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藤原昭宏さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼(はり)の力を探求する「蓮風の玉手箱」をお届けします。医師で「藤原クリニック」院長の藤原昭宏さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんの対談の4回目です。今回は「痛み」は身体だけの問題ではなく「心」にも大きく影響されるという話です。西洋医学はそこで「薬」を使いますが、それが本当に患者のための治療になるのでしょうか。おふたりのお話は、そんな問題を私たちに問いかけてきます。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 先生もおっしゃるように西洋医学では痛みを取るんだけども、意識レベルも落とすなど、患者のライフスタイルを変えないと実現できないことがある。そうじゃないとこに鍼灸の魅力はあるし、安全性もある。

 ちょいちょいあるんですけど、お年寄りがね、舌の先が痛い痛いって訴えるけど、何やっても治らない。同じような例を何人か診ましたがね、多分あれはね、お年寄り夫婦2人で暮らしているとね、寂しいんだろうと思うんですわ。寂しくて仕方がない。それを何かぶつけたいんやけどぶつけるものがない。そうすると人間は痛みを覚えた方が心が楽なんですよ。

 子供がたいした傷じゃないのに包帯グルグル巻いて「痛い痛い」言うて大人に大事にされるのをものすごく喜ぶでしょ? お年寄りにそれが見られる。それに関わると我々でもエラい目にあいます。だからよほど客観視して、なぜそういう風になったかっていうことを見極めないといけない。でね、おばぁちゃんに多いんですよね。よく見ると、僕の経験から生まれた法則からすると、おばぁちゃんを物凄い大事にする旦那さんがおるんや。もうほったらかしにすりゃ、それはそれでいけるんやけど、そういう人に限ってね、甘やかす。おばぁちゃんを。そしたらこれが痛いって言ったら、あぁそうかそうかと。しょっちゅう自分の方を向いてくれる。

 藤原 おばぁちゃんからするとね。

 蓮風 だからそういうものについても、実際に鍼はしますけどね、どの程度のもんかというのは、よく冷静に見とらんとね、難しい点があります。

 藤原 私がすばらしいと思うのは、先生のそういう洞察力というんですかね。「あぁ~そういう風に見抜くんや」って何回も感心させられました。そこが難しいですよね。たとえば全然、このような鍼灸の世界を知らないペインクリニックのお医者さんは、そんな場合、すぐ精神科の薬を出すんですよ。ちょっと精神安定剤とかね。

 蓮風 あれをね、素人が悪口上手く言った言葉があるんで一つご紹介申し上げると、「あれは精神安定剤じゃないんだ」と。「じゃあ、何ですか?」と聞いたら「精神固定剤や」と言うんです。これ以上動揺せんようにはしてあるけど、決して安定してないんやと。上手い事言い当てたなと思うんですけどね。

 藤原 固定してしまうと医者は安心なんですよね。

 蓮風 そうそう。一応苦痛を言わんようになるから。
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 藤原 だけども先生おっしゃる通り、全然安定してないんですよね。“凍らせている”から。凍って(固定して)いるなとは思うけども、凍っている下はね、(安定せず)動いていると。

 蓮風 そうそう、表面は凍っているけど(笑)。

 藤原 そういう感じですよね、蠢(うごめ)いているという。

 蓮風 そうなってくると、医学の根本問題に関わって単なる物理的化学的な生命観では説明できない。

 藤原 そうですね。

 蓮風 そういうことですよね。非常に鍼灸はそういう意味で人間の生命とか人間存在みたいなものに非常に関わった医学やと元々私は思うんですけども。
     
 では次のテーマにいきましょう。東西の両医学を修めて、将来、どのような医療を理想とされておられますか? ここが一番のポイントなんですがね、先生は西洋医学もやってこられて、東洋医学も実際に鍼を持ってやっておられます。その中で、今後ももちろん発展していくだろうけども、どんな医療が一番、弱者というか、弱い患者さんを救う医療になるとお考えですか?

 藤原 これはね、この対談で、ちょっとずつお話ししてる通り、麻酔というものは非常に進歩しました。なぜ進歩したかって言うと、まず痛みを訴える患者さんの意識をとる薬を開発したと。

 蓮風 いわゆるオピオイドみたいな?

 藤原 そうですね。意識をとるというような。それが、ガスであったり、静脈麻酔薬であったりしますけれども、とにかく西洋薬でそれは解決したと…。意識をとれば呼吸抑制が来ますけど、それも気道確保という方法でその問題も解決したと。ですから、患者さんが苦痛を訴えないという(状態に)、その意識をとってしまう。でも(普通に来院する患者さんなど)活動している患者さんは意識をとるわけにもいかず、呼吸もしてますんで、そうすると身体の痛みとか意識はその西洋の薬でとれるんだけれども、問題は心。心の問題です。

 蓮風 そうですね。〈続く〉