医学ランキング
藤原10-1

藤原昭宏さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼(はり)の力を探求する「蓮風の玉手箱」をお届けします。医師で「藤原クリニック」院長の藤原昭宏さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんの対談も今回がとりあえずの最終回。まだまだ、話は尽きないようですが、それはまた次の機会に…。これまで西洋医学の問題点が指摘されてきましたが、締めくくりは藤原さんからの鍼灸医学への提言です。ちょっと苦みのある言葉で、関係者からは反論もありそうですけれど、客観的に的を得た意見ではないでしょうか。(「産経関西」編集担当)

藤原10-2
藤原10-3
藤原10-4

 蓮風 麻酔科といえば、日本では華岡青洲先生の話を思い出すんですけども、藤原先生は華岡青洲先生のことについて、ご存じですよね?

 藤原 はい、そうですね。

 蓮風 どうですか、あの時代に、アメリカ医学を凌ぐこと40年前に乳癌(にゅうがん)手術をやったとかいうふうに聞いております。

 化元年10月13日(1804年11月14日)、全身麻酔手術に成功している。これは、1846年にアメリカで行われた、ウィリアム・T・G・モートンによるジエチルエーテルを用いた麻酔の手術よりも40年以上前のことであった。

 不思議なことに、日本の医学部には華岡青洲先生の銅像はないんですよね。海外では、アメリカのシカゴのどこかに華岡青洲の遺品が展示されてあるんです※※。もっと日本の医学部に銅像あって然るべきだと思うんですよ。ここのところ辺り、日本人のプライドがどないなってるんかなと思うんですけども(笑)。あの時代は、それこそ麻酔やろうと思ったら大変なことでしょ?

 ※※シカゴの国際外科学会付属の栄誉館に資料が展示され紹介されている。日本では、近畿大学医学部の図書館に青洲の医療器具が展示されている。また和歌山県紀の川市に華岡青洲の像が建立されている。

 藤原 大変なことですね。

 蓮風 ねぇ。チョウセンアサガオの曼陀羅華(まんだらげ)ていうんですかね、あれでもって麻酔をかけて、それも自分のお母さんとか嫁さんで試してるでしょ。

 藤原 やはりね、患者さんの外科手術をするためには当然切るわけで、その痛みを取らないとダメやと…。それがまず第一で、当時、華岡先生が入手できる範囲で、完全に痛みを、しかも時間のかかる手術ですので、それだけの時間、痛みを取って、意識レベルも下げて、それでないと無理だというね。当時入手できたお薬を調合して、それでなんとかその手術をできるような麻酔を考えようという、そのパイオニア精神たるや、すごいですよね。

 あまり量を増やすと呼吸抑制がきたでしょうし、当時の事を書いた記録とか読んでも、何日も(昏睡から)覚めなかったとかね、それから、副作用でね、失明ですか、してしまいますよね。それだけのリスクをとって、危険を冒してまでやはりなんとか手術に必要な麻酔をしたいんだという、その熱意とその精神ですね。感心して頭が下がります。

 蓮風 あの時代ね、意識がどの程度になってるかいうの、まぁ、つねったりいろんなことして試してるんだろうけども、今だったらいろんな機械で制御してるでしょう。そういうのをなしでやってるんですね。信じられないぐらい。

 藤原 なしですよね。昏昏と眠り続けたっていいますから、それ、戻るかどうかわからないですね。

 蓮風 そうそう。薬の程度もね、どこまでが致死量かどうか、やってみんとわからん、そういう段階ですよね。

 藤原 わからないですよね。だから、先生もおっしゃいましたけど、日本で華岡青洲先生をもっと評価すべきやと思いますね。

 蓮風 そうですね。特に麻酔科は、日本にも誇るべき麻酔医が昔おったんだということでね、顕彰されてもおかしくないですよね。

 藤原 ええ、おかしくないですね。
藤原10-5

藤原10-6

 蓮風 さぁ、いよいよ最後のテーマにいきたいと思います。北辰会方式はもちろん一緒にやってきたわけですけど、他の鍼灸もちょっとのぞかれましたか?「鍼の在り方」について何かご意見ありますか?

 藤原 他の鍼灸は、ほとんど覗いてないんです。私が他の鍼灸を、ちょっと味わうというか、匂いを嗅げたのは、何年か前に「北辰会」が主幹となって鍼灸学会、大阪でありましたよね? あの時にね、司会をしたときです※※※

※※※2009年に開催された日本伝統鍼灸学会大阪大会のこと。昼のセミナーや実技供覧などの司会を務めた。

 蓮風 ああ、学会の中で。

 藤原 学会の中で、司会をさせていただいて。経絡治療はこんなんだとかね。何通りかありましたよね。そうするとやはり、体表観察せずに、とにかくこことここのツボに、とにかく鍼をするんだと。そしたらなんか反応が出てくるんだみたいなね。そういうなのを「へぇー、こんなやり方があるんか」とかね(笑)。「もうちょっと身体をよく診たらいいと思うんだけどな」とかね(笑)。

 まぁ、その程度でね、他の鍼灸の方々というか、方式というかね。それぞれがやはり、それぞれ進まれた先生方がおられて、もちろん大家と言われる先生もおられて、患者さんもね、それぞれについておられるんだから、それぞれに、それなりのものをちゃんと持っておられて、達成されていると思うんですね。ですから、「鍼の在り方」ですが、どれだけお互いに交流ができるのかということ、それから良いところを(尊重して)ね…。

 蓮風 そうですね、鍼灸界に、藤原先生からのご意見ですね。

 藤原 たとえば西洋医学でね、大阪大学はこう、東京大学はこうで、慶応大学はこうでっていってね、それぞれ全く別の事ばっかりをやってたら、やはり「じゃぁ、どれがいいの!?」みたいな感じでね。ひとつの鍼灸全体としてのベースみたいなものが、ないとイカンと思うんですね。そうでないと一つとなって力も出てこないし、それぞれ、まぁ言ったら「あれは我流や、我流や」てお互いがお互いを非難してたらイカンと思うんですよ。

 だからベースとしてね、「北辰会」の体表観察っていうのは、僕は素晴らしいことやと思うんです。それを元に、患者さんの身体を実際に触って、体表観察をして、そのノウハウは他の流派でも必ず役に立つと思うんですね。その先生方がやられてれば。

 蓮風 そうすると、北辰会方式が中心にならないかんと(笑)。わかりました。

 藤原 そういうことですね(笑)。だから、そういうことがこれからの鍼灸全体のベースアップというか…。

 蓮風 ベースを作るために、ベースアップするために最低限、体表観察ぐらいやろうよと、いうことですね。それから先生が評価なさったように、人間観察を含めた問診が大事だということでしょうね。

 藤原 ああ、そうだ。問診も大事ですね。ですからこれは、患者さんを見るという立場に立ってる人は、まぁ整体にせよ鍼灸にせよ、もちろん西洋医学にせよ、大事なことですから。そういうことは必須条件としてね、これからやっていくべきやないかなというふうに思います。

 蓮風 はい、ご苦労様でした。結構な話をいただきまして、ありがとうございました。まぁ、今後とも宜しくお願いします。

 藤原 いえいえ、ありがとうございました。よろしくお願いいたします。<終>

次回からは小児科医の鈴村水鳥さんと蓮風さんとの対談が始まります。