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佐々木恵雲さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。僧侶で医師の佐々木恵雲さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談(第2弾)も終盤に入ってきました。8回目の今回は「西洋医学」の問題点がテーマとなっています。現代日本で主流になっている医学は日本の風土に培われた生活文化や人間関係の在り方に合致しているのか…。病院などで違和感を覚える経験を持っている方は、その理由を考えるヒントになるかもしれません。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 宗教の問題点についての、お話が出たわけですが、では次に医療はいかがでしょうか。現代医療の問題点について…。

 佐々木 そうですね。すでに、ちょっと言いましたように、特に西洋医学といいますとね、僕が改めて言わずとも、今までも蓮風先生と対談されたドクター達も、いろんな問題点を指摘されている、その通りだと思うんですね。ただ、なぜ、そのようなことになっているかというと、やはり西洋医学というのは、原点に西洋の…欧米の文化があります。哲学とかですね、だから日本的な要素というのは全く入ってないんです。

 蓮風 なるほど。

 佐々木 全く入ってない。

 蓮風 日本人にとっても西洋医学でいいんだけど、そこに日本人の魂が入っていないと、そういう(問題点は意識しておくべきだという)ことですね。

 佐々木 はい、そういうことです。だからそこで、みんなの不満が出てくるんです。あるいは治療効果がうまく出ないこととかですね。僕は(その原因が)そこ(=日本人の魂が入っていないこと)にあるんだろうと思いますね。たとえば、それは治療だけじゃなくて、医師と患者さんとの関係などにおいてですね。で、これも全くの欧米的な考え方に基づいているわけです。

 以前、先生がおっしゃったように「問診」という言い方をやめて、「医療面接」という言葉にするとかですね、そういうのも全部まさに西洋的なものなんです。治療に関して全く西洋的な…、漢方といっても、これはもう西洋的な考え方で漢方を取り入れてるだけであって…。

 蓮風 そうそう。

 佐々木 本当の意味での漢方を出されているケースは少ない。

 蓮風 最近の医学部には漢方講義はあるんですね。

 佐々木 あるんですけど…。

 蓮風 我々は、患者さんが来られて「病院で出された漢方薬がある」と言うので見てみると、ドクターは全然(東洋医学の)根本が分かってなくて出しているケースがけっこう見受けられるんです。ああいう在り方自体はどうなんですかね。西洋医学が足らんものを、漢方医療技術でもって補おうという発想は。

 佐々木 うん、それですよね。アメリカでも、NIH(National Institutes of Health=アメリカ国立衛生研究所)なんかが、ずいぶん前から鍼灸などをとり入れてると言うてますけど、それは経済的な効果で取り入れているとかいうだけで…。(コスト面での有効性を)上手く利用しているといいますかね、だから…。

 蓮風 だから、僕らそれを「木に竹を接(つ)ぐ」と言いますがね。

 佐々木 そうそう。

 蓮風 木に木を接ぐんじゃなしに、全然異質なものを、寄せ集めて作っていくという。あの一種の実用主義というか、プラグマティズムというか。

 佐々木 その通りです。

 蓮風 ねえ。

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佐々木 先生がおっしゃるように特にアメリカは、プラグマティズムの考え方はものすごく強いんで、もうなんでも利用したれという、あったらなんでも利用したれという考え方なんですね。だからきちっとやらないと飲み込まれて…。

 蓮風 下手すると。

 佐々木 下手すると、飲み込まれてしまう。よく「欧米」とひとくくりに僕らもしちゃいますけど、ヨーロッパとアメリカっていうのはね、かなり違うんですね、考え方が。

 蓮風 どういう風に違うんですかね。

 佐々木 基本的には先生が言ったように、ひとつ目はプラグマティズムっていう考え方ですね。アメリカは非常に強い。それと、アメリカで、やはり特に強いのは、徹底した個人主義ですね。

 蓮風 個人主義。

 佐々木 ここに一番大きな違いって言いますか。ヨーロッパは、北欧、中欧、それと南部、たとえばスペイン、ポルトガル、イタリアですが、両者は全然違うんですよね。7、8年前ですけどね、京都にポルトガルの緩和ケアのドクターが講演に来られまして、それを聴きに行ったんです。現代の医療なら、癌(がん)の場合、癌という病名の告知をしなくちゃいけないとか、病名告知をですね。これは当然であってそれをしないとおかしいっていう風潮ですよね、今はね。

 だけどその先生曰く、南ヨーロッパではそんなことはないというんです。いわゆる日本的な感覚と似てるんです。家族主義的な地域の結びつきとか…。病名告知を必ずしもしないとか…。「だってショック受けるじゃないか」と言うんです。日本的な要素がすごくあるんです。だからヨーロッパでも結構違いがあるんですよね。

 蓮風 僕ちょっと今、閃(ひらめ)いたんですけど、やっぱり生活様式に問題があるんですかね。

 佐々木 そうですね、違いがあるんでしょうね。で、まぁヨーロッパもそういう違いもあるんですけども、アメリカとの違いっていえば、公的なものを割合重視していることです。

 蓮風 あぁ、公のもの。

 佐々木 公の。共同体とかですね。一方、アメリカの考え方の基本は個人主義。つまり個人が「それでいい」と思うんやったら何をやってもいいんじゃないかと…。人に迷惑をかけなければ。だから、たとえば再生医療にしても何にしても、あるいは一時期言われたクローンなんかにしても、基本的にはいいんじゃないか、自分で決めれば、っていうのはあります。

 ただそれに対抗するって言いますか、割合アメリカで出てきてるのが共同体主義ですね。どこまで共同体と捉えるのか難しいところなんですけど。共同体というのをどこまで認知すべきか、共同体っていうのをもっと重視すべきではないか。これが『白熱教室』なんかでも有名なサンデル、サンデル教授っていってハーバードの先生のテーマになっています。

 マイケル・サンデル(英: Michael .J. Sandel)は、アメリカ合衆国の哲学者、政治哲学者、倫理学者。ハーバード大学教授。コミュニタリアニズム(共同体主義)の代表的論者である。『白熱教室』はマイケル・サンデル教授による大学の講義を収録した、アメリカのテレビ番組。日本では『ハーバード白熱教室』という名称でNHKが放送。この番組を原点として『スタンフォード白熱教室』や『コロンビア白熱教室』などシリーズ番組、関連番組も放送されている。「学生を議論に参加させる講義スタイル」で、例題や実例を提示しつつ、学生に難題を投げかけ議論を引き出し、サンデル教授が自身の理論を展開する。(「北辰会」註)

 蓮風 はいはい。

 佐々木 彼の哲学者としての立場は共同体主義なんです、個人主義ではなくって。だからそういう流れはありますけども、でもアメリカは基本的には個人主義ですね。

 蓮風 基本的にはね。

 佐々木 だからそこは日本とマッチするかっていうと、うーん…。個人主義っていうのはある意味厳しい。責任が問われますんでね。

 蓮風 そら、そうですよね。

 佐々木 お互いのきちっとした話し合いの下で契約を交わしてという、これが日本に中途半端に導入されますとね、非常に難しいことになるでしょうね。<続く>