医学ランキング
竹本喜典さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼(はり)の力を様々な角度から検証する「蓮風の玉手箱」は「鍼狂人」を自称する鍼灸師、藤本蓮風さんと、医師で山添村国保東山診療所長の竹本喜典さんとの対談の2回目をお届けします。前回は僻地(へきち)医療に従事する竹本さんが医師を志した理由や教科書通りにはいかない現場の実情などが話題になりました。今回は僻地ならではの医師の役割や地域の人々との人間関係に話が及びます。(「産経関西」編集担当)
蓮風 田舎やったら、先生みたいに活気があればお嫁さんの世話してあげようかとかね、あるでしょ。
竹本 ありました、ありました(笑)。
蓮風 いらん心配や世話をしてくれんでもええけど、お互いに、そこまで入りこむことによって、その人達と深く繋がっていく。そういう意味では医療の本質に関わる問題だと思うんです。でも、ある程度深くいかないかんし、同時に(親密になりすぎないように、医者と患者という一定の距離を保つために)切らないかん面と両面あると思うのですが、どうですかその辺りは。
竹本 そうですね。こちらからはなかなか切れないですね。
蓮風 うん、そうですね。
竹本 どうしても状況によって、もうこれ以上この診療所で診たらあかんとか、これはやっぱり紹介しなあかんというのがありますので、適切なタイミングで後方病院に送ることが必要です。それが切ることにあたるかもわからないですけど、実際には、戻ってきてまたこちらで診させてもらう、また紹介する、そういう連携もあります。
蓮風 陸の孤島というか、離れ島のね、漫画の『Dr.コトー診療所』みたいな世界がやっぱり展開されるわけですね。
竹本 今の山添村はそれほどではないんですけど、南の方へ行っていた時は、かなりそういう感じはありますね。やっぱり奈良市の(中心部の)方に出ようと思ったら、やっぱり2、3時間かかりますので。
蓮風 山添でしたか、先生のおられるところは。それ以前はどこにおられたのですか?
竹本 下北山村って先生ご存じですか?
蓮風 あ、下北山村。吉野の。
竹本 吉野の。
蓮風 ああ、あれもほんまの田舎ですわ。あれこそ陸の孤島ですね。
竹本 いいとこでしたね。いまの山添村の人口は4000人位なんですね。で、下北山は今なら1200人くらいかもしれませんけど、このくらいの人口規模がちょうど全体をとらえやすいんだと思います。僻地では診療以外に、福祉だとか検診だとか、子供の予防接種だとか、健康教育とか管理だとか地域づくりみたいなことにも関わります。関わりの中で、村民性とか生活とか人間関係だとかが分かってきます。あの人の子供がここに嫁いでるとか。
蓮風 よくわかりますよね。
竹本 そうですね。「ここの家は色々もめていて難しい」「あぁそうかこの子こんな感じか」とか、重要でないことも多いですが、そういう意味で色んなことが見えます、患者さんが言わなくても色んな「前情報」っていうのは、たくさん入ってきます。看護師さんが、生き字引みたいなんです。
蓮風 一般の病院でも保健師さんと看護師さんとか、そういう人達は当然関わっているけども、僻地医療の場合にはそういう人達との繋がりというか、連携プレーちゅうのはかなり?
竹本 もの凄く。そっちの方がメインで。
蓮風 そういうことですね。
竹本 そうですね、後ろ盾になって、医療的な立場で仕事をするんですけど。なるべく出しゃばらないようなかたちで。
蓮風 前にはそういう人達に立ってもらって。
竹本 そうですね。やっぱり、それぞれができる範囲でその患者さんの問題を解決しようとしますので、たとえばケアマネさん※であるとか、介護のヘルパーさんであるとか、看護師さんとか、介護タクシーのようなものとか。色んなサービスを利用して村ぐるみで行います。ひとり暮らしで大変な人とか、病気されているお母さんと2人やとか。そういう色んな問題を抱えた家庭をどう支えたら一番いい形でできるのか。「もうこけそうやから、もう無理やろか。そろそろどっか施設入らなしゃあないんとちゃうか」。こんなことをうまく話して考えていったりとか、中身は若造ですけども、それなりにドクターやって白衣を着てしゃべると、患者さんは「あぁそうか」って思ってくれるところがありますので、切り込み隊長を期待されることもありますし、いろんな立場でいろんな物事をスムーズに、みんなを取り持ってやっていくというのが田舎らしい仕事かもしれませんね。※「ケアマネージャー」の略称
蓮風 なるほどね。
竹本 問題解決というんですかね。
蓮風 そうですね。そういう陸の孤島みたいなところでやるということが、非常に、ある意味では特殊になってくるでしょう。
竹本 そうですね。都市部で開業されている先生も都会の孤島をある程度見てはるんだろうと思いますので、大きく変わらない部分もあると思います。ただ、紹介とか、大病院へちょっと行ってもらうとかそういう部分でハードルが高いですから、無理してると感じることもあります。また、田舎はコミュニティとしてはカチッと固まってますので(慣れない都市部の病院への移送のデメリットもある)。
蓮風 どうですかね。僻地の医療の場合は、おっしゃるように全科に渡って関わってくると思うのでそこら辺りの面白さとか、しんどさとか。
竹本 そうですね。もしもお産がきたらどうしようと思った事はありますけど、実際はなかったですね(笑)。
蓮風 残念でしたね(笑)。
竹本 残念です(笑)。来てもほんとに救急車に同乗するだけなんですけど。でもいざとなったらという思いはどこかに。そういうドキドキ感はありました。特に下北山の時はありましたね。交通事故で死にそうな人とか、(狩猟で)間違って鉄砲で撃たれてしまう人とか、まれにですがあり得ますので、そうなった時に、いつスクランブルかかるかって緊迫感はあります。〈続く〉