蓮風の玉手箱

このサイトは、2011年8月7日~2015年8月29日までの間、産経関西web上において連載された「蓮風の玉手箱」を復刻したものです。鍼灸師・藤本蓮風と、藤本漢祥院の患者さんでもある学識者や医師との対談の中で、東洋医学、健康、体や心にまつわる様々な話題や問題提起が繰り広げられています。カテゴリー欄をクリックすると1から順に読むことができます。 (※現在すべての対談を公開しておりませんが随時不定期にて更新させていただます・製作担当)

2019年10月


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藤本蓮風さん=奈良市学園北「藤本漢祥院」

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」は、和クリニック(和歌山市吹屋町)の村井和院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の7回目をお届けします。前回は東洋医学のバックボーンのひとつである「気」についてのお話となりました。今回は「鍼の本質」に話題が及びます。「玉手箱」のなかでも一般の読者にとっては鍼を考える大きなポイントになりそうです。(「産経関西」編集担当)

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 村井 先生ご自身はどうやったら東洋医学での治療を受けようという方が増えると思われますか?

 蓮風 う~ん、それ、それなんですよね。やっぱり西洋医学では難しい患者さんを鍼灸師がどんどん治していかないといけないと思います。ところが、そんな鍼灸師は少ない。ちょっとした慰安的な、電気治療と同じ様なことをやってるだけでは独自性がないから患者さんも全然振り向きもしない。

 村井 そうですね。

 蓮風 以前も言いましたけど、どこからか多額の寄付を受けて、そんなことができる病院ができれば、難病治療の機会も増えて成果も見てもらえる。鍼灸師が質的な向上をしないで、軽い肩こりや腰痛の治療みたいなことばっかりやっとるだけではアピール効果は少ないと思います。

 村井 そうですね。

 蓮風 この間もALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病の患者が少なくとも、人工呼吸器を付けんでもよくなった。これはやっぱり凄いことやと思うんですよ。西洋医学ではそれはできなかったんですから…。そういう病気をどんどん治すしかない。そのためには、鍼灸師のレベルを上げなければならない。だから「北辰会」は「こんな症状が治るよ」「一緒に勉強しませんか」って声を枯らしているわけ。また治った実例を社会やドクターにもっともっとアピールせないかんわ。その1つが実は「蓮風の玉手箱」であり私のブログ(「鍼狂人の独り言」)でもあるんです。

 それから「柔整鍼灸師」というか、鍼灸師と柔整師(柔道整復師)の免許を持っている場合、柔整師の「施術」は保険診療の対象になりやすい。自分ところの柔整を流行らせるためにサービスとして鍼灸もやってる。これでは絶対鍼灸のレベルは上がらないし、患者さんも「あぁ鍼なんて、その程度のもんだ」と思ってしまう。だけど、治療のときに保険がきくので、そちらのほうがレベルが高いと思ってしまうかもしれないんですね。

 村井 はい。
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 蓮風 でも、鍼で治ってくると、やっぱりこれは(世間の印象より本当の力は)“上”だなという風に気づく訳です。やっぱり実践によって人々は鍼への評価を高めるんじゃないですかね。

 村井 でも今の時点で鍼灸が、西洋医学の代わりを全部しようとしても、ちゃんとできるレベルの人が足りませんよね。

 蓮風 そうそう、だから教育から始めないかんわけですね。大変なことですが。まぁ「北辰会」は知らん間に会員数が約300人になりました。それだけ増えたということは少しは社会に貢献してる証明ですよね。会員にもドクターが増えてきて「ドクターコース」もあります。地道やけども、そういうことしかないんじゃないかなぁ。本当に(スピード感がなくて)歯がゆいですけどもね。

 それから明治以来の鍼灸師を輩出する制度にも問題があります。病気治しよりも害のない鍼をしなさい、という教育が基本なんです。だからやってるのは東洋医学ではなく、ほとんど「消毒をきちっとしなさい」とか「こういうことやると危険だからやるな」という様なことが基本に置かれた教育が続いてる訳です。

