医学ランキング
藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の4回目です。前回、蓮風さんは鍼灸師が医師の監督下に置かれている現状を変えて将来、独立した「東洋医学の医者」としての立場を獲得する必要性を強調されました。今回は、その続きです。(「産経関西」編集担当)
蓮風 鍼灸師になるには専門学校の場合、3年間勉強するんだけども、たかだか3年で医学はできない。西洋医学は最低6年間必要ですよね。それが鍼灸師育成の実態だから仕方がないですけれども、鍼灸師が(西洋医学の)医者と同様の独立した判断ができる、そういう社会システムを作っていくべきだと思っております。そういう中で、私の診療を見て、西洋医学と比較なさってですね、現在の先生の鍼灸への考えはどうなんですか。
児玉 うーん。治療効果に関してですよね。
蓮風 そう治療効果も含めて。治療法、治療効果、そして(西洋医学の診断にあたる)診立てとかね。
児玉 あぁ、診立て。
蓮風 全然違いますよね。
児玉 そうですねぇ、やっぱり、違う部分が多いですね。
蓮風 そうですね、同じような部分もないことはないけど、どっちかいうと違う部分多いでしょ? だから先程(鍼灸師を)「異邦人」という言葉で表現したんだけども。
児玉 先生はそう、おっしゃいますが、僕は(「北辰会」の)先生方の治療を見ているときは、あまりそういう風に意識しないんです。先にも言ったように鍼灸治療に保険を適用するための診断書を書いてた時は違いました。
蓮風 そらそうです。
児玉 これは何なんやろうって。まだずーっと痛がってるのに、もちろん西洋医学の、例えば整形外科などで治せてないっていうのも悪いのかもしれないんです。けれど、続けて行くっていう医療って、これは何なんやろうって、この人たちは何にお金を一体払っているんだろうって。
蓮風 そこに異邦人を感じましたか(笑)。
児玉 ええ、そこは違和感が実はありました。
蓮風 なるほどねぇ。
児玉 「北辰会」に入ってからは、あんまりそういうことは感じないですね。
蓮風 あー、そうですか。
児玉 同じように患者さんを治していくっていう、方法論の一つというか、向いてる方向は一緒なので。全体を診るか、部分的に絞っていくかなど、方法論の違いってのはあると思うんですよ。
蓮風 ということは、児玉先生は、「北辰会」や私と出会う前は、鍼灸に関してどう思われていたんですか?
児玉 まぁ正直言うと「治らないな」って思ってました(笑)。
蓮風 これは強烈なパンチですな(笑)。いやぁ、実際そうやと思います。
児玉 いえいえ(笑)。やっぱり毎回診断書を書かないといけないっていうことは、ずーっと通ってるってことなので。治ってないっていうことなんだろうなっていうのは思ってました。
蓮風 だいたいどういう病気でしたか? それは。
児玉 膝の痛みとか、肩の痛みとか、腰痛症とかですね、そういうような病名になってきますね。
蓮風 どっちかというとそういう鎮痛には非常に鍼はよう効く方なんですけどねぇ。
児玉 はい。
蓮風 やはり鍼の力が発揮できていない実情をみると、まさしく鍼灸医師を育てるような環境を作って行かないといけませんね。
児玉 やっぱり思うのは、西洋医学には外科とか内科とか小児科とか色々あるじゃないですか。鍼灸って西洋医学に置き換えると、外科やと思うんですよね。術者の依存性が非常に高い。
蓮風 あー。腕のあるメスであれば上手く行くけど、下手なやつはあかんと。
児玉 はい、そうなんですよ。外科の手術って、僕も麻酔とかかけたことあるんで分かるんですけど、上手い人がやれば全然出血しないです。これは言ったらあかんのかもしれないけど…。でもそういうのはみなさんも、ご存じのことだと思うんです。やっぱり手を動かすものですから、上手い下手ってありますからね。
蓮風 僕はね、出会ったドクターたちにはそういう話をするんですよ。実際、鍼はやり方だって違うし、治療する人間が違うと鍼も違うんだっていう話をしたら、だいたい「西洋医学はできるだけ、そういう名人を作らないことにしている」とおっしゃる。つまり(どの医師が治療しても原則的には平均的な結果が保証できる)一般化された医療ということですよね。
児玉 まぁそうですねぇ、はい。
蓮風 だけど、明らかに外科なんかでは上手下手がはっきりするわけで、それを平均化することできないですよね。
児玉 無理ですね。〈続き〉