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鈴村水鳥さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。小児科医の鈴村水鳥さんと鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談も今回でひとまず最終回。ご自身の病気治療の経験も踏まえながら病院の医療現場で患者さんのために鍼を役立てようと奮闘している鈴村さんの姿に共感を覚えた方は少なくないと思います。そんな鈴村さんが最後に患者さんを癒やし病気を治すために一番大事だと考えていることを語ってくださっています。(「産経関西」編集担当)
編集担当 蓮風先生、やっぱり時代の変化によって患者さんも変わってきてますか?
蓮風 僕が開業したのは21歳で、今から50年前。地域性もあると思うんですけど、大阪・堺のごっつぅ庶民的なところでやっとったんで、ものすごいやりやすかった。でも、こっち(奈良)へ来たらね、ものすごいやりにくかった。なんでか言うと、古いんですね、奈良は。ふつう堺でやったら、この人が治ったら、あの人へ…って、口コミで伝わっていくんだけど、奈良はそれがダメなんです。それで僕は一計を案じた。奈良は学校の先生とお坊さんを大事にするところだから、お坊さんとか学校の先生にアピールしてね、「ああ、あれはいいじゃないか!」と言わせたんですよ。そしたら患者さんが来だした(笑)。だからね、もちろん腕は大事なんだけども、社会性というか世の中の動きに鈍感ではダメですね。
編集担当 そういう意味では、鍼灸に興味を持たれてるドクターに(現場での理解を広げるために)ある程度戦略を持つことも考えていただかないといけないってことですね。
蓮風 そうそう。大変な野望なんですけど、最終的に僕が求めるのは鍼灸病院です。もちろん西洋医学も入ってきてもらいますけども、鍼灸だけで、どこまでできるかいうことをね、みんなで追求できる、そしてそれを求める患者さんを集めて治療することが私のひとつの希望なんです。その時は鈴村先生にも、お手伝いに来ていただいて(笑)。
鈴村 はい、よろしくお願いいたします。
蓮風 私が鍼灸師をボロカスに言うのは、志の低い鍼灸師が多いからです。貧しいと言うかね。「あんたとこの治療院どうや?」って聞いたら「まぁ、なんとか飯食えとります」「なんとか家建てました」って…。このレベルじゃダメです。私が一番幸せを感じるのは、何やっても治らんかったのを何とかして鍼一本で工夫して治すこと。そういう誇りがあるんですわ。それを世の中に広めていくのが私の仕事やと思ってます。この「蓮風の玉手箱」もその一環だと位置づけてるわけです。先生はいずれは開業なさる予定ですか?
鈴村 はい、いずれはするつもりです。
蓮風 開業すると自由が増えますね。一定の病院とつながりを持っておくことも悪くはないですわ。なんでかと言うと西洋医学はどんどん変化して(現場に)新しい情報をもたらしますからね。それはそれで医者としてね、必要な勉強だと思うし、それができなかったら講習会行きゃいいんかな(笑)。
鈴村 無駄なエネルギーを使う必要はないと思いますが、でもやっぱり最初は病院の中でやってみたいという気持ちがあります。病院の中でやるっていうのは見学に来る研修医とか若手が漢方なり鍼なりを知るチャンスがまず増える、後継者になってくれる可能性のある方の興味を引くことができます。
また、勤務医で西洋医学を行っている長所は、マンパワー…母体数が多いのでいろんな人が助けてくれるのがメリットです。薬剤師さんとか、看護師さんとか、管理栄養士さんだとか、そういったたくさんの人が知恵を出し合って協力するというのは一つのメリットだと思います。
鈴村 鍼灸の先生方というのはお一人で開業されることが多いと思います。それにも、もちろん長所もあると思いますが、私なんかは勉強しながら治療していかなければいけない立場なので、アドバイザーなり、いろんな考え方が合わさるほうがいいかなと思っています。それは若い方も私より年上の先生もそうですけれども、なるべく沢山の人と、しっかりとタッグを組んで治療する、仲間を増やすという意味では病院での挑戦を重ねたいと思っています。
蓮風 それはそれでおやりになったらいいんじゃないですかね。なんせ、僕はとにかく鍼を恋人として、一生懸命に邁進してきた。だから鍼の臨床家としては多分そこらの人には負けないと思うけど、そういう社会性という面では確かにちょっと弱いですね。だから先生がおっしゃる部分でそれが補われるとしたらそれは非常にありがたいことですね。
では最後に…。「患者さんを治し癒やすには何が一番大切でしょうか?」
鈴村 自分の(病気の)治療の経験からですが、入院治療を受けている間はとても寂しかった記憶があります。治療はしてもらっていますが、なんとなく寂しい感じがぬぐい去れませんでした。ドクターは忙しくて中々ゆっくり話をする時間が持てません。その時、一人だけいつも気持ちに寄り添って居てくださった先生がいらっしゃいました。その経験からですが、患者さんの「傍(そば)にいること」「寄り添うこと」がやっぱり大事だと思っています。
病気は表現の一つであり、その奥にはもっと深いものがあります。でも患者さん自身がその奥にあるものに自分自身で気づくには長い時間が必要であるし、医師である私は、それを紐解いていくその過程に、「絶対に見捨てない」という気概を持って向き合うことが大切だと思っています。
しかし、厳しい現実も伝えなくてはいけないこともあるし、「死」という局面に出会うこともあります。それを受け止めて次に進むことは大事だけど、一番大事なのは患者さんやその家族が病気を理解し受け止めることができて初めて、その歯車が進むと感じています。それとともに自分自身の素地となる、知識と技量が日々進歩していかなければ役に立つことはできません。
蓮風 そうですか、なるほどね。そういうことも大事でしょうね。医者とか医療人ちゅうのは患者さんに寄り添っていくもんですから、そういう意味では「寄り添っていく」ということはものすごく患者さんに安心感を与えますね。だから病気を治すのは治すんだけど、その安心感があるかないかで、病気の治り方も変わりますね。それは大事なことだと思います。先生、どうも長時間ありがとうございました。
鈴村 ありがとうございました。<了>
★次回からは市立堺病院外科後期研修医の笹松信吾さんと蓮風さんの対談が始まります。
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