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藤本蓮風さん(写真左)と川嶋朗さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼(はり)の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授の川嶋朗(かわしま・あきら)さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の12回目です。前回は現代社会は伝統医学を必要としているという話でしたが、今回は現場の問題点です。就職に困らない職業として医師をめざす人々も少なくないようで…。真面目に取り組む多くの医療人のため息も聞こえてきそうです。(「産経関西」編集担当)

蓮風 今、うち(「北辰会」)の若者が協力して癌(がん)の症例の集計をしているんです。結構いい確率で改善しているのが分かったんです。
川嶋 いいじゃないですか、それ。
蓮風 集計がまとまったら見てくれる?
川嶋 もちろん。
蓮風 我々臨床家にしてみれば(患者さんが)治る事が楽しみ。川嶋先生のご紹介でいらっしゃった患者さんも、西洋医学的に見て確かに良くなっていますよね。そうなってくると、鍼灸は絶対必要だという世の中になると思うんですよね。
川嶋 僕は大学の医学部から鍼灸学科に異動したわけですけれど、全く抵抗がなかったのはやっぱり先生のお陰ですよ。西洋医学でお手上げ状態の患者さんを先生は何とかしてしまう。そういうものを本当のものとしてやっぱり日本に根づかせたいといいますか…。
蓮風 そうですね。ここで事前に川嶋先生からいただいた私に対する質問に答えていきたいと、思うんですが、まず「『北辰会』の施術は先生のオリジナルですか?
それとも代々受け継がれたものですか?」というご質問に、お答えしますと、それは両方です。代々藤本家が伝えてきた鍼も含みます。だけど、中医学をベースとした「北辰会」方式をまとめたのは我々です。
川嶋 ああ、やっぱりそうですか。
蓮風 これは、やっぱり弁証をきちっとやって、ある程度数学的に誰でもできるものを作っておかないといけないと思ってね、医学だから。そういう意味で「北辰会」方式みたいなものを考えだして、今日2冊差し上げた本※はそれの結晶ですので、時間がある時に読んで頂きたいんですけど。
※「北辰会」が自費製作した2冊のテキスト。『鍼灸臨床能力 北辰会方式』の【理論編】【実践編】のこと。これらは(株)緑書房から順次出版予定で再編集準備中。
蓮風 それと、「我が国の医師に望まれることは何ですか?」という質問ですが、もうすでに話が出てしまった感じですけどね。良いものを本当に良いと素直に認めてくれる度量のあるドクター、そういう人がたくさん出てきて欲しい。「北辰会」(の会員)にもドクターが十数人おります。そういう人たちを教育しまして、鍼を持つドクターになっていただこうと思って…。
川嶋 日本の医者が悪いのはですね、日本医師会によるところも大きいのではないかと思います。あそこは医者の互助会のようなもので、何もしなくても適当に診ていればお金が入ってくるようなシステムを作っているんですね。ですから、ゴルフが上手な医者も少なくない。そんな暇ないはずなんですけど…。
多くの開業医は、わからない患者さんだとすぐに大きな病院にまわしてしまう。アメリカでは開業するためにはいくつも試験をパスしなければいけないわけですね。つまり、開業医が最も能力的に高くなければいけないんです。でも日本では、開業医はどちらかというと適当に楽な患者さんばかり診ていて、適当にお金が入って来て、ゴルフやったりして遊んでばかりいる人も少なくありません。面倒な患者さんは大きい病院に回すんですが、大きい病院にいる僕らは専門バカですから、自分の専門分野以外はほとんど分からない。


蓮風 ある意味苦労していないんですね。
川嶋 してないですよ。
蓮風 病気治しに専念していたら必ず壁に突き当たってくるはずなのに、それがあまりないから。
川嶋 「統合医療」と看板を出している人たちも安易なことばかりをするんですよ。たとえば、健康食品を勧める。これは安易ですよね。あんまり悪い影響起きないですから。最近多いのは何かを点滴する医者。たとえばビタミンCを大量に点滴する。それからオゾン療法とか。癌に対する効果がある程度説明されていて、抗癌剤より副作用が少なく、収入源にもなる。
先生の「北辰会」方式を学ぼうと思ったら、それなりの研鑽を積まなければ無理じゃないですか?(同席している内弟子に向かって)彼らは何年も勉強しなければ習得できないじゃないですか。ところが、それほど危険のない点滴をするだけなら長期間の勉強もいらず、明日からでもできてしまいます。
漢方薬の処方には本当は何年もの勉強を要するのですが、製薬会社のハンドブック程度で簡単に処方してしまう医者も少なくありません。ですから(上腹部で左右の肋骨弓下にある)季肋部の痛み訴える虚証の患者さんに大柴胡湯を処方して下痢が止まらなくなってしまうケースも出てきてしまうわけです。ちゃんとした学問を学ぶことを避けて、安易にできることでお金もうけをしている悪い医者もいるものですから、統合医療の旗色がますます悪くなってしまうんです。
僕は、こういう医療をやればやるほど、統合医療とか代替医療を看板にして悪いことをしている医者に腹が立つんです。それを、一般の西洋医は「あいつら、効きもしないものを高いお金を取って適当なことをやっている」と評価します。勉強して真面目にやっている人間にとって、もっと言えば困っている患者さんにとって大変迷惑です。最近、医学部を目指す理由が就職に困らないからということになっているらしいんです。問題ですよね。
蓮風 そういう噂は聞いたことがありますな。食いっぱぐれがないから。
川嶋 今のところ、医者になったらまず就職の心配は不要です。僕も心配したことがありません。ある医大でこんな例があります。研修医で28歳の男の子が遅刻しがちなので研修委員会が注意をしようと本人を呼び出しました。そしたら、その場に一緒に母親が現れたんです。まずこれだけでもビックリなのに、その母親が言った一言が、「うちは代々開業医の家系でずっと続いて来ている。ここで研修修了証が出なかったらうちの子に継がせることができないじゃないですか。どうしてくれるんですか!」と凄んだから驚きどころではありません。
委員会は、遅刻しがちだから本人に注意をしようとしただけなのに、母親同伴。そこで母親が謝るのではなく、反対に委員会の連中に凄んだんですよ。呆れてものも言えなかったそうです。これが今の日本の現状を代表していると思って下さい。
今の研修医はこんなんです。こういう世界ですよ。昔は、研修医は帰れないなんて当たり前だったんですけれども、最近は一睡もできない当直を研修医に頼むと、色々な理由をつけて断られてしまうことがあります。あんまりしつこく頼むと「辞めます」と言うんです。就職に困らないですから。どこいっても食べていけますから。これじゃ良い医者は育たないですよ。病気を抱えているのは人間だということを無視して、病気を叩けば全ての人は幸せだろうと教わってくる。〈続く〉

