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沢田勉さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
今年最後の「蓮風の玉手箱」をお届けします。吉祥院病院在宅医療部長・沢田勉さんと、北辰会代表の鍼灸師、藤本蓮風さんの対談も7回目となり終盤に近づいてきました。沢田さんの実際の体験を通じても現代の医療現場で、鍼灸が有効なことが示されてきましたが、今回もそんなケースが紹介されています。西洋医学と東洋医学をもっとうまく使い分けることができれば、患者に負担の少ない効果的な治療の可能性が広がってくるように感じるのですが…。(「産経関西」編集担当)
蓮風 かつて「急性虫垂炎」の治療について、お教えしたことがありました。それが当直のとき、役に立ったと言っておられましたが、どんな様子ですか? 宿直医になると、ある意味、全科にわたってやらないかんですね?
沢田 病気って、夜中に重症になることが多いんです。面白いなと思うんですけどね。で、重症の患者さんが突然やって来る事があって、「急性腹症」…お腹が張ってくるというような症状と痛みを訴える。どうも(レントゲン)写真によると(腸閉塞などの)イレウスだということがありますよね。そんな場合は、「上廉(じょうれん)」註1に鍼を刺してみたらいい、という話をうかがってました。特に6月とか7月とかね「湿熱」註2の強い時期は、「湿熱」を助長するものをたくさん食べたり飲んだりして発症した場合には効くというわけですね。けっこう回復させました。あの鍼を入れるとね、何分後かに便が出て来るんですね。下痢便がドッと出たりするんですよ。ところが、ある時、凄いお腹で、やっぱりイレウスだったんですけどね。
註1:ツボの名称。正式には「巨虚上廉(こきょじょうれん)」といい、通称「上巨虚(じょうこきょ)」という。藤本蓮風著『経穴解説 改訂増補新装版』(メディカルユーコン刊)のp.88~93に詳しく解説されていますので、専門的な内容に興味のある方はそちらも参照してください。(北辰会)
註2:コッテリとした高カロリーな消化に時間がかかる食品。陰陽論でいう熱性の強い食材を多く用いた料理や揚げ物など。(北辰会)
蓮風 イレウス?
沢田 イレウスだったんですが、「上廉」で治らなかったんです。そんな場合、現代医学の治療はね、上から、腸に溜まった排泄液を吸うしかないので「イレウス管」という管を入れるんですよ。鼻から入れて、こうず~っと食道を通して、十二指腸まで通して…。エックス線の透視画像を見ながら入れるという、けっこう技術的に難しいことをやるんです。「イレウス管」をズッと小腸まで入れて、そこから排液して。排泄液がドンドン溜まればいつか破裂しますので、緊急性がある場合にするんですよね。まぁそういうことをしないといけないかという様な所までいってですね、で、その時、仕方がないから「胃兪」註3とか「脾兪」註3とかね、鍼をしてみたんですよ。すると、20~30分経ったころから、水みたいな便が(下から)ジャーと出るんですね。こんななってる〈大きなお腹の様子を示すジェスチャーをして〉ところからドンドンドンドン出てるんですよ。これはちょっとビックリしましたし…。
註3:胃兪、脾兪というのもツボの名称。背部にあって、東洋医学でいう脾の臓や胃の腑の反応を示すツボで、そういう臓腑を調整することのできるツボ。専門的解説は『経穴解説』を参照ください。(北辰会)
蓮風 「腸癰」(ちょうよう)っていうんですよね、東洋医学用語では。
沢田 はい、はい。だから虫垂炎だけじゃなくて、そういうケースでも使えるんだなってことは確かに分りました。お陰さまでありがとうございました。
蓮風 いやいや。
沢田 まぁ一つ覚えでやってるんで、困ったもんですけど…。
蓮風 私の内弟子のひとりが内科でも色々あるのに、沢田先生が、なぜ呼吸器内科を選ばれたのか、ということに興味を持っています。それについてお聞かせください。
沢田 胸部写真の読影が結構面白いんだなと思ったことがひとつのきっかけでしたね。
蓮風 それがきっかけですか?
沢田 はい。それから、わりと有名な先生がよく指導してくださってて、1枚の写真がどんな風に読めるかというようなこと、そういうことからでしょうね。それから病院からも呼吸器の医者がいないので、「お前、呼吸器やらんか?」というような要請がありましたので。面白そうだなというところもあって、そんなことです。
蓮風 でまぁ、ついでにそこまで話が出たからちょっと先生にまた慢性の呼吸器不全の、慢性気管支炎ですかね。呼吸困難がおこる、その症例について、お話ししていただきたい。
沢田 はいはい。ああ、ここ(藤本漢祥院)で、そういう症例がありましたよね。
蓮風 あれ、治しましたね。あれはどうですか。西洋医学的にみたらどういうように評価できますか。
沢田 それはすごいことですよね。気管支拡張症が治るってことは…。その方は写真の上での重症度はひどくはなかったですが、症状が非常に強かったですよね。それを見事に、症状はほとんどない様ですよね。
蓮風 つい最近では山道を1万歩、歩けたというんですよ。
沢田 西洋医学ではね、そういうことは聞いたことはございません(笑)。
蓮風 先生にお診せしたころでしたか。最初来たころは冬場は沖縄にいかないと呼吸が苦しくてしんどい。沖縄の暖かい所だったら大丈夫。毎年行っとったんですよ。で、沖縄の鍼灸院で漢祥院のことを聞いて、“あんたの側にいい先生おるやないかい”ということで来たのがきっかけなんですよね。でまぁ、今では冬になっても(呼吸が苦しいのは)全然ないんですよね。
沢田 現代医学の病気の評価というのが例えば“形”…。写真撮ってCT撮って、こんなに傷んでるんだから仕方がないというようなことになってしまうんです。でも、実は治す方法がいっぱいあるんですね。まぁ、先生はそれ(=治す方法)を使っておられると思います。やっぱり、そこのところ東洋医学の方が深いし非常に役に立つという理解ですよね。まぁ、上ですよね。実際、治してる訳ですから。どう考えても東洋医学の方がレベルが上ですよ。〈続く〉