 だから鍼の本当の姿を知らないのが多すぎる。ほとんどが知ってないと思うがね。だからこの間もちょっとしたデモンストレーションで僕は、鍼も使わんと「気」を動かして見せたんです。実は「鍼の本質はこうなんだよ」ということが言いたかったから披露しました。「鍼は物理刺激やから効くんだ」という様なこと言ってるんではもぅとてもとても鍼の素晴らしいところを展開できませんね。<続く>

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村井和さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市の「藤本漢祥院」

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。村井和・和クリニック院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の6回目です。これまでのお話から村井さんは医師として実際の治療に鍼灸を取り入れているだけに「東洋」と「西洋」の医学の違いが経験的にわかっていることが伝わってきます。今回、話題にのぼっているのが「気」です。「形」あるもののメカニズムの関係性から考える西洋医学と、眼に見えない「気」を重視する東洋医学…。後者を「非科学的」だとする立場が本当は科学的ではないことも少しずつ理解されているようで、おふたりの経験をうかがうと、宇宙としての人体の不思議さが浮き彫りになって医療の新しい可能性が見えてくるようです。(「産経関西」編集担当)

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 村井 自分が鍼を受けたり人に鍼で治療したりしてますと、鍼で身体に変化が起こるっていうことが分かるんですけれども、その効き目や、どうやって効いているのかということを患者さんやドクターに、どう説明したらいいんだろうなって思うんです。

 蓮風 そのことについては、私も素人向けの本をいくつか書いたんです。結局(西洋医学とは)根本が違うということを徹底的に復習するしかない。西洋医学は「形」を追求して、どこの“メカ”が痛んでいるのかということを基本に考えて医学ができていると思うんです。最近では、メカだけでは説明できない部分があることを西洋医学もぼつぼつ知りだしてきたんですね。

 東洋医学の場合は、あくまで形でなく「気」というものが身体を支配している。それは身体だけじゃなしに自然界も「気」によって支配される。そういう自然界とわれわれの内部環境というか、生体とがまたお互いに呼応してるんですね。今(対談は4月17日)の時季、本来は東南の風が吹いて春としては非常に湿気が多い時期なんだけれども、ここ最近は空気が乾いている。異常に乾燥してましたね。で、どうも患者さんの身体が動きにくいという事を知った訳ですけれども、その時、気にしとったら大きい地震(4月13日に発生した淡路島付近を震源地とするM6.3の地震)が起こりました。もちろん地震そのものの予知をしていたというわけではないんですが…。

 人間の身体で「気」が大きく歪む場合には自然界も歪んでいる。これは内部環境と外部環境が呼応してるんだという考え、これが東洋医学の根本的な考え方なんです。だから今「北辰会」で『内経気象学』というのを作って勉強をやってもらってる訳ですけれども、病気というものはそもそもこの自然界の陰陽の「気」が崩れた時に起こりやすい。その自然の陰陽の「気」が崩れるのには幾つかの理由があるね。冬は寒い北風が吹く。夏には南からの暖かい風が吹く。これが自然の法則や。でも最近はかなり狂っていて、自然界の季節にあらざる風が吹いている訳です。

 村井 はい。
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 蓮風 それから食べ物が相当乱れてきてますね。もう色んな添加物が多すぎる。特に今の若い人はね、ファーストフード、と言うんか、そういうものを美味しいと言って、たくさん食べてるのは、やはり問題があると思う。それから精神面でも非常にストレスが多い社会になってますね。こういったものをやはり意識しながら患者さんに鍼をする。結局まぁ「気」を戻す。で、「気」を戻すということは自然界にも実は働き掛けている訳です。

 この間、ある弟子が「先生、患者さんの鼻詰まりを治したら私の鼻詰まりも治った」と言ってました。鍼灸師自身の内部環境と外部環境にまで働く。鍼というのはそんな凄い世界なんですよね。そうなってくると単なる医療じゃなしにもっと根源的な人間が生きてることの意味、人間がどうしないといけないのかという様なことを説いている様に思うんですよ。いかがですか?

