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佐々木恵雲さん(写真右)と藤本蓮風さん(同左)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は僧侶で医師の佐々木恵雲さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表で鍼灸師の藤本蓮風さんとの対談(第2弾)をお届けします。前回は日本の共同体や宗教の話題が中心でした。10回目の今回は、日本と海外との関係について考察が及びます。日本が欧米を手本にして近代化するなかで得たものは大きかったですが、失ったものは何なのか…。歴史観も含めて意見が飛び交っています。(「産経関西」編集担当)
蓮風 ヨーロッパは工業的な部分が発達して、かつて燃料の石炭の煙がすごかった。「霧の都」と言われるロンドンの霧をさらに濃くしていったわけですね。幕末に日本から行った連中は、そういう光景を見て「日本は生産力が弱い、ヨーロッパに追いついて追い越さないと」という発想になった。これに日本は近代化という名前を付けておるわけですね。
佐々木 そうそう、そうですね。だから最初に「洋魂洋才」という言い方をしましたけど、あれぐらい徹底的にやったことが中国や朝鮮半島を遥かに凌ぐ勢いで近代化できた理由ですね。近代化というか西洋化ですよね。ただしその分失ったものも多いんじゃないでしょうか。その反動が色んな面で出てきてる。先にも話が出た「オウム真理教」の問題でもそうですけども、そういう宗教的なものが、もうみんなわからんようになってきてしまってる。
蓮風 何が宗教かがわからなくなってきてる(笑)。
佐々木 そうそう(笑)。で、あるいは東日本大震災後の問題とかですね、色んな問題が日本で出てきてるのはやっぱりそういう失ったものの…。
蓮風 そうですねぇ、先生の話を聞いとってつくづく思うんだけども、近代日本を創った、時の明治政府。これはね、東南アジアでは最も模範的な国として崇められて、だから近代中国を創った孫文とか、みんな日本へ来て学んでいた。
佐々木 そうですね。
蓮風 今、私ね、ちょうど中国語を学んどって出てくるんですけど、孫文らが学んでいた時代のね、日本の言葉が中国語になってるんですよ。だから近代の、東南アジア、まぁ東アジアを日本がどうも先導しとったみたいですね。
佐々木 だから、やはり明治から大正ぐらいまでの日本って、パワーみたいなものが今よりもあったんでしょうね。
蓮風 その中で日本は先導者やから西欧…欧米の列強にやられちゃいかんという意識が非常に強くなって海外に進出していった。この間(あいだ)、台湾行ってきたんですけども、日本人を嫌ってるか言うたら嫌ってないですよ。日本が統治してくれたおかげで我々の文化は上がったんですという声も聞きました。だから日本語を喋るのが上手い人が多くて、中国語を喋ろうと思ったけど必要なかった(笑)。
東南アジアなどに対して日本は悪いことばかりしたという自虐史観のような見方がありますけど、そんなことはない。確かにね、占領なんかは善くないかもしれない。でも、副産物として、意外と良い文化を遺してるんですよ。たとえば、台湾にある漆の文化。日本に学びながらもっと良いもの作ってますよ。この間見てきたけど、あれ日本人が教えてくれたって言うんですよ。だから、本当に歴史を正しく知るっていうことは公平に物を見ないとできない。さっきの話やないけど、極端に行っちゃいかんのであって、ほどほどに見とかんと見誤りますね。
佐々木 台湾も含めて中国を理解していくという姿勢が今の日本から薄らいでいますね。
蓮風 そうですね。
佐々木 僕らの小さいころはまだそういう意識があったんですけどね。やっぱりそういうのもなくなってしまって、逆に偏見が強くなっちゃってるような感じですね。だから、いわゆる中国文化、あるいは東洋哲学、中国哲学と言いますか、そういったことももっと勉強すべきなんだろうなとは思いますね。
蓮風 私は中国の広州中医薬大学の人たちと交流をしています。年賀状を送り合ったりなんかしています。そしたら先日、中国語の杉本(雅子)先生(帝塚山学院大教授)宛に中国からメールが来たんです。その中で非常に良いこと言ってるんですよ。最近色々、日本と中国の関係はよくないといわれている、だけどこれは非常に短い期間のことであって、日本と中国の長い長い歴史の上から見れば、本当は友好の方が勝ってるんだっちゅうことが書かれていたんですね。中国人は上手いこと言いますね(笑)。私は感動したんやけどもね。
佐々木 僕も浅はかな知識ですけど、日本は今おそらく中国を、仮想敵国みたいにしてます。でも、そんな時代ほとんどなかった。いわゆる日中戦争の前には、非常にこう、友好国としてやってる。で、日本人の土台を作ってるのは、仏教もありますけどもやっぱり儒教であり、あるいは老荘思想。これはやっぱり日本人に物凄い影響を及ぼしてますんでね。
蓮風 大きいですよね。
佐々木 そこがやっぱりわからないといけない。仏教だけが日本の精神の基礎を成しているということは絶対にない。それに日本独特の神道というのがありますし、そういう中で中国の影響って物凄く大きいんです。それに先生が、おっしゃった話でもわかるように、物事のスパンの見かたが長いんですよね。日本はそういう力が弱いですが、中国は、三千年の歴史の中でそれを見るんでしょうね。
蓮風 たぶんそういう発想があるから、そら喧嘩あるけども短いもんで、長い目で見だしたら友好なものが勝ってるんだっちゅうことを、上手いこと言いますわ。
佐々木 ですよねー。<続く>
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