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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」

 鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」をお届けします。和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談も7回目となり、中盤に入ってきました。今回は東洋医学と西洋医学をそれぞれ対等な「医学」として、どのように実際の現場で患者が選択していくか、という具体的な方法についての話。東洋医学は西洋医学の代替や補完ではなく、患者自身が選択できる状態をどのように作っていくか、についての考察となっています。(「産経関西」編集担当)

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 蓮風 これから東西両方の医学が相互にそれぞれの位置を保持しながら発展するためには、患者さんに説明するコンサルタントの医者も必要やなと思うんです。そのためには、相当実際を見てもらわないといけないし、西洋医学ではこういう治し方をする、東洋医学ではこういう治し方をする、あなたはどっちを選びますか、という説明ができる人材が必要だと思うんです。

 先生は実践しながら、そういうことをずっと考えておられると思いますが、なんかその辺りでこういう風にしたらもっといいんじゃないかという提案はありませんか。

 児玉 (東洋と西洋の)2つからだけじゃなく、それ以上の選択肢があるかもしれませんが、どのように患者さんの選択をサポートするか、ということが大切になってきますよね。

 蓮風 現状は、とにかく患者さんがあちこちに行って、縁があった、縁がなかったということで、運の良い人しか東洋医学には出会えないことが多い。そういうセレクトしかできないけれども、この両医学(の併存や相互補完)がやっぱり大事やなと思う人で、そういう専門的な説明をして、そしてこの医学はこれが特徴なんだからこうした方がいいよ、とアドバイスができるような、そういう機関みたいなのがあったらいいですね。

 児玉 そうですね。患者さんのためにはいいと思いますよね。

 蓮風 確かに患者さんが自分で、探して実際に色々と体験するのもひとつの方法やけど、なんか無駄ですよね。無駄をはぶいて患者さんがよりよく納得して上手く治っていけば、最高の医療だと思うんです。だから今の患者さん自身が(探して)選べるというのはひとつの方法やけど、必ずしもいい方法ではないと思うんですよね。
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                               和歌山県岩出市「こだま小児科」で

 児玉 お話を聞いていて思うのは、コンサルタントとして多分2つのタイプに分けられて、ひとつは両方の医学に精通する(人材)ということでしょうね。これは相当に難しい。まあ、ちょっと考えられない。可能かもしれないですけれども難しい。もうひとつは、それぞれの医学両方に精通している人たちから、それぞれに意見を平等に集められる人(によるコンサルティング)かなと思うんですよね。

 すべてを網羅することって不可能なので。僕ら内科もアップデートしていきますし、小児科もアップデートしていくし、僕は皮膚も関節も診ますし、他のこともやりますから、それを全部アップデートしつづけるというのはそれだけでも結構大変なんですけれども、そこに東洋医学も進歩していくでしょうし変化していく、東洋医学以外の医学もあるかもしれないし、東洋医学いうてもその中にもいっぱいあるでしょうし。

 蓮風 あります。ちょっと話がずれるかもしれないけれども、西洋医学では、鍼灸医学を「代替医療」っていうんですね。私はある意味けしからん言い方やと思うんです。「代替」とは何事かと(笑)。あくまで西洋医学をファーストチョイスとしていくのか、あるいは、あくまで東洋医学をファーストチョイスとしていくのか(というように、両方を)医学そのものとして扱うなかで対等に話ができないといけないのに、(一方的に)補完医療と呼ぶのは、おかしいなと思うんですよね。 

 
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 すでに海外では論文になっているわけですよね。鍼を刺したらどれぐらいの確率でよくなるのか? たとえば、救急外来で(素人である)レジデント(研修医)がですね、喘息の患者に鍼をするのと、吸引をさせるのと、何もしないのとどれが一番よく治るのか、を出した統計があるのです(註1。そうすると(患者の自覚的な改善度は)案外、変われへんやんという感じで…。とはいえ誰がどんな風にやるのかによって治療効果が絶対変わってくるので、レジデントが鍼を刺すというのでは鍼の効果というのは充分に出ないはずなんですよ。

(註1研究論文Wechsler ME,et al.Active albuterol or placebo, sham acupuncture, or no intervention in asthma. N Engl J Med. 2011 Jul 14;365(2):119-26.

 蓮風 それに関わって、WHO(世界保健機関)が大きな辞書を作成しているんですよ。西洋医学の病名も、東洋医学の「証(しょう)」の問題もね、結局、概念がてんでばらばらやから、東洋医学やったら少なくとも東洋医学の中で概念を統一しようという方法でいっているんですよね。

 その場合、2015年(今年)あたりにはさっそく概念を決めるという、中医学を中心にやる方向にきてるみたいですね。僕は、東洋医学ということで中医学を中心にまとめようとするならば、ああいう形でしかないと思うんですよね、どう考えても。日本でもいろんな流派に分かれてやっているけれども、あれでは話し合いができない。

 児玉 そうですね。

 蓮風 この前の藤原昭宏先生(京都府城陽市「藤原クリニック」院長)との対談でも出てきたんですけれどもね、西洋医学でも色々流派がありますけれども、とりあえずどの大学どの流派でも最低限これをおさえるという概念があるから話し合いができるけれども、東洋医学にはそれがないんだと。

 蓮風の玉手箱」2014118日~322日、10回にわたって掲載

 児玉 西洋医学の医者でも、話し合いにのってこない医者がいますから(笑)。

 蓮風 それはまあね、(西洋医学としては)特殊例で一般的ではないから(笑)。〈続く〉