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佐々木恵雲さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。僧侶で医師の佐々木恵雲さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談(第2弾)の4回目。ここでお話の最初のクライマックスを迎えたと言えるかもしれません。医療を語る文脈で「魂」という、ある意味、非科学的な言葉が登場してきます。しかし、現代医学の行き詰まりを説明するのに、これほど的を射た言葉はないかもしれない…。今回の対談を読み終えたあと、そう思われる方も少なくないはずです。

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 蓮風 「緩和医療」をわずかに勉強したんですけれども、肉体だけではなくスピリチュアルな部分での救いがないと「緩和医療」ではないということのようですね。あれは、結局(現代の医療の)足らない部分を補うために強調されているのではないかと思うんですがね、どうですか?

 佐々木 スピリチュアル、スピリチャリティという問題は、僕も少し勉強していますけれども非常に難しくてですね、ただそのスピリチュアルという言い方をするのか、魂という言い方をしたほうがいいのか…。

 蓮風 どっちかというと魂だろうと思うんですがね。

 佐々木 魂というか心というか…。きょう、お話しておきたいなと思ったことがあります。宗教の問題と医療の問題につながってくると思うのですが、一応明治から政府のスローガンは、よく言われているように「和魂洋才」でした。

 蓮風 明治のころの概念ですね。それ以前は、菅原道真の「和魂漢才」というのがありますね。それを展開したんですね。

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 佐々木 僕が思いますに、たとえば先生がふだんから、おっしゃっているように明治になって東洋医学を完全に捨て去っていますよね。

 国家の原点…国家を作り直すのに一番大事なことは、今でもそうですが、医療と教育、これに軍事的なものも入るかもしれません。国家の根本的なものから東洋的なものを全部捨て去っているのですね。教育も西洋的な教育方法を取り入れている。

 実は明治以来、日本は「洋魂洋才」ではないかと…。ただ明治から第二次世界大戦までは、日本人、うちの祖父でもそうですが、ある世代までは日本の「大和魂」といいますか、悪い意味ではなく日本人独特のものを持っていたと思うんです。こういう形で「洋魂洋才」にしても日本人の魂は保たれていた。これが世代が変わって増々「これ」(=「洋魂洋才」)ですよね。

 実は、日本人が西洋を理解するのはまだ難しいんですよ。ただし日本人が東洋を理解することも非常に難しくなっているんですね。今の日本人は残念ながら中途半端な西洋人といいますか、西洋の目で東洋をみてしまうし、日本をみてしまう。若い人は特にそうなんです。科学というのは西洋的なものですから。今の日本人が東洋を理解するのは非常に難しくなっている。

 蓮風先生や先生が主宰する「北辰会」が非常にすごいなと思うのは「魂」の部分だと思うんです。今、西洋医療が行き詰まっている、ひとつの理由は…実はこうは言ってはいるけれども、やっぱり日本人は日本人ですから。日本人という原点というか、心の奥底には日本人固有の魂というのはあるんですね。若い人でもね、桜をみて、ものの哀れを感じるでしょうし、大震災の時の人々の繋がりをみても、日本人独特の魂というのはあるんですね。

 ただし西洋医学は日本的な要素は捨て去っていますので、そこに西洋医学の行き詰まりがあるんですね。僕は先生が治療の中でここ(白板の「魂」を指して)に働きかけている人だと思うんです。だから、先生がよくおっしゃっている治療の土台に東洋哲学というものを置くべきだという理論は、実践からいえば、日本人としての魂に働きかけてるんだろうなと思うわけですね。だからこそ、あれだけ先生の鍼が効くんじゃないでしょうか。技術的なことは分からないんですけれど…。ただおそらく日本人の魂に触れるような治療をされているんだろうと…。それは、僕が非常に感銘した先生の『数倍生きる』などに結実しているのではないかと思っているんです。〈続く〉