医学ランキング
鈴村5-1

鈴村水鳥さん(写真右)と藤本蓮風さん=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の力を明らかにする「蓮風の玉手箱」をお届けします。小児科医の鈴村水鳥さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談の5回目です。前回はドクターが鍼を持つ意義について説明されました。今回は、その続き。ドクターと鍼との距離を縮めるために行われていることや、鍼の“怖さ”についても語られています。効用の裏には危険もある、という警鐘ですが、それは鍼の力の証明かもしれません。(「産経関西」編集担当)

鈴村5-2
鈴村5-3
鈴村5-4

 鈴村 先生から見られて、医者が、西洋医学の(習熟度が)これ位のレベルになっていたら鍼を持っても良いとかいう、逆の目線みたいな…。

 蓮風 鍼灸から見ての医師が鍼を持つための条件みたいなもんがあるか、ということですね。「北辰会」の場合は、医学部の講義で使えるような教科書を作ってるんです。最低限これくらいの教科書をマスターして貰わんことには鍼を解った事にはなりませんよ、という内容です。現在、すべてではないけれども、多くの医大が漢方の講義されてますね、漢方薬の…。昔から東洋医学の本の中には「鍼」「灸」「薬」を、この3種を巧みに使い分けて、あるいはそれを、うまくく組み合わせてこそ本当の東洋医学なんだ、という論が2500年の歴史の中でいくつか出て来ます。

 漢方が講義されたらやっぱり鍼灸がなければいかんというわけです。ですからきっちりした東洋医学の学問をおやりになれば、私は全然問題ないと思います。(鍼で人間の体調を崩す)悪化実験の問題もどこへどうやったら、どういう条件下でやればなるということ分かってる訳で、まぁそういうアホなことやらんでしょうし。ただ私は、本当に鍼は効くんだということを示すために、悪化さすことも出来るんだよということ言いたかった訳ですが、世の中には「鍼は良い方向で効くけど、悪化することはない」ちゅうようなこと平気で信じてる鍼灸師たちがおる。おまけにそれは学生を教育する教師の中にも沢山おる。私はそれに対して非常に違和感を感じている。薬と一緒で、良くすれば必ず悪化さすこともできる、使い方一つで。毒と薬は裏表というかね、それやっぱ東洋医学においても同じことやと。だからよく漢方薬やから副作用ないから安心やいうけど、全然そんなことない。きちっと身体と病気に合わなかったら悪化しますよ。

 鈴村 そうですね。

 蓮風 それは西洋医学ほど激しく反応しないため悪化してないように見えてるけど、実際はジワジワと悪化させてます。同じような例ですが、巷では、サプリメントとか何とか言ってるけれども、あれも適応、不適応があると思うんですよ。だからそれを妄(みだ)りにね、今のようにコマーシャルなどでああだこうだやってるのは、僕はやっぱり医療者の立場から見て良くないと思います。

 もしそういうことやるんやったら、サプリメント専門に係わる学問を作って、そこからこれは適応、不適応ちゅうようなことからやらんと、まぁ言うたら薬を野放しにするようなもんで、あれで悪化すること多分あるはずですわ。せやけど我々「これどうだ」言うてサプリメント持って来られても批評する立場にない、分からないから。
鈴村5-5

鈴村5-6

 鈴村 時代が変わると言ったら大げさかも知れませんが、生活様式を含めて(世間の)お母さんの生活スタイルが凄く変わってきていることが気になります。働く女性が増えた、それが子供にやっぱり凄く影響していると感じています。やっぱり女性も仕事を持つというのは悪いことではないかなと思いますが…。

 蓮風 まったく悪いことではない。ただね、東洋医学的な発想からいうと、男は陽で女は陰です。それからどっちかいうと男性は頭脳を使って、外に向かって積極的に働き掛ける方向にある。女性はやっぱり妊娠、出産、子育て…。まぁ子育ては両方でやれば良いちゅう話があるんで、私はそれに異論を挟むことないけど、少なくとも妊娠、出産というのは女性の立場ですよね。これ、「じゃぁ、男に真似せい」言うたらできない訳で。

 で、それは人間として男、女の特性を生かすことであると私は考えておる。だからそれにさし障る様なことはやっぱり、いかに男女平等だとか仕事が大事だと言っても、やっぱり母親としての役割が生きている中で意味が大きいぞ、ということ言いたいですね。先生の場合は小児科やから、お母さんが働いてて子供がおざなりになるということはよく耳になさると思うけども、やはり母親は子供の傍(そば)におってね、ああだこうだやってるほうが、私は大事やと思うね。