 村井 そうですね。私も凄く体調が悪い、まぁ頭が痛いとか腰が痛いとかいう時に、朝は頭痛で嘔吐して御飯も食べられない状態なのに、病院へ行って患者さんが前に座ったとたん身体がスーっと楽になって気持良くなるんですよ。で、もうあらゆる苦痛が取れて…。凄い腰痛があって動くのが辛い時でも、患者さんを治療している鍼灸の間だけは全然痛みがなくて、「あっ、あと一人やな」とか思った瞬間にガーっと痛くなり出して(笑)。意識というのもあるんでしょうけど、人を治療したりしてるとこっちも楽になって来るんです。そういうことも影響してるんですかね。

 蓮風 まぁそういうこともね、やっぱりその人の人格とかそういうのも色々左右するんでね、なかなか難しい問題で。それを行き過ぎるとまたそれこそね、怪しげな宗教と思われますんで難しいところですけれども。<続く>

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村井和さんと対談する藤本蓮風さん(写真左)=奈良・学園北「藤本漢祥院」

 鍼灸を治療に取り入れている医師の村井和・和クリニック院長をお招きした「蓮風の玉手箱」の5回目をお届けします。鍼灸師の藤本蓮風さんの治療を受けて「憧れていた医学」に出会ったという村井さんでしたが、医学生時代に東洋医学を志すとカルト宗教に入信するくらいの扱いを受けた、という話で前回は終わっていました。今回はその続きから…。そして患者の立場を最優先にして東西の両方の医学がうまく活用される方法を探ります。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 普通の病院、特に大学病院はそのぐらいにしか思ってないですよ。もう怪しげな宗教団体ぐらいにしか思ってないですね。これでもだいぶマシになったんですけどね。


 村井 そうですね。今は大学でも漢方の授業もあるといいますし。大学によっては鍼の事も教えてくれているみたいで。

 蓮風 実際、漢方やっても鍼灸をやらなかったらアンバランスというかね。そういう思いで、我々も大学の医学部で使われるような教科書をぼつぼつ書いているわけなんです。

 村井 そうですね。

 蓮風 どうすれば東洋医学を知らない若いドクターが興味を持つようになると思いますか?

 村井 そうですね。鍼が効くっていう事を教えてあげるのと、なにか悩んでいる症状があれば、腰痛であるとか、まずそれが鍼で治るよということを言ってあげて、実際に治してあげると、一番納得しますよね。まあ治療を受けてくれたらですけれども…。

 蓮風 先生の場合もそうやけれど、私は、病気を持っておられる、たくさんのドクターを治してきました。そういうドクターはついてくるんですよね。鈴村水鳥さん(小児科、東京女子医科大卒、北辰会会員)なんかも、「天疱瘡」という難病にかかって、(鈴村医師が学生当時の)助教授が(蓮風先生のところに)行ったら、どうやいうわけで、最初はね、信じてなかったけれども段々、のめり込んできたという感じです。だからドクターも実際、かなり病気を持ってると思うんですよね。

 村井 ものすごく不健康な人が多いと思いますよ。スポーツされている方は結構いいんですけどね。

 蓮風 ドクターたちの不健康をね、ひとつずつ治したら、ドクターも信じざるを得ないと思うんですがね。いかがですか?

 村井 うちの患者さんたちも主治医に反対された方々は「鍼でしか治らないような病気になって、鍼で治してもらったら、あの先生も納得してくれるんと違うんかな」とか、おっしゃいます。

 蓮風 先生がおっしゃるように、東洋医学をベースにして西洋医学を補完的にやる、私もそれが理想だと思うんだけれども、そういう病院ができるとね、一番いいんだけれども。どっかおりまへんかな? 50億か100億かちょっとポンと出して、世のため人のためにこういう病院を作りたいという奇特な方は…。僕はいい医療ができると思うし、その中で鍼灸師も、ドクターも育てるようなね、そういう教育システムを持つ医療機関であればいいと思います。いいと思います。
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 蓮風 中国では中西合作と言って、西洋医学も東洋医学もいいんだから、それを合作(協力)させようという考え方がありますね。これについては色々異論があるんだけれども、病院の中でも両方の医学のベースの違いをどうもっていくのかというのは非常に難しいと思うんですよね。そういうことについて何かお考えがあれば…。

