを出して、カパって開けて、中から鍼出して、「手出してごらん」って言って、ここら辺にちょんってなんかして、瀉血みたいなことしたりもしますね。それでこれで気分が良くなるんだよって言って、ある時はまたなんか「お父さん!清心丸!」って言って牛黄清心丸を、かぁーっとなっちゃったおじいちゃんに飲ませたりね。そういうの見てると、韓国の方が、中国より遥かに日常化している。


 で、日本は日本で、また違う。私たちだれも、普段から鍼を習ったりはしてませんからね。で、どういうふうにこれからなっていくのかなってとこに私の関心はあるんですね。中国は中国で、本家を取り戻す気があるのか、韓国は韓国で韓国のツボってのを発表して、これがまた中国との揉め事の種になっていますけれども、鍼を輸出するものとして推したりして。韓国が海外へ売れる輸出品みたいにね。中国はどっちかっていうと「中国薬」の方を輸出品ととらえて推してる。

 蓮風  そうですね。「中医薬」です。

 杉本  中国薬、漢方薬の方を売り出す気は満々なんですけれどね、なかなか鍼灸の方にはいきにくい。たぶんそれはね、鍛錬が必要だからだって思うんですよ。薬はものですから、簡単に売れるしね。でも鍼はそういうわけにはいかない。勉強があって、本当にどこにどうやって打ったら治療できるかってことがわかっていないと、売れない。鍼灸を売り出すってことは、つまり人間ですよね、鍼灸ができる人間。だから、むつかしい。

 蓮風  だからねぇ、中国医学の歴史の中で、中国の唐の時代の漢方医学の専門書なんだけれど『外台秘要』っていうのに、薬は確かに効くんだって。ところがねぇ、鍼を用いると、人を殺すことはできるけれど、治せないって。専門書が書いているんです。歴史的にみるとね。またそれに対する反論の本もあるし。だから、中国医学自体が、そういう、この今先生がおっしゃるようにテクニックに関わって、非常にやっぱ難しい医学やなっていうことがあった。それがまた、最近では近代ではその清朝にね、鍼をやるなという。一時的に鍼の禁止令が百年から百五十年くらい出ているんです。危なくって、人の病気を治すどころじゃない、あれは殺すぞと、そういう認識があった。だからねぇ、鍼灸は漢方医学の中で特殊と言ったら特殊なんですねぇ。

 杉本  そうなんですね。薬とは違って、さっき先生がおっしゃったように、速効性もある。速効性があるってことは、そういうちょっと紙一重みたいなとこがね。

 蓮風  そうなんです。いやっ、昨日ね、また面白いんですけれど、京都大学出の30歳代の秀才で、「西洋医学はだめなんだ」って最初から言うんですよ。で、そのくせ自分は某学会の講師をやってらっしゃるんです。で、自分が腰痛いんで、いろいろやったけれど治らん。そこで、当院で、ちょっと鍼をしてみた。「鍼した後どうやった?」って聞いたら、「なんか息が止まるくらい眠くなった」って。

 杉本  ほぉ。

 蓮  これ効いた?って聞いたら、「間違いなく効いてる」って言った。だから、この方もドクターなんだけれどね、今は若い人が意外とねぇ、なんらかのきっかけで一回鍼を受けたら、鍼が効くんだってことを知っていますね。下手に、年寄りはもうだめですわ。

 杉本  頭かたいですからね(笑)。

 蓮風  うん。意外とね、若い人はねぇ、自分で体験した事実を言いますから、あの、僕はそういう意味でちょっと希望が持てるかなって、そういう気がしてるんですわ。まぁ、先ほどの中国の話、韓国の話があるし、日本の伝統医学とかなんとか言っているけどね、まぁそれはそれとして大事なことなんだけど、問題は患者さんがついてくるかどうかなんです。医学なんだから、先ほどの話、伝統文化であり、実用の学なんだから、それは実際に有効でないと意味がない。

 杉本  そうなんですよね。まぁ文化として学ぶのは、その鍼の先生達に学んでいただくとして、私たち患者にとっては、治ればいいだけのことですけどね。

 蓮風  患者にしたらね。

 

 杉本  患者にしたら、別に理論はどうでもいい、治ればいいっていうのが本音。本当に効いたらいいんですよね。なにかで証明されなければいけない訳じゃないですから、治ることが要件なんで、知りたいのは治るかどうかってこと。でも先生たちには治すために勉強してもらわないと。

 蓮風  そうなんです。そこから発して、東洋医学の原点に戻って、そしてその理論を使うと、先生ご存じかなぁ、先天的な病、血友病による出血が止まらない、当院のある患者、様子が改善してきましたよ。

 杉本  えっ。男性に圧倒的に多いとされる遺伝子病、遺伝病ですよね。

 蓮風  出血が止まらんようになる、血液の凝固因子云々の問題で止血しにくくなる病気です。

 杉本  あれって、先生すみません…。遺伝子の問題じゃないんですか?


 蓮風  だから、それが西洋医学なんです。

 杉本  そうそう。だから、今それで聞いたんです。あれはあの、学校で習っていますから。血友病イコール遺伝病、ってことは遺伝子が悪さしてるなって思ってますから。

 蓮風  とりあえずは、その、遺伝子の病。西洋医学的に、今の常識ではね。それと、もう一つはダウン症。それはよくなるよ。

 杉本  ダウン症はねぇ、先生のところで何人か見ましたけれどね。

 蓮風  よくなる。

 杉本  顔が変わってくるって。

 蓮風  これはねぇ、やっぱり今言うようにねぇ、理屈はともかくねぇ、事実として起こるんですよ。だから、何で?って言われたら、あんたら説明してって(笑) 。説明して欲しい。ただ、鍼を上手に巧みに使って、あの、『素問』『霊枢』の教えのように局部に鍼するんじゃなしに、気の歪みを治すと、そういう理論でもってやれば、ある意味で奇跡みたいなことを起こすことができる。〈続く〉

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