 特に東洋医学の場合、スキンシップというか手当てというこというけど、親子のスキンシップいうのも物凄く大事やと思います。だから小さい時に、理屈なしにね、お母さんのオッパイを吸うとったと、で、お母さんに抱かれとったという、こういうことが実はね、人間が発達する場合に物凄く大きな意味持つと思うね。私個人の印象ですが、今、青少年の犯罪とかも、どうも小さい時にね、そういうスキンシップみたいな、母親との付き合いが足らない人に起こっているような気がして仕方がない。だから男女平等とか、女性が仕事するちゅうことに対しては全然異論はないんだけども、やっぱりそこは、女性は女性としての特性をむしろ生かすべきだという風に考えております。

 鈴村 小児科で診療していると、この子は病気じゃなくて寂しいだけなんじゃないかなと思うような子供が来たりします。病気ではなくて、寂しいって気持ちがSOSとして病気という形で出てるだけなんじゃないかなという…。

 蓮風 それどういう場合ですか?

 鈴村 まぁそうですね、心身症とかもそうだとは思うんですけど、喘息とかアトピーとかも、何か訴えるひとつの手段みたいな感じになっていると、子供を診ててそう思いますね。

 蓮風 それはありますね。まぁ東洋医学では一言でそれ「肝鬱」っていうんですけども、まぁ欲求不満、だからそういう人に限って、こうホッとしたい為に一気に食べ過ぎてみたり、甘いもん過剰に摂ってみたりね、その発散の方に向かいますね。東洋医学では、甘いもの摂ったり、それから食べ過ぎすると脾胃(ひい)を傷める。甘いものには緩める作用があります。だから食べることによって脾胃を刺激して緊張を解すという、これ沢山ありますね。裏返せばいらんとこで緊張してるから悪循環になるわけです。まぁ先生も少なからず子供さん診てこられてそういう点は気付かれていると思いますが、そういう意味で心身症というのは当たってると思うんですがね。

 鈴村 現代人のベースにある大量の肝鬱をどうにかすることは…?

 蓮風 だからこれはね、やっぱり世の中変えていかないかん。私は常々ブログにも書いてるけど、比較的奈良は自然が豊かでしょ? 朝早く起きてね、川沿いとか山歩いてみるんです。するとね、自然が教えてくれます。こう悠久の時間の中で自分はなんでこうコショコショ生きてんかなと考えます(笑)。だからそれは大自然に触れてね、本来の自分に戻らないかんですわ。もぅ慌ただしい世間の中で慌ただしく生きて、おまけにそれを発散するためにゲームや何かをやって、余計にストレスが倍加させてるんですね、本当は。そうじゃないんや。そういうことをね、私はたくさん学んだんで、ちょっと横になったらスッと寝れる術を覚えてるんです。だから私自身も、ここんところ、また患者さん増えてね大変なんだけど、ちょっとの時間でフッと休めるコツみたいなの身につけてる。で、個々としてはそうなんだけど、実際社会自体をね、もっとテンポゆっくりせいやっちゅう風に思います。そうでないとね、年寄りも付いて行かれへん(笑)。今、コンピューターだスマホだ言うたらね、僕は何とか付いて行ってるけども、普通の年寄りなかなか付いて行けないですね。

 鈴村 そうですね。

 蓮風 それによってどんだけ人間が幸せになれるかいうと、便利はようなったけど、それが幸せとは繋がらない。便利の良い世の中なってるけど。その分だけ、いらん緊張を強いられて、しょっちゅうキンキンに神経を緊張させないかん。非常にマズイですね。だからこれはもう医療の問題というよりも、政治とかそれから人間の社会を作って行く根本問題を解決せんことにはどうしょうもない。

 その時にはやっぱり東洋医学は教えてくれています。「自然に戻れ」とね。自然とは何か言ったら、やっぱり今いう様に朝早くね、爽やかな気分で歩ける場所をみつけとくと、「あぁそうか、俺も本当は自然の一部なんだ」というのは本当に体感しますから、そういう運動をやっぱり一つ作るためにも東洋医学を薦めないかんですな。というようなことを思っております。〈続く〉