 村井 そうですね。どの先生も、西洋医学と東洋医学と両方の知識をもって、その時々でこういう時はこうしなければならないとか、両方やった方がいいとか、そういうこと判断できれば一番いいと思いますけどね。

 蓮風 お互いの医学を解っておれば話もしやすいということですね。先日、C型肝炎ウイルスにかかって、それから肝硬変になった患者さん…某国立大学の偉い教授に「生体肝移植をやるしか救う道はない」と言われ、本人も悩んで、ついにうちの診療所に来たんですね。診ると、幸いな事に舌がものすごく綺麗、脈も非常に安定している、腹部所見もいい。だから、患者さんに、「よほど養生法を間違わなかったら上手いこといくぞ」と言ったんです。これほどね、西洋医学と東洋医学の見解が違うと、非常に困るんですよ。そういった場合に先生はどうお考えですか? 私は東洋医学の立場でこうこうだと言っていくんだけれども。先生みたいに両方の立場だと非常に難しいですね。

 村井 実際、本当に難しいです。今のところは、両方のメリットデメリットをお話しして、患者さんに決めていただくことになるかなと思います。

 蓮風 最終的にはそういうことですかね。非常に見解が一致する所も沢山あります。同じ人間の身体を違う角度からみてるけれども、当然そこにオーバーラップするところがでてきて、全く違う見解も結構でてくるんですね。そういった場合に、非常に難しいですね。将来そういう相談所みたいなものができたらいいですね。両方の見解を知っとって、患者が行ったら、あんたこっちに行った方がいいと、そういうコンサルタントみたいなもんが医療の中にできるとこれまたいいと思いますがね。先生に理想を語ってもらうと言いながら勝手に自分の理想を語ってしゃべっているみたいなんですが、いいですか。

 村井 先生の理想も私の理想も同じだと思います。<続く>

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対談中の藤本蓮風さん=奈良市の藤本漢祥院

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」をお届けします。鍼灸を治療に取り入れている医師の村井和・和クリニック院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の4回目です。今回は村井さんが鍼を使った実例について、より具体的なお話が出てきます。それから理想とする医療についても言及されていきます。「健康診断」についての話題は前回の最後で、東洋医学について村井さんが「自分の身体ひとつあれば診察できる」と評価した点と重ね合わせると新しい医療像が見えてくるような気がします。

(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 先生は(2011年11月に)クリニックを開業なさった訳ですけれども、それまでは病院で内科を中心に担当されて鍼灸を用いていろんな患者さんを治療してこられた。そして病院を辞めて、週に1回は未だに病院に関わっておられる。これはやはり西洋医学は、しょっちゅう変化するから、それにある程度呼応するのはあったと思うけども、病院の中で、そういうことをやっておった時と、鍼を中心にやっておられる今では、考え方が変わりましたか?

 村井 そうですね。鍼で治療するって目で毎日毎日患者さんを診れるっていうことで、西洋医学よりもどちらかって言うと、東洋医学の方により傾いて来てるなっていう気がします。

 蓮風 それはやっぱり、はっきり言って西洋医学より面白いからですか?

 村井 そうですね。ええ。

 蓮風 これ、大事なんですね! このコーナー(蓮風の玉手箱)を読まれる西洋医学の先生にとっては、そういう部分が非常に興味深いと思いますが、最初から重症を診ておられますね?

 村井 そうですね。

 蓮風 先生は僕と一緒に『鍼灸ジャーナル』という雑誌に「難病シリーズ」という論文を20篇近く書いてきました。癌(がん)とかそのほか膠原病など色々診ておられると思いますが、鍼で治療してみて、やっぱりひとつの確信みたいなものができてきましたか?

