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藤本蓮風さん(写真左)と児玉和彦さん(同右)=奈良市「藤本漢祥院」
鍼の知恵を語る「蓮風の玉手箱」は和歌山県岩出市の医療法人明雅会「こだま小児科」理事長で医師の児玉和彦さんと、鍼灸学術団体「北辰会」代表の藤本蓮風さんとの対談の8回目をお届けします。今回のテーマは東洋と西洋の医学の「統合」についての話が中心です。それぞれの医学の良いところを合わせて治療するのは理にかなっているようですが、そんなに単純なものではないようです。これまで「玉手箱」で何度も指摘されているように、それぞれの医学を支えている「知識」の体系が異なるため、両方の医学を修めることが困難ですし、「病」や「治療」に対する考え方の違いも壁になるようです。(「産経関西」編集担当)
児玉 「補完医療」とか「代替医療」とかいう言葉も確かに引っかかるんですけれども、それは(東洋医学と西洋医学の)どっちが主体でどっちが客体かという話ですよね。それはどっちの角度から物を見るかという事だと思うんですけれども、僕が疑問を感じているのは「統合医療」です。それは「補完」とか「代替」とは違う考え方で、ちょっと違和感を覚えます。(東洋医学と西洋医学を)統合するというのは、相当に難しい。無理なんではないかと思うんですね。
蓮風 全くその通りなんです。昔ね、縁があって群馬の赤城山という所で「舌診」の講義をしたことがあります。そしたら群馬大学医学部の学生さんが、どこからか聞きつけて来ていた。当時3年生でした。「面白い先生の話があって、めったにない機会やから聞きに行けって言われたそうなんです。ところが、僕に挨拶したとたんに「先生40度の熱があるから帰る」って言うんです。あんたせっかく「鍼の名手が来た」といううわさ聞いて来たんやろってたずねたら「そうや」って…。「鍼うけてなんぼのもんか試してから帰ったらどうや?」ということで、確か「申脈」に鍼を1本打ったら30分で熱が引いた。それから私のファンになって大学を卒業して、大学院まで彼は行ったんかな。それで「統合医療」の世界につながっていったんですが、「統合医療」の本を書いているので、「玉手箱」に呼んで、どないなっているのか話を聞こうと思っているんです。
児玉 医療・医学としてそれぞれ確立されたものがあって、これを混ぜるのは無理だと思うんです。それぞれを修めたうえで、医師個人のなかで統合するしか方法はないわけで、あれもこれも中途半端な人が統合するというのは難しいです。
蓮風 できないんです。全く私もそう思いますね。
児玉 西洋医学がダメだと言っている人達は西洋医学のトレーニングが足りないんです。早い話。でも面白いですね。今日は本当に楽しみにしていました。先生とこんなに長い時間、一対一でお話できることなんてないので。
蓮風 こっちこそ先生の成長が楽しみです。東洋と西洋の両医学にはかなりの隔たりがあります。TPPでアメリカと日本には大きな隔たりがあって簡単にいかないように…。この隔たりや、ある種の矛盾がありますが、この矛盾が大事なんですよね。この矛盾をどのように克服できるとお考えですか?統合はかなり難しいという話から行くと、できませんか?
児玉 いや、できると思いますよ。逆に、確認したいというかお聞きしたいのは、先生自身がどこにどんな矛盾を感じていらっしゃるのかっていうことをうかがいたいです。
蓮風 たとえばね、一番気になるのは、癌の治療。私は、伝統的な理論を学んでいるし、臨床的に確認しているんだけれども、一言で言うと、癌は熱なんですよ。西洋医学には、放射線とか手術もあるんだけれども…抗癌剤治療、少なくとも放射線治療と抗癌剤治療は東洋医学的にいうと「熱」なんですよ。
じゃあ、それでなんで治るかと言うと、「陰陽論」の特殊な法則があって、熱は熱をもって治療するという理論があるんですよ。実際、私は癌の治療でずいぶん成績をあげてきましたけど、最初のころは、なにがなんでも癌を治さないかんと思って、70歳代のおばあちゃんの背中を灸(やいと)だらけにした。カチカチ山ですよ。「正気」の弱りも当然あったので、鍼で熱をとることを避けて、お灸の熱でもって熱を清する方法です。
多壮灸をすることで熱も一定与えてしまいますが、実は結果として正気を盛り立てながら熱を清める方に働くんです。当時はこの方法を採っていました。でもよく耐えてくれてね。「先生それで治るんやったら」ということで…。「今、俺はこの程度ぐらいの腕しかないからな、許してくれ。」と言って1時間半ぐらいかかってお灸をやった。そのおばあちゃんが不思議なことに85歳まで生きておった。
最後まで癌はあったんだろうけども、そこまでもったら癌だろうがなんだろうが効いているわけよ。本来、東洋医学は、熱であれば冷ます。冷やすという清熱法が基本です。やはり熱を与えながらの清熱よりも、正気を傷(やぶ)らずに徹底的に清熱する方がはるかに効果が出るようで、今では、鍼のみで徹底的に正気を傷らずに清熱する方法をとっています。しかし、ついこの間まで西洋医学は、癌は温めたら治るとかなんとか言っていましたね。
児玉 温熱療法。
蓮風 一方で、つい最近テレビをみたら、「温めたらあかん、冷やさなあかん」と言っていたり、西洋医学の中にも矛盾もありましてね。もちろん医学のことやから進歩するし、変わる面もあるだろうけど、根本的に変わるというのはなんか解せないね。
児玉 うーん…。〈続く〉
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