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鈴村水鳥さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。小児科医の鈴村水鳥さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も後半に入ってきました。今回は医療人と患者としての家族との関係や、患者が医学界を変えられる状況の必要性などが話題となっており、僭越ながら「産経関西」編集担当も質問をさせていただいています。(「産経関西」編集担当)
鈴村 患者との距離感という話に戻りますが家族が病気になった時の距離感は取るのがなかなか難しいですよね。
蓮風 私もこれは苦しみました。実際、病気で娘を死なせたこともあるし…。だけどね、自分が信じている医学を、家族に施せないのに、他人に施すなんて、やっぱりおかしい。たとえば、私の父。鍼灸師で、90歳で亡くなっとるんです。それが先祖伝来の酒飲みで、亡くなる1週間前まで朝、昼、晩、寝酒と1日7合飲んどった。
鈴村 凄いですね(笑)。
蓮風 それでしょっちゅう鍼してやった。で、亡くなる1週間前にちょっと風邪ひいて、咳が取れんで困るな言う。ここ(藤本漢祥院)で寝起きしとったから、お手伝いさんつけた。で、ある朝「先生、大先生が何か様子おかしい。診に来てくれ」って…。もうまさに心肺停止の状態ですわ。脈も呼吸もない。ただ身体がまだ温かいから「アッこれはついさっきやな」と思って、救急車を呼んで病院へ運びました。ちょうど先生のような若い女性のドクターが診てくれた。一生懸命やってくれて「やっぱり駄目でした」って…。私は「いや、もうそれは最初から分かってるんだ」と言いましたね。
だからまぁ言うたら最後まで診てる訳ですね。で、母親もそうなんですよ。で、お医者さんでもそうやと思うけども、自分の家族からは逃げるというのは本当の医療人ではないんじゃないかと思うんです。これはもう本当真剣勝負ですよ。実際、私の娘は悪性リンパ腫で亡くなったんですけれども、それ以後もほんといろいろ研究と実践を重ねて、悪性リンパ腫をボツボツ治せるようになって来たんですよ。癌(がん)も、進行を遅らせたり、癌性疼痛を和らげたり、癌自体の大きさも小さくできたケースもあったり、癌自体の大きさはそのままやけどいわゆるQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)が格段に改善した状態でドクターの予告余命を大幅延長できていたり、様々な苦痛を取り除いたりしてあげられる様になってきた。
だから医療人になった限りはね、他人だろうがそうじゃなかろうが…。特に自分の家族を本当の意味で信用させたら、本当の医者だと私は思っとる。「逃げちゃならん!」というのが私の考えですがどうですか?
鈴村 はい。勉強になります。ありがとうございます。
編集担当 鈴村先生は小児科ですので、子供さんに鍼をするメリットをお話しいただけませんか。たとえば西洋医学と比べるとどういったメリットが有りますでしょうか?
鈴村 やっぱり子供は、鍼が効き易い印象があります。一つ注目しているのは予防医学の面です。小児科の外来をやっていると、よく風邪を引く子が多いですね。それはお母さんが働いてて保育園に行ってる環境では、お兄ちゃんお姉ちゃんから強いバイ菌を貰って風邪をひいて、治ったところで次の風邪をもらうということはある程度仕方がないことだと思います。
しかし風邪をひき、感冒薬や抗生剤などを処方することを繰り返していると、同じことを繰り返しているだけになってしまいます。抗生剤を投与する前に、身体のベースの体力を上げる治療を、鍼でした方が良いんじゃないかと思うのです。鍼治療で風邪をひきにくくするなどという、予防の意味もあります。
最終的には内服薬の量を色々な面で減らしていけると思います。子供が薬を飲むことが将来的に精神的な面にどこまで影響するか、まだ私も小児科に成りたてで、分かりませんができれば薬の内服なしで健康な生活を営んでもらいたいです。
編集担当 抗生物質は投与し続けていくと効きにくくなってくると聞いたことがあります。ですから素人から見ても小さい頃から投与するのはどうなのか?という印象を持っています。もちろん緊急の場合は別ですが。
鈴村 あと、喘息の薬とか、長期的な内服が必要な他のお薬に対しても同じことを感じます。まだまだ子供ってパワーがあるので、感覚的な問題ですが、「この子(の症状は)本当は病気からきてるものじゃないのに」と感じる子にもひとまとめで、症状があり診断がつけば薬を処方します。
たとえば同じ喘息でも、季節が変わるとゼコゼコする子、感染を伴ってゼコゼコする子、咳は酷いのに胸の音はそんなに悪くない子、逆に咳は出ないけど胸の音は酷い子って症状は様々です。診断が同じであればガイドラインに沿って同じ治療をしますが、やっぱり治る期間にも差がありますし、もうちょっと細かく丁寧に、一人一人に合ったものを処方できれば、もっと皆が幸せになれるし、お母さんも子供も家族も喜べるんじゃないかなという気はしていますね。今の考え方で漢方薬などは使い分けて処方するようにしています。
編集担当 所見によって、どのような治療をするか、というのはマニュアル的に定められているわけですよね。
鈴村 そうですよね。
編集担当 そこで「もしかして鍼灸の方が…」とか「他の方法がある」と思ってそれを施した場合、お医者さんの方にリスクが来てしまうというということは?
鈴村 あると思います。それは非常にあります。だからこそ周りの医者や、医療関係者から信用してもらえるような仕事態度を常日頃からしておかないといけないっていうのは、自分に課しています。
編集担当 実際に先生が治療されている現場で、東洋医学とか鍼灸の知識を活かして治療される余地というのは、現場では有るんですか?
鈴村 いま必死に…(笑)。場所を作ってるという感覚です。理解して下さる人をちょっとずつ増やして、まず東洋医学というものを知ってもらうことから始めています。西洋医学の仕事以外にやらなくてはいけないことが増えますが、反応して下さる方はいますね。もちろん高度な西洋医学をバリバリやっていらっしゃる先生方からは何を言ってるんだと思われるところもあると思います。
でも「西洋医学が良い、東洋医学が良い、どちらが優れている」という点に力を注ぐのではなく、まずは患者さんのために、患者さんが喜ぶことが広がっていけば、患者さんの声が医療を回していく力になります。だからちょっと非難を受けることは覚悟でやっていくしかないです。
逆に他の先生方がどうやって西洋医学の中で鍼治療をされているかは、凄く興味があるところにはなります。〈続く〉
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