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藤本蓮風さん(写真左)と関隆志さん=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。東北大サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)高齢者高次脳医学研究部門講師の関隆志さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も最終回です。前回に続いて今回も、小山修三さん(国立民族学博物館名誉教授)も加わっての鼎談。ドイツの鍼治療事情の紹介で締めくくりとなります。(「産経関西」編集担当)
蓮風 ドイツに住んでいて帰国すると、うち(藤本漢祥院)へ治療に来る日本人がいるんですが、ドイツでいくつか鍼治療を受けたけれども、もうひとつスッキリしないというんです。だから、わざわざ2カ月から3カ月に1回治療にきます。(日本とは)鍼の技術には違いがあるんだけれども、福利厚生のシステム的には非常にドイツは進んでいるわけですね。
関 医者の鍼治療の学会というのがちゃんとあるんですね。だいたい他の国は医者のライセンスを持っていて鍼治療をやるという方向になっていますね。あとは西洋の国々では、健康保険のからみもありますが、ものすごく鍼治療の人気があります。ドイツはですね、1990年代には鍼治療は全部健康保険適用でした。ものすごく保険料の支払い額が大きかったらしいですね。それだけ人気があった。
蓮風 その患者さんも、僕が通院証明書を書いたら向こうで保険が下りると言ってました。
関 ドイツはプライベートの保険(と公的保険との併用)です。ですからお金を多く払うと鍼治療もカバーされるとか色々ですから。あまりにも人気があるということでいったん保険適用をやめたんですね。それで、ドイツが偉いのはものすごい莫大な予算を使って、何十万人という鍼治療の患者さん対象に、科学的な調査をやりました。それで腰痛と変形性膝関節症と偏頭痛と緊張性頭痛…。これには明らかに中医学的に診断して鍼治療をやると効くという結果を出したんですね。それも超一流の臨床の雑誌に。
小山 偉いなあ。
蓮風 そういう検証によって、これは効果があるとかないとか決めるというのはWHO(世界保健機関)とよく似てますね。
関 これはWHOというか今の西洋医学の論文を書くには、この病名にこうやったらこう良くなったという論文でないとですね、(東洋医学のように)こういう「証」(病の状態)にこうやったらこう良くなったと言っても…。
蓮風 通らない。
関 通りにくいんですね。
蓮風 通らないのではなしに、通りにくいんですね。
関 どういう事かと言うと、「証」という概念をみんな知らないので「証」というものをいかに科学的なものとして説明できるかということにかかっているんですね。ですから「証」というものを誰でも分かる言葉で科学的に説明できれば、科学的というのはなんて言うんでしょうね、これこれこういう症状があって、そんな感じでもいいとは思うんですが、そうすれば論文になるとは思うんです。ただあんまりそういう論文は今の所ないのが現状ですね。
蓮風 そういう意味で昨日ちょこっとお見せしたんですけど「北辰会」で作った『北辰会方式 実践編』と『理論編』※ですね、ああいう本はどうですか、先生?
※現在「北辰会」がノーカット無修正版を先行製作販売し、同会の定例会の一部のカリキュラムでテキストとして活用している。2015年内に緑書房社から正式発刊の予定で校閲作業進行中の本格的なテキスト。(註:「北辰会」)
関 ああいう積み重ねがとっても大事で、先生のご著書で『実践から理論へ』※※というタイトルをつけていらっしゃるのが4冊ぐらいあると思うのですが、非常に素晴らしいことで、やっぱり実際に患者さんを治した中からエッセンスを導き出すというのが非常に大事。ですから伝統医学というのは古い学問ではなくて、進歩させなければいけない学問なんですね。それをまさに先生はなさっている。
※※『鍼灸医学における実践から理論へ』という本。パート1~4まで4冊が、たにぐち書店より既刊。臨床実践の事実、そこから導かれる多くの理論や問題提起などが展開されている。(註:「北辰会」)
蓮風 ただ臨床家としてとにかく病気を治したい、そのための理論を伝統的な部分に求めてきているということなんですね。関先生、長時間ありがとうございました。小山先生もありがとうございました。<了>
★次回からはゲストに小児科医の児玉和彦さんをお迎えします。