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児玉 もうひとつ質問があります。
蓮風 どうぞ。
児玉 僕はコーチングなど心理系のことも勉強しています。昨日、コーチと話していましてね、その人が勉強している心理学的なテクニックの中での前提というのがあって、無意識は、有意識では処理しきれないので、すべて身体の症状で出てくるという前提というか…信念があると仰っていました。これをどう捉えるかです。うさん臭く捉えることもできるのですが、真面目に考えると、おそらく西洋医学も東洋医学も同じ枠組みで捉えることもできるんじゃないかなという風に感じたのです。
蓮風 無意識をね。
児玉 無意識をどう動かしていくかというのが、治療の根幹じゃないかなと…。そのうえで、同じ薬を出すにしても、そこの部分を念頭に置いて、どう薬を出すのかというのが最も重要じゃないのかな、と僕自身は思います。
蓮風 そうですね。それはね、たとえば、鉛筆を持ってものを書く。動作自体は物理的な現象ですよね。だけどそれを動かすのはその人の心ですよ。その心がどういう風に動くか。基本は思った通りに書こうとするように心を動かす。しかし、その心の中にも、一定の無意識が入って来ます。こんなこと書いたらいかんのに書いてしまう。だから消しゴムで消すわけですけど。そのふっと出る無意識というものは、やっぱり意識のひとつですよ。
だから人間が外界に働きかける場合には、必ず意識・意図があるわけです。しかし意識・意図の中に無意識の部分がある。これが案外本音なのですよね。
僕は初診の患者の筆跡を鑑定します。見事に出てきますね。『筆跡に診る心のひだ』という題名まで付いて、その内容はすでにまとまってあるんですけど、どこか出版してくれると良いんだけどね。あれはある程度というかかなり有力な患者さんの心理状況を映していますね。そういうことで答えになりますか。
児玉 なります。ありがとうございます。
蓮風 それから…患者さんにとって両医学の、どのような関わりが大切なのか…。どう思われますか。先ほどの無意識の部分では両医学が同じ枠組みで捉えることができるという話と繋がってくると思うんですけど。
児玉 お互い尊重しあって(笑)。
蓮風 一言にすればそういうことでしょうね。いわゆる統合じゃなしに、ひとつの病院の中に西洋医学の診察室もある、そして東洋医学の診察室もある。そういう病院を早く作った方がいいかという気がします。
児玉 はい。西洋医学のスーパースペシャリストと東洋医学のスーパースペシャリストの両方がいるべきであって、どっちもアマチュアの人がいるべきではないと、僕は思っているんです。
蓮風 それは、その通りですよね。分かりました。それから最後、これから医者を目指す若者、またその鍼灸師に対して仰りたいことは何でしょう。
児玉 いやあ僕まだ若者なんで(笑)。
蓮風 より若い人に。
児玉 何でしょうね。
蓮風 医学部を出て研修医になるじゃないですか。そういう人たちに「お前これだけは押さえて医学をやれよ」と言いたいことがあるでしょ。それと同じように鍼灸学校出て、これから鍼灸やる人たちに「これだけ守って欲しいな」ということがあったら教えていただきたい。
児玉 そうですね。やっぱりベッドサイドを大事に、(「HAPPY!こどものみかた」の)あとがきにも書きましたけど「答えはベッドサイドにしかない」っていうのが、一番大事かなと思いますね。で、とにかく患者さんのベストになることだけを考えてやるようにと…。それから本はたくさん読まないといけませんが、論文ばかり読んで、患者を診ないような医者になってはいけない。
蓮風 そうですね。理論が先行してね、生身の身体を無視してやっている。ようけありますね。鍼灸師でもそんなんがようけおります。生身の身体を診なさいと。
児玉 そうです。
蓮風 それは正解ですね。
児玉 後は素晴らしい先生方を見て…先生もそうですけど…思うのは、やっぱり在り方をね、人間としての在り方を鍛えていくのが、一番医者として大事なことではないでしょうか。僕は医者の道というのは人間修養の道だと思っているんです。そこですね、在り方を鍛える。それが患者さんの無意識に関わっていくことに繋がる…。
蓮風 非常に医学としての核心部分に触れたところで、どうも長いことありがとうございました。
児玉 ありがとうございました。<完>
★次回からは川嶋朗さん(東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授、元・東京女子医科大学付属青山自然医療研究所クリニック所長)をゲストにお迎えします。