医学ランキング

関隆志5-1

藤本蓮風さん(写真左)と関隆志さん=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。東北大サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)高齢者高次脳医学研究部門講師の関隆志さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんの対談の5回目です。今回のテーマは「日本の医学教育」。世界でも最先端であることは誰にも疑問の余地のない日本の医療ですが、関さんは、医学教育は遅れているというのです。意外に思われる方も多いでしょうが、以下の話をお読みになれば、現状の可否については異論があっても、理由は納得されるはずです。(「産経関西」編集担当)

関隆志5-2
関隆志5-3
関隆志5-4

 蓮風 鍼灸・漢方界に足らない部分、なぜ世の中にもっともっと広まらないのか、ということについてご意見をうかがいたい。

 関 はい。まず今の日本はですね、世界の中では非常に遅れている。

 蓮風 ああそうですか。

 関 何が遅れているかというと、教育なんです。今の日本の鍼灸界の問題というのは構造的な問題…。

 蓮風 構造ですか。

 関 構造ですね。要するに複数の問題点が相互に絡み合って、それで現状に至っているんです。基本には歴史的な経緯というのがあります。日本の医学というのはもともと中国から入ってきていた…鍼治療あるいは漢方薬ですね。それが日本の最初の医学で、『大宝律令』なんかに書いてあるわけですけども、江戸時代にオランダの医学、蘭学が入ってきて…。

 蓮風 そうですね。

 関 明治維新でドイツの医学が入ってきて、第二次大戦が終わってアメリカの医学になって…。そのたびに今までの医学はダメだという形になってきているわけです。まずそういう経過がある。ですから医学教育の中に、伝統医学の教育がほとんどない。特に鍼に関してはほとんどないのが現状なんです。それから専門家である鍼灸師の教育も今でこそ大学、4年制大学が出てきましたけど、3年制の専門学校がほとんど。しかも、その半分は国家試験対策の西洋医学の解剖生理なんです。

 蓮風 なんか西洋医学の教科書を水でのばして広げているような世界ですね。

 関 ですから、物理的に教育の時間があまりにも短い。たとえば中国でも韓国でもびっしり教育する、西洋医学も伝統医学も両方、医者の養成の時やるわけですよ。それからあと、たとえばアメリカ、ヨーロッパの場合は医者に対して、医者の免許持ってる人に対して(伝統医学についても)200時間とか400時間とかそれなりのカリキュラムを作ってちゃんと教育してるところがあるわけですよね。ところが日本はそれがもうあまりにもお粗末で。

 蓮風 そうですね。これはもう勉強といえば徳川の末期からあって、鍼灸按摩を盲人の社会福祉に使っとった。で、その延長線上に晴眼者であっても教育をしたけど、本当の医学教育じゃなしに、悪くせん程度に持っていくという…そういう教育(の仕組み)が大きく関わってると思うんです。だからまず大事なことは、これは医学なんだという意識。先生もおっしゃったように病気を治してなんぼですから、もう一回意識改革をせないかんですね。

 関 そうですね。ただ意識というものはどうやって形作られるかと言うと、たとえば子供が産まれると親の中で育ちますよね。ですから親の意識っていうのがあって、それで親の考え方っていうのが子供に伝わるわけですよね。そうすると今やはり何か調子悪くなれば西洋医学の病院っていうことになりますから、やはり親の医学に対する考え方っていうのは子供にうつるわけで。それもやはり広い意味で言えば教育っていうことになります。

 蓮風 なるほどね。

関隆志5-5

関隆志5-6

 関 意識改革のためにはやはり知ってもらわなければ。

 蓮風 そうですね。

 関 意識が変わりませんので。最初に大学病院で大変ではないですかっていうお話がでましたけど、あれも結局は知らないわけですよね、鍼灸(はりきゅう)っていうものを医者が。ですから、そうすると、やはり知らないものは怪しいもの、というふうに誰でも思いますから。

 蓮風 そうですね(笑)。

 関 私が大学病院で鍼をやっててあいつ変なことやってると思われる。これは当たり前なんですよ、そういう風な反応は…。ですから、やはりこれだけ良い結果が出るという、そういう事実を示すということと、それをきっかけにして少しでも大学病院のスタッフとか先生方に、教育というとおこがましいかもしれませんけども、知っていただくというそういう勉強会のようなものを開いたりとか、地道にあらゆる面で家庭、それから学校、それから大学教育とかそして社会人、そこから既にライセンスを持った人への、色んな重層的な教育改革っていうのが必要です。

 蓮風 そうですね。さまざまにやらないかんですね。中国の小学生の教科書に漢方鍼灸の名医の話みたいなのが書いてあるんですよ。日本では全然こういった内容が教科書にないですね。だからそういう層の厚い部分に何か浸透するようなね、そういうことも含めての教育ということかもしれませんね。

 関 はい、そうですね。幼稚園からやるべきだと思いますね。

 蓮風 そうですね(笑)。いや、幼稚園時代といえば、今私のところへ、もう40歳過ぎたおじちゃんおばちゃんが来るんですけど「先生に小さいとき鍼をしてもらったから」って、よう覚えてるんですよ。あの時、喉(のど)が痛くて熱が出たのを一発で治してもらったって。だから何が何でも鍼に来る。だから小さい時のね、印象は物凄い大事ですね。なかなか普通ではそういうチャンスが得られないですね。

 関 そうですね、はい。〈続く〉