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佐々木恵雲さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は僧侶で医師の佐々木恵雲さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談(第2弾)の6回目をお届けします。前回は宗教と医療との関わりについての話題が中心となりましたが、今回は宗教がクローズアップされています。藍野大学短期大学部(大阪・茨木市)の学長という“顔”を持たれている佐々木さんが9月20日に講師をつとめる講演会も告知しておりますので、興味のある方はぜひ、ご参加ください。(「産経関西」編集担当)
佐々木 あまり既成仏教が出てきて医療に関わってくるというやり方がいいのかどうか…。ちょっと疑念を抱くんです。先生がおっしゃる「つながり」といいますか、そういう形が、本来の日本的なあり方かなと思うんです。
蓮風 そうですね。死にゆく人を家庭で見守るか、病院で看取るか、ということにもつながってきますね。ついこの間までは病院で死ぬというのが当たり前やったけど、やはり医療費問題も関係しているのか、家で親族らが見守って送るというケースも多くなってきていますね。
私は、あれが自然だろうと思うんです。僕が子供のころ、家で亡くなっていく人をたくさん見ましたわ。うん。「あの人癌で亡くなりそうや」というたら、身内の人ができるだけ集まって傍(そば)におってやる。それだけなんですよね。病院では何かできるかというたら、これまでの話にも出たように、あんまり何にもできない。
佐々木 そうですね。
蓮風 だからあったかい気持ちで集まった人たちに囲まれていること自体が、ある意味最高の救いではないかなと思いますね。先生は、お坊さんとして檀家さんを回られたり、お説教もなさると思うんですけど、仏教も含めて今の宗教界の問題は何なんですかね。
佐々木 そうですね。だから、一番大きいのは…。やはり「魂」にも繋がってくるんですけどもね。現代人は、よくグローバル化という言葉を使っていますよね。まあグローバル化というのは、簡単に言ってしまうと欧米化、西洋化ですよね。西洋化という言葉が最近、使われなくなりましたよね。
蓮風 そうですね。昔はよく使いました。舶来物とかいう言葉もあって。
佐々木 私たち日本人というのは本当に西洋化してしまっている。だから僕らの前の世代では、たとえば、『論語』とかですね、そういうものをこうしっかりやらなくちゃいけないという意識があったのですが、現代では中国文化に対する意識が本当になくなっちゃって、西洋化してしまってるわけですよね。
蓮風 あれ「お西」(西本願寺=浄土真宗本願寺派)の方でしたか、「お東」(東本願寺=真宗大谷派)のほうでしたか、明治の廃仏毀釈があって、たぶん原点に立ち返らないとあかんということで、チベットの方へ大探検旅行をやってますね。
佐々木 そうです。
蓮風 あれそういうことですかね。
佐々木 うーん。そうですね、(本願寺派の)大谷光瑞(こうずい)という有名な人物ですけど、そういうような考え方も彼にはあったでしょうね。で、お東には清沢満之(きよざわ・まんし)という人物がいましてね、これまでのだけではダメだということで、いわゆる宗教改革をしようとする。
蓮風 宗教改革。
佐々木 それはひとつにはヨーロッパの哲学を取り入れなくちゃいけないということでした。だからそういう動きはあったんですけどね。ただし、それが現代につながっていってない。やはり、田舎にいてるとよく分かるんですけど、世代と共に宗教に対する思いはもう薄れてきてますよね。
蓮風 そのひとつの反動ですかね。まあちょっと古くなるけど、オウム真理教みたいなものも出てきた。先日もオウム裁判のニュースで井上(嘉浩)死刑囚が出てきて…、彼は高校生ぐらいの時から、のめり込んでいるんですね。
佐々木 そうそう、仏教には2つの面があるんですね。ひとつは、救済…。これは大乗仏教にある、「救われる」ということです。まあこれがメイン。キリスト教なんかもそうだと思うんですけど。もうひとつは、オウムがしきりに言っていた「解脱」ということ。これが、言い換えれば「悟り」ということになるんですけども。日本の仏教というのはほとんど大乗仏教ですから「これ(=救済)」がメインになっているんですね。
宗教学者なんかも、一時期オウムをもてはやしましたが、オウムが、これ(=「解脱」)を強く言ってたからでしょうね。つまり空中浮遊とかですね。で、若者達がのめり込んでいったのは自分たちが新しい自分を作れるかもしれないと期待したからでしょう。
だからやはり救われるだけでは受け身…。浄土真宗では「他力本願」という言い方をしますけど、たぶん若い人、20代とかには、今でもそうでしょうけど、物足りないんですね。「あれは他力本願だからダメだぞ」とか、今でもよく使われますよね。ですから…。
蓮風 悪い意味で使ってますね。
佐々木 ええ。全くの間違った使い方ですけど。本来「自力」と「他力」というのは、表裏一体ですが、偏って「自力」を強調したものだと思いますね。
蓮風 なるほどね。まあその極端なやつがオウムとか、ああゆう形ですね。〈続く〉
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