 村井 そうですね。(蓮風さんが主宰する鍼灸学術団体の)「北辰会」に初めて行った時に先生の講義で、胸水だとか腹水も治るんだよという話を聞いたような気がするんです。病院に復帰してすぐにそういう患者さんを担当しました。そういう方法があるならやっぱり用いるべきだと思ったので、勉強し始めたところだったのですが、すぐに蓮風先生にご指導を仰ぎました。

 重症で入院されてるぐらいの方なんで、もちろん西洋医学の治療もするんです。けれども併用して患者さんもすごく満足されてましたし、鍼が効いてるっていう感じをお持ちでした。普通は利尿剤ばかりじゃなくてアルブミン製剤とか使うんですけど、鍼をした途端に便がたくさん出てスッキリするっていうのを繰り返しているうちに、利尿剤もそんなにたくさん使わずに胸腹水がきれいにとれていって、その後ずっと鍼を続けて、先生の所に紹介して鍼を続けていただいて、それで2年ぐらいまったく胸腹水が溜まらないでおられた記憶があります。

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 蓮風 これから先生の理想とする医療についておうかがいするわけですけれども、まず先生は両手に東洋医学と西洋医学をもっておられるわけですね。両方とも有効は有効なんだけれども、どうゆう風に使い分けたら一番いいと思いますか?

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 村井 うーん、そうですね。私自身は、まず西洋医学じゃなく、まず東洋医学の方を…。

 蓮風 ベースにして。

 村井 で、治療して、それでは難しいものだという場合に、西洋医学を補完的に使うというのがいいかなあと、私は思ってるんですけれども。

 蓮風 それはどういう理由によるんですか? 普通の西洋医学の先生であれば反対言うんですね。西洋医学をベースにして、補完的に東洋医学を使うというのが世間に多いわけですけれども、先生の場合は、全く逆転してますね。

 村井 そうですね。まず鍼の効き目が分かっているという前提があると思うんです。効いていることが確認できる。全然効かない治療であればね、最初にするということは考えられないと思うんです。それとすごく身体に負担が少ない非侵襲的であるということと、副作用が鍼の場合は少ないということですね。

 蓮風 それを先生はしきりに主張なさいますね。「難病シリーズ」で(身体への負担となる)侵襲性が少ないということをおっしゃってましたね。という事は、西洋医学で治療すると治るんだけれどもその侵襲性が結構あると?

 村井 ある場合もあると。

 蓮風 そういうことですね。ステロイドにしてもそうですよね。まあそういう医療だから病気を治すわけやけど、治す一面と、反対にまた悪くする面があるっちゅうのはかなりデメリットですよね。それをほとんどなくして治せることが理想ですよね。その他なんかアイデアみたいなものはありますか? これから理想とする医療を創っていく場合に。

 村井 どんなことでしょう。

 蓮風 例えば西洋医学ではよく健診なんかやるじゃないですか?

 村井 健診?

 蓮風 健康診断といっていいかな。そういうものを東洋医学的にやったらどうかなあっちゅうのが。

 村井 面白いですね。

 蓮風 僕の意見はそういうこと。癌とかなんかをみつけるのは難しいけれども、大きく身体が歪んでいる、だから健康に気をつけなければいかん人と、これはまあそんなに心配せんでもいいとか。あと生活習慣を聴いて、運動が足らんかったら運動をやるとか、食べ物をこういう風になおしたらいいんじゃないかとか、そういう健康診断を東洋医学でもやったほうが私はいいように思うんだけれども、いかがですか?

 村井 それはすごく思います。同時に鍼を打つ場合でも東洋医学ではすごく予防ということを重視されるではないですか?

 蓮風 全くその通りなんですよね。こういうドクターが沢山でてこられるとね、非常に有り難い事で、我が意を得たり、という気持ちで感謝しています。私にも一部、当てはまるけれど、東洋医学の側からの西洋医学に対する偏見みたいなものをなくすにはどうしたらいいですかね。

 村井 そうですね。やっぱりあの…。

 蓮風 勉強することでしかないですかね。

 村井 そうです。お互いにお互いの医学のことを全然知らないんですけど、昔よりは随分マシにはなっているんですよ。大学生の時に将来何をしたいって教授とかに聞かれて、東洋医学がしたいと言ったら、オウム真理教に入るのかというぐらいの扱いなんですよ。〈続く〉

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待合室で患者と談笑する村井和さん(写真右)
=和歌山市吹屋町の「和クリニック」

