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竹本喜典さん(写真右)と談笑する藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
「蓮風の玉手箱」は、鍼灸師で鍼灸学術研究会「北辰会」代表の藤本蓮風さんが山添村国保東山診療所長の竹本喜典さんを招いて行った対談の第4回目をお届けします。今回は「病気だけでなくて、人生とかそういうものも併せて診られるような医者になりたいなぁ」とおっしゃる竹本さんが「鍼」に関心を持ったきっかけについて語られています。病気の「部分」だけを診ても治療には限界があることを目の当たりにされたことも影響しているようです。(「産経関西」編集担当)
竹本 往診先の患者に孫がいれば一緒に診るんです。大家族が多いので、けっこう子供がいるんです。
蓮風 それは大切なことですよね。今の子供は、ほとんど人が死んでいく姿を見てないですね。ほとんど病院で亡くなる。家族が亡くなる時、おじいちゃんが…いつの間にか死んじゃったっていう、人が生き死にする大事を見ていないですね。
竹本 文化やと思うんですね、「看取る」ということ自体。それをちゃんと伝承していかないと、さぁ看取りとなった時にアレルギーになっちゃいますよね。
蓮風 そうですね。死は忌まわしいもので、生まれた事はめでたいか…。つらいことを言うけども実際は同じことなんで、人の生き死には一つなんだという事は早めに知っとくのは、いろんな面で大事やと思います。どうですかね、家庭医みたいなことをやっとって、やっぱり一般の病院でやってるのとは違って、おもしろいということがありましたか?
竹本 そうですね。病院のテンポの速い仕事も、おもしろいんですよ。整形外科やってましたので。
蓮風 整形外科ご専門でしたか?
竹本 はい。元々大工が憧れやったんです(笑)。
蓮風 大工、そりゃ~面白い(笑)。
竹本 大工が好きで、大工っぽいっていうか、合わせてくっつけてとかステキやな~と思ってたんですよ。ホゾを作って合わすみたいな感じじゃないですか(笑)。自分の出来上がった“作品”がレントゲンで出てきますし、その結果がはっきり見えますので。それはそれで面白いです。ただ、病院で素早く患者さんをさばくことが日常化されるようなことをしていると、精神的なこととか、(病気の)背景とか、どんな人だろうとか、細かいことですね…。(それが後回しにされて)効率が優先されるみたいに感じられて…。
鍼灸とか東洋医学やったら腰痛は精神的なもので起こるっていうのは大昔から当たり前のことです。整形外科でも、もうだいぶ経ちますかね、『腰痛は〈怒り〉である』っていう本が出てちょっと話題になったんです。「怒り」なんて考えていなかったですから。(そうすると)患者さんの悩みも愚痴も聞いたらなあかんし。いやいや、だから腰どこが痛いのよ?じゃあ注射しとこか、みたいなんが僕はちょっと、おもしろくなくなってしまったんです。田舎は逆に言うと、どうでもいい話もたくさんできます。診断治療の大事な部分を押さえておいて、人間観察がゆっくりできるんです。患者さんも僕も楽しんでいます。そういうとこが田舎の面白いとこかなって思います。
蓮風 実際その、なんでもトータルに診ていくというか、一般の医学では見過ごしているようなところも、実は人間の営みとして非常に重要なんだってことをおっしゃったと思うんです。実は漢方・鍼灸っていうのはそういう目線が常にあるんですね。だから昔の漢方医、鍼灸医っていうのは全科ですわ。目が痛いって言ったら目を診るし、肩が痛かったら肩を診るし、それこそ「背中が熱い」って言ったらなんでかいなって(笑)。
竹本 ほんと、背中が熱いなんて。
蓮風 人間っていうのは色々な表現で広く症状を訴えますが、西洋医学やったら、教科書にないことを言われても困る…というような切り捨てが…(笑)。
竹本 心がおかしいってなるんですよ。
蓮風 そうそう。それをね、認めない傾向にあるけど、教科書に出ていないことにも向き合わなければ患者を治すことは難しい。否応なしにトータルに診ていかざるを得ないんですよ。
竹本 興味を持って診られるようになりました。東洋医学勉強して。
蓮風 やっぱりこれ、漢方・鍼灸に関わってこられたのは、そこらあたりがやっぱり背景にありますか?
竹本 そうですね。やっぱり問題解決のために何をすべきかっていうのを探る中で漢方とは出会えたように思います。
蓮風 鍼灸より漢方の方が先ですか?
竹本 そうです。田舎の診療所に在庫であったんです、漢方が。
蓮風 はっはは(笑)。在庫で?
竹本 こりゃ、こんなんほっといたら期限切れるし、使わなあかんやろということもありました。最初の患者さんは、よう分からんけど夜中に決まって山に登りに行こうとする、おばあさんというのがいまして…。睡眠薬を出したりするとふらつくし、飲めば寝るようやけど、また起きて、どこかへいってしまうし。そんなんどうしたらいいか分からへんわぁ、というので、なんか漢方でどうかというのが、たまたま当たったんです。今思えば本当に漢方で効いたか分かんないんですけど、何かおもろいやないかと。で、勉強しだすと、これまたおもしろいんですよね。
蓮風 やっぱり勉強はほとんど書物から?
竹本 そうですね。書物で勉強しつつ(医薬品)メーカーさんが勉強会をたくさん企画されてますので、そういうのに片っ端から行きましたね。片っ端から行っていると、いろんな人と繋がってきます。少しマニアックな勉強会もあるんですよね。徐々に入門編から深くなっていきまして、そういう中でだんだん漢方を一生懸命される先生ともお友達になりましたし、だんだん火ついてきたっていう感じです。
蓮風 なるほどね。じゃあ、漢方を先やってそれから鍼灸に来られたわけですね。
竹本 そうですね。漢方をやってる中で、だんだん中医学の方がやっぱり、おもしろくなってきました。
蓮風 うんうん。中医学がね。
竹本 そうですね。日本漢方といっても合理的なとこもあって、おもしろいし実際効果的なんですけども、やっぱりいろんな人と話をしようとか、これこうやからああやでとか、効かんかったらどうしようとか、そういう時にやっぱり(中医学の方が合理的で共通の)言語として整理されているぞ、と思って勉強し始めていました。ちょうどその時期に、患者さんの行かれていた院外薬局の薬剤師の先生から、「こんなところあるから行ってみない?」と声をかけていただきまして、で、一遍見せてもらおうと行ったのが「北辰会」との出会いですね。そしたら、すごく色々なことを勉強してはるんですよ。鍼灸師さんなのに漢方も詳しくて。
蓮風 いえいえ。
竹本 漢方の先生方にもすごい方たくさんいらっしゃるんですけど、“あっ、ここで中医学勉強させてもらおう”と、それが一番のきっかけですね。そうなったら自然と鍼の話にもなってきますので。
蓮風 そうですね。
竹本 それで、鍼も面白いなと。〈続く〉
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