医学ランキング
藤原クリニックの治療スペースの中の一室での藤原昭宏さん=京都府城陽市
現代医療のなかの「鍼(はり)」を考える「蓮風の玉手箱」をお届けします。医師で「藤原クリニック」院長の藤原昭宏さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんの対談の7回目です。前回は、痛みと「心」「魂」の関係から「臓腑経絡学」の話題となりました。今回は、藤原さんが、その臓腑経絡学の知恵を生かして実際に患者さんに治療した経験を話してくださっています。病んだ「局所」に着目して集中的な処置で痛みを取り除いたり、患部の広がりを抑えるという西洋医学的な手法も有効ですが、人間の身心を全体的に捉え、取り巻く環境も意識して病気に取り組む東洋医学の方が大きな意味で理にかなっていて腑に落ちるような気がする方は少なくないかもしれませんね。(「産経関西」編集担当)
蓮風 鍼灸のどこが面白いか、という話になってるんですが、藤原先生は「臓腑経絡学」を最初に学んで、非常に関心を持たれたということでした。実際に、この臓腑経絡学を、お使いになったり、意識なしにやったけれど、結果的にはその理論にのっとっていたりしたという具体例があれば、お話頂きたい。
藤原 西洋医学では「肝鬱化火」※とかね、そういう考え方は全くなかったんです。そうするとその考え方を学ぶことによって、たとえば「百会」というツボ、それから「太衝」というツボ、あるいは「内関」とか、あるいは「後谿」とかね、そういうツボに実際に反応が現れてるんだということを、勉強してなかったら全く分からない訳ですよ。それでまぁ素人ながらね、そのツボに、鍼をしてみたと、そうすると実に驚くべき反応が出て、「エッ、これで痛みがとれてしまうのん?」という様なね。
※肝鬱化火:東洋医学でいう「肝の臓」の気のめぐりが鬱滞して、熱化した状態のこと。精神的ストレスが強くイライラしすぎたり、ジレンマを抱えると、肝の臓の気が鬱結してめぐらなくなり、その鬱結が長引いたり、強く起こると、火に化けたかのように熱化する現象が見られる。肝の火(熱)が心の臓の心神というものに影響を与えると、痛みを過剰に強く感じたりするメカニズムが働く。(「北辰会」註)
蓮風 具体的に、どういう病気に、何処へ打ったらそういう痛みが取れたんですか?
藤原 具体的にはですね…。
蓮風 たとえば三叉神経痛(の患者に)にやったとか。
藤原 あっ、三叉神経痛にもやりました。
蓮風 やってみましたか?
藤原 はい。
蓮風 痛みの取れた例では、どこへ鍼をおやりになった?
藤原 三叉神経痛で悩んでたご婦人なんですけどね、その方は「内庭」に鍼を刺して…。
蓮風 「内庭」に鍼を?
藤原 「内庭」に。
蓮風 三叉神経はね、人間の身体で、単一神経では一番大きいですね? 神経叢では坐骨神経が一番大きいんだけど、これを傷つけるとなかなか痛みが取れないということで。で、このなかで、大体まぁこの辺り(側顔面)ですから足の陽明経※がやっぱり流注してますよね?見事当たったわけですよね。「内庭」※使ったわけですね。
※足陽明胃経という経絡(下図参照)が、顔面の目の下あたりから、足の人差し指まで流れている。内庭というツボは、足の人差し指と中指の付け根の分岐点あたりにあるツボ。足のツボで、三叉神経が支配する顔面の痛みが取れるのは、足陽明胃経の流注からも説明できる。(「北辰会」註)
藤原 西洋医学の場合、痛い局所を考えますから、患者さんも僕のところに来られるまでに大学のペインクリニックで、こういうところ(顔面側部)に神経ブロック…局所治療するわけです。注射の神経ブロックというのをしてね、アルコール入れたりね、何やかんやして一時的に三カ月とかね(痛みは軽くなる)。
蓮風 それやったら局所麻酔と一緒ですよね?
藤原 そうなんですよ。そうすると副作用でね、ちょっと痺(しび)れが出てね、その…。
蓮風 酷かったら顔面麻痺おこして…。
藤原 そうなんですよ。それでね、私は当時、臓腑経絡学というのを勉強させていただいていたので体表観察して「衝陽」「内庭」辺りに…。
蓮風 「衝陽」「内庭」いずれも足の陽明胃経ですね。
藤原 非常に反応がね、出てて凄い熱をもっておられましてね。普通にやってたんでは…。つまり(西洋医学のように)局所に、とらわれてやってたんでは全然効果がなかったという風なことを、患者さんからも聞いてたんで。で、大学からもそういう紹介状もらっていましたし…。
蓮風 はっはっは、大学から(笑)。
藤原 そうすると3回の治療で痛みがスーっと取れてね。
蓮風 ほ~、何割ぐらい取れました? 大方(おおかた)取れました?
藤原 大方です。それで大方取れて。
蓮風 それは素晴らしい。
藤原 あとはいわゆる食養生ですよね、わりとでっぷりの方だったんでね。
蓮風 その話は非常に重要ですね。経絡は単なる経絡じゃなしに、五臓六腑と繋がってる。で、足陽明胃経の「衝陽・内庭」を使うということは、人間の身体に重要な脾・胃の働き(に関係するということ)ですね。分かりやすく言うと消化、吸収、運搬を主る脾の蔵、それから受納といって食べたもんを納めて消化するという、そういう臓腑を意識なさったから食養も効いたということですね。
藤原 そうですね。
蓮風 ふ~ん、なるほど。かなりストレートな捉え方ですね。そうですか。他に何かこんなんでびっくりする様な効果があった例はありますか。
藤原 びっくりする様な効果が沢山ありすぎて…。やっぱりあれですね、痛み、慢性疼痛で悩んでる方は、やはり心の問題、魂の問題がはっきりと出て来てますので、先程申し上げた「後谿」それから「太衝」「内関」っていうのは、そういうツボが非常に有効だということを何例も経験させてもらっています。ですから、まずそこら辺りをベースの治療としてやっておいて、それで考えようというようなね(スタイルをとっています)、それは患者さんにも直接言いますし、私もそういう考え方でずっとやらしてもらってて効果が非常にあがっていますね。〈続く〉
コメント
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。