 「鍼(はり)」の力を探る「蓮風の玉手箱」は医師で鍼灸を治療に取り入れている村井和・和クリニック院長と、鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の3回目をお届けします。前回は、体調を崩して勤務先の病院を休職していた村井さんが蓮風さんの鍼と出会ったきっかけが語られました。今回は、その続きです。蓮風さんが代表をつとめる鍼灸学術団体「北辰会」に村井さんが入った思いも伝わってきます。(「産経関西」編集担当)


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 蓮風 (村井さんは患者として)僕のもとにいらしたときから、鍼による治療にたいへん興味を持っておられた。これはもう実践の上で先生にお伝えした方がいいと思ったからね、休職から病院に復帰してからも治療を受けながら東洋医学をやったらどうかなと、確かそういう気持ちで、復職後の治療を勧めたと思います。

 村井 はい。先生が、仕事に復帰して患者さんを救っていくことで自分も救われるっていう風に教えてくださいました。

 蓮風 うーん。それ、非常に大事なことを言っておりますね。いろんなダメージがあったけれども、むしろ医療をやることによって患者さんが救われる。その救われることによって先生自体が癒やされるであろうということを言った訳ですね、うん。それから間もなく「北辰会」に入って来られるんですね?

 村井 そうですね。職場復帰の前に、もう「北辰会」に先に入ってたと思いますね(笑)。

 蓮風 ああそうか!はっはっは(笑)。

 村井 ほぼ同時ぐらいですね。

 蓮風 その時に、これは面白いなとか、こういう事は変わってるなとか、そういう印象ありました?

 村井 そうですね、「北辰会」の印象っていうか、まあ、蓮風先生そのものって言うか…。「(藤本)漢祥院」に初めて来た時の印象から話しても良いですか?

 蓮風 うんうん。

 村井 先生の治療を受けて本当に、小さい頃から憧れてた医学に、やっと逢えた気がしたんです。

 蓮風 ああ、巡り逢えたと。

 村井 ええ。

 蓮風 そういう思いがあったということは、先生自身の身体が実際良くなったし、眼も良くなったんですよね?

 村井 そうですね。眼も良くなりました。

 蓮風 白濁してましたからね、最初診た時はもう、右目はね。

 村井 ええ、ええ。白濁はもう綺麗に治りました。

 蓮風 で、今はちょっと眼は弱いけれど、白濁するっちゅうことはほとんどなくなっとるわけですね。

 村井 ええ。
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 蓮風 西洋医学的にいうと病名は何なんですか?

 村井 んー、最初は「強膜炎」というのが起こって。

 蓮風 強膜炎。

 村井 そのずっと前には眼を、角膜を傷つけたこともあったんですけど、そこを中心に炎症が広がって、で、「痛い痛い」って言ってたところに、ステロイドの点眼をずっと続けて。で、そういうのが色々重なって白濁していったと思いますね。

 蓮風 まあそういうことで、身体全体とそういう眼の難病が治って来たということが非常に先生には新鮮に見えて、これが本当の鍼だ!と思われたっちゅう訳ですね。

 村井 そうですね、初診で鍼をしていただいた瞬間から思っていましたね。

 蓮風 先生は内科がご専門なんですけども、東洋医学との根本的な違いは何だと思いますか?

 村井 そうですね…。まず、3つぐらい挙げたいと思いますけど、1つは、目に見えない「気」っていうものがあるっていうことが前提にして、成り立ってるところが全然違うと思いますね。

 蓮風 そうですね。西洋医学はむしろ形のある世界で、形を追求していく世界ですよね。

 村井 はい。

 蓮風 他に?

 村井 そうですね。歴史がすごく長くて、何千年という歴史がある。西洋医学も歴史はあるんですけど、今のような形になって普及してるのは100年くらい前から。で、今も発展し続けてる。どんどん変わっていきますし。そういう意味では何年か前に常識だった治療や養生法とかが、もう全然ガラッと変わってしまうっていう世界で。で、それに対して東洋医学の方は完成度が高くて、そう容易には根本的な原理とか真理は変わらないってところがすごく魅力だと思います。蓮風先生の治療はどんどん進歩されますけど。で、もうひとつは道具がそんなに要らないっていうところで、自分の身体ひとつあれば診察できるっていう。で、診断もできるってところが素晴らしいと思いますね。<続く>

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